野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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試合を選んでいたら、せめて喧嘩にしていたらというお話



第80話 鬼

「着きましたよ」

「此処は....随分歩いてきましたが」

 

運動場を抜け、僻地へと案内されたオータム。

落ち着いて話し合う場、と云うより身体を動かすには持って来いの広いエリアだった。

 

「どう云う事でしょうか? 確かに静かな場所ではありますが―――」

「此処なら思い切り暴れられるだろう?」

 

ピクッ

 

恭一と対面するオータムの眉が動いた。

 

「.....話が見えてこないのですが?」

「どれだけ猫を被ろうが、血のニオイってのは消えやしない。3秒で気付いたよ」

 

恭一の挑発的な物言いに頬までヒクつかせ

 

「そうかいそうかい! 正体を知っててわざわざ2人きりになったって訳かよ!」

 

(その余裕が気に入らねぇ。コイツは此処で殺すッッ!!)

 

ニコニコ笑っていた顔が一変、蛇を思わせる切れ長の目を邪悪な風に歪める。

 

「確認しておくぞ。アンタは俺と何がしたいんだ? ISでの試合か? それとも喧嘩か?」

「ヒャーッハハハハ!! 試合ィ? 喧嘩ァ?」

 

蛇のように長い舌を出して笑うオータムの背中から

 

バリバリッ

 

スーツを引き裂いて、8本の鋭利な『爪』が飛び出した。

それは蜘蛛の脚によく似ていて、先端は刃物の如く尖っている。

 

「私が殺す側でテメェが殺される側だッッ!!」

 

まだISを展開すらしていない恭一と一気に距離を詰め

 

「死ねクソガキッッ!!」

 

8本の脚が恭一の身体を貫いた。

刺し貫かれた恭一の鮮血が吹き出る様を嬉しそうに彼女は眺める。

 

「即ジ・エンドだ。大物振りやがった勘違い野郎が!! ヒャハハハハ!!」

 

 

________________

 

 

 

(....オータムとエムは順調かしら)

 

「スコール様宛です」

「....私に?」

 

『亡国機業』の隠れ窟の1つで連絡を待っているスコールに、部下からある小包物が届いた。

中を調べると

 

「USBメモリと....ウサギのカチューチャ?」

 

差出人の箇所には『不思議の国のアリス』となっている。

パソコンに接続してみると、中身はどうやら映像ファイルのようだ。

 

 

『こっからは喧嘩だ馬鹿野郎ッッ!!』

 

「これ....はっ.....」

 

映像の中では恭一が生身で黒い物体と交戦を始めていた。

 

「見覚えがある.....この機体」

 

そうだ。

自分が見に行ったタッグトーナメント戦だ。

 

スコールは自身の記憶を辿る。

 

ドイツのラウラ・ボーデヴィッヒが黒い何かに呑み込まれた処で、アリーナは情報遮断フィールドが出現し、途中までしか見る事が出来なかった。

 

「この映像は、その時の続き?」

 

スコールは止めていた映像をもう一度再生する。

 

「.......」

 

彼女は目を疑いたくなった。

一夏とシャルロットを相手にしていた時とは、まるで動きが違う。

スコールはやっと自分が今まで感じていた違和感に気付いた。

 

「タッグ戦の映像で、何処か窮屈そうに戦っていたのはそう云う訳なのね」

 

ISを纏っていない方が表情からして違う。

そして戦い方も。

 

「こっちが本当の渋川恭一。本来の戦闘スタイル......ッッ!?」

 

何かに気付いたスコールからどっと汗が吹き出た。

 

(オータムはこの事を知らない.....彼の生身の戦闘力を知らないッッ!!)

 

嫌な予感がする。

こう云った時の自分の感は当たってしまうのだ。

急いでオータムに通信を繋げようとするが

 

「くっ.....」

(あの子、切ってるわね)

 

直ぐさまエムに切り替える。

 

「エム! オータムの所へ向かいなさい、今すぐよッッ!!」

 

 

________________

 

 

 

「はあっ.....はあっ.....」

「ちっ....数的不利は否めんか」

「.......」

 

肩で大きく息をする一夏の左右にはラウラと簪の姿。

対峙するのは箒・シャルロット・セシリア・鈴の4人。

 

 

ビーッビーッ!!

