野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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がんばれエムちゃん!、というお話



第84話 壮大なホニャララ

『キャノンボール・ファスト』当日。

天候にも恵まれ、会場は超満員。

雲一つない青空には花火がポンポンと上がっている。

 

「絶好の観戦日和だな」

「観戦に天気は関係ないよね」

 

既に応援席に陣取った上での皮肉混じりな恭一に、苦笑しながら突っ込む清香。

 

今日のプログラムはまず最初に1年生の訓練機組のレースが、それから1年生の専用機持ちのレース。

次に2年生のレースで、最後は3年生によるエキシビション・レースで締める形だ。

 

「篠ノ之さん、優勝出来るかな?」

「出来る! って云うかして貰わないとヤダね!」

 

癒子の言葉にフンスッ、と両腕を掲げる理子。

訓練機部門は其々のクラス代表による対抗戦である。

それ故に優勝したクラスには景品が出るのだ。

 

「デザート食べ放題だよ~! しののんなら大丈夫!!」

「私はもう貰った気で居ますわ」

 

本音や静寐の言葉に大きく頷く1組の生徒達は、既に大船に乗った気持ちである。

入学当初は周りに対して少し壁があった箒だったが、クラス代表決定戦、対抗戦が終わった辺りから角が取れた彼女はクラスメイトとも打ち解けるようになった。

そして何より、皆が箒の並々ならぬ努力を目撃している。

そんな彼女に対する1組の信望は厚かった。

 

 

『それでは皆さん、1年生訓練機組の登場です!』

 

 

大きなアナウンスが響くと共に、訓練機を纏ったクラス代表者が出てきた。

 

「がんばれ~! しのの~ん!!」

「篠ノ之さん、ファイトだよーっ!」

 

ワーワー!!

 

観戦席に居る生徒達が、スタートポイントに移動している自分のクラス代表者に声援を送る。

 

「ほら、渋川君も!」

「当然だ。お前ら耳塞いでろ」

 

すっ、と立ち上がり

 

「ぶちかませェェェェ箒ッッ!!!!! ぶっ潰せェェェ!!!! ウオオオオオオッッッ!!!!」

 

" オオオオオオオオオッッッ!!!!!! "

 

「「「「 !? 」」」」

 

他の歓声を全てかき消す無敵のシャウトが木霊した。

 

「あのバカ.....」

 

恭一の鼓舞(?)がハッキリと聞こえた箒は、言葉とは裏腹に嬉しそうな表情でスタートラインに立った。

 

(アイツの前で不甲斐ない真似は出来ん。本気でいかせてもらおうッッ!!)

 

超満員の観客が見守る中、シグナルランプが点灯した。

3....2....1....

 

GO!!

 

「ッッ!!」

 

スタートからの瞬時加速。

それと同時に近接用ブレード『葵』を召喚させる。

 

「...っ..今!!」

 

コーナーに差し掛かった所で、思い切り『葵』を地面に突き立て、無理やり減速させたまま見事に曲がり切った。

 

『おおおおおおおッッ!!』

 

箒の高度なテクニックに対し、特に見所は無いだろうと気持ちは早くも専用機組にあった観客席から大きな喝采が沸き起こる。

 

「へぇ....大したものね」

 

観客の中には当然IS産業関係者や各国政府関係者もいる。

その中に紛れ込んでいる、とある1人も感嘆の声を上げた。

豪華な赤色のスーツを纏い、美しい金色の髪を靡かせた大人の色気を溢れんばかりに放つ女性は、目元を覆っていたサングラスを少し外して微笑む。

 

(....あれが篠ノ之箒。専用機を与えられていないのが不思議な位ね)

 

レースは早くも最終局面。

大歓声で迎えられる中、2位との差をぶっちぎった箒が右手を上げてゴールした。

 

『わああああああああああッッ!!』

 

「すごいすごーい! さすが篠ノ之さんだね!!」

「ひゃっほおおおおおおおッッ!! 優勝じゃ宴じゃ!」

「今日は走らないとね! いっぱいスイーツ食べちゃうんだもの!!」

 

応援していた1組は、どんちゃん騒ぎであった。

 

 

________________

 

 

 

レースを終えた箒をピットに控えていた専用機組達が拍手で迎えた。

 

パチパチパチッッ!!

 

「おめでとう箒! ナイスランだったよ!」

「うむ。見事な切り返しだった。あそこが全てだったのだろうな」

 

シャルロットとラウラが先程のレース内容を褒め称える。

 

パチパチパチッ!!

