野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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大丈夫だから安心しろよ~というお話



第85話 五反チャイナ+1

「一夏、お誕生日おめでとうっ!」

 

「「「 おめでとう(ございます)! 」」」

 

鈴の声を合図に、恭一と弾、蘭もクラッカーを弾き鳴らした。

 

「おう、ありがとな!」

 

時刻は夕方5時、場所は織斑家。

鈴としては、何処かへデートしてからのプレゼントを渡す、と云う流れを計画していたらしいのだが前日に一夏に予定を聞いた処

 

「別にいいって言ったのに、弾達が祝ってくれるんだってさ。俺の家に集まる予定なんだが、鈴も来るか?」

 

学園の皆に知られないように、一夏に対してサプライズを狙って前日まで何も聞かなかった事がアダとなり、中学時代の友達に先を越されていた。

当然、鈴は頷くしか無い。

そしてデート計画がご破綻した結果、一緒にプレゼントを買いに行った誼みと云う事で恭一も鈴から誘われたのである。

 

(あんな騒動の後でも鈴と恭一はいつも通りだなぁ)

 

いくら『亡国機業』の襲撃を予測・対策していようが、事件は事件である。

『たんれんぶ』の活躍により、観客を含めて怪我人は奇跡的に居なかった。

だが、襲撃者を捕まえるまではいかず、今回も『亡国機業』の目的は不明のままで終わった。

 

一夏達も襲撃者とドンパチした事で取り調べを受けさせられ、結局解放されたのは4時を過ぎてからだった。

 

「アイツを取り逃がした事、まだ引き摺ってるの?」

 

難しい顔をしていた一夏の前でクラッカーを構え出す鈴。

 

「ちょっ....危ないだろ、こっち向けるなよ!」

「反省は大事だがよ、切り替えるのも大事だぜ?」

「恭一....頼むから弾かないでくれよな」

 

鈴と同じくクラッカーを構えていた恭一の言葉で一夏も気持ちを切り替える。

 

「あ、あ、あのっ....一夏さん! 私、ケーキ焼いてきたんです! 良かったら食べませんか!?」

 

IS学園組に割って入ってきたのは蘭である。

 

「頂くよ、ありがとな」

「いえいえ! 今用意しますから!」

 

嬉しそうに差し出してきた皿には、生クリームが乗ったチョコレートケーキ。

 

「美味いなぁ、これ蘭が1人で作ったのか?」

「は、はい!」

「蘭って料理上手だよなぁ。うん、将来は良いお嫁さんになるな!」

「お、お嫁さっ....!?」

 

一夏の言葉に蘭はボシュっと赤くなる。

 

「へぇ....そんなに美味いのか」

 

恭一も少し興味を引かれたようだ。

 

「おう、恭一も食べてみろよ。マジで美味いぜ」

 

そう言ってフォークに突き刺したチョコケーキを恭一へと

 

「何普通にアーンしようとしてンだよお前! アホだろ!」

「何やってんのよ一夏! あんたバカじゃないの!? 其処は女子のあたしにする処じゃないの!?」

 

一夏の普通に対し、恭一と鈴は声を上げた。

 

「むっ....鈴さん」

 

鈴の言葉で乙女世界に旅立っていた蘭が現実に戻ってくる。

 

「んー? 誰かと思えば相変わらずチョロい蘭じゃない」

「あ、貴女に言われたくありません!」

 

一夏曰く、中学の頃からこの2人は険悪らしい。

理由は言うまでも無いのだが、一夏は気付かない。

そして、『恋愛指南書』熟読者のはずの恭一もやっぱり分からない。

 

「しっかし、ほんと無事で何よりだったな。ネットで見てビックリしたんだからよ」

 

未だに睨み合った状態の乙女2人を余所に、弾も話に加わってきた。

彼が言っているのは『キャノンボール・ファスト』の事だ。

文化祭の時とは違い、一般会場での事件である。

当然、学園外の観客も多数存在しているため、箝口令など何の意味を為さないのだ。

 

「まぁな、この通りピンピンしてるさ」

「俺は元々観客席に居ただけだからな」

 

一夏は当初『キャノンボール・ファスト』招待券を五反田兄妹に渡すつもりだった。

しかし『亡国機業』が襲撃してくる可能性を知り、危険性を考えて渡す事をやめたのだ。

 