 

 

校内放送を伝って警報器が流れる。

 

『高速で学園に接近する武器展開したISを発見。専用機持ちは直ちにISを纏い、状況に備えて下さい!』

 

「「「「 !? 」」」」

 

真耶の放送に、それぞれがISを展開させる。

 

『篠ノ之とデュノアは生徒の避難誘導! 更識姉妹は学園内の索敵! 凰とオルコットは上空から迎撃! 織斑とボーデヴィッヒは地上で周辺の警戒を怠るな! 以上、散開ッッ!!』

 

「「「「 了解ッッ!! 」」」」

 

千冬の指示により、其々が迅速に行動を開始する。

 

「織斑先生良かったんですか? 渋川君の事を伝えないで....」

「.....言っても動揺するだけだ。それにアイツ達では、援護に向かわせても今の渋川にとっては邪魔なだけだろう」

 

真耶の言葉に答えた千冬の拳からは、血が滴り落ちていた。

 

(恭一.....ッッ)

.

.

.

「....ッ...来たわね!」

 

上空で待ち構えていた鈴とセシリアがIS反応を補足。

レーザーライフルで照準を合わせていたセシリアが驚愕する。

 

「あれはっ!?」

 

ロングレンジ用ズームに映し出されたのは、彼女が見た事のある機体だった。

 

「まさか.....『サイレント・ゼフィルス』!?」

 

BT2号機『サイレント・ゼフィルス』。

シールド・ビットを試験的に搭載した機体であり、その基礎データには1号機であるセシリアの『ブルー・ティアーズ』が使われいる。

 

「何をしてるのセシリア! アンタも撃ってッッ!!」

「は、はいっ!」

 

鈴の纏う『甲龍』から新たに増幅されパッケージ、「赤い炎を纏った弾丸」を放つ拡散衝撃砲『崩山』が。

セシリアの纏う『ブルー・ティアーズ』からはレーザーライフルである『スターライトmkⅢ』がそれぞれ発射された。

 

「......」

 

バシュンッ

 

2人の砲撃はのシールド・ビットにより防がれてしまう。

 

「それならッッ!! ブルー・ティアーズ!」

 

レーザーからミサイルに切り替え、目標に向かって放つが

 

「......」

 

『サイレント・ゼフィルス』からのビームがミサイルの手前で弧を描いて曲がり、ミサイルを上空から撃ち落とした。

 

「そんなっ....」

(今のは偏光制御射撃!? 私以上のBT適正を持っていると云うのですか?!)

 

信じがたい光景を前に、セシリアは棒立ちになってしまう。

しかし襲撃者は彼女の心情など待ってくれない。

6基のビットを放出し、セシリア目掛けてレーザーが放たれる。

 

「....はっ?! きゃあああああッッ!?」

「セシリアっ!? くっ....このぉ!!」

 

鈴が『双天牙月』を召喚し、近接戦に持ち込む。

 

「でやああああッッ!!」

「........」

 

迫ってくる鈴に対し銃剣であっさり受け流し、直ぐ様斬りつける。

 

「ぐっ....何モンなのよあんた!?」

「........」

 

襲撃者は何も語らない。

 

 

「俺も援護にッッ!!」

「待て織斑一夏! あの動きを見ただろう、敵は近接でも強い!!」

 

飛んで行こうとする一夏の腕を掴み止めるラウラ。

 

「だからってこのまま黙って見てろって言うのかよ!?」

「いや、鈴の攻撃を捌く時に隙が出来るはずだ。タイミングはシビアだがそれは私が教えてやる。お前は『零落白夜』を発動させろ」

「.....おう!」

 

一夏達の上空では鈴と敵ISの刃が幾度も交差する。

 

(目をこじ開けろ。見逃すな....鈴も私達の動きに気付いて防御させるように攻撃している)

 

ラウラは全神経を集中させ上空の2人の動きを凝視し続ける。

攻め入るタイミングは―――

 

「.......今だッッ!!」

「ッッ!!」

 

『白式』を瞬時加速させ、一気に襲撃者へと迫り『零落白夜』を顕現した雪片弐型を振り抜く。

此処しか無いと言って良い程のタイミングだった。

 

「.......」

 

スッ

 

「「「 なっ!? 」」」

 

まるで分かっていたかのような、最小限の動きで避けられてしまった。

 

「『零落白夜』.....が、当たらなければどうと云う事は無い」

 