 

「ちょっ....大袈裟だぞお前達! 恥かしいではないか!」

 

思ってた以上の手厚い出迎えに箒は顔が赤くなる。

 

「何言ってんのよ箒、スタート前の恭一に比べたら全然恥ずかしくないでしょ!!」

「羨ましいですわ箒さん、羨ましいですわ箒さんッッ!!」

 

ケラケラ笑う鈴と、箒の肩をポカポカするセシリア。

 

「いや、でも箒の走りを見て俺も気合入ったぜ」

「.....私も燃えてきた」

 

拳を叩いて気合を入れる一夏。

いつも通り物静かではあるが、簪も先程のレースに触発されたようだ。

 

「ふむ。そろそろお前達の出番だが、分かっているな?」

 

管理室からは千冬も激励に来ていた。

 

「「「「 はいっ!! 」」」」

 

「お前達の部長からメッセージを預かっている。――――――――――――、以上だ」

 

恭一からの叱咤激励(?)の言葉を受けた面々は瞳に闘志の炎が燃え盛った。

 

「みなさーん、準備はいいですかー? スタートポイントまで移動しますよー」

 

真耶の若干のんびりとした声が響く。

 

「よし....行ってこい!!」

 

一夏達は各々頷くと、マーカー誘導に従ってスタート位置へと移動を開始した。

それを見送った千冬と箒。

 

「ちゃんとブレスレットに待機させたか?」

「はい、大丈夫です」

 

そう言って箒は、『打鉄』が収まっているブレスレットをつけた右腕を千冬に見せる。

 

「なら良い。お前は早目に恭一と合流しておけ」

「....はいっ!!」

 

 

________________

 

 

 

『それではみなさん、続きまして1年生専用機部門のレースを開催します!』

 

再び大きなアナウンス。

一夏達は各位置に着いた状態で、スラスターを点火した。

 

3....2....1....

 

GO!!

 

「スタートダッシュは貰いましてよ!」

 

まずはセシリアが一つ分飛び出した。

あっという間に第一コーナーを過ぎ、彼女を先頭にして列ができる。

 

「トロトロしてんじゃないわよ、一夏ァ!!」

 

一夏と並走していた鈴が、いきなり勝負を仕掛けに行く。

 

「貰ったわよ、セシリア!」

 

衝撃砲を先頭のセシリアに向けてぶっ放した。

それを躱そうと横に少しズレた瞬間を狙っていた鈴は、爆発的な加速で追い抜く。

 

「くっ....やりますわね!」

「へへん! まだまだいくわよぉ!!」

「それは私の台詞だな」

 

「「 !? 」」

 

鈴の加速に合わせて、その背後に付けていたラウラが前に出る。

 

「スリップ・ストリーム!?」

「正解だ!」

 

慌てて衝撃砲を向けるも、ラウラの大口径リボルバー・キャノンの方が僅かに早かった。

 

「あぶなっ....」

「邪魔ですわ鈴さん!?」

 

直撃は免れたものの、鈴は後ろからのセシリアと相まって大きくコースラインから外れた。

 

「すげぇなラウラの奴....これじゃ迂闊に―――」

「一夏、おっさき~」

「......行く」

 

ラウラの牽制射撃を何とか避けた一夏だったが、シャルロットと簪に抜かれてしまった。

グングン出力を上げたシャルロットに簪はラウラへと少しずつ肉薄していく。

 

「さっさと退きなさいよセシリア!」

「それは私の言葉でしてよ鈴さん!」

 

ギャーギャー言い合い、今だ復帰に時間が掛かりそうな2人を余所に

 

「...俺も行かねぇとな!」

 

一夏も先頭団体へ食らいついて行く。

.

.

.

依然トップはラウラとシャル。

直ぐ後ろをがっちりキープしている簪。

少し離れて一夏。

さらに少し離れた所に鈴とセシリア、といった順だ。

 

白熱するバトルレースは2週目に突入。

其処で異変は起きた。

 

「.......」

 

突如、上空から飛来した機体がトップを走るラウラとシャルロットの方へ、砂嵐を撒き散らしながら無数のレーザーが襲った。

 

「「「「 ッッ!! 」」」」

 

ラウラとシャルロットは直ぐ後ろに居た簪と共に、巻き込まれる形でコースアウトしてしまう。

それに視線を遣る事も無く、突然の襲撃者はにやりと口元を歪めた。

 

「.....サイレント・ゼフィルス」

 

一夏は小さく呟いた。

 

 

________________

 

 

 

「きゃああああっ!」

 

誰かの悲鳴が聞こえる。

突然の襲撃に客席はパニック状態に陥ってしまっていた。

 

「落ち着いて! 皆さん、落ち着いて避難して下さい!」

 

スタッフの声が響くが、この騒動では誰も耳を貸す余裕など持てない。

さらに追い討ちを掛けるが如く

 

「あっ、開かない!? どうして扉が開かないのよ!?」

 

観客席にある出口は全てロックが掛かっており、完全に閉じ込められてしまっていた。

.

