野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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一夏君がんばる!というお話



第78話 ご奉仕喫茶

「.......ふぅ」

 

明かりに照らされた薄い金色の髪をそっと上げる美しい容貌の女性が手を伸ばす。

 

ギュルルル

 

何かの映像をもう一度巻き戻しているようだ。

 

バタン

 

「来たぜスコール....ちっ、またそれ観てんのかよ」

 

スコールと呼ばれた女性が佇む部屋に2人の女性が入ってくる。

 

「来たわねオータム、エム」

 

オータムと呼ばれた女性は長い髪を不機嫌そうにガシガシ掻き上げていた。

エムと呼ばれた黒髪の少女は無表情のままだ。

 

「次の任務の最終確認よ」

 

グラスにワインを注ぐスコールの様に、つい見蕩れてしまうオータムは1つ咳払い。

 

「『渋川恭一』に接触、合格なら拉致る、だろ」

「ええ、その通りよ」

 

和やかに頷くスコールとは違い、オータムは不服そうな顔を隠そうとしない。

 

「ちっ....専用機相手に凡庸機で圧倒ツっても唯のガキ同士じゃねぇか。買い被り過ぎだと私は思うけどな」

 

映像の中で戦っている恭一を忌々しそうに睨む。

 

「あら....ジェラシーかしら?」

「なっ...そ、そんなんじゃねぇよ!!」

 

クスクス笑うスコールに反論しても顔を赤くさせている事が全てを物語っていた。

 

「雑魚なら殺しても良いんだよな?」

「ええ、『亡国機業』にナマクラは要らないわ。けれど舐めてかかったら貴女ですら痛い目見る事になるかもしれないわよ?」

 

何処か確信めいたスコールに余計に苛立ちが募る。

 

(気に入らねぇ....ぜってぇブッ殺してやる)

 

オータムとスコールは同性ながら恋人である。

その恋人が最近とある男性起動者にちょっぴりご執心だった。

オータムからすれば面白く無い事この上無い。

 

「『白式』は奪わなくて良いのかよ?」

「...『零落白夜』は織斑の血筋が関係してそうなのよねぇ。私達が乗ってもブレード一本の欠陥品になる恐れを考慮すると、今は無理に奪う必要性を感じられないわ」

 

言い終わるとスコールは虚空を見つめるエムに視線を送ってみた。

 

「ふん....私も要らない。あの女と同じ単一仕様能力など考えただけでも虫唾が走る」

「貴女ならそう言うわよねぇ...それでエム。貴女の任務は何かしら?」

「陽動に撹乱」

 

短く答えたエムは無表情では無く、顔を少し歪ませていた。

彼女の心情を察したスコールは先手を打つ。

 

「織斑千冬はまだ駄目よ。私に勝てない今の貴女じゃ彼女にも―――」

「分かっているッッ!!」

 

それはまるで叫喚だった。

 

「てめぇスコールに向かって何だその態度はよぉ!!」

 

カチンときたオータムが噛み付くが

 

「いいのよオータム。エムも分かっているのなら下がって良いわ」

「ふん」

 

バタン

 

スコールの言葉に一瞥する事無く、エムは部屋から出て行った。

 

「ちっ....あのクソガキもイケ好かねぇ」

 

悪態を突くオータムを強引に引き寄せ、耳元で囁く。

 

「貴女は泊まっていくのでしょう?」

「あっ....ああ!」

 

2人の夜は始まったばかりだった。

 

 

________________

 

 

 

いよいよやってきた文化祭当日。

ISを扱う学園とは云え、女子率99%以上の学校である。

生徒達のテンションの弾けっぷりは凄まじいモノがあり、熱気が溢れていた。

 

「1組であの織斑君の接客が受けられるとか、これマジ?」

「マジに決まってんでしょ!! しかも執事の燕尾服だってさ!」

「さらに千冬様のメイド服が見られるらしいわよ!?」

「そんなの行くっきゃ無いじゃない!」

 

そんなこんなで1組の『ご奉仕喫茶』はとてつもない盛況さを見せていた。

 

「こちらへどうぞ、お嬢様」

 

扉の入口では執事役の一夏が長蛇で並ぶ最前列を歓迎している。

教室ではメイド服を着た接客班がそれぞれのテーブルにて応対していた。

ちなみに今は、箒・セシリア・シャルにラウラと云った面子が接客中である。

 

(((( 忙しすぎる ))))

 

表情に出さずとも皆が思っている中で1人だけ、とりわけ光り輝く笑顔で接客する女性あり。

 

「いらっしゃいませ♪ こちらへどうぞ、お嬢様」

 

意外にもそれはメイド服を着た箒だった。

.

.

.