一夏が距離を取るよりも前に召喚された小型レーザー・ガトリングにより、近距離で砲撃を何発も浴びせられ

 

「ぐっ...ああああああッッ!!」

 

吹き飛ばされる。

 

「一夏!? はっ.....!?」

「遅い」

 

ドガンッ

 

「くうっ?!」

 

少し目を切った瞬間に間合いを詰められ、鈴も同じ方向へと蹴り飛ばされた。

『サイレント・ゼフィルス』は残るラウラを上空から見下ろす。

 

「ワザと作った隙にまんまと引っかかるとはな」

「なんだと?」

 

エムは気付いていた。

上でセシリアと鈴と対峙している時から。

地上にいる2人が自分に対して何もしてこない筈が無いと。

一夏とラウラに想定外の動きをされる前に、想定内の動きをさせる作戦を彼女は戦いの中で、瞬時に編み出したのだ。

 

ラウラの前にゆっくり降りてくる。

 

「間抜けな作戦を立てたモノだな、ドイツのアドヴァンスド(遺伝子強化素体)」

 

ラウラの前に立つ者の顔は覆われていて、口元しか見えない。

しかし、歪み笑っているのだけは分かった。

 

「貴様.....何故それを知っている」

「此処で倒れる貴様に言う必要は無い」

 

銃剣『スター・ブレイカー』を構えたエムにスコールからの通信が入る。

 

『エム! オータムの所へ向かいなさい、今すぐよッッ!!』

 

「....? 了解した」

 

いつものクールな彼女の声とは違い、切羽詰った様子にエムも何かを察知する。

 

「逃すと思うのか?」

 

エムの前にはラウラ。

後方にはダメージから立ち直ってきたセシリア。

さらに上空からは同じく態勢を立て直した鈴と一夏が構える。

 

「......」

(この回復の早さは想定以上だな)

 

まさに四面楚歌状態なのだが、彼女に焦りは見えない。

エムはラウラと対峙中から左手に隠し持っていたモノのピンを抜き、前方へ軽く投げた。

 

(スタン・グレネード!?)

 

ゆっくりと放物線を描いたソレの正体にラウラだけが一早く気付いた。

が、時すでに遅し。

 

「ッッ!!」

 

注意を促す前に、強烈な閃光と耳を劈く爆発が一夏達を襲った。

 

 

________________

 

 

 

「ヒャーッハッハッハッ!! 偉そうな口叩いておいてザマァ無いなクソガキィ」

 

8本の装甲脚で貫かれた恭一をニタニタを笑い見る。

目の前の男の四肢には最早力は入って無く、ダラリとさせたまま動かない。

垂れ下がった頭からは顔が見えず、口から血が垂れ落ち続けている。

 

「ちっ....ンだよ、死んじまったのか。ジワジワいたぶってやるつもりだったのによぉ」

 

面白くねぇ、と言わんばかり地面に唾を吐き

 

「ゴミカスの死に顔でも拝んでから退散すっかァ」

 

恭一の間合いに入った。

無警戒に。

背中のみの部分展開のまま。

 

ブチィッ

 

「.....あ゛?」

 

オータムは一瞬何が起こったのか分からない。

目の前の、貫かれたままの男の両腕に見覚えある腕。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!」

 

熱いアツイ熱いアツイ!!

イタイ痛いイタイ痛い!!

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!」

 

オータムの両肩から先が無くなっていた。

彼女の両腕は、死を擬態していた恭一によって文字通り引き千切られた。

 

「殺し合いなんだろうが。腕もがれたくれぇで騒いでンじゃねぇぞ」

 

オータムは選択肢を誤った。

 

仮に試合と言っていたなら此処まではしない。

仮に喧嘩と言っていたなら此処まではしない。

 

オータムは選択肢を誤った。

 

渋川恭一と云う男に『命のやりとり』を選ばせてしまった。

 

のたうち回るオータムを前に恭一は鼻から大きく息を吸い、腹筋に力を入れる。

 

「こっ....殺してやる」

 

キッと恭一を睨み、IS『アラクネ』を

 

「ぎゃあっ!? あっ....あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!」

 

どんなに熟練したIS操縦者でも展開まで0コンマ秒の世界だが、ラグが生じる。

その隙を殺し合いの場で待つ程、恭一は紳士では無い。

予め口に含み溜めていた血をウォーターカッターの如く、オータムの眼球に直撃させる。

 

「あ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ.....」

 

眼を押さえたくても両腕が無い。

彼女は痛みに叫ぶしか無かった。

 

「ぐうっ.....」

 

オータムは片眼で恭一の身体を見る。

 

(どうして動ける!? 刃で8箇所も貫いた! 今も血がドクドク流れてるじゃねぇか、致命傷だろうがッッ!!)

