野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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まぁのんびりしましょうよ、というお話



第82話 帰りの会

文化祭から数日が経ったIS学園。

謎のISによる襲来騒動もようやく収まり、学園内では日常が戻ってきた。

渋川道場は、相も変わらず盛況さを見せている。

其れを八の字眉毛で眺めている少年が1人。

 

「........」

 

頬を膨らまし、如何にも自分は機嫌が悪いと云った処である。

 

「えいっ」

「ぷひゅ....何すんのさ、のほほんさん」

 

そんな少年の頬を隣りで突く、ニコニコ顔の少女。

 

「えへへー、なんでもなーい」

 

恭一の傷は、当然まだ癒えていない。

しかしこの男は目を放した隙に、こっそり鍛錬に参加しようとするのである。

これではいけないと云う事で呼ばれたのが、恭一の隣に座っている少女。

クラスメイトの本音である。

彼女は簪からの要請により『恭一監視員』に任命されたのだ。

 

「ほぇ~....皆凄いんだねぇ」

 

各々の鍛錬風景を見ていた本音は、のんびりしたトーンで驚いていた。

隣りに座っている恭一は、先程から1人の少女の動きを目で追っている。

 

(.....セシリア?)

 

「くっ....ハァ!!」

「甘いよセシリアッッ!!」

 

シャルロットと対手試合を行っていたセシリアの動きに、何処かぎごちなさを感じる恭一。

 

「も、もう一度お願いしますわ!」

「少し休んだ方が良いんじゃない? 顔色もあまり良くないよ」

「そんな事はありませんわ!! 攻めて来ないのなら私からいきましてよッッ!!」

「ちょっ....このっ!!」

 

(.....ふむ)

 

 

________________

 

 

 

鍛錬が終わると部室と云う名の恭一の部屋でいつものお茶会だ。

 

「うー....次は私も参加するからね!」

 

本音は用事があると云う事で、今回は渋々帰っていった。

話題はやはり、先日の文化祭の騒動について。

 

「IS学園、そして恭一君を襲ったのは『亡国機業』と呼ばれる一団よ」

 

楯無がボードを用いて皆に説明する。

 

『亡国機業』―――『ファントム・タスク』と呼ばれるその一団は、古くは50年以上前から活動しているらしい。

国家に寄らず、思想を持たず、信仰も無く、民族にも還らない。

それ故に目的は不明。

存在理由も不確かであり、規模も不透明である。

ただ近年ではISを標的にする事が多いらしく、『世界征服』でも企んでいるのではないか、と云う荒唐無稽な話まで出たりもしているらしい。

 

「どうして恭一が襲われなければならないんだ....ッッ」

 

箒は心底忌々しそうにボードの文字を睨む。

 

「確かに箒の言う通りだ....専用機を奪うのなら恭一殿を襲っても意味が無い」

 

此処に居る面子でオータムが恭一を殺す目的で襲ってきた事を知っているのは、本人を除くと千冬と楯無だけである。

 

「その件については一先ず保留しとくとして。さらに昨日情報が入ったのよ。まだ非公式だけど、アメリカの軍基地が『サイレント・ゼフィルス』を纏った者に襲撃を受けたらしいわ」

 

『サイレント・ゼフィルス』。

この言葉にセシリアが僅かに反応を見せた。

 

「それってこの前、俺達と戦った奴ですか?」

「ええ、そう思って良いでしょうね」

 

一夏も思い出したのか、悔しそうに顔を歪める。

 

「あぁ....そういやそんな内容のメールが着てたっけな」

 

「「「「「 メール? 」」」」」

 

恭一の何気ない呟きに皆の視線が集まった。

 

「ちょ、ちょっと恭一君....更識家ですら昨日入手したマル秘情報なのよ? 一体誰からのメールで知ったの?」

 

 

『昨日よぉ、亡国機業がウチの基地に乗り込んで来やがったぜ。まぁ私の大活躍で軽く撃退してやったけどな! パンチ!!(o≧ω≦)○))`ω゚)!・;'.』

 

 

「.....あの馬鹿め」

 

メールの文面を見た千冬が頭を抱えた。

 

「ってかいつの間にあんたアメリカ代表とメル友になったのよ?」

「臨海学校の帰りにな」

 

鈴の疑問に一言でそう返した。

 

ちなみに意外と学園外での恭一のメル友は多かったりする。

束やクロエは当然の事、フランスのオデッサ、ドイツのクラリッサ、アメリカのイーリスといった剛健たる面々。

毛色は違うが、臨海学校にて熱い牌闘を繰り広げた松実姉妹、あと夏祭りで仲良くなった五反田弾も。

 

「と・に・か・く! 『亡国機業』からすれば、私達の学園はある意味で宝庫なのよ。今回で終わりだとは思えないわ」

 

楯無は手を叩いて、皆に注意を促す。

 

「もしも専用機を奪う気なら、注意すべきはイベント時だろう」

「イベントって.....」

 

千冬の言葉に全員が「そう言えば」と云う顔になる。

 

「今月末にあるわね『キャノンボール・ファスト』が」

 

IS高速バトルレース『キャノンボール・ファスト』。

国際大会として開催される程、白熱した競技の1つである。

IS学園があるこの地域では市の特別イベントとして催され、それに学園の生徒達が参加する事になっている。

部門は大まかに2つ。

一般生徒が参加する訓練機部門。

専用機持ち限定の専用機部門。

ちなみに市のイベントであるため学園外でのIS実習となり、行われる場所は臨海地区に作られた超が付く程巨大なアリーナである。

 

