野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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2学期始まったぜ、というお話




第77話 仲間外れ

「うおおおおおおッッ!!」

「甘いッッ!!」

 

ギィンッ!!

 

ISを纏った一夏と鈴がそれぞれの武器で鍔迫り合う。

 

9月に入り、2学期も始まった。

夏休みに結成された『たんれんぶ』も本格的に始動する。

と言っても内容は鍛錬に鍛錬を積むだけなのだが。

今は放課後。

アリーナにて各々が模擬戦を行っていた。

 

「アンタ舐めてんのっ!? どうして『零落白夜』を発動させないのよッッ!!」

「へっ.....試行錯誤中だッッ!!」

 

一夏はこの模擬戦にてまだ一度も『零落白夜』を発動させていない。

物理刀である『雪片弐型』のみで戦っている。

一夏が纏う『白式』はどちらかと言えば、短期決戦型である。

単一仕様能力『零落白夜』で相手のシールドエネルギーを一気に消滅させてしまうのが、本来の戦い方と言える。

が、如何せん燃費の悪さに一夏は苦渋を飲まされていた。

最初は押せ押せムードでも、其処で一気呵成に相手を仕留め切る実力がまだ無い一夏は毎回シールドを使い過ぎて、逆転負けを喫していた。

 

そんなある日の事である。

.

.

.

「くっそぅ....やっぱ燃費悪いよなぁ」

 

自分が勝てない理由など分かっている。

単に実力が足りないからだ。

『零落白夜』を発動中に仕留められる実力が無いから負ける。

恭一達と共に鍛錬を始めたとは言え、簡単に実力がメキメキ上がるようならこの世は天才だらけだ。

 

「皆よりも俺は弱い....どうすれば....くそッッ!!」

 

ダンッッ!!

 

思わずロッカーを殴ってしまう。

一夏は焦っていた。

『渋川道場』に通い始めてから、皆の実力の高さを体感すると共に自分のレベルの低さを痛感する日々。

模擬戦にて自分が前半戦を有利に運べているのは実力では無く『零落白夜』の能力にある事も薄々気付いていた。

その事が余計に自分を追い詰める。

 

ダンッッ!!

 

もう一度ロッカーを殴る。

 

―――ゆらり

 

するとロッカーの影から男が現れた。

 

「きょ、恭一? 居たのか....」

 

自分の弱音を聞かれてしまった。

居心地悪そうにする一夏に近づき、襟元を掴まれる。

 

「なっ....何すんだ...? 何で泣いてんだ?」

「返せよ」

「へっ?」

「俺のコーラを返せよおおおおおおッッ!!!」

 

一夏の反対側にいた恭一は着替えるためにロッカーの上にコーラが入った紙コップを置いていた。

結果は見ての通りである。

 

ガゴンッ

 

「ほらよ」

「おう」

 

一夏から受け取ったコーラをキューッと飲み上げる。

 

「プハーッ...ンまいなぁ、実に美味い!」

 

上機嫌な恭一と違って一夏の表情は暗い。

 

「なぁ恭一....俺の『白式』ってさ....」

 

燃費が悪いんだ。

そんな事を恭一に言って何になる?

 

「辛気くせぇ顔しやがって....お前明日にでも死ぬンかよ?」

「は? な、何だよいきなり」

 

唐突に言われた一夏は意図が掴めない。

 

「時間は有限だが、無じゃねぇんだぜ? 思った事を試す時間すらお前には無いのか?」

「試す時間....」

 

(今の俺は『零落白夜』に拘り過ぎてるのかな)

 

一夏は顔を上げる。

 

「そうだな、何でも試してみるよ。アドバイスありがとな恭一」

「俺は部長だからな!」

 

胸を張る恭一。

 

箒曰く、部長とは部員が悩んでいる時はアドバイスを送るのも役割の1つらしい。

.

.

.

「くおおおおおおッッ!!」

「甘いっつってんのよッッ!!」

 

切り返しの中で体勢を崩した一夏を彼女が見逃すはずも無く

 

「これで.....トドメッッ!!」

 

ドンッッ!! ドンッッ!!