「はぁ.....こんなモノを着て何が良いのか。私には分からん世界だ」

 

開店前にメイド服に着替え終わった箒はイマイチ気分が乗っていなかった。

それもそのはず。

恭一は雑務全般の裏方であるため、接客中は接点が無いのだ。

 

「箒さん、溜息などつかれては陰気が皆に移りますわよ?」

「あ、ああ。すまないセシリア」

 

ガラッ

 

「材料全部運び終えたぞ~、ん?」

「あっ.....恭一」

 

恭一と箒の目が合う。

 

「それがメイド服ってヤツか?」

「う、うむ...」

 

急に恥ずかしくなりモジモジしだす箒に対し

 

「夏祭りの時も思ったけどよ」

「えっ」

「お前は本当に何を着ても絵になるな!」

 

うんうん、と頷きながら話す恭一に

 

「ほ、本当か!?」

 

先程までの沈んだテンションは何だったのか。

パァッと笑顔になる。

そんな2人の空間に果敢に挑戦する猛者あり。

 

「ごほんっ....私はどうですか恭一さん!」

「ん? 似合ってるんじゃないか?」

「温度差ァ!! 扱いに差が出てましてよ!?」

 

プンスカ怒るセシリアの頭を撫でる箒はエビス顔だった。

 

「きもちわるっ!? その顔で撫でるのはおやめ下さいな箒さん!!」

「そうカリカリするな。say helloでいこうセシリア」

「きぃぃぃぃ!! 私は負けませんからね!」

.

.

.

「小麦粉切れたーっ!?」

「こっちももう無いよーっ!!」

 

接客班以上に調理班は鉄火場だった。

捌いても捌いても一向に減らない来客に対して、とにかく作って作って作りまくる。

当然、食材の減りも早い。

 

「渋川君お願いッッ!!」

「力仕事は任せろー」

 

両肩に複数のダンボールをバランス良く乗せ、テキパキ運び終える。

 

「いやー、渋川君が居てくれて助かるよー!」

 

一仕事終えた恭一にクラスの女子が労いの言葉。

 

「君は....誰だっけ?」

「ひどっ!? 岸原理子だよ! 話した事.....あ、無かったっけ?」

 

恭一に話し掛けてきたのは、頭に赤色のカチューシャを着けた眼鏡っ子である。

 

「まぁいいや。倉庫にある分も今の内に持ってきて貰っても良いかな?」

「任せろー」

 

裏方メインではあるが、意外と恭一も楽しそうである。

倉庫に着いた恭一は指定された材料を探す。

 

「おい」

「んー....ッッ!?」

 

聞き親しんだ声に振り返ると

顔を真っ赤にさせ、チラチラこちらを伺うメイド姿の千冬が。

 

「この姿で皆の前に出ると思うとな....気分が下がる前にお前に会いたくてな」

 

ギャップ萌えにも程があった。

 

「おい、ポカンとするな」

「す、すいません」

 

「「.......」」

 

変な間が空いてしまった。

 

「やはり私はこういうのは似合わんか」

 

分かっていた、と言わんばかり寂しげに笑ってみせる。

 

「.....ゎいいです」

「....なに?」

「か、可愛いと思いますですはい」

 

言われた千冬は恭一の顔をジッと見つめる。

 

(恭一の奴....少し赤くなっている)

 

お世辞で無い事を感じた千冬は、0.2秒で周りに誰も居ない事を確認するや

 

「へっ....?」

 

グイッ

 

恭一の襟元を掴み、自分の方へ引っ張り寄せ

 

「んっ......」

 

千冬からの実に漢らしい(?)口付け。

 

「ふうっ....これで小娘共の前に行っても戦える」

「ぽふぇー」

 

全くの想定外だった恭一は完全にエクトプラズム状態。

 

(やれやれ....文化祭と云う空気に私も当てられたか)

 

少し頬を染めつつも、幸福感に満たされた千冬は気合を入れる。

 

「それでは行ってく―――」

「私も嫁とキスがしたいぞーーーーーへぶぅ?!」

 

何処からとも無く現れたラウラに当身を喰らわし、脇にソレを担いだ千冬。

 

「ではまた後でな恭一」

 

恭一が正気に戻ったのはそれから5分後の事だった。

 

 

________________

 

 

 

「渋川君もそろそろ休憩入って良いよ、お疲れ様!」

「あいよー」

 

理子に言われたまま、休憩に入った恭一だが。

 

(うーむむむ。休憩つっても何すりゃ良い?)

 

「おう恭一、行く所決まって無いなら入って行くか?」

 

悩んでいた恭一の前には何時の間にか執事役の一夏。

中を見ると、箒や千冬の姿もあった。

 

「....まぁ良いか」

 

当ても無く彷徨うよりかは、と云う事で自分のクラスの出し物『ご奉仕喫茶』へいざ入店。

 

「それではお坊ちゃま、こちらへどうぞ」

「喧嘩売ってンのかテメェ」

 

恭しく下げられた一夏の頭を気が付いたら掴み絞めていた。

 

「あだだだだッッ....こう言えって言われてるんだよ!!」

「そ、そうなのか。すまんかったな織斑」

 

空いているテーブルに案内される、一夏に。

 

「ご注文は何になさいますか? お坊ちゃま」

「えーっと、なになに....」

 

メニューは客である恭一の手には無い。

執事である一夏が手に持って恭一にお見せしている。

 

そんな一夏に妬ましい視線を送るメイドがちらほら。

 

(男が男を案内する訳ないだろう一夏め、どういうつもりだッッ!!)

