野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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悦ぶエムちゃん、というお話



第81話 バレちゃった

「........」

 

治療を終え、意識を回復させた恭一がまず初めに思った事。

 

(...人口密度がやべぇ)

 

保健室には『たんれんぶ』の面子が勢揃いだった。

恭一は思う。

何やら面倒な事が起きそうな予感が。

こう云う時は、寝た振りを続けるに限る。

 

「見逃すと思っているのか渋川ァ.....」

 

しかしブリュンヒルデに見破られてしまった。

 

「千冬姉ぇ? どうしたんだよ」

 

まだ恭一が気を失っていると思っている面々は、千冬の言葉に疑問を浮かべる。

 

「....い、いやぁどうもどうも」

 

少しバツが悪そうに、意識を覚醒させた。

 

「「「「 恭一(君)(さん)ッッ!! 」」」」

 

沈んでいた皆の表情に笑顔が戻った。

 

「大丈夫か恭一!? 痛みは無いか恭一!?」

「いや近いなお前!」

 

誰よりも早く、箒すら押し退けてまで一番早くに恭一に駆け寄る一夏は、間違いなく友情に熱い男である。

 

「今は麻酔が効いているから何とも無いだろうが、切れたら地獄だぞ」

「脅さんで下さいよ」

 

千冬が意地悪な笑みを浮かべて言ってくる。

 

「全く....お前はイベント毎に保健室に運ばれてないか?」

 

 

其処まで心配はしていない、と呆れたような口振りで様子を伺う箒に

 

「あらあら。顔面蒼白だった貴女を私達で何度落ち着かせたか」

「本当よねぇ....さっきまであわあわ言ってたのって何処の誰だったかしら?」

 

セシリアと鈴がニヤリと笑う。

 

「そ、そんな昔の事は知らん!」

 

箒が腕をブンブン振って否定する姿は何処か微笑ましいモノがあった。

 

「と、とにかく! 恭一は、あまり皆を心配させるなと云う事だ!」

「すまない」

 

恭一の意識もだいぶ回復し、皆とそれぞれ一言二言会話を終えた処で、今日は解散する事になった。

箒と千冬以外が。

 

「....お二人共顔が怖いんですが」

「恭一ィ....」

 

先程までの可愛い箒は何処へ行ったのか。

阿修羅の形相で近寄ってくる。

 

「千冬さんから聞いたんたが、お前ワザと攻撃を受けたんだってナァ?」

「ひぇっ....」

 

恭一は助けを求めるべく視線を別の人に向けるが、其処には既に羅刹しか居なかった。

 

「説明して貰うぞ貴様ァ....私達がどれ程心配したか分かっているのか、ええオイ?」

「何と言いますかその.....テンションあがっちゃって」

 

てへり、と云う感じで白状した恭一だったが、この後滅茶苦茶怒られた。

.

.

.

「とりあえず、お前はベッドから出る事を許さん。数日はこの部屋で安静にしてろ」

「.....ぁぃ」

 

いつものように反論する気力すら、先程の説教で根刮ぎ奪われてしまった。

 

「文化祭の片付けは私達に任せて、お前はさっさと治せ」

「箒の言う通りだ。皆を心配させたお前の仕事は、一日でも早く回復する事だろう」

 

言いたい事を全て言い終わった2人は、ようやく落ち着いたようだ。

 

「さて....私達もそろそろ出るか」

「そうですね」

 

そう言った2人は、まるで椅子から立ち上がる気配を見せない。

出て行くんじゃないのか。

 

「お前から先に出ろ箒」

「千冬さんからどうぞ」

 

「「.......」」

 

2人の視線が交差する。

 

「私はこの椅子が気に入ってな、もう少し堪能してから出るよ」

「私はこの部屋の景観が気に入りまして。もう少し目に焼き付けてから出ます」

 

「「ぐぬぬ.....」」

 

なぜ仲良く2人で看病、と云う発想に至ってくれないのか。

火花を散らす2人を前に恭一は『安静』とは何たるかを考えていた。

 

 

________________

 

 

 

文化祭から数日後。

場所は変わって北アメリカ大陸北西部、第十六国防戦略拠点。

通称『イレイズド(地図に無い基地)』。

本来なら軍関係者であっても知られる事の無い場所に我が物顔で闊歩する1人の少女。

その足下には傷付き、気を失った屈強な米軍兵士達。

その中で唯一まだ意識を保っていた兵士が問いかける。

 

「き、貴様何者だ....米軍にこれだけの事をして、正気なのか!?」

「.......」

 

少女は応えない。

その変わりと言わんばかり、銃で足を打ち貫いた。

 

「ぎゃあああああッッ!!」

 

