野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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なんでそんな事お前らに言われなアカンねんボケ!というお話



第91話 乙女的三合会

「~~♪ ~~~~♪」

 

夕食を終えたセシリアは自室にて念入りに身体を洗ってから、鼻唄交じりで泡を流していく。

 

(一夏さんが絶賛していたマッサージ....聞く処に依ると一夏さんに一度施して以来、誰にもしていないとか)

 

つまり、だ。

恭一さんのマッサージは女性では私が初めてと云う事になりますわ。

 

ちなみに、恭一の施術は前世の師匠から受け継いだものである。

以来、弟子達には稽古前と稽古後によく解してやったものだ。

 

そんな施術を恭一はこの世界では一度しか行っていない。

原因は一度目の被体験者、一夏にあった。

早朝と夕方、恭一から貰ったタイヤと自分をロープで繋いで走って体幹部分を鍛えるのが、最近の一夏の日課である。

今でこそ少しずつ慣れてきたが、初日では加減が分からず筋を痛めてしまった。

其処で恭一が痛めた筋を診てやる序でに、軽く施術をしたのだが。

初めて本格的なマッサージを受けた一夏は堪らず

 

「オォン! アォン!」

 

絶望的に汚い喘ぎ声を出してしまった。

以降、恭一は彼に施術をする事は無かった。

 

 

場面はセシリアに戻り

 

「~~♪ ~~~~♪」

 

彼女はクラシックの名曲『四季』を鼻唄で口ずさんでいる。

 

(この後は身体をよく拭いてから、あの香水をつけるとしましょう)

 

嘗て臨海学校で付けて無駄になった香水。

毎年百個しか生産されないレリエル社のナンバーシックス。

一振り十万円と言われる高級品である。

 

(下着は....いえ、下着も臨海学校の時の物にしましょう。リベンジの意味も兼ねて!)

 

黒を基調とした豪奢なレースで編み込まれた、面積の少ない、脱がされる事を前提にした所謂『勝負下着』である。

 

『お嬢様、派手過ぎる下着は却って逆効果と思われます』

 

脳裏によぎったのは、メイドであるチェルシーの言葉。

 

(ふふふ.....恭一さんにはこれくらいの下着でないとアピールになりませんのよッッ!!)

 

「~~♪ ~~~~♪」

 

闘志を燃やすセシリアの鼻唄は何時の間にか『おもちゃの兵隊の行進曲』に変わっていた。

日本では『キューピー3分クッキング』のテーマとして親しまれているアレである。

セシリア自身の声の美しさと曲調のアンバランスさが、かえって良いハーモニーをシャワールームに響かせていた。

 

浴室を出た彼女は、服選びにも時間を掛ける。

 

(パジャマは無難に落ち着いた物の方が、下着とのギャップで何かしらの効果があるかもしれませんわね)

 

シルク製のパジャマを着たセシリアは、自室を出る前にもう一度鏡で自身の姿をチェックする。

 

「パジャマよしっ....下着よしっ.....香水よしっ......」

 

最終確認は大事である。

 

「メイクよしっ.....今宵の私の笑顔は―――」

 

ニコッ

 

「―――プライスレスですわッッ!!」

 

腰に手を当てた彼女独特のポーズは、いつも以上に光り輝いていた。

セシリアは自室の扉から出て行く直前、一度止まる。

 

(臨海学校では箒さんに邪魔され、織斑先生に立ち塞がれました)

 

けれど、今夜は違いますわ。

恭一さんとの約束ですもの、部屋に御呼ばれしたのですから行かなくてはなりません。

ええ、私にやましい事など御座いませんわ。

 

「セシリア・オルコット、推して参りますッッ!!」

 

気合と共に扉を開け、いざ出陣。

 

「「 ん? 」」

 

「ゲーーーッ!! 地獄の伝道師コンビ!?」

 

たまたま彼女の部屋の前を通りかかった箒と千冬の姿が其処にはあった。

 

 

________________

 

 

 

(落ち着きなさいセシリア・オルコット! 此処は自然に振る舞うのが得策ですわ!)

