野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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しりあすだったり、シリアスだったり、しりあすだったり、というお話



第72話 恋人

「「 私達と付き合ってくださいッッ!! 」」

 

私達と付き合ってください.......

私達と付き合ってください.....

私達と付き合ってください...

(エコー)

 

曖昧だった恭一との関係を言葉ではっきりさせる一言が箒と千冬から告げられた。

 

(つきあう...突き合う? なんて言って良い場面じゃなさそうだ)

 

さすがの恭一も自重する。

 

(落ち着け俺、まずはこの状況を分析しろ)

 

恭一は辺りを見渡す。

真剣な眼差しで己を見つめている箒と千冬。

呪詛を呟き地面を叩いている束。

ニコニコしているクロエの後ろには大型スクリーン。

 

(コイツら、見てやがったな...)

 

何か言おうとする恭一の目の前に猛ダッシュの束。

 

「キョー君ッッ!!」

「うおっ...超スピード」

 

恭一の肩を掴み揺らしてくる。

 

「キョー君は束さんの事をどう想ってるのさッッ!?」

「えぇ...? 姉ちゃんは姉ちゃんだろ。ちなみにクロエは妹な」

 

近くで待機していたクロエの頭を撫でると嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「束さんは姉....キョー君のお姉ちゃん? キョー君は束さんの弟?」

「おうよ!」

 

(もしかして...束さんは女として見られていない可能性が....ズバリ聞くしかない!)

 

キッと顔を上げ

 

「キョー君は束さんと結婚したいって思った事ある!?」

「いや無いだろ。姉にそんな事は思わんだろ、非常識的に考えても」

 

胸を張って言う恭一に肩を落とす束だった。

 

「ズーン.....」

「束お姉様...お耳を拝借」

 

目に見えて落ち込む束を支える形で

 

「姉弟なら未来不確定な絆よりも強固なモノであるとクロエは思います」

「クーちゃん...」

 

束は想像する。

.

.

.

『箒も千冬さんも駄目だ! やっぱ時代は姉だぜ!』

『当然だよキョー君! さぁ、お姉ちゃんの胸に飛び込んできちゃいなよ!』

『おねーちゃーん!』

.

.

.

「でへっ....でへへへ.....世はまさに大姉弟時代....」

「私達はお邪魔ですので、帰りましょうね束お姉様」

 

トランス状態の束を担いで、クロエは部屋から出て行った。

此処でも空気の読めるクロエだった。

彼女は去り際に箒と千冬に目を合わせ軽く会釈して行く。

2人もそれに対し、頷いた。

 

 

________________

 

 

 

クロエが去った部屋に静寂が訪れる。

 

「...それじゃ俺もこの辺で」

 

「「 待て 」」

 

同じく部屋から出ようとしたが、2人から掴まれてしまった。

 

「此処はお前の部屋だろう」

「私達の言葉が理解できないとは言わさんぞ恭一」

 

箒と千冬は此処で決着を付けるつもりだった。

 

「今までお前に対してはっきりと想いを口にした事は無かった。だが、今は違う。言葉にしてお前に伝えよう」

 

まずは千冬が前に出る。

 

 

「私はお前が好きだ。何時からなのか分からん程昔から、気が付けばお前の事が頭から離れなくなっていた。お前を愛している、お前と共に生涯を歩みたい」

 

 

千冬の言葉が終わると、箒も前に出る。

 

 

「私もお前が好きだ。今の私が私で居られるのはお前が道を照らしてくれたからだ。私はお前と一緒にこの世界を楽しみたい。お前じゃなきゃ嫌なんだ恭一」

 

 

言葉は違えど想いは同じ。

女達の一世一代の告白が今、成された。

 

「俺...は......」

 

恭一も想いを言葉に乗せて伝えようと

 

「俺も2人の事が―――」

 

 

―――どうしてアンタなんか生まれてきたのよ

 

 

(.....ッッ)

 

母親の歪んだ顔がフラッシュバックする。

 