 

『龍咆』を喰らい続け、鈴が勝利した。

 

(これで良いんだ。『零落白夜』中に仕留めようとする事を考えるな。まずは動きを身に付けるんだ。それが俺の実力向上にもきっと繋がるッッ!!)

 

倒れた一夏は密かに拳を握り締めた。

 

 

________________

 

 

 

「調子悪いのかなセシリア」

「さて....」

 

シャルロットと恭一が見守る中、別の場所ではセシリアと箒が模擬戦を行っているのだが。

 

「くっ...ああもうッッ!!」

 

アメリカ代表のナターシャですら正確無比と評した射撃は其処には無く、所々にズレを感じさせている。

 

ブルー・ティアーズから放たれるレーザーを横にでは無く、前方斜めに避けながら猛接近する箒。

 

「恭一の存在で感覚が麻痺してるけどさ、箒も大概凄いよね。鈴も言ってるよ、『龍砲』を当てられる気がしないって」

 

恭一と同じく訓練機である『打鉄』を纏う箒だが、専用機組を入れても決して劣らない程の実力を誇っていた。

 

「そりゃそうだ。お前達が『渋川道場』に来るまでアイツは長い間、俺と千冬さんと会長の3人同時の攻撃を凌がせてたからな」

 

いつも涙目で始まり、終わる頃にはボロボロ姿の箒を懐かしむ恭一。

 

「それってもう地獄ってレベルじゃないよね」

 

シャルロットはそう表現するしか無かった。

 

「ハァッ!!」

「くぅっ」

 

斜めからの袈裟懸けを喰らい後ろへ少し下がったセシリア。

箒にとって其処は絶妙の間合い。

 

「....剣技」

 

ザンッッ!! ザンザンッッ!!

 

斜め、横、下からの連続斬撃から

 

「....八刀一閃ッッ!!」

 

飛び上がり、近接用ブレード『葵』を一気に振り下ろす。

 

「あぐっ.....ッッ」

 

セシリアのシールドが切れ、箒の勝利が決まった。

 

「多分、セシリアはナターシャさんに言われた事を実践してるんだと思う」

 

臨海学校でのセシリアとナターシャの模擬戦後の会話を恭一にも説明する。

 

「なるほど。確かに言われてみればさっきのセシリアの攻撃は『予測射撃』を行った結果とも考えられるな」

 

箒が動く方向とはまるで別方向を撃ってしまう事が多々見られたが。

そんな話をしていると、落ち込んだセシリアが箒と共に帰ってきた。

 

「『予測射撃』の練習か?」

「恭一さん....ええ、そうですわ」

 

上手くいかない自分が歯痒いのか、セシリアは下唇を噛み締める。

 

「ちなみに予測って何だと思うね?」

「それは....何て言いますかこう、相手の動きを事前に察知して....」

「それじゃあ、お前の言う『察知』は見当外ればっかりだったんだな」

 

恭一の歯に衣着せぬ言葉にさすがのセシリアもムッとなる。

 

「良いかセシリア。無根拠で当たっても人はそれを『偶然』『たまたま』と呼ぶ。『予測』ってのは『根拠』が必然なんだよ」

「根拠....ですか」

 

むむむ、と唸りだすセシリア。

 

「言葉で説明するのもアレだな。デュノアと....ラウラ、ちょっとこっち来てくれ」

 

何やら恭一は2人に話をしているようだ。

 

「いいか? こう.....其処でこんな感じに......」

「うん。分かったよ恭一」

「なるほど、こういうやり方もあるのか。為に成るぞ恭一殿!」

 

恭一から説明を受け終わったシャルロットとラウラはISを纏うとそれぞれ飛び立っていく。

 

「セシリア、俺が避ける場所を見ておけ」

「は、はい」

 

『打鉄』を纏い、中央へ行く恭一。

 

「よし、さっき話した通りの動きで頼む2人共」

 

恭一の言葉にラウラが『プラズマ手刀』を召喚して近接戦を挑み始める。

 

「恭一さんは私に一体何を....」

「見ていれば分かるさ」

 

自信無さ気なセシリアの隣りに立つ箒。

 

「アイツは普段はアホだが、戦闘に関しては世界一だ。意味の無い事など教えんよ」

「箒さん.....そう、ですわね」

 

セシリアも集中して見る。

 

「ハッ!!」

 

『プラズマ手刀』で恭一の足に向かって切り払う。

後方へ下がった処にワイヤーブレードで更に足への追撃。

これ以上後ろへ下がるスペースの無い恭一はジャンプで避ける事を余儀なくされ

 

ドォンッッ!!