.

.

「駄目です織斑先生! 何者かにハッキングされてるみたいで、コチラでも解除出来ません!」

 

真耶はデータを何度も入力するが、警告音が鳴るだけでロック解除に繋がらない。

 

「ふん.....想定内だ」

「えっ....?」

 

千冬は落ち着いた動作でコーヒーを淹れる。

何時ぞやのクラス対抗戦の時のように、塩と砂糖の入れ物が置いてあったが千冬は優雅に砂糖をスプーンで掬い、コーヒーカップに入れた。

 

「ん? 山田先生も飲むか?」

「ど、どうしてそんなに落ち着いてらっしゃるんですか?」

「言っただろう.....想定済みだ」

 

不敵な笑みを浮かべた千冬は、カップに口を付ける。

 

(頼んだぞ。恭一、箒)

 

 

________________

 

 

 

「誰か助けてぇぇぇ!!」

「開けてよぉ! 此処から出してッッ!!」

 

 

 " 喝ッッ!! "

 

 

パニックになっていた空気が、恭一の咆哮大喝でピタリと止まった。

それだけでは無い。

男から発せられる氣が、周りの者に動く事を許さない。

 

「ふむ....無駄に分厚い扉だな。私も待機状態にしておいて、やはり正解だったか」

 

こうなる事が分かっていたかの言葉を口にした少女。

恭一の後ろに控えていた箒は『打鉄』を展開する。

 

「下がってろ」

 

恭一の殺気溢れる言葉に周りに居た生徒達は、ざざっと下がった。

と言うより身体が勝手に下がったと云った処である。

 

「特殊鋼材仕様の扉か。1人でいけるか?」

「いける、と言いたいが厳しいな。傷くらいなら付けられるだろうが」

「十分だ。俺が合わせてやる」

 

箒は刀剣『葵』を召喚。

2人は視線を合わせると、軽く頷き構えた。

 

箒は瞑目して意識を一点に集中させる。

 

「......フッ!!」

 

少し下から斜め上に膂力をもって剣を一点集中に突き出す。

 

剣技 " 刀破斬 "

 

ガギンッ

 

少しではあるが、確かにヒビが入る。

箒が与えた衝撃が逃げない内に恭一がその箇所にピンポイントで、超高速の蹴り。

 

メキッ....メキメキメキ

 

ヒビは徐々に波紋していき、観客席に立ち塞がっていた扉の壁は全壊した。

 

「これで脱出が可能になった訳だが」

 

ゆっくりと振り向た恭一に、皆が萎縮してしまっている。

 

「焦って転んだ奴は俺が踏み殺す。死にたくなけりゃ落ち着いて移動するんだな」

 

 

 " 分かったかッッ!! "

 

 

「「「「 は、はいッッ!! 」」」」

 

恭一の脅しにより我先に、とパニックを引き起こす事も無く全員が逃げる事に成功した。

此処の観客席に残っているのは恭一と箒のみ。

 

「まぁこんなモンかね」

「ああ、次は別の出口だ。襲撃者に対しては.....」

 

そう言って上空を見上げる2人だった。

 

 

________________

 

 

 

「一体狙いは何だ! 『亡国機業』!!」

 

『サイレント・ゼフィルス』と対峙している一夏が声を上げる。

 

「答える必要は無い」

 

『スターブレイカー』を召喚させ、一夏を真っ向から切り伏せに掛かる。

 

「ぐっ....このッッ!!」

 

一夏も『雪片弐型』で応戦する。

 

「うおおおっ!!」

 

切先を捌いた処で反撃に出る。

が、絶妙のタイミングでシールド・ビットが割り込んできて、決定打を与えられない。

 

「くそっ! があっ?!」

 

斜めからの斬り込みを上手く受け流され、そのまま蹴りを喰らってしまい吹き飛ぶが、何とか態勢を立て直して再び構える。

 

「一夏!」

「一夏さんっ!」

 

鈴とセシリアも少し遅れて援護へ来た。

 

「....サイレント・ゼフィルスッッ......」

 

ギリッと唇を噛み睨むセシリアに対して

 

「心は熱く! その後に続く言葉は何!? セシリア!!」

「....頭は冷静に。恭一さんから教わった言葉ですもの、しかと肝に銘じてますわ」

 