(......母さん)

 

『俺は愛を知らない』

 

恭一は常日頃からよく言っていた。

だが、それは厳密には間違いである。

 

前世の幼い頃、嘗て愛した者に愛を奪われた恭一は知らずの内に怯えていた。

愛していた母から全てを否定されたあの時から恭一は人に想われる事から、人を想う事から無意識に逃げていた。

 

 

《そろそろ前へ進んでも良いんじゃないかのぉ》

 

 

優しげな九鬼の声が聞こえた気がした。

 

(俺は本当にまた人を好きになっても良いのか...? 俺は....「ほごぉっ?!!?」

 

突然、頬に衝撃を受けた恭一の目の前には、箒と千冬の姿。

 

「なんだその情けない顔は?」

「私達はお前に想いを全力でぶつけ挑んでいる。お前も男なら私達にぶつけろッッ!!」

 

恭一は引っぱ叩かれた頬を擦る。

 

(.....かなわねぇや)

 

何処までも凛々しく在る2人に幻影が消えた。

 

(....いつまでも過去に囚われてちゃいられねぇ)

 

2人を真正面に見据え、息を吸う。

 

 

「俺も箒と千冬さんがす、好きだ! 一緒にいてえ、誰にも渡したくないッッ!!」

 

 

箒と千冬の告白に比べて、子供じみた陳腐な言葉だった。

それでも目の前の2人は笑顔で頷いてくれた。

 

 

恭一は100年の時を経て、再び愛する者と出逢えた。

 

 

―――今度こそ、絶対に見失わない。

 

 

________________

 

 

 

晴れて恋人になった3人な訳だが

 

「私達2人だけだからな、お前の恋人は」

「うんうん」

 

千冬と箒が念を押す。

 

「当たり前だろ。俺が本気で誰かを好きになったのは後にも先にもアンタ達だけだ」

 

「「う、うむ.....」」

 

恭一から思わぬカウンターパンチを喰らい、顔を赤らめる2人。

其処で疑問に思っていた事を恭一は口に出す。

 

「想いを伝えて、恋人になって.....これから何が変わるんだ?」

 

初心者らしい疑問だった。

 

「恋人らしい事をするんじゃないのか?」

「うんうん」

 

千冬の言葉に箒も頷く。

 

「恋人らしい事って何だ?」

 

恭一の疑問は尽きない。

 

「「........」」

 

今度は即答しない2人。

 

(...手を握る? それは補習の時にたっぷり堪能した。やっぱりキスか? いや、それも早いような気がする。間をとって抱擁だ!)

 

千冬は首を傾げる恭一を見やる。

 

(私はやっと成就したんだな...恭一と恋人になれたんだ。ずっと想ってて良かった...今からは恋人として恭一と.....恭一と.......)

 

「はぁ....はぁ.....恭一ィィ....」

「へっ?」

 

(恭一と抱擁....彼氏と彼女の抱擁.....恋人同士の熱い抱擁.....はぁはぁ)

 

「恭一ィィィィィ!!!」

「う、うわぁっ!?」

 

彼は後にこう語る。

 

 

―――あれは捕食者の眼だった。

 

 

束以上の超スピードで恭一に迫る来る千冬に

 

「こ、金剛ッッ!!」

「ごふっ......」

 

崩れゆく千冬の姿を見ていた箒は何を思う。

 

(そ、そうか! 恋人としての最初の触れ合いは私の方が良いんだな恭一ッッ!!)

 

駄目みたいですね。

 

「恭一ィィィィィ!!!」

「ひぃっ捕食者パート2!?」

 

迫り来るケモノの眼をした箒に対して

 

「空かさず金剛ッッ!!」

「あぐっ......」

 

 

―――ドサリ

 

 

気を失った2人を確認し

 

「よ、よし...」

 

全く以て良くない。

恋人になって初めての触れ合いが心臓に腕を突き刺す『金剛』とか、世界でもこのアホくらいである。

 

《かーっ....何やっとんじゃこやつ》

 

これには流石の武神を天を仰ぐしかなかった。

 

「ん?」

 

とりあえず、ベッドに2人を寝かせた恭一は目を擦る。

 

じー....

