野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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帰宅部はイカンでしょ、というお話



第76話 十人十色

「ん~~~っ....と」

 

目が覚めて時計を確認する。

時刻は朝の6時を回ったばかり。

 

「ふふっ....目覚ましをセットするまでも無かったわね」

 

夏休みも残り5日を切った。

そろそろ生活リズムを平常に戻さなければならない。

6時半に時計をセットしていたのだが、それよりも早く目が覚めた鈴は満足気である。

 

「ティナは.....まだ寝てるわね」

 

ルームメイトのティナ・ハミルトンは寝息を立てて、まだお休み中である。

 

(此処に居てもアレだし、早朝散歩と洒落込んじゃおうかしら)

 

まだ寝ている彼女を起こさないように静かに部屋から出た。

 

「おはよう」

「へっ...?」

 

扉を閉めた処で後ろから声を掛けられる。

この声は女性では無い。

 

「一夏?」

「おう、早起きなんだな鈴」

「アンタも随分早起きじゃない....何その格好?」

 

鈴は一夏の服装を上から下まで見る。

私服では無く、全身ジャージ姿だった。

 

「ラジオ体操でもするの?」

 

確かに時間的には合っているが。

 

「....そんな生易しいモノじゃないんだよなぁ.....」

 

鈴の疑問に一夏は何処か遠くの目。

 

「いや、目のハイライト消えてるわよ!? 何処行くのよ!?」

「鈴も来るか? あぁいや忘れてくれ、軽いノリで誘っちゃいけないんだった」

「はぁ?」

 

一度誘いの言葉を言ってからの即否定。

これでは言われた者は気になって仕方がない。

 

「何処行く気か知らないけど、あたし暇してんのよ」

「そうか、それじゃあな」

 

シュタっと手を挙げて一夏は去ろうとするが

 

「会話の流れが可笑しいでしょうが! あたしも連れてけっつってんのよ!」

「いや、でもなぁ....うーん」

 

腕を組みどうするか迷っているようだが

 

「飯は食ったのか?」

「まだよ」

「なら大丈夫か」

「何よ、ご飯食べに行くの?」

 

ご飯を食べるのにジャージを着る必要は無い。

ちなみに一夏もご飯はまだであり、もしも鈴が食べていたのなら断るつもりだった。

 

「本当に付いて来るのか?」

「何よ、一夏のくせにあたしに隠し事なんて100年早いのよ!」

 

何処ぞのジャイアンだ。

 

「分かった、だがその格好は駄目だ。一緒に行くならお前もジャージに着替えて来いよ」

「はぁ? 何を着ようが私の勝手じゃない」

「駄目だ。汚したく無いだろ?」

「えぇ....汚れるような事するの?」

 

流石に私服を朝から無駄に汚すのを嫌い、鈴も嫌々ではあるがジャージ姿になる。

 

「んじゃ行くか」

「結局、何処に何をしに行くのかまだ聞いて無いんだけど」

「ああ、すまんすまん。恭一達と早朝鍛錬だ」

「へ?」

 

 

________________

 

 

 

「ハッハー!! フランスでボンジュールってたンかよ貴公子ッッ!!」

「ぐっ...そのウザったい口を縫い合わせてあげるよッッ!!」

 

シャルロットの両腕からの乱打を片手で全て往なす恭一。

 

「抜けがけ禁止って言ったのにぃぃぃぃぃ!!!!」

「ハッハー!! 日本語で来い更識ッッ!!」

 

真っ向から手四つで千冬に挑む私怨ありまくりの楯無。

 

「ハッハー!! 愛を知った私は100倍強いぞセシリアァ!!」

「きぃぃぃぃ!! 絶対負かしてやりますわッッ!!」

 

こちらも私怨全開バトルの真っ只中。

 

「此処を....こんな感じで、両足を内側から....」

「ふむふむ。両腕にキメて両肩も破壊可能....これが『パロ・スペシャル』か」

 