(スコールの情報ではこの基地に居る。これだけ動けばそろそろ出て来ても―――)

 

一際大きな通路に出た処で、何者かが立ち塞がっているのを視界に捉えた。

 

「....見つけたぞターゲット」

「あらあら、ナンパ文句にしては少し物騒ね....お嬢さん♪」

 

侵入者を前に既にIS『シルバリオ・ゴスペル』を纏っているナターシャは残念そうに嘆き言った。

 

「ふっ.....」

 

少し笑った侵入者もISを纏う。

 

「...そう。奪われたって聞いてたけど、やはり『亡国機業』の仕業だったのね」

 

『サイレント・ゼフィルス』を纏ったエムをナターシャは睨む。

 

「次は貴様の機体だ」

 

召喚させた『スターブレイカー』の剣先を向け、そう宣言した。

駄目押しに6基のビットも浮遊させる。

 

「怖いわねぇ....か弱い私だけじゃとても勝てそうに無いわ」

 

ナターシャは両手を上げて降参の意を示す。

流石のエムもこれには面食らったようで、怪訝な顔で彼女に付き合ってしまう。

 

「....どう云うつも―――ッッ!?」

「ッッ!!」

 

後方死角からの飛び蹴りを何とか上へ躱した処に

 

(若いわねぇ)

 

ズガガガガガガッッ!!

 

前もって其処へ避ける事を予測していたナターシャによる、36の砲口をもつウィングスラスター『シルバー・ベル』から射出されたエネルギー弾がエムを襲った。

 

「ぐうっ.....」

 

シールド・ビットが召喚されるも、全てを防ぐ事は出来ずに幾弾か喰らい衝撃で壁に向かって吹き飛ばされる。

 

「ちっ....」

 

壁に叩き付けられる直前に、エムは身体を回転させてスラスターを逆噴射させる事で回避に成功し、ナターシャの隣りに立つ人物を視界に入れた。

 

「....面白そうな事になってんじゃねぇか。私も混ぜてくれよなぁオイ」

 

ケラケラ笑うその姿は、アメリカ代表操縦者イーリス・コーリングだった。

既に彼女もIS『ファング・クエイク』を纏い、ナターシャ以上に殺る気満々である。

 

「貴様の存在も想定済みだ。その機体も頂く」

 

屈指の実力者2人を前にしてなお、エムは余裕の構えを崩さない。

自然と口角を釣り上げるエム。

普通なら馬鹿にしていると苛立つモノだが、この2人は年季が違う。

 

「ハッハッハ!! 侵入者殿は態度が太いのなんのってよぉ....」

 

首を一回し

 

「こっちは2人掛りだぜ?」

「ふふふ....卑怯とは言うまいね?」

 

「雑魚同士仲良く群れて来れば良い」

(コイツらの戦闘データからして私を上回っている事は無い)

 

それをスコールも分かっているからこそ、彼女に命じた。

エムの戦闘力なら2人を相手取る事も十分可能である、と。

 

 

しかし、結果は―――

 

「どううした嬢ちゃん!! そんな動きじゃ殴殺しちまうぜぇ!?」

「ッッ!!」

 

イーリスの拳は一度もエムに当たりはしていない。

だが避けた処、自分が迎撃に移ろうとした処で

 

ドジャンッ!!

 

「ぐうっ.....ッッ」

 

必ずナターシャからの狙撃が自分の機体を蝕んでくる。

 

「チマチマと鬱陶しいッッ!!」

 

ナターシャを攻撃しようものなら

 

「私にも構ってくれよぉ!!」

 

空かさずイーリスが攻撃してくる。

避けた処で再びナターシャからの砲撃。

 

「ぐっ....!!」

 

最悪の無限ループに陥っていた。

イーリスとナターシャ2人による高度な予測と誘導による戦法。

そして何よりエムが事前に調べた2人の戦闘データ以上の戦闘力。

 

(データ以上の動きを2人共がしてくる....何があったと云うのだ!!)

 

このままでは不味いと一度大きく距離を取った。

 

「大したモノね。やっぱり私だけじゃあ勝てないかも♪」

 

無表情が少し崩れたエムを前に思ってもいない事を言葉にするナターシャ。

 

「だが....あの男よりは強くねぇよなぁ」

 

イーリスもニヤリと笑った。

 

(....あの男、だと?)

 

今のこの時代に自分よりも強い男など居るはずが無い。

だが、イーリスの言葉にエムの本能が疼いた。

 

「雑魚同士仲良く群れて来れば良い、ねぇ....クックッ....少年を思い出さねぇかナタルよぉ」

「確かに似てるわね、あの夜の台詞と」

 

 

『俺以外の生物は、勝手に創意工夫してりゃ良い。弱者は弱者らしく肉体以外の武器に頼ってろ』

 

 

2人は嘗ての恭一の言葉を思い出す。

 

「だが、重みの差は歴然だなぁオイ」

「ふふっ....それは仕方ないわよ」

 

此処に居ない者の話で笑い合う2人が、妙に彼女の癪に障った。

明らかに2人は自分を馬鹿にしている。

 

(私を前にして、コイツらの余裕....気に入らないッッ!!)