「な、なぁ....ほんとにIS学園って安全なのか?」

 

不安そうな顔で2人に聞いてくる弾。

適性も無い彼が何故こうも沈痛な表情を浮かべるのか。

 

「もう! お兄ってば心配しすぎ!」

 

弾の声が聞こえたのか、鈴と言い合っていた蘭が割り込んできた。

 

「いや、でもよぉ....お兄ちゃんは心配なんだよ」

 

蘭は現在中学3年生であり、来年受験を控える身だ。

そして、彼女が志望している高校こそ一夏の居るIS学園なのだ。

その事は一夏も5月頃に、五反田家へ遊びに行った折り本人から聞いている。

 

『い、一夏さんには是非先輩としてご指導を.....』

『ああ、いいぜ。受かったらな』

 

その時、既に2人はこんな会話をしてしまっていた。

 

「ね! 一夏さん、約束しましたもんね! 覚えてますよね!」

「あ、ああ.....」

 

蘭は再度確認するが、一夏の返事は何処か歯切れが悪い。

それもそのはず。

あの頃と今では学園の状況が変わっているのだ。

一夏は安請け合いした事を今になって自責していた。

 

無人機の襲撃、文化祭そして今回の襲撃事件。

さらに、今後も『亡国機業』が襲撃してくる事は簡単に予想出来る。

そんな危険な所へ友人の妹を歓迎しても良いのか。

 

(俺が守ってやる! なんて今の実力じゃ軽々しく言えねぇ)

 

理想を追い求める中で現実とも向き合うようになった一夏の素直な心情だった。

 

「あんたねぇ、意気込んでるけど適性が無いとそもそも受ける事すら出来ないのよ?」

「ふふん! それなら大丈夫ですよ鈴さん。私は適性試験で何と判定『A』を貰っちゃったんですから!」

 

それ程大きくない胸をエッヘンと張る蘭。

 

「「 ふーん 」」

 

(あ、あれ....? 思ってた反応と違くない?)

 

一夏と鈴の少し冷めたリアクションに蘭は戸惑う。

 

「良い事教えてあげるわ蘭。ISの適性値なんて強さとは関係無いわよ?」

「鈴の言う通りだな。千冬姉ぇ曰く学生の適正値なんてゴミらしいし、それに―――」

 

一夏と鈴の視線が恭一に向けられる。

 

「うめぇ、うめぇ.....」

 

余ったチョコケーキをひたすらパクついている恭一は気付かない。

 

「IS学園で一番強いのって誰だと思う?」

「えっ? それは勿論一夏さんなんじゃ?」

 

「「 ぶぶー 」」

 

「俺なんかまだまださ」

 

鈴と一緒に否定する一夏は少し遣る瀬無い顔である。

 

「正解はあそこの阿呆リスよ」

「阿呆リスって.....確かに頬張ってるけどさ」

「......もふ?」

 

漸く恭一も自分が注目されている事に気付いたようだ。

が、食べる事は決してやめない。

 

「し、渋川さんが....ですか? 嘘でしょ?」

 

まるで想像出来ないと云った様子の蘭に

 

「ちなみにアイツのIS適性は最低の『F』よ。当然専用機も持ってない」

「えぇぇぇ!? お二人共、揶揄ってませんか? 流石にそれじゃ納得出来ませんって!」

「本当さ。しっかし最低で最強って何かカッコイイよなぁ」

 

(やっぱり納得出来ない! 納得は出来ないけど、2人が嘘言ってるようにも見えないし....うーん)

 

蘭は恭一に視線を注ぐ。

 

(すっごい食べてる....なんかあの人の周りにもふもふって擬音が.....うーん?)