 

「んん?」

 

もう一度目を擦り、瞼をしっかりと開ける。

 

「クソジジイが見える...」

 

《はっ?》

 

バッチリ目が合う狂者と武神。

 

《....見えとる?》

 

「見えてるし聞こえてる」

 

 

________________

 

 

 

「束姉ちゃんの作った装置の後遺症か?」

 

《妥当な処じゃないかの、まぁそれは置いておくとして》

 

置いておいて良いのか武神。

 

《皆、冷静になれば疑問に思うんじゃないかの? 恭一と戦ってた者は誰だって》

 

「あぁ...確かに」

 

恭一は面倒くさそうに顔を塞ぐ。

前世を話すつもりなど、毛頭無い。

 

「知らん、で押し通す」

 

《それで済むか? 追求されるのが目に見えるぞい》

 

「それならそれで良いさ。俺は話すつもりは無いんだ。ゴチャゴチャ言ってくるなら」

 

拳を見せる。

 

「これでケリを付ければ良いだけだ」

 

《カカカッ!! 分かり易くて良いのぉ》

 

恭一の単純さに武神もニッコリである、が

 

《しかし、お前さんを愛してくれる者と漸く仲が成就したと言うに....》

 

気絶している千冬達を一瞥した処で視線を恭一に戻し、情けない、と云った目をする。

 

「し、仕方ねぇだろ....久々に恐怖を感じたんだからよ、マジで」

 

《ふう...これがワシだと思うと、呆れてモノも言えんわい》

 

恭一の前でやれやれ、と小馬鹿にした態度を取る。

 

「...上から物言ってんじゃねぇぞ、クソジジイ」

 

《....なに?》

 

「テメェが女を知らねぇから俺も分かんねぇんだろが!!」

 

時空を超えた正論である。

 

《ぐぬっ.....》

 

「それに少なくともテメェよりは知ってるわ! 3ヶ月も女ばっかの学園に居るんだぜ俺はよ! 『武』じゃ敵わんが、それ以外は今の俺の方が上なんだよッッ!!」

 

言い返せない武神に追い討ちを掛ける恭一は、何処か楽し気であった。

 

 

ムカッ

 

 

《ワシよりも知っておるじゃと? さすがに聞き捨てならんぞい小僧っ子が.....》

 

「事実から目を背けてンなよ、耄碌ジジイ」

 

ニヤニヤ笑う恭一を前に、武神は歯軋りするしか無いのか。

 

(難問だ、難問を出すのじゃ!! ワシよりも知っておるなどと戯けた事をほざく小僧には分からん問題を....ッッ!!)

 

悩みに悩んだ挙句、武神が出した問題とは如何に。

 

 

《女性には前と後ろに穴があると言う! チ○コを入れて良いのはどっちじゃ!?》

 

 

武道一筋に生きてきた武神『九鬼恭一』(96)にとって、これは難問だった。

武神からの挑戦状を前に、瞑目する少年は何を思う。

 

 

―――カッ!!

 

 

目を見開く。

 

 

「その日の気分でどちらに入れてみても良いッッ!!!!」

 

 

武神の攻撃を真っ向から剛拳で迎え撃つ恭一だった。

 

 

《ワシの知っている答えとは違う.....》

 

 

―――シュゥゥゥゥ...

 

 

武神の姿は恭一の前から儚げに消えていった。

 

「ふっ.....敗北を知りたい」

 

アホが消えアホが残った一幕である。

 

 

________________

 

 

 

「あっついわねぇ.....」

 

鈴は独り言りながら、廊下を歩いている。

 

「あたしも帰省した方が良かったかしら」

 

其処まで言って、無い無いと首を振る。

 

(帰っても家族は離れ離れ、軍で訓練とか面倒すぎるでしょ....それに)

 

この学園には一夏が居る。

もう補習は終わったらしいし、何処か遊びにでも誘ってあげても良いかな。

.