 

ニコリと微笑み自室へターン&ゴー

 

「「 あっ、おい待てい 」」

 

それを許す2人では無かった。

 

「な、何でしょうか?」

 

自然と顔を引きつらせるセシリアに千冬と箒は、頭のテッペンから爪先まで舐めるように視線を這わせる。

 

「....貴様から嘗て嗅いだ事のある香りがするなァ」

「くんくん.....これは、臨海学校で嗅いだ香りです千冬さんっ!」

 

恭一が関わる事になると、途端に五感が研ぎ澄まされる恋人の鑑。

 

「ほう.....何処へ行くつもりなんだァ? ええオイ?」

「す、少し自販機へ飲み物を買いに」

「貴様は飲み物を買いに行く時、わざわざ化粧をするのか?」

 

ぎくっ

 

仄かなメイクも千冬に掛かればお手の物。

 

「....お前、まさかあのエロ下着を身に纏っている訳ではあるまいな?」

 

ぎくぎくっ

 

見えない下着衣装も箒に掛かればお手の物。

 

「お、おほほほほ.....仰ている意味が分かりませんわ、それでは私はお腹が痛いのでこれで」

 

中学生並みの言い訳でその場を凌ぎに走るセシリアだが

 

「ダウト」

「ダウト1億」

 

現実はいつも非情である。

 

「そ、そげなアホな......」

 

項垂れるセシリアは両端から捕らわれた宇宙人の如く、千冬の部屋まで連行された。

 

 

________________

 

 

 

2人に拉致られたセシリアは千冬の部屋にて事情を掻い摘んで説明した。

 

「ふむ.....恭一のマッサージか」

「それを受けるのにどうしてそんなエロい下着を着ける必要があるのだ?」

「そっ、それは.....」

 

いざ、言葉にするのは躊躇われる。

 

「女として見て貰おう、とかそう云った類いだろうがな」

「まぁそんな処でしょうね」

 

2人からは王者の余裕が見て取れた。

 

「良い機会だ、お前に聞いておこうかオルコット」

「な、何でしょうか?」

「お前は恭一と、どうなりたいのだ? 我らのようにアイツと付き合いたいのか?」

 

思えば、セシリアを混じえ3人で腹を割って話す機会は初めてなのかもしれない。

 

「と、当然ですわ! 恭一さんこそ私の生涯を共に歩むに相応しい方でしてよ!」

 

胸を張って千冬の言葉に返答するが

 

「「 ないだろ 」」

 

あっさり否定されてしまう。

 

「なっ.....それは貴女達が決める事では無いでしょう!?」

 

目尻を険しく吊り上げて、声を荒げた。

 

「落ち着けセシリア、私と千冬さんは客観的に見て言っただけだ」

「ああそうだな。少なくともアイツと添い遂げれば、オルコット家の名に傷が付く事間違い無しだろうなぁ」

「何を根拠に.....」

 

2人の態度にセシリアは怒りで顔が火のように火照るのが感じられた。

箒が言う第三者から見た恭一とはどんな人物なのだろうか。

箒・千冬ペアとセシリアの恭一問答が始まった。

 

「まず、アイツは不誠実な男だな」

「別に其処まででは無いと思います」

「平気で嘘を付くぞ?」

「意味のある嘘なら、場合によれば必要かと」

「意味のない嘘の方が多いぞ?」

「ぐぬぬ.....」

 

勝者、箒

敗者、セシリア

 

「人を追い込む事が好きな変人だなアイツは」

「そ、それは相手に何かしらの原因があるからですわ」

「大抵は面白半分だな、それに自分に絡ませようとわざわざ道化の振りまでする変人っぷりだ」

「恭一さんは人生を面白可笑しく過ごしたくて」

「身を挺してまで他人を虚仮にする必要あるか?」

「ぐぬぬ......」

 

勝者、千冬

敗者、セシリア

 

それからもどれだけ恭一が普通から逸れているか、2人によって語られていく。

 

「もう....いい加減にして下さいましッッ!!」

 

とうとうセシリアがブチキレた。

 

「そんなに恭一さんを悪く仰るのなら、どうしてお二人は付き合ってますの!?」

 

「「 それ以上に愛しているからな 」」

 

灯がともったような温かな表情で言い切る箒と千冬。

結局、最終的には其処に落ち着くらしい。

 

「お前がアイツを心から愛していると言うのなら、私からはもう何も言わんよ」

「私達、ですよ千冬さん」

「.....どう云う意味でしょうか?」

 

いまいちセシリアには伝わっていないようだ。

 

「家名や誇りなどを考慮するのなら、やめておけと言っている」

「それにアイツは狙われる立場にある。恭一との生活は平穏には程遠いぞ?」

 

2人は恭一と共に居られるのなら、全てを投げ擲っても良いとさえ思っている。

それ程、千冬と箒は恭一という男に惚れ込んでいる。

その覚悟はあるのか、と問うているのだ。

 

(私は.....)

