野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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『キャノンボール・ファスト』が齎したモノ、というお話



第87話 ツチノコ

「おはよう、渋川君!」

「....ああ」

 

「あっ、渋川くんだ! おはよう!」

「....ああ」

 

『キャノンボール・ファスト』から一週間程が経った頃。

学園ではまた一つ変化を齎してした。

 

「難儀しているな、渋川」

「織斑先生....」

 

『亡国機業』襲撃時、図らずも恭一と箒はアリーナに来ている観客を助けた形になった。

ISを纏った箒の斬撃に加えて恭一の打撃。

全ての出口を踏破し、皆を脱出させる事に成功したのだが。

観客には当然IS学園生徒も含まれている。

 

タッグトーナメント戦の傍観時とは違い、間近で恭一の力を見た事と助けられたと云う結果から、これ迄敵意剥き出しだった者は勿論全員では無いが、鳴りをひそめるようになった。

 

「クックッ....まぁこの様な学園新聞が発行されてはな」

 

愉快そうに笑う千冬の手には『号外』と書かれた新聞。

それには箒と恭一が出口確保時の写真が大きく載っており、ちょっとしたヒーロー扱いの見出しから詳しく内容が書かれてあった。

 

「おはよう、渋川君! 今日も朝からお肉なんだね!」

「あ、ああ....肉は美味いからな」

 

またもや見知らぬ生徒から声を掛けられる恭一。

 

(この視線はさすがに違うだろ....)

 

恭一にとって、大衆に向けられるのは敵意こそが心地良い。

しかし、今では『好奇』の目で見られるようになっていた。

一夏に対するような『好意』で無いのがミソである。

 

渋川恭一とはどう云う男なのか。

次は何をするのか。

 

と云った風に、どうやら他生徒に興味を持たれてしまったようなのだ。

 

以前まで『渋川恭一=女の敵』のようなイメージが蔓延していた事を鑑みると、プラスの方へ前進したと言えるのだが。

 

(見世物パンダってより、珍獣扱いだなオイ)

 

新たな視線に馴染むのには、恭一でも時間が掛かりそうであった。

 

 

________________

 

 

 

「やっほー、渋川君。篠ノ之さん!」

 

とある休み時間、教室に現れたのは2学年の黛薫子だった。

 

「.....誰だ?」

「確か.....新聞部の人、だったような」

 

机で、くてーっとなっている恭一の疑問に答える箒。

 

「新聞部.....新聞部ねぇ.....あ゛? テメェかコラァッ!!」

「ひゃっ!? な、なに!?」

「やめんかアホ!」

 

ずびしっ

 

『号外』を出した本人を亡き者にせんとする恭一に、箒はチョップをかます事で無事防ぐ。

 

「用件なら私が伺います。何でしょうか?」

「あ、うん。えっとね....ちょっとお二人に頼みがあるんだよね」

「頼み、ですか?」

「そう。この前の『キャノンボール・ファスト』の一件でね、あなた達2人に対して反響が出てるのよ」

「は、はぁ...」

 

箒に関しては、訓練機部門での圧倒的なレースも含まれていた。

 

「私の姉って出版社で働いてるんだけど、その姉が2人に独占インタビューがしたいんだって。ちなみにこれが雑誌ね」

 

そう言って薫子が取り出したのは、ティーンエイジャー向けのモデル雑誌だった。

ペラペラとページを捲る箒の隣りで恭一も覗き込む。

 

「.....ISの「あ」の字も載ってないじゃねぇか」

「確かに....唯のモデル雑誌にしか見えんな」

「専用機を持ってない2人はまだ分かんないかもしれないけど、IS技能優秀者ってのはタレント的な事もするのよね。国家公認アイドルってやつ? まぁ主にモデルだけど。専用機持ちの国家代表かその候補生なら皆、経験してるはずよ?」

 

要点の分からない2人に説明を続ける薫子。

 

「今回に関して言えば2人は専用機持ちとしてじゃなくて、一個人。先の件で皆を救った事と篠ノ之さんのレース内容から実力者として、取り上げたいって訳なの」

 

お願い、と薫子は恭一と箒に両手を合わせる。

 