激昴して今にも飛び出しそうな彼女を上手く鈴が落ち着かせた。

 

「ふん....雑魚が何匹来ようが構わん」

 

3vs.1の状況にも不敵な笑みを浮かべている。

アメリカ軍基地での戦闘とは違い、文化祭時は彼女が一夏達を圧倒したのだ。

当然、余裕が伺える。

 

「ならお言葉に甘えようか」

 

後方にはISを纏ったシャルロット、ラウラ、簪の3人が無傷の状態で佇んでいた。

 

 

________________

 

 

 

『キャノンボール・ファスト』開催日より一週間前。

 

恭一の部屋に『たんれんぶ』の皆が、ある事を話し合うため集まっていた。

 

「襲撃に備えるって言っても、何となくじゃ意味無いのよ」

 

白いボードをバンッと叩く楯無。

 

「なら一層の事『キャノンボール・ファスト』自体を罠に使っちまえば良いじゃねぇか」

 

何やら面白そうな事を思い浮かべたらしく、恭一はケラケラ嗤いだした。

 

「どう云う事だ、恭一殿?」

「奴さんは文化祭ン時に随分調子に乗ってたらしいな? そんな奴なら間違い無くレース中に派手に登場してくるに決まってる。だがその時、お前ら全員が無傷で迎える事が出来たら?」

 

恭一の言葉に何人かがピンと来たようで、悪い笑みになる。

 

「つまり....僕達はレースを演じるって事だね?」

「負傷した振りに、競い合っている振り....ヤラセ番組のアレね」

 

シャルロットと鈴がウッシッシと笑う。

 

「派手に登場するには最後列走ってる奴と最前列走ってる奴、どっちを攻撃した方が目立つと思うね?」

 

「「「「 最前列 」」」」

 

皆の声が揃う。

一番攻撃される可能性が高い位置を割り出したのなら、後はどう対処すれば良いか。

 

「.....簪ちゃん、貴女に任せても良いかしら?」

「お姉ちゃん.....大丈夫、任せて」

 

楯無の言葉に簪は強く頷いた。

 

 

________________

 

 

 

(何故コイツ達がまだ動ける....?)

 

表情には出さないが、少なからず襲撃者エムは動揺した。

 

「....何度も練習したもの」

「いやぁ、タイミングばっちりだったね簪!」

 

誇らしげな簪にシャルロット。

 

楯無や整備課の皆と組み立てた簪の纏うIS『打鉄弐式』。

彼女のISには広範囲防壁を展開する事が出来るシールドパッケージ『不動岩山』が組み込まれている。

 

簪が何故トップを走る2人の直ぐ後ろに付けていたのか。

ラウラとシャルロットは彼女により守られていたのだ。

 

「でもホントにアンタが来てくれて良かったわ」

 

しみじみとエムに向かって鈴は言う。

 

「会長と織斑先生の指導でこの1週間、ひたすら出来レースの練習でしたものね」

「....これでもし襲撃が無かったら、あの地獄の練習が全くの無駄になる処だったからな」

 

ラウラの言葉で思い出した面々は顔を青くさせる。

少しのズレすら許さない、不自然に見えない、完璧なやらせレースを目指した特訓は地獄そのものだった。

 

『サイレント・ゼフィルス』を纏う襲撃者に最も思う処があるセシリアは、感情を押し殺して淡々と告げる。

 

「貴女はお強いのでしょう? なら私達雑魚は6人掛りでいかせて貰いましょうか」

 

 

『潰せ。ワルモノに遠慮する必要なんてねえよナァ?』

 

 

レース前に送られた我らが部長からの言葉を皆が反芻させる。

 

「「「「 ぶっ潰すッッ!! 」」」」

 

其処に慈悲は無かった。

 

 

________________

 

 

 

「これは.....もしかして」

 

サングラス越しに状況を把握した女性、スコールは少し眉間に皺を寄せた。

 

「流石のエムも6人の専用機持ち相手では、キツいわね」

 

防戦一方の戦闘を見ながら、溜息を漏らす。

それでも何とか立ち回っているエムは、驚嘆に値するのだが。

 

「....貴女の差金かしら? 更識楯無さん」

 

スコールは振り向かずに、扉に立つ楯無にナイフを投擲する。

 

「ひゃっ....ちょっと! 可愛い顔に傷が付いちゃうじゃない!」

 

瞬時にISを展開させた楯無は蛇腹剣『ラスティー・ネイル』でソレを叩き落とした。

 

「ち・な・み・に! 今回の作戦は、部長が考案したモノよ」

 

