野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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クラスメイトから友へ、というお話



第68話 恭一と一夏

「むにー....」

「もうっ! ラウラさん、身体をだらんとさせないでくださいまし! 重いですわ!」

 

生徒達はお世話になった旅館への挨拶を済ませ、各々がバスに乗り込む。

ラウラは昨夜の影響で全身が悲鳴を上げており、事情を知るセシリアの背に負ぶさって移動していた。

 

「ら、ラウラちゃん!? どうしたのその顔!? 絆創膏だらけだよッッ!?」

「しぶちーもだぁ....何かあったの~?」

 

朝食で皆が恭一とラウラの姿を聞いてくる。

 

「.....織斑先生まで」

 

生徒達とは少し離れた所で朝食を摂っている千冬にも視線が向けられる。

 

「ねーねー! 何があったのよ渋川君っ!?」

 

朝から高めのテンションで清香が恭一に詰め寄る。

 

「大乱闘スマッシュブラザーズ」

「は?」

 

「ラウラちゃん何があったの? 癒子さん聞きたいなっ」

 

同じくテンション高めで癒子がラウラに詰め寄る。

 

「大乱闘スマッシュブラザーズだ」

「へ?」

.

.

.

朝食前の事である。

 

千冬に呼ばれた恭一とラウラ。

この三人が共通する処は、顔に貼られまくっている絆創膏である。

 

「他の者が私を含むお前達を見たら聞いてくるだろう、何があった? とな」

「そりゃそうでしょうね」

「....まらいたいてふ。きょうかん....」

 

さすがに昨夜の面子の中で一番格下のラウラは千冬や恭一よりも辛そうだった。

辛そうにしているラウラを優しく撫でながら

 

「鬱陶しい詮索を一言で防ぐ魔法の言葉を教えてやろう」

「おおっ...さすが千冬さんですね!」

「しゃすがきょうかんてふ!」

.

.

.

「それって....ゲームの?」

「大乱闘スマッシュブラザーズだ」

 

恭一もラウラもそれ以外は何も言わない。

群がっていた生徒達は首を傾げながら席へ戻って行った。

 

(千冬さんの言った通りだな。確かにこれは魔法の言葉らしい)

(さすがは私の嫁だ! おそらくこの言葉には何やら重大な効果を秘めているに違いない!)

 

アホの子2人は気付かない。

ただの力技だと云う事を。

 

 

________________

 

 

 

「ほら、ラウラさんバスにつきましてよ。そろそろ降りて下さいな」

「うむ...ありがとうセシリア。この恩には必ず報いよう」

 

自分の席へ座ると頭を下げた。

 

「ふふ...期待せずに待ってますわ」

 

一言二言話し終えると、セシリアは決められた席へと着く。

 

「ふふっ....うふふ....」

 

隣りの席には既に箒が座っているのだが

 

「な、なんですの箒さん、頬が緩みきってますわよ...?」

 

何だかんだ昨晩、千冬との一悶着はあったものの、恭一と下の名前で呼び合う事になり超が付く程浮かれ気分に浸っていた。

 

「むふふ...臨海学校に来て良かったなぁセシリア」

「....何かあったんですのね? 何かあったんですのね!?」

 

箒の浮かれまくりな態度から2回言ってしまう。

 

「むふっ.....むふふふ」

「その変な含み笑いをやめてくださいまし! 何故だか無性に腹が立ちますわッッ!!」

.

.

.

「身体の調子はどうだい少年?」

「絶好調ですよコーリングさん」

 

生徒達からは見えない所で、別れの挨拶に来たイーリスとナターシャ。

 

「なぁ少年。お前さんもこのままアメリカに来ないか?」

「へ?」

「貴女そればっかりね、もう」

 

どうやらイーリスは恭一と試合う事でさらなる高みに征ける事を確信したらしい。

 

「アホか...そんな事無理に決まってるだろうが」

「ちっ...おいでなすったな千冬」

「ならコーリングさんが来れば良いんじゃないですか?」

 

何気無しに恭一が言う。

 

「そっ、その手があったかッッ!! そうと決まれば私も一緒のバスに―――」

「ハイハイ。その手は無いし、そうとも決まってないわよ」

 

イーリスをズルズル引きずって行くナターシャ

 

「はっ、離せナタル! 私は軍をやめるぞおおおおおッッ!!」

「ハイハイ」

 

2人の姿が遠くなっても何故かイーリスの声だけは聞こえたと云う。

 

「....戻るか」

「そうですね」

 

 

________________

 

 

 

バスに乗り込み自分の席を探す。

 