「嫌に決まってんだろアホメガネへぶっ」

「子供かお前は....」

 

またもやチョップを恭一に喰らわし、薫子に軽く頭を下げ

 

「ですが、私もお断りします。雑誌に載りたくて此処に居る訳では無いので」

 

箒もハッキリと断りを入れた。

 

「まぁまぁ! これを見て考え直してくれないかなっ?」

 

何やら招待券とパンフレットを2人に渡してくる。

 

「これは....」

「この豪華一流ホテルのディナー招待券が報酬よ。勿論、ペアでね♪」

 

(このホテル....私でも知ってくらいの5つ星ホテルじゃないか。しかも恭一と2人きりで?.......よし!)

 

「そういう事ならこの話、受けま―――」

「ディナーかウィナーか知らんが、受けねぇツってんだろ」

 

(きょ、恭一!? わ、私とディナーには行きたく無いのか!? 2人きりになれる口実も作れると云うのにッッ!!)

 

箒は悲しそうに恭一を見るが、恐らく彼はディナーが何なのかイマイチ分かっていないだけである。

 

「よく聞け新聞部。俺はこの学園の女共みてぇにチョロくねぇんだよ。俺にモノ頼みたけりゃ服従させてみろよ? 当然、抗わせてもらうがな」

 

くっくっ、と不敵に嗤う恭一を前にして、尚も余裕な表情を崩さない薫子は魔法の言葉を唱える。

 

「....ディナーに出てくるメイン料理は超高級フィレステーキに―――」

「箒、取材受けるぞ」

 

一コマ即落ちである。

 

 

(((( チョロ川チョロ一君 ))))

 

 

様子を見ていた1組生徒の心の声。

 

「ありがとう! 渋川君ならそう言ってくれると思っていたわ!」

(たっちゃんの言ってた通りね♪)

 

ちなみに、たっちゃんとは楯無の事だったりする。

 

「篠ノ之さんはどうかな? やっぱり―――」

「何事も経験ですのでハイ! 私も取材を受けさせて頂きます!」

 

若干食い気味にくる箒。

 

「そ、そう? 良かったわ。それじゃあ、明日の日曜日に取材だから。時間はお昼の2時ね」

 

箒の必死っぷりに引きつつも用件を伝え終えた薫子は、満足そうに教室から出て行った。

 

「ううむ.....」

「どうした恭一?」

 

薫子が去ってから、ディナー招待券を見ている恭一が何やら唸り出す。

 

「招待券の日程は決まってるんだな。てっきり明日食えるのかと思ったんだが」

「お前という奴は....」

 

(私との時間など眼中に無いのか.....?)

 

恭一が大の肉好きと云う事を踏まえても、少し寂しい気持ちになった箒は俯いてしまう。

 

「でもまぁ、よくよく落ち着いて考えりゃこの券が貰えなくても受けて正解だな」

 

ウンウン、と恭一は自分の言葉に対して頷きを入れる。

 

「ど、どうして?」

「箒とデート出来る口実になるからな。そう考えりゃ明日も楽しみだ」

 

ニカッと笑った。

 

「恭一......ああ、そうだな。私も明日が楽しみだ!」

(私はなんてバカな事を....早合点で勝手に拗ねるなど、言語道断だ!!)

 

『指南書』では無く、素で乙女心を掴む事に成功した恭一だった。

 

 

________________

 

 

 

「タッグマッチ?」

「各国でISの強奪が相次ぎ、先の文化祭、キャノンボール・ファストでの襲撃事件を踏まえた結果、各専用機持ちのレベルアップを図るために今度全学年合同のタッグマッチを行う事になった」

 

HRにて、真耶の説明から始まり千冬が細作を補った。

ちなみにIS学園の専用機持ちは現在9人である。

 

『たんれんぶ』の一夏・鈴・セシリア・シャルロット・ラウラ・楯無・簪の7人。

恭一と面識は無いが、2年のギリシャ代表候補生『フォルテ・サファイア』、3年のアメリカ代表候補生である『ダリル・ケイシー』の2人。

計、9人だ。

 