 

「信じる信じないはアンタの自由よ蘭。でもね―――」

「あっ....ちょっ、何しやがる鈴!?」

 

ケーキに夢中な恭一の上着を鈴は勢い良く引っペがした。

 

「「 ッッ!? 」」

 

蘭と弾は目を大きく見開いた。

決して恭一の鍛えられた肉体美に、では無い。

幾つもの刺された傷跡に、である。

しかもまだ完治していない処を見ると、最近出来た傷である事も分かった。

 

「詳しくは言えないけどね。とあるクソッタレに文化祭で襲われたのよ」

「恭一は本当にスゲェんだ。そんなコイツが重傷を負う程の相手がIS学園を狙ってるのが現状なんだ」

 

華やかな映像でしか知らない蘭は現実を突き付けられたショックからか、言葉が出ないようだ。

そして、恭一も言葉が出ないようだ。

友達だと思っていた鈴に無理矢理脱がされたショックで。

 

「何時まで裸で居る気だよ、クーラー付けてんだから風邪引くぞ恭一」

「だから何でお前が着せようとすンだよ!? 何キャラ目指してんだテメェ!!」

 

一夏による鈴以上のショック療法が功を奏し、元に戻った恭一。

 

「IS学園は.....危険なんですか?」

 

「「.......」」

 

蘭の小さな声に何も言えない一夏と鈴。

 

「なぁ蘭、もう一度考え直してくれないか? お兄ちゃんはお前にもしもの事があったらって思うと....」

「お兄.....」

 

楽しいはずの誕生日会は最早お通夜状態だった。

 

「来たけりゃ来れば良いじゃねぇか」

 

能天気な恭一の声に言葉。

 

「なっ....無責任な事言うなよ渋川!」

 

どうでも良さ気に聞こえた弾が噛み付くが

 

「五反田蘭が来るまでに俺がアイツらを潰す。何の問題もねェ」

 

事の信憑性はともかく、反論を許さぬ断定的な物言いに周りはポカンとなるばかり。

 

「くっくっ....ははっ....」

「ふふふ....うふふふ」

 

少し遅れて一夏と鈴から笑声が漏れる。

 

「確かにそれなら問題は無いな。でもよ....俺、じゃなくて俺達って言って貰わないとな。恭一」

「一夏の言う通りね。あんただけ良いトコ取りなんて許さないわよ」

「ふっ.....そうだったな」

 

「「「 あっはっはっはっは!! 」」」

 

五反田兄妹は流石にこの『たんれんぶ』のノリには困惑するしか無かった、が。

 

「....一夏の奴、少し変わったな」

「うん....でも何か一夏さん楽しそう」

 

それだけは2人にもはっきりと感じられた。

 

 

________________

 

 

 

「そう言えば、あんたの用意した物ってどうしてんの?」

 

其々が一夏にプレゼントを渡す中、恭一はそれらしき物を持って来ていない。

 

「ああ、それなら織斑先生とも話したが、配達して貰う事になってな。そろそろの筈なんだが」

 

ピンポーン

 

「ん? 誰だ?」

「俺からの贈り物が到着したようだ。待ってろ」

 

リビングで待っていた一夏達の前には、プレゼント包装された大きな箱。

 

「ほれ、さっさと開けねぇか織斑!」

「お、おう! 恭一からのプレゼントだもんな、一体何が入ってんのか楽しみだぜ!」

 

一夏が開けた箱から出てきた物は

 

「.....タイヤだ」

「タイヤですね」

「大きいタイヤだなぁ」

 

事前に知っていた鈴は何も言わない。

大型トラックのタイヤが4本。

それと丈夫そうなロープ。

 

「1本あたり約60kgだ。嬉しいだろ?」

 

「「何が(ですか)!?」」

 

五反田兄妹の息の合った突っ込みを余所に、一夏はロープとタイヤを交互に見る。

 

「これはアレか? ビルドアップにって事か?」

 

ロープに巻き付けたタイヤを引き走る自分の姿を思い浮かべた。

 

「その通りだ織斑。お前の足腰はまだまだヒョロヒョロ過ぎンだよ」

 

それなりに鍛えられていても恭一からしたら、及第点にも達していない。

 

「今日の箒のレースを覚えているだろう? 刀剣を補助に使いはしたが、瞬時加速中に無理矢理軌道を変える事に成功した。以前の箒の肉体なら悲鳴を上げる処だが、アイツのこの半年間鍛えに鍛えた結果が漸く1つ実を結んだと言えるな」

 

感慨深そうに恭一は言う。

 

「今のお前の身体は、アレに耐えられる事が出来るか?」

「それは.....」

 