 

其処へ待ってましたと、シャルロットによるアサルトカノン『ガルム』が恭一へ直撃した。

 

「なっ....今、恭一さんが動くよりも前にシャルロットが撃ったように見えましたわ....」

 

セシリアの言葉が恭一の耳に入った事でISを解除する。

 

「ふうっ....良いタイミングだったなデュノア」

「いや結構ギリギリだったよ」

 

ISを解除した3人はセシリアの元へ戻ってくる。

 

「今の攻防の流れが分かったか?」

「あう....その.....」

 

一度見ただけで分かれば苦労しない。

一つ一つ説明を始める恭一。

 

「ラウラの足への切り払いは俺を後ろへ下がらすため。次のワイヤーブレードでの足への追撃は、足を狙ったモノでは無く」

「恭一をジャンプさせるためだったんだよ」

 

シャルロットが続く。

 

「もう後ろへ下がるスペースが無かったからね。横へ避けるとワイヤーがどっちかの足に絡まってしまう危険がある。なら上しか無い。この『根拠』があったから僕は恭一が動くよりも一瞬早く撃てたんだよ」

 

説明を終えたシャルロットは満足気だ。

 

「何でお前が美味しい処を説明すンだよッッ!!」

「頭撫でてあげるから許してほしいな♪」

「アホか! 嬉しくないわ!」

 

悔しそうに噛み付く恭一をからかって楽しむシャルロット。

 

「これが『根拠』。これが『予測』」

 

セシリアは口に手を当て反芻する。

 

「相手だけを見てても『予測』は出来ねぇんだぜ? 空間全体を見るようにするんだな」

「いだだだだだッッ.....ちょ、調子に乗ってごめんよぉ!!」

 

シャルロットにアイアンクローをカマしながらの言葉だった。

 

「ありがとうございますわ皆様方! 何かを掴めた様な気がしますわ!!」

 

ようやくいつものセシリアらしさが戻り

 

「うわははは! 俺は部長だからな!」

 

それに対する恭一の姿に箒もニッコリだった。

ラウラは撃沈している憐れなる貴公子の頭を撫でていた。

 

 

________________

 

 

 

次の日の事。

1組の教室では来たる文化祭に向けての出し物を決める場が訪れた訳だが。

 

「えーと.....」

 

クラス代表の一夏は教卓の上で渋い顔。

 

『織斑一夏のホストクラブ』(渋川君は裏方)

『織斑一夏とポッキー遊び』(渋川君は裏方)

『織斑一夏と王様ゲーム』(渋川君は裏方)

『織斑一夏とツイスター』(渋川君は裏方)

 

「全部却下だ!」

 

するとクラスからブーイングが起こる。

 

「分かってない! 分かってないよ織斑君!」

「この企画が通れば集客率ハンパ無いよねぇ!」

「他のクラスからも色々言われてるんだってば!」

 

ギャーギャーと反論する女子達の中、恭一は普通に寂しそうだった。

 

「なぁ....何で俺は裏方なんだ? アレか? これが噂のいじめなのか?」

 

「「「「 そんな事ないよッッ!! 」」」」

 

数少ないしぶちー応援隊が揃えて声を上げる。

 

「渋川君も入れたいんだけどね、想像してみたら....アレなんだよね」

 

言いにくそうな清香の声にクラスの皆が苦笑いで頷く。

 

例えばホストクラブ

 

『さぁ渋川、客である私にお酌をなさい!』

「テメェ何上から物言ってんだ、殺すぞ」

『ひぇっ....』

 

例えばポッキー遊び

 

『ぽりぽり....』

「テメェ何ガンつけてんだ、殺すぞ」

『ひぇっ....』

 

例えば王様ゲーム

 

『一番が王様に抱きつく!』

「テメェを倒せば俺がキングって事だな?」

『ひぇっ....』

 

例えばツイスター

 

『あいだだだだだッッ!!』

「決まったァーーー!! 渋川のキャメルクラッチが炸裂ゥーーー!!」

「どうして解説がかんちゃんなのー?」

 