「いやちょっと待てぇい!! 俺は!? 襲われた本人を除け者ですか織斑先生ッッ!!」

 

恭一は勢い良く立ち上がり、抗議を唱える。

 

「お前は駄目だ」

「何故!?」

「お前は専用機を持っていないだろう」

「いやだからですね、専用機云々じゃなくて、文化祭で襲われたのは俺―――」

「あの事を話しても良いのか渋川ァ.....」

「うぐっ....」

 

あの事とは、当然オータムに襲撃された際にした恭一のナメプの事である。

しかし実際「あの事」とは関係無く、恭一を出すつもりは千冬には無かった。

理由は単純。

恭一と他の面々との差がまだ開き過ぎているのだ。

身も蓋もない言葉になるが、今の状態なら試合にならないのである。

『たんれんぶ』での活動内なら良いのだが、この『タッグマッチ』には例の如く各国政府関係者も来賓予定だ。

『キャノンボール・ファスト』の件で、恭一の評価も上がったとは言え、あくまでそれは学園内がメインの事。

依然、恭一を快く思っていない者は外部には多い。

男でさらに訓練機でありながら各国代表候補生を相手に『タッグトーナメント』の時のように再び圧倒してしまうと、要らぬ因縁を付けられてしまう恐れがる。

『亡国機業』の存在を考えた結果、今は政府関係者との間で問題を起こすのは得策では無い、と千冬は結論付けたのだ。

 

(まぁ恭一なら、重なる火種の方が喜ぶだろうがな)

 

 

 

「その件のお前への厳罰も含め、今回渋川は出場不許可だ」

「ぐぬぬ.....」

 

それを言われてしまうと強く出られない恭一だが

 

「そ、そうだ! 9人じゃ1人足りませんよ! やっぱり此処は俺が」

「その心配は無い。訓練機部門で高い実力を示した者がこのクラスに居るだろう?」

 

千冬の言葉に皆の視線が1人の少女に集まる。

 

「わ、私ですか?」

「篠ノ之なら専用機組に混じっても、何ら遜色無い。反対意見がある者は手を挙げろ」

 

千冬は教卓から座っている生徒達を見渡す。

 

「篠ノ之さんなら反対なんかある訳無いよね」

「そうそう! ホントに凄かったもん」

「篠ノ之さんのおかげで、毎日デザートがおいしゅうございます」

「太ったらしののんを恨んでやるーっ!!」

 

タッグマッチに訓練機の箒が参加する事に皆、異論は無いようだ。

 

「....どうだ篠ノ之? お前以外は全員が専用機だが、出場するか?」

 

(断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ)

 

全力でアホが1人、呪詛を振り撒いているが

 

「私で良ければ、全力で挑まさせて貰います」

 

(どちくしょうッッ!!)

 

残念でもないし当然である。

 

 

________________

 

 

 

「ふ、フザケンナ!! 俺は帰るぞッッ!!」

「はぁい、此処は恭一君の部屋でしょう?」

 

放課後『たんれんぶ』活動を終えた面子は恒例のお茶会中。

 

「だからね、最近また生徒会に苦情が殺到しだしてるのよ。今回の内容は、織斑君と恭一君2人共が同じ部活動なのは納得いかないって」

 

苦笑いで楯無はもう一度説明する。

 

「他の生徒達はね、簡単に言っちゃえば2人と何らかの形で接点が欲しいのよ」

「死ぬ程どうでもいいわ! そもそも織斑だけじゃ無かったのかよ!?」

 

本日何度目かの抗議である。

 

「やったね恭一君! 学園一の嫌われ者から学園内珍獣にランクアップしたよ♪ あ゛い゛っ....イダダダダダッッ....」

「超えちゃいけないライン考えろよ。誰がツチノコだ、あ゛ぁ?」

 

メキメキと楯無の頭を掴み、握力に物を言わせ締め上げる恭一。

 

「ごめんなさいっ! 調子乗ってマジですんませんでしたっ!! ゆ、許してよ恭一君!!」

「ハァ....其処までにしてやれ渋川」

 

千冬からの制止で、ようやく恭一は彼女を放した。

 

「.....今度言ったら簪のアニメDVD全部ブッ壊してやるからな」

「へぁ!?」

 