(そうか....貴様は姉に対してそう云う仕打ちをするのか)

 

何やら笑顔が怖い箒と千冬。

 

(ぷふふっ....今の恭一達ってばシュールすぎるでしょ)

(箒さんの悔しそうな顔が見れて少し気が晴れましたわね)

(嫁のメイド服は良いなぁ)

 

上からシャルロット、セシリア、ラウラの心の声である。

 

「イメージがまるで沸かん。何だよ『湖畔に響くナイチンゲールのさえずりセット』って」

 

一夏の手に持つメニューに書かれた名前を凝視する。

 

「それになさいますか?」

「いや中身を教えてくれよ」

「それは来てのお楽しみとなっております故」

「えぇ....」

 

何やら納得がいかない恭一に一夏が提案する。

 

「それなら当店オススメのケーキセットは如何ですか?」

「あー、分かり易いしな。これにしよっかな....ん?」

 

恭一の目に妙な文面が入り込んで来た。

 

「『執事にご褒美セット』って何だよ?」

「こちら14万3千円になっております」

「14万!? うせやろ....?」

 

巷でブイブイ云わせている狂者も訛ってしまう程の金額提示である。

 

「いえ、本当です」

 

キリッとした顔で応える一夏。

当然、嘘である。

お値段はお得感アリアリの300円。

しかし、一夏はこれを恭一に頼ませる訳にはいかなかった。

 

『執事にご褒美セット』とはお客が執事に対してポッキーをアーンすると云う、男同士でやっても誰も得しないメニューなのだ。

 

2人の会話に対し、周りの客もメイド達も盗み見するだけで何も言ってこない。

 

(す、少し見てみたい気もしますわ....)

(むふふ....恭一を揶揄えるチャンス逃す手は無いよね!)

 

悪い笑顔のシャルロットは何とか頼ませないよう画策中の一夏の邪魔を

 

ザッ

ザッ

 

「「 殺すぞ 」」

 

阿修羅と羅刹によるゾーンディフェンスが彼女の前に立ち塞がった。

 

「も、持ち場を離れたらいけないよね! うん!!」

 

全力で後退するしかなかった貴公子である。

 

「お坊ちゃま、こちらの『メイドにご褒美セット』は如何でしょうか?」

 

「「 ッッ!? 」」

 

一夏からの最高のアシストが今、出された。

 

(分かっているじゃないか一夏! それでこそ私の幼馴染だッッ!!)

(ふっ....私は世界で最高の弟を持ったよ)

 

熱い手のひら返し、此処に極まれり。

 

「それも14万なんだろ、普通にケーキセットくれ」

「『ケーキセット』ですね。それでは、少々お待ちください」

「おう! 早く頼むぜ!」

 

一夏は恭一に腰を丁寧に折ったお辞儀をしてから、立ち去った。

 

((一夏ァ.......))

 

「ヒッ....」

「あん? どうした織斑?」

「何か今、背筋が凍ったような気が....」

「冷房にやられたんじゃねぇの?」

 

原因は手に持つトレイをメキメキ言わせて一夏の後ろ姿を睨む、モーター式手首装備中の箒と千冬だった。

 

 

________________

 

 

 

「そろそろ1人、メイドさん交代しますよー!」

 

恭一がケーキを食べ終わった頃、静寐が手を叩く。

つまり交代した者は休憩に入ると云う事になる。

 

「なら私が―――」

「織斑先生はメインの1人なので却下です」

「うぐっ....」

 

今回の『ご奉仕喫茶』メイド長を務める静寐は強かった。

 

「私も教官と共に頑張るぞ!」

「僕もまだ良いかな」

 

ラウラとシャルロットも首を横に振る。

そんな中

 

「行ってきなさいな箒さん」

「セシリア?」

 

背中をポン、と叩かれ箒は前に少しつんのめった。

 

「恋人との文化祭デートを邪魔する程、無粋では無くってよ? 私の気が変わらない内に、楽しんできなさいな」

「セシリア.....ありがとう!」

 

箒は会計を済ませた恭一の下へ駆ける。

 

「恭一! 私も休憩を貰えたぞ!」

「おっ、それじゃあ一緒に回ろうぜ」

「うんッッ!!」

 

さて、何処から見ていこうか。

 





アニメの鈴と一夏みたいにイチャコラさせるつもりが。
気付いたらこんなんなってました\(^^)/

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