可愛らしい絵図を用いて恐ろしい関節技を講義中の簪と生徒のラウラ。

 

 

「....世紀末じゃない」

「まぁそう思うよなぁ....」

 

一夏の隣りに立つ鈴の呟きが全てだった。

 

「まぁ恭一の部屋の前のスペースってアホみたいに広いから、運動するには持って来いなんでしょうけど、知らない子も居るわね」

 

鈴が言っているのは更識姉妹の事だろう。

 

「皆、強くなりたくて気が付けば此処に来てたんだってよ」

「アンタも?」

「ああ。箒やセシリア達に比べりゃ、だいぶ出遅れちまったけどな」

 

準備体操しながら一夏は答える。

 

「ふーん....アンタも最近参加した口?」

「俺は夏休み前からだな、シャルが最近加わったって感じか」

 

 

フランスに帰省した折、シャルロットがオデッサに恭一攻略のため『恭一観察日記』を提出した処、大きな駄目出しを喰らった。

 

『朝と夜が抜けてるじゃない。あんな強さを誇る彼が放課後チョロっとアリーナで練習しただけで終わると思ってるの? まだまだ彼への認識が甘いんじゃないかしらシャルロットちゃん?』

 

結果、帰省した次の日からシャルロットも『渋川道場』へ通う事になる。

 

 

「どうする鈴? 無理に参加する必要なんて無いんだぜ?」

「そうね。私は別に其処まで強さを求めてる訳じゃ無いもんね」

 

言葉では否定してても一夏と同じく準備運動を始める。

 

「それでもね、アンタも含めて皆が強くなっていくのに、あたしだけが置いてきぼりにされるなんてプライドが許さないのよッッ!!」

「鈴....それなら俺ももう何も言わねぇよ」

 

身体を解し終えた処で2人に近づく影あり。

 

「デュノアに続いて鈴も、か。此処も大所帯になったもんだ」

「恭一....なによ、あたしが参加するのに文句あるワケ?」

「来る者拒まず去る者追わず。お前の好きにすりゃ良いさ」

 

一夏はスッと距離を取る。

これから恭一が何をするのか、分かっているからである。

 

「飯は食ってきたか?」

「一夏にも聞かれたけど、食べてないわよ」

「そう.....かッ!」

「へっ....?」

 

突然、恭一から足払いを受け

 

「あいたっ!」

 

お尻を地面にぶつける形で尻餅を着いてしまう鈴。

 

「いったたたた....何すんのよいきなりッッ!!」

 

「「「「「 洗礼 」」」」」

 

恭一以外の者、一夏を含めた全員から彼女に送られた言葉である。

恭一は嗤って鈴を見下ろす。

 

「そうだな、いきなりだ。此処はよーい、ドンで始まる世界じゃねえって事だ。嫌なら去って良いんだぜ? 止めねぇよ」

「....はい、そうですねって言う訳無いでしょバカ!! あたしを誰だと思ってンのよッッ!!」

「足を痙る事に定評のある自称前世人魚のリンリンちゃん」

 

―――ブチッ

 

「長い! ムカツク! ぶっ殺す!」

 

ウガーっと恭一に挑み掛かると同時に。

 

「僕も忘れて貰っちゃこま....ぐふっ!?」

「いやだから、何で此処の奴らは背後取ってンのにわざわざ声出すんだよ」

 

鈴が迫るよりも早く、後ろから飛び掛ってきたシャルロットの鳩尾に肘を入れ、ため息。

 

「織斑、お前も見てないでさっさと掛かって来い。時間は有限だぜ?」

「....ああっ!!」

「吠え面かかせてやるッッ!!」

「3人掛りでいかせてもらうよ恭一ッッ!!」

 

一夏の少し後ろから鈴も迫る。

恭一の背後からはシャルロットが再び。

 

「うわはははは! やっぱ戦いはこうでなくちゃよぉ!!」

 

鍛錬が終わる頃、鈴はようやく一夏と恭一の言葉の意味が分かった。

 