物静かな簪から、聞いた事も無い素っ頓狂な声が。

全く関係の無い妹にまで飛び火させる悪質極まりない脅しであった。

巻き込まれた簪は楯無を一瞥すると、一言。

 

「.....お姉ちゃん嫌い」

「ほごぉッッ......」

 

大好きな妹からの言葉の刃で倒れ込む楯無。

 

「後は....織斑先生、任せました......がくっ」

 

仕方ない、と云った風に千冬は楯無に変わって説明を続ける。

 

「生徒会側と各部活側との折り合いでな。お前ら2人は適宜各部活動に派遣される事になった」

 

「「 は? 」」

 

「無論、お前らは男だからな。大会参加は出来んが練習の手伝い、若しくはマネージャー、庶務などを担当しろ」

 

「「 いやどす 」」

 

(何で俺と同じ反応するんだコイツ)

(最近恭一が何を言うか、たまに分かる気がするんだよなぁ)

 

何故か誇らしげな一夏に戸惑いを隠せない恭一。

 

「このままでは、その他大勢の生徒が『暴徒化』するからな。なに、半月に一度程だ。息抜きと思えば良いだろう」

「息抜きとは真逆だと思うんだ千冬姉ぇ.....」

 

生徒会と千冬の言葉の影響力を考えると、2人が抗っても無意味である。

その事を一夏もよく理解しているからこそ、抗議の声にも力は無い。

恭一は無言の中、必死に対策を練っていた。

 

(要は、もう一度嫌われ者になれば良いって事だろう.....相手は全員女子って云うのがポイントになってくるはず....女子が嫌いなモンは.....う~ん、汚いとか?)

 

恭一がウーンウーン、と作戦を考えている間にも話は続く。

 

「来週、織斑はラクロス部、渋川がテニス部へ派遣される事が既に決まっている」

 

ちなみに全部活動参加によるビンゴ大会で決めたそうだ。

 

「「 ふふふふふふ 」」

 

「来たわね!」

「来ましたわね!」

 

勢い良く立ち上がる英中コンビ。

 

「あたしの!」

「わたくしの!」

 

「「 時代がッッ!! 」」

 

(これは一夏と距離を縮める絶好のチャンスよッッ!!)

(この機会を最大限利用し、恭一さんに私を女として意識させてみせますわッッ!!)

 

2人は何処までも燃え上がっていた。

 

「ファイトだよ鈴!」

 

鈴の気持ちを知るシャルロットが彼女の肩を叩いて鼓舞する。

 

「シャルロット....ええ、あたしのカッコ良いトコをアイツに見せてやるんだから!」

 

声を掛ける相手はもう1人居る。

 

「ファイトだよセシリア!」

「ふふふ.....喧嘩売ってますのね箒さん。良いでしょう買いましょう今すぐにッッ!!」

「ふっ.....全力で来いセシリアぁっ!!」

 

たちまち表に出て行く箒とセシリア。

この2人も平常運転である。

そんな中、恭一の作戦もある程度纏まったようだ。

 

「なぁラウラよ」

「ん、どうした恭一殿?」

 

隣り座る娘の意見も聞いてみる。

 

「うんこを投げてくる奴をどう思う?」

「は?」

「うんこだよ。投げてこられたらお前ならどう思うね?」

「うんこか....ふむ。そうだな」

 

真剣な眼差しで聞かれたら、当然ラウラも真剣に考察する。

 

「これは盲点だったかもしれん。想定してみると、意外に対処に困る代物だ」

 

ラウラは軍人的見解を述べた。

 

(対処に困るか。それじゃあ、イマイチ弱いな......あっ)

 

「俺も盲点だった。そもそも明日明後日に大量に用意する術が無い....これじゃ駄目だ。忘れてくれ」

「ふむ....そうか。また何かあったら何時でも言ってくれ恭一殿!」

「おう!」

 

(....一応、後で恭一に突っ込んでおくか)

 

噛み合ってない親子の会話を耳にしていた千冬に一つ仕事が増えた。

 




珍獣扱いでもプラスはプラスだと思うんだ(`・ω・´)

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