 

セシリアは恭一が自分に齎してくれた事を思い返す。

 

「あの方は私に失った誇りを取り戻させてくれました」

 

一つ一つ確かめるように言葉に羅列していく。

 

「私が悩んでいる時も、遠慮せず真正面から本音でぶつかってきてくれます」

 

恭一さんは何時だって本音で、何時だって本気で生きている。

 

「恭一さんの傍に居ると胸が温かくなるのです。もっと一緒に居たいと思ってしまうのです! そう思ってはいけないのですか!? 私があの方を好きになってはいけないと仰るのですか!?」

 

セシリアは切々と、縷々と、思いの丈を2人に訴える。

 

「家名など関係ありません! 私は苛烈に生きると、恋に生きるとあの時誓いました! 私が恭一さんに何を想おうが、貴女達に指図される筋合いは御座いませんわッッ!!」

 

2人を前に、強い意志に裏打ちされた声と真率な表情が漲る。

 

「ふっ.....そうだな」

「初めて心を曝け出したな、セシリア」

「あ、あの.....?」

 

先程までの雰囲気とは打って変わって、穏やかな面持ちになる2人。

 

「其処まで言うのなら私はもう止めんよ」

「私もな。応援、とまでは流石にいかんがアイツは強敵だぞ? 恋人だから言うのでは無く、本当に難敵だからな」

 

人の気持ちは移りゆく物。

これ以上、恭一の隣りに立つ存在は増えて欲しくないと想う一方、心の底から愛しているのなら憎む事も難しい、という感情も少なからず生まれているのもまた事実。

 

「難敵と言うか....アイツは本気で私達2人にしか女を感じてないからな。むふふふ」

「そうですね、私達2人だけですね。むふふふふふ」

 

憎たらしい顔で自慢してくる圧倒的頂に居る者の声。

 

「ふ、ふんっ! その余裕が何時までも続くと思ったら大間違いでしてよ! 幾ら恭一さんでもこの下着姿を見せれば狼のように私を求めて下さる―――ひぅっ!?」

 

セシリアは決して踏んではいけないモノに足を突っ込んでしまった。

 

「超えちゃいけないライン、考えろよ」

 

眉間に雷光を走らせる阿修羅。

 

「そんなに死に急ぎたいのか、あ゛? アイツの初めては私のモノだ」

 

羅刹も続くが

 

「は? ちょっと何言ってるか分かんないですね」

 

それに阿修羅が待ったを掛けた。

 

「私以上にアイツと同じ時間を過ごせるお前に言われたくは無い。私がアイツの初めての相手なんだ。これは決定事項だ」

「誰が決めました!? そんな理不尽な事、誰が決めましたかっ!?」

「それは天の意志だッッ!!」

「天の意志? 神がそのような事を宣うものか! 神の前では何人たりとも平等のはず! 神はそのような事をお許しにはならない! なるはずがないッッ!!」

 

箒と千冬はヒートアップしていく。

この時、既にセシリアは部屋から抜け出す事に成功。

 

「唾液を飲ませるようなエロ小娘に神はいないッッ!!」

「!!!! なっ、何故それをっ!?」

 

とある信頼出来る筋からの情報らしい。

ウサミミ的な意味で。

 

「私がまだ可愛らしい接吻で我慢していると云うのに、貴様は大人を通り越して変態に走った。非常に羨ましく思う。貴様の行為は万死に値するッッ!!」

「ひぇっ.....お、お許しを千冬さん! あの時はつい感情が昂ぶってしまったんです!」

「辞世の句は詠み終えたな。帰らぬ旅に赴くが良いッッ!!」

「いやっ、ちょっ、やめっ....ぎゃーーーーーーッッ!!」

 

恋する乙女の嫉妬は怖い。

 

 

________________

 

 

 

「箒さんの雄叫びが聞こえたような.....」

 

立ち止まったセシリアは後ろを振り向くが、確かに聞こえてくる。

 

「.....アーアーキコエナーイ」

 

彼女は両耳を押さえて、校舎から出る事を選択。

 

ようやく、念願の恭一の部屋の前まで訪れたセシリアは、コホンと咳払いを1つしてから控えにノックした。

 

「おう、来たか」

「は、はい.....お待たせしましたわ」

 

(夜に恭一さんの部屋を尋ねるのはこれが初めて.....流石に少し緊張しますわね)

 

「来ていきなりってのもアレだな、あったかい茶でも飲むか?」

「は、はい! 頂きますわ!」

 

恭一は彼女を椅子に促してからお茶を淹れる用意に掛かった。

 

(.....今は....今だけは、私と恭一さんだけの時間)

 

そんな彼の後ろ姿を熱っぽい視線で釘付けのセシリア。

 

(すっげー視線感じンだが.....奇襲の練習か? 今、襲ってきてもあっちぃ茶ぶっかけられて終わりだぜ?)

 

この何処か擦れた思考こそが、難敵たる所以なのかもしれない。

 

 





しぶちーはラウラのおっぱい見ても無反応だったんだよなぁ(-。-)y-゜゜゜

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