.

.

「居ないのかよッッ!!」

 

一夏の部屋の前まで辿り着いたら『只今、帰省中』の張り紙が貼ってあった。

 

「あンのバカ一夏!! 帰るなら一声くらい掛けなさいよね!」

 

プンスカ怒る鈴は気晴らしに散歩でもしようと、寮から出る。

 

「ん?」

 

目の前を横切る恭一の姿。

 

「どっか行くの?」

「あぁ? おう、鈴か。ちいっと本屋さんに買い物だ」

 

IS学園の前には大きな本屋があり、生徒達は皆其処で本を購入する。

 

「参考書でも買うの? アンタってばほとんど赤点だったんでしょ?」

「まぁそんな処だ」

「ふーん....」

 

鈴は考える。

 

(そう言えば、あたしってコイツの事全然知らないのよね。何ていうか...未知なる生物?)

 

「あたしも付いて行くわ。丁度、欲しい物もあったしね」

「おう、んじゃ行くか」

 

本屋に着き、早速恭一はお目当ての本を探す旅に出た。

 

(....あたしも先に買っておこっと)

.

.

.

「ふふっ....ラスト一冊とか運が良いわね!」

 

先に買い終えた鈴は参考書コーナーに足を運ぶが

 

「....居ないじゃない」

 

(何処行ったのよ)

 

1人で待っているのも退屈なので、鈴は恭一の姿を探し始めた。

 

「あっ...あんな処に居た」

 

角からヒョッコリ顔だけ出して恭一を伺う。

視線の先の少年は、何やら真剣な眼差しで読み耽っている。

 

「えーっと....なになに」

 

目を細めて恭一の手にある本を凝視する。

 

 

『猿でも分かる恋愛本』

 

 

「ぶううううううううううううううッッ!!」

「ん?」

「ヤバッ」

 

思わず吹き出してしまい、恭一が顔を向けてくるが既の処で隠れる。

 

(な、何読んでんのよアイツ!!)

 

武神が消えた後、冷静になった彼は恋愛について素人であると改めて自覚し、勉強する事にしたらしい。

 

(あ、読み終えたの? また違う本に手を伸ばした)

 

 

『犬でも分かる恋愛攻略本』

 

 

鈴が角から見守る中、恭一は表紙をマジマジと見ている。

 

「なんか犬っぽくねえなぁ」

 

(突っ込む処は其処なんだ...)

 

又もや、真剣に読み出す恭一に鈴は悩む。

 

(からかっても良いの? それともマジなの?)

 

もう一度顔を出して見る。

 

(マジっぽい....軽い気分で突っついたら駄目みたいね)

 

勉強会での事もあり、今回鈴は自重を選んだ。

 

 

________________

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

本屋を出た鈴の隣りには、恭一の姿。

彼の手には買った本が入った袋。

 

「ねぇ恭一」

「んー?」

「何買ったのか聞いても良い?」

「おう、いいぜ」

 

そう言って恭一は袋から取り出し、鈴へ手渡す。

 

 

『ネアンデルタール人でも分かる恋愛指南書』

 

 

「えぇ.....」

 

本の名前、目の前に立つ何故か誇らしげな表情の男。

二重の意味で鈴は困惑したそうな。

 

 

恭一が部屋に帰ると、阿修羅と羅刹が仁王立ちして待っていた。

 

 

―――恋人と過ごす時間はチョコレートのように甘い。

 

 

(....本に書いてたのと違う)

 

この後、無茶苦茶謝った。

 





愛などいらぬ、との聖帝
喰らい尽くせ、との地上最強

しぶちーは後者を選び取ったようです。

111歳にてしぶちーにも恋人が出来ました。
最後まで箒と千冬の2人のまま進みたいです(意思表明)

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