「ご飯食べてたら吐いてたわね、確実に....」

 

こうして『渋川道場』はシャルロットに続き、鈴が新たに加わった。

 

 

________________

 

 

 

鍛錬後は恒例のティータイム。

其処で鈴も改めて自己紹介をし、今まで接する事の無かった更識姉妹とも握手を交わした。

 

「もうすぐ2学期が始まるのだけど、問題があるのよね」

 

楯無は困った顔で頬杖を突く。

彼女自身の話では無く、生徒会長としての言葉だった。

皆もそれを分かっているのか、先を気にする素振りを見せる。

 

「織斑君が部活動に入らない事でね、生徒会に結構な数の苦情が寄せられているのよ。ああ、恭一君には一切そんな事無いから安心してね♪」

 

そう言ってウィンクされても恭一的にはあまり嬉しくない。

 

(俺も部活ってのに入ってみたいんだけどなぁ)

 

「何で恭一には無いんだ?」

 

 

「「「「「 学園一の嫌われ者だから 」」」」」

 

 

ほぼ全員の声が重なった。

正確には男性陣以外。

 

「ひ、ひでぇ....こ、コーラ買ってきてやろうか恭一」

「そういう扱いはヤメロ」

 

一夏の気遣いが少し沁みた恭一である。

 

「でも部活かぁ....鍛錬だけで手一杯なのに、その上ってなるとキツいなぁ」

 

楯無の言葉に一夏は拒絶の意思が見え隠れする。

 

それ以上一夏は言葉に出さないが、他にも理由はある。

女子ばかりの部活動は駄目だ。

文化系ならまだしも、運動部なら悲惨な事になるに違いない。

着替える場所はどうする。

シャワー室はどうなんだ。

 

「ふと思ったのだが」

 

一夏が唸る中、箒が手を挙げる。

 

「私達がやっているのは部活にならないか?」

「ほう....」

 

千冬が反応する中、箒はさらに続ける。

 

「早朝鍛錬は他の部活で言う朝練、放課後のアリーナでのIS鍛錬に、その後の鍛錬。これらも部活動として言い換える事は出来るはず。コンセプトは『強くなる』だ」

 

「「「「「 おおー 」」」」」

 

―――ぱちぱちぱち

 

何故か皆から拍手を送られる。

 

「ちょっと待って。あたしラクロス部にもう入ってんだけど」

「私もテニス部に入ってますわね」

「僕は料理部」

 

鈴にセシリアとシャルロットも続く。

 

「あれ? 箒は剣道部に入ってなかったか?」

「ああ、仮入部の時点でヤメたよ」

「えっ、何でだ?」

 

てっきり剣道部に所属していると思っていた一夏は面食らう。

 

「部員と切磋琢磨するのと、此処で恭一と千冬さんにボコボコにされる。どちらの方が強くなれると思う?」

 

その言葉に皆が察した。

地獄を味わってきたんだな、と。

 

「ラウラも何処にも入って無かったんだ?」

「うむ。此処で恭一殿と教官と鍛錬する方が楽しいからな!」

 

シャルロットの疑問に笑顔で答える。

 

「掛け持ちで良いんじゃないか? 強制参加も無い、あくまで鍛錬なのだから」

「そう、ね。そうなると顧問は....」

 

皆の視線は当然、千冬へ集まる。

 

「まぁそうなるか。確かに今は何処の部も受け持っていないし、私は別に構わんが」

 

恭一と一夏を置いてきぼりに女性陣がトントン拍子に決めていく。

 

「顧問は千冬さんで決まり。部長は当然....」

 

今度は恭一に視線が集まる。

 

「....なに見てンだよ、喧嘩売ってん...あでっ」

 

隣りに座る箒が膝を抓る。

 

「お前が部長だって話だ。この活動はお前がたった1人で始めた事だからな」

「私が顧問、副部長は古参の箒で良いだろう」

 

千冬の言葉に皆も頷く。

後は―――

 