「専用機が異様に集まった今年は異例の1年生参加だが、『キャノンボール・ファスト』はお前達の総合力を成長させる大きなチャンスだ」

 

『キャノンボール・ファスト』は本来、整備課が登場する2年生からのイベントである。

しかし、今年は予期せぬ出来事に加えて専用機持ちが多い事から、1年生時点で参加する事が決まったのだ。

 

訓練機部門は専用機部門とは違ってクラス対抗戦である。

それぞれのクラスから選出された者が代表者として他のクラス代表者達と競い合う形だ。

 

ちなみに『たんれんぶ』では箒と恭一以外、全員が専用機持ちである。

 

「うし! それなら今度、代表賭けて勝負しようぜ箒!」

「無理ダナ」

 

恭一の好戦的な声に対して、箒は指で小さくバッテンを作ってみせる。

 

「その怪我で出す訳にいかんだろうが」

 

腕を捲くってヤル気を見せた恭一に羅刹ストップが掛かった。

 

「い、いやしかし―――」

「怪我を負ったお前が悪い。違うか渋川? 無傷で勝たなかったお前が悪い、そうだろう渋川ァ?」

「むむむ....」

 

恭一がワザと攻撃を喰らった事を未だに怒っている千冬だった。

 

「なにがむむむ、だ。私の言っている事は間違っているのか? 私が悪いのか、お前が悪いのか、はっきりお前の口から言え」

 

千冬にしては珍しくネチネチした口撃である。

そして、恭一も自分が悪い事は完全に自覚している。

だが、彼女の言葉に対して簡単に認めて言ってしまうのも何処か面白くなかった。

 

「.......」

「どうした? 早く言わないと皆の帰りが遅くなるぞ」

 

(((( 小学校の帰りの会かな? ))))

 

「......織斑」

「ほう....?」

 

千冬の眉がピクリと動く。

あくまで認めない恭一の言葉に、皆にも緊張が走る。

 

「....一夏」

「へっ?」

「織斑一夏が悪い」

「な、なんでだよ!?」

 

さすがに誰もこの発想は無かった。

だって本当に無関係だもの。

 

「....そうね、確かに織斑君も悪いわね」

 

悪ノリ1号楯無。

 

「考えてみれば恭一の言う事にも一理あるわよね」

 

悪ノリ2号鈴。

 

「謝った方が良いんじゃないかな」

 

悪ノリ3号シャルロット。

 

「いや、何だよこの流れ!? おかしいだろ!」

「そうか....貴様が悪いのか織斑ァ....」

 

悪ノリの大トリは織斑大先生。

 

「ヒィッ....どうして千冬姉ぇまでノるんだよ!! み、皆からも言ってくれッッ!!」

 

一夏が助けを求める視線を向けた瞬間、皆が顔を逸らした。

 

「せ、セシリア!」

 

サッ

 

「箒!」

 

ササッ

 

既にラウラと簪も下を向いている。

 

「ひ、ひでぇ!? 何だよその団結力! 授業中の生徒かお前らッッ!!」

 

皆のソレは、教師に当てられるのを嫌う生徒の動きそのものだった。

 

「まぁお巫山戯は此処までにして、俺が悪かったですよ。当日は大人しく皆を応援してます」

「うむ、分かれば良い」

 

何事も無かったかのように話を締める恭一と千冬。

 

「それじゃあ、食堂にご飯食べに行きましょ!」

 

「「「「 さんせーい! 」」」」

 

鈴の提案にそれぞれ立ち上がり、部屋から出て行く。

 

「....今日の風はやけに沁みるぜ、イテッ」

 

取り残された一夏の額を軽く千冬は小突き

 

「馬鹿言ってないでお前も食べて来い」

「あれ、千冬姉ぇは?」

「私は渋川に連絡事項を伝えてから行く」

「ふーん、それじゃあまた後でな2人共!」

 

 

________________

 

 

 

ドアが閉まり、部屋には恭一と千冬の2人だけ。

 

「連絡事項なんかありましたっけ?」

「察せ.....馬鹿者」

「っっ.....」

 

唐突な千冬からの抱擁である。

 

「少し意地悪く言い過ぎたな」

 

恐らく、先程の事を言っているのだろう。

 

「しかしな、お前を心配するのは当然だろう? 私は...かっ、か彼女だからな」

「分かってますよ、嬉しいです千冬さん」

「あっ....」

 

恭一からも抱きしめ返すと、千冬も嬉しそうに少し力を入れてきた。

 

「.....恭一」

 

千冬は少し顔を近づけると、ゆっくり目を閉じる。

察した恭一と重なり合った。

今までは何れも千冬からの強引な口付けだったが、今回は少し違う。

 

(...良かった)

 

千冬は思う。

 

(いつも私から無理やりな形ばかりだったから、な)

 

恭一からしてくれた事で胸が温かくなる。

千冬はさらに思った。

 

(....このまま食べてしまっても良いのだろうか)

 

良い訳が無い。

触れるだけの優しいキスをしていただけなのに

 

(....なぜ殺気ッッ!?)

 

謎の危険を感じた恭一は咄嗟に飛び退いた。

 

「どうして逃げるんだ恭一ィ....」

「えぇ....」

 

恋する乙女は何処へ行ったのか。

.

.

.

「ふう....これで良し」

 

捕食者の胸に『金剛』をぶちかました恭一は、ソレをベッドまで運んでから部屋を出た。

 

(やっぱり女は分からん。もっと勉強した方が良いのか?)

 

恋愛指南書をもう一冊買うか。

そんな事を思いながら食堂へ向かう恭一だった。

 




『キャノボール・ファスト』って何?(真顔)
5話を観た時はそう思いました\(^ω^)/

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