出来ない。

シャルロット達も言っていた。

普通の肉体では瞬時加速中に無理に軌道を変えると空気抵抗や圧力の関係で最悪の場合、骨折する危険性がある、と。

 

「普通の肉体が無理なら普通じゃなくなれば良い、簡単過ぎンだろ。うわはははは!」

 

まさに単純明快。

恭一ならではの発想である。

 

「恭一はもう『変則瞬時加速』出来るんだよな?」

「当然! 俺が知る限り、後は織斑先生と束さんの2人だけだがな。3人目はこのままいくと箒だろうが、お前は其処へ割って来ないのかい?」

「.....やってやるさ」

 

近接格闘オンリーの者は1つだけ鍛えても、一定以上は強くなれない。

 

技術だけでは高みにはいけない。

身体だけでは高みにはいけない。

 

なら両方鍛えれてしまえば良い、唯それだけである。

 

(これを使えば闇雲に鍛えるだけじゃなくて、戦い方をイメージしながら鍛える事が出来る....)

 

「ありがとう恭一! 早速明日からこれを引いて走りまくるぜ!」

「おう、まずは1個ずつから慣らしていけ」

 

本当はタイヤでは無く、大型トラックそのものをプレゼントしようと思っていたのだが、流石にそれは千冬に止められたらしい。

 

(トラック牽引が一番良いんだがなぁ....)

 

無理なものは無理である。

 

(何か....あたしがあげた時計よりも喜んでないアイツ?)

(ううっ....手作りケーキと手帳だけじゃインパクト薄かったのかな)

(熱血青春真っしぐらだなぁ一夏)

 

一夏と恭一のやり取りに他の3人はそんな事を思ったそうな。

 

 

________________

 

 

 

「あれ? 恭一何処行くの?」

 

部屋から出ようとした恭一を鈴が引き止める。

 

「俺の飲みモン無くなったしな、自販機まで買いに行ってくらぁ」

「そう云う事なら安心しろ恭一!」

 

ヒョッコリ顔を出した一夏が冷蔵庫から取り出した物を持ってくる。

 

「お前が好きなヤツ買っておいたぜ!」

 

一夏の手にはペプシ。

 

「この馬鹿ァ!!!」

「へぶぅっ!?」

 

恭一からのホレボレするようなビンタが一夏の頬をとらえた。

 

「一夏さああああああんッッ!?」

 

見事なトリプルアクセルを披露(?)した一夏に蘭が駆け寄る。

己の誕生日だからと言って、悪ノリする相手を間違えた者の末路。

 

「今のは一夏が悪いわ。むしろビンタ一発で済んで御の字でしょ」

「えぇ.....そうなのか?」

 

IS学園内情に疎い弾は引き気味だった。

.

.

.

「おぉぉぉ.....」

 

たまにはこんな事もあるもんだ。

簡単にコーラが買えてしまった。

 

「ふっ....俺も成長したって事だな」

 

嬉しそうに取り出し口からコーラを取って歩き出す。

と、ちょうど自販機の明かりが届かないギリギリの所に人影が。

ジュースを買いに来たにしては離れ過ぎている。

それでも恭一は気にせず2歩目を踏み出そうとすると、人影が一歩前に出てきた。

 

「.........」

 

人影は少女だった。

しかも恭一が幼少期に会った顔をしている。

15、6歳程に見える少女。

しかし、その顔は約7年前に初めて出会った頃の千冬に異常に似ていた。

 

(ミニ千冬さんだ....)

 

「渋川恭一.....貴様は織斑千冬の何だ?」

「会っていきなりだなオイ。お前だけ俺の名前知ってるのは不公平じゃないか?」

「ふん....私の名前は『織斑マドカ』だ」

 

昔の千冬に酷似した少女は自らを『織斑マドカ』と名乗った。

 

「お前はあの女の恋人と聞いたが、間違いないか?」

「.....だったら何だ?」

 

恭一の返答に少女は薄ら笑みを浮かべる。

その歪み嗤った表情は、恭一が愛する千冬とは似ても似つかない。

 

「殺すに値する。死ね」

 

胸元からすっと差し出されたのは、鈍く光を放つハンドガンだった。

 

乾いた銃声が響き渡る―――

 




恭一:ライダー助けて!
マドカ:誰が大声出していいっつったおいオラァ!!(大声)

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