「ここだよー恭一」

「げっ....」

 

帰りのバスでの恭一の隣りはシャルロットらしい。

 

「もうっ...シャルロットさんは恭一さんに恋愛感情をお持ちになって無いはずなのに、どうしてジャンケンに参加してきたんですの」

 

ブツブツ、と箒の隣りで不満を愚痴る。

 

「まぁまぁ良いじゃないか、セシリア。Say helloでいこうじゃないか」

「その可笑しなキャラで居続けないで下さいまし!」

 

箒とセシリアはさておき、恭一は嫌そうな顔で席に座る。

 

「そんな嬉しそうにしないでよ恭一。僕照れちゃうじゃないか」

「眼科行って牛乳瓶クラスの眼鏡貰ってこい」

「へぇ....恭一は眼鏡かけてる子がタイプなの?」

「あ゛ぁ?」

 

―――ピクッ

 

シャルロットの言葉に数名が反応を見せる。

 

「....箒さん」

「...分かっている」

 

一番前の席では

 

「ど、どうしたのですか教官」

「黙ってろ」

「ひぇっ...」

 

恭一はシャルロットをマジマジと見る。

 

(なにいってだコイツ....どうする。どう切り返せば良い)

 

シャルロットに何度も苦渋を味わされている恭一は慎重に考える。

脳内シュミレーション開始。

 

『うん! 大好きさ!』

「うそだね!」

 

(これは駄目だ)

 

『はぁ? 嫌いだよ!』

「うそだね!」

 

(これも駄目だ)

 

『そんな事よりトランプしようぜ!』

「逃げるんだね!」

 

 

―――ブチッ

 

 

「上等だテメェ!! 表出ろやああああああッッ!!」

「ひゃっ!? 訳分かんないよ恭一!」

 

ボカッ!!

 

「あでっ....」

「やめんかアホ!」

「うっ....箒....あれ? 何してたんだっけ俺」

 

辺りをキョロキョロ見渡す。

 

「しりとりでもしてたんじゃないのか?」

「んー...? まぁいいか! じゃあもう一回しようぜデュノア」

「そ、そうだね!」

 

(あ、危なかった。調子に乗りすぎて恭一の性格すっかり忘れてた)

 

口撃に口撃で返してくるとは限らない。

攻撃で返される可能性の存在を学んだシャルロットであった。

.

.

.

「ン、が付いちゃった...僕の負けかな」

「ンジャメナ」

「へっ?」

「ンドゥール」

「誰だよっ!」

 

恭一はシャルロットのしりとりを楽しみながらも視線を感じていた。

 

(...何だその目は......どんな心境の変化だ)

 

つい視線に目を向けてしまった。

 

「.....にこっ」

「ッッ!?」

 

(臨海学校でお前に何があった織斑あああああああああッッ?!?!?! 何だその目はああああああッッ!!!!)

 

言い様のない冷や汗を流す恭一だが

 

(意識して見てみると、やっぱり恭一は楽しんでるんだなぁ)

 

一夏に他意は無かった。

 

 

________________

 

 

 

生徒達を乗せたバスがIS学園に着くと、一目散に走って行く恭一

 

―――バタンッ

 

「俺の城よ、恭一は今まさに帰ってきたぞ! そぉら、見るが良い! 玄関を悠々と跨ぎ、灯の暖かくも柔らかい光に照らされた扉をやんわりと開け、大胆不敵かつ泰然自若に靴を脱ぎ、玄関から木畳に、さながら魚類が陸上に進化して歩んだが如き奇跡的道筋で足をつけようとしている.......」

 

両腕を大きく広げ

 

「ではないかぁーーーーっ!!」

 

(ふっ....俺とした事が、旅行気分がまだ抜けてないら......し......ッッ!?)

 

気配を感じ後ろを振り向く。

 

「やぁ恭一君! 臨海学校は楽しかったかしら?」

「.....会長」

 

楯無がニコニコして立っていた。

 

「疲れていると思ってクッキー焼いてきたの。良かったら一緒に食べない?」

「え、ええ。ありがとうございます」

 

(.....見られてない、よな?)