 

無意識に足が後ろへ下がる。

 

「命のやりとり....どっちかが死ぬまで愉しもうぜ、ナァ?」

 

ジリジリとオータムに躙り寄る。

口から血を垂れ流し嗤う男の顔は、まるで鬼の様だった。

 

「ばっ....バケモンが」

 

彼女は口走ってしまった。

恭一の忌み嫌う言葉を。

 

「バケモノ....? 俺が?」

 

さっきまでとは違い、精気を失った顔でフラフラとオータムの前まで

 

「死ねやバケモンッッ!!」

 

残しておいた背中の装甲脚で後ろから恭一の心臓を串刺し―――

 

「ごふっ.....ククッ.....この俺をバケモノと呼ぶのか?」

 

オータムが気力を振り絞って恭一の心臓めがけて刺した刃は、僅かに逸れていた。

 

(わけ....わかんねぇ......何で......)

 

思えば最初から不可解な事が起きていた。

8本の脚で貫いた時、何故コイツは生きていた?

何故、心臓を狙ったのに逸れている?

 

 

『野生』の中で育った恭一の強みは、力よりも命の見切りにあった。

急所を貫かれる刹那、僅かに身体を捩る事で致命傷を逃れる術を『野生』から学んだ人間。

森に潜む飢えた獣のようなしぶとさは、まさに『本能』そのもの。

 

「バケモノってのはナァ......」

 

恭一は歯を剥き出し

 

「がああああッッ!!」

 

オータムの鎖骨上にかぶりついた。

 

ベリッ

 

「いぎィッッ!?」

 

そして彼女の柔らかい肩肉を噛み千切ると、クチャクチャと音を鳴らし口の中で味わう。

 

「不味いな。人間の肉は食えたモンじゃねぇ」

 

嗤いながら自分の肩の肉を食べる目の前の男。

オータムを繋いでいた精神は此処で切れた。

恐怖と云う魔に完全に押し潰された瞬間だった。

 

「わ、私がわるっ...悪かっ......おごぉっ!?」

 

言い終わる前に恭一の手が無理やり口に入ってきた。

 

「聞こえねぇよ。このまま内蔵引き擦り出してや....っ!?」

 

オータムと恭一の間にレーザーが飛び込んできた。

 

「ちっ.....ッッ!!」

 

後ろへ回避する事に成功したが、既に気を失ったオータムを抱える少女の姿。

 

「.....ンだテメェ? 人の獲物、なに横取りしてやがる」

「顔も真っ青、足もフラフラ。そんな状態でよく強がれるモノだ」

「ハッ....絶好調すぎて困まってた処だ。テメェで発散させろよ」

 

ボロボロになりながらも恭一は不敵な笑みを崩さない。

エムは回収したオータムを一瞥してから恭一を注視する。

 

(オータムを此処までボロボロにする男)

 

それよりも気になるのはあの眼だ。

この不利な状況でも見透かしたような、何かを持っていそうな眼。

 

(....この男は危険だ)

 

エムの本能がそう訴える。

 

(今、此処で―――)

 

「恭一さんッッ!?」

「大丈夫か恭一ッッ!!」

 

「ちっ....潮時か」

 

セシリア達の姿を確認したエムはオータムを掴んだまま、離脱していく。

 

「足止めしろ....ビット」

 

「「「 ッッ!? 」」」

 

追いかけようとした一夏達の上空から、ビットによる無数のレーザー放たれた。

 

「ぐっ...クソ、待ちやがれッッ!!」

 

弾幕が止んだ時はもう襲撃者の姿はすっかりと消え去っていた。

一夏の悔しそうな叫び声が聞こえる。

 

(......引いてくれたか)

 

何とかハッタリでやり過ごした恭一は張り詰めていた糸が切れ、前に倒れ込む。

薄れる意識の中、自分の元へ駆けて来る足音が妙に嬉しかった。

 

 





前世では人間食い損ねたからね。
食べれて良かったじゃん、しぶちー!(混乱)

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