全滅である。

 

「ぐぬぬ....確かに言い返せねぇ」

 

「「「「「言い返せないんだ....」」」」」

 

満場一致で恭一が裏方になる事が決定した。

 

「き、気にするな恭一! 後でコーラ奢ってやるからな!」

「その扱いやめろっツってんだろがッッ!!」

 

一夏の優しさが此処でも恭一の心に沁みた。

 

「メイド喫茶はどうだ?」

 

静かではあるが、凛とした声。

ラウラ・ボーデヴィッヒによる提案である。

 

「客受けは良いだろう。飲食店は経費の回収と云う利点もある。文化祭は招待券制と聞いた。外部からの客入りも十分期待出来ような」

 

「「「「「 おおー 」」」」」

 

ぱちぱちぱち

 

「むふん」

 

クラスメイトからの拍手を受け、ドヤ顔のラウラ。

 

「僕も良いと思うよ。一夏は執事役で接客するとか? メイド役は女子で交代制に」

「ちょっと待てッッ!!」

 

シャルロットの提案に恭一からのちょっと待ったコールが掛かった。

 

「その役なら俺が一番適してるだろ!?」

「確かに私は恭一さんの執事姿も見てみたい気も....」

 

自分が恭一に饗される絵を想像し、少し頬を赤く染めるセシリア。

 

「誰が羊姿になるか! 暑い日にモコモコになりてぇ奴がいるかよ!」

 

 

((((この人は何を言っているんだろう))))

 

 

「めいど役は俺しかいねぇだろ!! お前ら俺を知ってンじゃねぇのか!?」

 

 

((((この人は何を言っているんだろう))))

 

 

見兼ねた箒が立ち上がる。

 

「黒板にメイドを漢字で書いてみろ恭一」

「なんだよ」

 

言われた通りにカキカキ

 

『 冥土 』

 

満場一致で恭一が裏方になる事が再決定した。

 

 

________________

 

 

 

「....と云う訳で、1組は『ご奉仕喫茶』になりました」

 

一夏は冷や汗を流しながら職員室にて千冬に報告を済ませる。

 

「ご奉仕? ああ、メイド喫茶に執事喫茶と書いてあるか」

 

ふむふむ、と申請書に目を通す。

 

「まぁ文化祭くらいはっちゃけても罰は当たらんだろう。ちなみに誰が提案したんだ?」

「ラウラです」

「ほう....アイツも本当に変わったな」

 

少し嬉しそうに千冬は口角を上げる。

しかし一夏は依然、冷や汗を流したままである。

何故なら

 

「あのー...ですね、織斑先生」

「ん、なんだ?」

「これも多数決で決まった事なんですが.....そのぉ」

「歯切れが悪いな、言ってみろ」

 

視線を彷徨わせる一夏に次第と眉間に皺が寄る。

 

(ひぃっ....駄目だ、言うしかないのかっ)

 

恨む。

恨むからな皆。

ええい、ままよっ!

 

「担任と副担任もメイド服を着る事が決定しました!!」

 

勢いに任せ言い切った男一夏。

 

「あ゛?」

 

メキョッ

 

思わず手に持っていたコーヒー缶を握り潰す千冬。

 

「ひぃっ.....」

「.....誰の発案だ? 貴様か織斑ァ.....」

「ララララウラです、はい!!」

 

目の前の修羅に抗える者など居なかった。

.

.

.

ピーンポーンパーンポーン

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ、至急生徒指導室まで来い。1分で来い、以上』

 

世にも恐ろしい校内放送が流れた。

 

「......」

 

無言で立ち上がるラウラの顔に悲壮感は無い。

 

「....逝くのか?」

「止めてくれるな恭一殿、私は教官のメイド服が見たいんだ」

「ならもう何も言わんよ。お前の意地、確かに受け取ったぜ」

 

「アホ親子め」

 

箒の言葉にセシリアとシャルロットは曖昧に笑うしか無かった。

今日もIS学園は平和である。

 





あっ、そうだ(唐突)
小説9巻まで売ってたから買ったゾ。
これでアニメと小説を参考に出来るゾ。

もう全く別物になってると思うけどね( ゚∀゚)

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