 

楯無を先導する形で先に部屋へ入る。

 

「どうぞ」

「ええ、お邪魔するわね」

 

扉を潜り其処で立ち止まる楯無。

 

「私の城よ、楯無は今まさに帰ってきたぞ!「やめんかッッ!!」

 

ちゃっかり聞かれていたらしい。

 

 

________________

 

 

 

―――コンコン

 

「開いている、入れ」

「失礼します」

 

学園に帰ってきた生徒達は各々部屋でゆっくり寛いでいる。

荷物を片し終えた一夏は千冬の元へ訪れた。

 

「どうした織斑」

「少し、先生に聞きたい事があって」

「言ってみろ」

「俺...今まで授業と放課後は鈴にISを教わってるくらいなんだけど....その」

 

少し躊躇いがちである。

 

「実感が湧かないか?」

「え?」

「このままで良いのか迷っているのだろう?」

「あ、ああ...無人機の時もタッグ戦も...この前のイーリスさんとの模擬戦も俺って良い処無かったって思うんだ」

 

一夏は過去を振り返り、どうすれば良いか考えた果てに聞きに来たらしい。

 

「ふむ...そうだな。消灯時間まで待て」

「へ?」

「その時間になれば、私がお前の部屋に行こう。話はそれからだ」

「は、はぁ...」

 

いまいち千冬の意図が分からない一夏は空頷く。

 

「お前もこの三日間で疲れただろう。今日は大浴場が利用できる日だ、しっかり疲れを取っておけ」

「わ、分かった」

 

 

________________

 

 

 

―――コンコン

 

「私だ織斑」

「あっ、はい! 今開けます」

 

消灯時間少し過ぎてから千冬は一夏の部屋に訪れた。

 

「さて、行くか」

「へっ....何処か出掛けるんですか?」

「ああ。なに、そう遠くは無い」

 

千冬に連れられて寮を出る。

運動場を歩き、林の方へ出てきた。

 

「お前は渋川の部屋へ行った事はあるか?」

「いや...無いです。豪華な部屋だって恭一は言ってましたけど」

「ふっ....」

 

林を抜けると、汚らしい木小屋が少しずつ見えてくる。

 

「あれだ」

「へっ....いやあれって.....どう見ても」

 

(三匹の子豚に出てくるアレにしか見えない...)

 

「....さて、何か聞こえてきやしないか?」

「えっ....」

 

千冬に言われて耳を澄ませる。

 

 

...ドガッ

 

...バギッ

 

 

(何かを叩く音?)

 

一夏は音に導かれるように歩いて行く。

近くに行けば行く程、鮮明に聞こえてくる。

 

「ふむ...今夜は裏でやっているのか。こっちだ織斑」

「は、はいっ!」

 

千冬の後に付いて行き、言われたように顔を出して覗いてみる。

 

 

「おおおおおおッッッ!!!!!」

 

 

ドンッ!! ダンッ!! ダゴッ!!

 

 

鍛錬用に仕立て上げた『粘人拳』(恭一命名)に向かって一心不乱に叩き込む男の姿。

 

「....恭一」

 

「ッシェリャアアッッ!!」

 

顔部分に後ろ回し蹴りを喰らわせ

 

 

―――バカンッッ!!

 

 

「あっ.....やっちまった」

 

溜息をつき、首から上が粉砕した破片を拾い屈んだ。

 

「......ん?」

 

屈んだ視線の先には足が見える。

 

「......織斑か」

「恭一.....」

 

(....私は此処までだな)

 

千冬は静かに其処から立ち去って行く。

 

 

________________

 

 

 

「もう消灯時間は過ぎてンぜ? 不良だな」

「お前だって同じだろ?」

「むふふ。此処も俺の部屋扱いだからな! 外だが中なのさ」

 

一夏は先程まで恭一が打ち込んでいたモノへ近づく。

 

「毎晩こんな事をしてるのか?」

「おうよ」

「......強くなるためにか?」

「おうよ」

 

タオルで汗を拭き、水分を摂る。

 

「なぁ恭一...お前はどうしてそんなに鍛錬に拘る? 鍛えてお前は何がしたいんだ?」

「.......」

 

恭一は一夏を見る。

正確には一夏の瞳を真正面から覗き込む。

 

(....へぇ)

 

「好き勝手に生きてやンだよ」

「はぁ?」

「俺は俺のしたいようにする。弱けりゃ無理なら強くなるしかねぇだろ?」

「....自分勝手じゃないか?」

「くくっ.....ちげぇねぇや!」

 

笑いながら恭一は一夏の目の前まで近づく。

 

「な、なんだよ?」

「言ったろ、俺は俺のしたいようにする」

 

そう言って拳を一夏の額まで持っていき

 

 

バチコーーーーーーンッッ!!!!