「部活名、ね」

 

各々が悩みだす。

 

「鍛錬部じゃ駄目なのか?」

「俺もそれで良いと思うぞ」

 

恭一の言葉に一夏も同意するが、どうやら女性陣は不服らしい。

 

「こう云うのは思い付きで言ってみれば、意外と良い名前が出たりするモノだ」

 

千冬の提案に皆が思い付きで口に出す。

 

 

「黒ウサギとカメさんチーム!」

「此処はドイツ軍じゃないぞ」

 

「世界でいちばん強くなりた―――」

「それ以上いけない」

 

「青龍伝説とかどう?」

「中国色が強くないか?」

 

「恭一フルボッコ同盟!」

「テメェ後でフルボッコ」

「ひぇっ...」

 

「蝶のように舞い、蜂のように―――」

「長いわ」

 

「マッスル・ドッキング」

「何言ってるの簪ちゃん!?」

 

「恭一君と会長と愉快な仲間達!」

「不愉快だ」

 

 

女性陣は全滅である。

 

「織斑は何か浮かんだか? 俺はもう『鍛錬部』が頭から離れてくんねぇんだ」

「俺もこういうのは苦手なんだよなぁ」

 

既に恭一と一夏は蚊帳の外だった。

 

 

________________

 

 

 

『たんれんぶ』参入順

 

・部長 

渋川恭一

 

・副部長 

篠ノ之箒

 

・その他部員

更識楯無

セシリア・オルコット

ラウラ・ボーデヴィッヒ

更識簪

織斑一夏

シャルロット・デュノア

凰鈴音

 

・顧問

織斑千冬

 

・活動内容

時間を問わず鍛錬&鍛錬。

 

・活動場所

渋川道場、アリーナ

 

・部室

渋川恭一の部屋

 

 

________________

 

 

 

「何で『たんれんぶ』なんだ? 『鍛錬部』じゃないのか?」

「そっちの方が愛嬌あって良いだろう」

 

「「「「「 うんうん 」」」」」

 

女性陣は可愛いモノが好きらしい。

 

「まぁそれは良いとして....何で俺の部屋が部室なんだよッッ!! さすがに可笑しいだろ扱いがよ!」

 

恭一の叫びは聞き入れて貰えませんでした。

一区切りついた処で千冬が1つ咳を入れる。

 

「此処に集ったお前達は想いは違えど強者を目指す者達だ。今、この場で決意表明してみろ。どうして此処へ来た。強くなって何を為さんとする?」

 

 

 

「ハッ! 好き勝手生きるにゃ強くねぇとなぁ?」

 

何処までも我侭な部長に始まり

 

「同じく。私の人生は私のモノであるために」

 

もう下を向く事は無い副部長の箒。

 

「妹の簪ちゃんを守るためよ」

 

楯無は妹を想い

 

「お姉ちゃんを守るため」

 

簪は姉を想う。

 

「当然、オルコット家の誇りを守るためですわ!」

 

いつものように胸を張るセシリア。

 

「強くなけりゃ嫁になってくれんからな!」

 

ラウラは拳を掲げる。

 

「恭一をギャフンと言わせたいからね」

 

不敵に笑うシャルロット。

 

「あたしは、飛び入りも良いトコなんだけどね。言ったでしょ? アンタ達だけ強くなるのを指咥えて眺めてる訳にはいかないのよッッ!!」

 

改めて立ち上がる鈴。

 

「皆を守るために、どんな手にも負けないために....俺は強くなるッッ!!」

 

胸に刻むように強く宣言する事で締めた一夏。

 

「....今のお前達の言葉、覚えておこう」

 

何処か嬉しそうに頷く千冬の顔が印象的だった。

 





なお、特別顧問に『篠ノ之束』
コーチに『クロエ・クロニクル』が就任する模様。

コイツら何処ぞに戦争でも吹っ掛ける気かよ(゚Д゚)

次からは2学期じゃい!

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