 

『エム、聞こえるわね』

 

飛び出そうとした処で、スコールからの通信が入る。

 

『状況はモニターしているわ。下がりなさい。この2人の戦闘力は間違いなく以前のデータ以上よ。貴女が勝つには時間が足り無さ過ぎるわね』

 

巫山戯るな、私はまだ戦える!!

エムはそう言いたかったが、決して言葉には出さない。

 

「....了解」

 

それだけ言うと少しずつ後ろへ下がり、機を伺い始める。

 

「あっ...少年と云えば、千冬から珍しくプライベートメールが着てたわよ」

 

ピクッ

 

想定していない者の名前が耳に入り、エムの足が止まった。

ナターシャはワザと隙を見せるために何気ない会話を続ける。

 

「そりゃ確かに珍事だな。内容は?」

「何でも渋川君と恋人関係になったんだって」

「ぶううううううッッ!! ま、マジか!? 年下好きにも程があんだろあの女!!」

 

ナターシャの思惑を理解したイーリスも隙を見せる演技をしていたが、この時だけは素で驚いたらしい。

 

「.....ッッ!!」

 

『エム、命令を受け入れないのかしら?』

 

「....分かっている」

 

大量のシールド・ビットを放出したエムにイーリス達も警戒するが、彼女は瞬時加速で一気に後退を始める。

 

「ちっ....私の演技が良すぎたか!?」

 

同じくイーリスも瞬時加速でスタートを切ろうとしたが、目の前に残ったビットによる連続爆発に阻まれた。

 

「なっ.....ちィッ!!」

 

大きなタイムロスを食う事になった2人の前に、最早侵入者の姿は無かった。

 

「....これは始末書モノね」

「これも全部千冬のせいだな」

「そうね、千冬のせいね」

 

何故か千冬のせいにするアメリカが誇る操縦者の2人。

有利な状況から敵を取り逃がしてしまった彼女達は、この後の報告を考えると一気に憂鬱になった。

 

 

________________

 

 

 

「調子はどうかしらオータム?」

「スコール....ああ、悪くねぇぜ。私の身体に大分馴染んでるよ」

 

ベッドの上で腰掛けているオータムは自身の新たな機械の腕、新たな義眼をすんなりと受け入れた。

 

「これでスコールとお揃いだな!」

「ふふっ...そうね」

 

―――キィン

 

そんな2人の部屋にエムが断り無く入ってくる。

 

「テメェ何勝手に入って来てやがる!」

「帰還報告だ」

 

それだけ伝えると部屋から出ようとしたが、思い出したように振り返る。

 

「あの男はどうするんだスコール」

「....渋川恭一の事かしら?」

 

エムは小さく頷いた。

 

「ひっ.....」

 

渋川恭一、と聞いてオータムは身体を震わせる。

そんな彼女を優しく抱きしめて

 

「そうね、落とし前はつけさせないとねぇ....彼の事が気になるのかしら?」

「....別に」

 

今度こそエムは部屋から出て行った。

スコールはオータムを抱きしめたまま思い馳せていた。

恭一の映像を送ってきた者に対して。

 

(ウサギにアリス....十中八九、送り主は篠ノ之束)

 

一体何が目的で送ってきたのか。

私達に情報を送って何の得があるのか。

私達にとって敵なのか、味方なのか。

彼女は渋川恭一と繋がっているのか、敵なのか。

 

(私達の居場所を知っている。その気になれば何時でも潰せると云う意思表明?)

 

どれだけ考えてもしっくり来る答えが出ない。

しかし、ただ1つだけ言える事があった。

 

(掌の上で踊らされてるような感覚....気に入らないわね)

 

スコールは人知れず、気を一層引き締めた。

 

 

________________

 

 

 

部屋から出たエムは通路で1人、胸のロケットを握り締めて瞼を閉じる。

 

(ククッ....全く、良いご身分じゃないか姉さん)

 

少女は学園襲撃時の傷付いた男を思い出す。

 

(目の前で殺したら姉さんはどんな顔してくれるのかナァ....フフフ)

 

人知れず、少女の口元は邪悪に歪むのだった。

 





これで文化祭編は終わりかな。
次は....アニメの5話に進むか、原作の流れに沿うか。
どうすっかなぁ俺もなぁ(#゚Д゚)y-~~

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