 

 

「おごぉッッ!? あがががががが......ッッ」

 

一夏が止める暇も無く、額に衝撃を喰らった。

 

「なっ、何すんだよいきなりッッ!!」

「デコピンだよ、知らねぇのか?」

「知ってるよッッ!! っくぅぅぅ....い、イテェ.....」

 

涙目で額を擦り抗議の目を向けるが恭一は笑みを浮かべたままだ。

 

「ほらな?」

「なにが!?」

「俺が弱けりゃ織斑に今のは防がれてたな...俺が強いからお前のデコをピーンと出来た訳だ」

 

言い換えればこうだった。

 

(俺が弱いから防げなかったって言いたいのか? 俺が強かったら防げた...そう云う事なのか恭一.....)

 

一夏は歯を食い縛る。

 

「も、もっかいだ! もう一回頼む!! 今度は防いでみせる!」

「あ゛ぁ? めんどくせぇからもうやんない」

 

すたすた、と一夏の前を通り過ぎる。

 

「ぐっ....」

 

(そうだ。恭一はこういう奴だった.....どうする? どうすれば.....あっ!)

 

「お、お前の好きなコーラ奢ってや『バチンッ!!』ぬごぉッッ?!」

 

言い終わる前に喰らってしまう。

 

「ぐっ.....今のはき.....」

 

其処まで口に出すが、グッと堪る。

 

(そうだ。やられてから汚いなんて言っても駄目なんだ)

 

「も、もっかいだ....奢ってやるから」

 

(集中しろ俺ッッ!!)

 

一夏は目を凝らし、恭一の右腕を注視する。

 

「へっ....?」

 

恭一が既に左腕で自分の右腕を掴んでいた。

 

「えいっ」

 

ベチーーーーーンッッ!!

 

「はぎゃああああああああああッッ?!」

 

可愛らしい掛け声と共に腕に所謂シッペを喰らう。

 

「ぐっ....デコピンだけじゃないのか?」

「誰がンな事言ったよ? 俺は俺の好きにしたいんだぜ?」

「...ああ、そうだったな! もっかいだッッ!!」

「ハッ....付き合った分だけ奢れよ」

.

.

.

「あっち向い~て.....」

「来いよっ!」

「ホイッ!」

「ぐっ」

「ホイッ!」

「くうっ」

「ホイッ!」

「ぐぬっ」

 

「何で勝てねぇ....」

「俺には0.000000000001秒の世界が見えてるからな」

「うそつけ!」

 

一夏の全敗。

 

「ジャンケンだ!」

「はいはい」

 

 

「や、やったぞ!! 勝っただだだだだッッ!?」

 

グーを出したのにチョキに負ける一夏。

 

「この世には石をも断ち切る鋏があンだよ」

「意味分かんねぇ!!」

.

.

.

「明日から1ヶ月間、俺にコーラを献上しろよ」

「ぐっ....分かってるさ!」

 

気付けば0時を回っている。

 

「恭一....」

「なんだ?」

 

座っていた一夏は立ち上がると、恭一を真っ直ぐ見る。

 

「俺は....俺は皆を守りたいんだ。卑怯な手にだって屈したく無いんだ」

「それがお前の意地なら貫いてみろよ」

 

恭一はそれだけ言うと、鍛錬用具を片し始める。

 

「....恭一はいつも此処で鍛錬してるのか?」

「アリーナの使用時間以外は、な」

「朝も?」

「まぁな」

 

恭一の背に話しかける。

 

「お、俺も来ても良いか?」

「.....好きにしろ」

 

全て片付け終えた恭一は腰をトントン、と叩く。

 

「それじゃあ、俺も戻るよ」

「ああ、織斑先生に見つかんなよ」

 

そう言うと2人は別々の方へ

 

「あっ! 俺も此処に住めば良いんじゃないか!?」

「へぁ!?」

 

その発想はさすがに恭一にも無かった。

 

「そうだよ。男同士だし、何の問題も無いだろ?」

 

ウンウン、と頷く一夏。

 

(駄目だ...あんな説明したのが間違いだったか?)

 

一夏にどうして寮に住んでいないのか、と問われた恭一は

 

『寮じゃ鍛錬出来ないから無理言って作って貰ったんだ』

 

と、説明していた。

事実は政府による指示なのだが正直に言い、気を遣われる事を嫌った恭一の言葉だった。

 

 

後日、千冬に申請に行くがあっさり断られる一夏の姿が其処にはあった。

 




これにて福音編終了じゃい!

臨海学校のメインテーマは家族でした。
『篠ノ之姉妹』と『織斑姉弟』の二組の成長が描きたかったのです(`・ω・´)
拙い文章ですが、皆様に少しでも伝わって頂ければ幸いです。

とりあえずこれで本当にアニメ1期分終了ですが、次話にキャラクター紹介でも入れようか悩んでます。

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