特殊ナノマシンによって超高周波振動する水を螺旋状に纏ったランス『蒼流旋』を召喚し、構えてフフンと微笑む。

 

「....部長?」

「渋川恭一」

 

ピクリ

 

その名前にスコールは僅かに反応する。

それを楯無は決して見逃さない。

 

「貴女達『亡国機業』の狙いは何? どうして恭一君を狙ったの?」

「あら、言ってしまったら面白く無いでしょう?」

「そう....無理矢理がお好みのようね」

「出来ない事を口にするモノでは無いわねぇ」

 

楯無の攻め氣にスコールもISを展開する。

 

「あっ....そうだ、忘れる処だった!」

「.....?」

 

仕掛けた本人である楯無がいきなり勝負に水を差した。

 

「恭一君から貴女宛よ」

 

そう言って、封筒をスコールに向かって投げる。

 

「....私宛?」

「中にはメッセージカードが入ってる。此処では読まない事をお勧めするわ♪」

「それなら此処から出た後でゆっくり読みましょう」

 

(逃がすつもりも無いけどねッッ!!)

 

構えていた『蒼流旋』には四連装ガトリング・ガンが内蔵されており、スコールに向かって一斉に火を噴いた。

 

ドガガガガガッッ!!

 

「......ッッ!!」

 

スコールは凄まじい動きで弾丸を躱していく。

それも十分な余裕を持って。

 

「貴女の機体では私には勝てない。分かっているでしょう?」

「ふふっ....確かに今の私ではまだ無理かもね!」

 

ランスによる接近戦に切り替えた楯無はスコールに高速突撃する。

ひらりと躱したと同時にまたしてもナイフ投擲。

 

「そんなもの!」

 

ランスで弾き飛ばした瞬間、ナイフは大爆発を起こした。

 

「くっ!?」

 

黒煙が立ち込める中、ハイパーセンサーでスコールの姿を確認するが

 

「あーあ....これじゃ追いつけない、か」

 

既に逃走に必要な距離は十分に稼がれてしまっていた。

完全に逃げられた形になってしまったが、楯無の表情は其処まで暗くは無かった。

 

「ある意味これで画竜点睛かしら。欠いてもいるんだけどね」

 

そう言った彼女は上空の様子を見上げる。

 

 

________________

 

 

 

「しぶとすぎっ! 墜ちろっツってんのよ!!」

「......私達で墜とせば良い」

 

遠距離・中距離・近距離の3方向からの連携に、エムはひたすら我慢の時を強いられていた。

 

(ちょこまかと鬱陶しいヤツらめッッ!!)

 

流石のシールド・ビットも隙間無く際限無く続けられる攻撃に追い付か無くなってきている。

 

「うおおおおっ!」

「ぐっ....貴様もっ....しつこいッッ!!」

 

疲れが見えてきたエムの斬撃を『雪片弐型』で真正面から受け止める。

 

「部長がスパルタでなっ! ハンパな戦闘してたんじゃ後が怖いんだよッッ!!」

「ちィッ!!」

 

一夏に押し負けたエムは、一度距離を取る。

 

(コイツら、戦い方があの時よりも変わっている.....)

 

正直、このままでは自分が墜ちるのも時間の問題である。

流石にエムの表情にも焦燥が浮かび出したが

 

『エム、帰投しなさい』

「了解」

 

スコールからの通信が漸く来た。

いつもなら少し間をあけてから返答するのだが、今回だけは即答だった。

エムは一気に後方へ下がり、飛び去る。

 

「なっ....逃がすかよ!!」

「待ちなさいっ!」

 

一夏達は追いかけようとするが

 

『其処までだ、何かしらの罠が待ち構えている可能性がある。今回はこれで十分だ』

 

千冬から皆へ、通信が入った。

.

.

.

安全な所まで行き着いたスコールはISを解除する。

 

(まるで悔しそうじゃ無かったわね、あの子)

 

実力差は実感したはず。

なのに、まるで絶望した様子も見れなかった。

 

(....そう云えば)

 

スコールは受け取った封筒の存在を思い出し、胸元から取り出した。

確かに入っているのはメッセージカードのようだ。

 

(私とはまだ面識が無いはず、そんな彼が私宛に一体何を?)

 

綺麗に折りたたまれたカードを開くスコール。

カードには簡素な一文が。

 

 

 

『ふぁんとむ・たすく(笑)』

 

 

 

「........へぇ」

 

この時ばかりは綺麗な顔が非道く歪んだそうな。

 





後手に甘んじる『たんれんぶ』じゃ無い、はっきり分かんだね。

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