野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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OVAに『真夏の夜の淫夢』が収録されているらしいので初投稿です。



第67話 織斑一夏

(試すとは言ったものの...どうすれば良いか)

 

束と別れてから千冬は旅館へ戻っていた。

 

(導く....言葉で諭すのは難しい。私も弁が回る方では無いからなぁ)

 

自販機の前で立ち止まる。

 

「何か買っていってやるか」

 

さて、一夏は...まぁ無難にお茶だな。

 

ふと隣りにある飲み物に目がいく。

 

(コーラ.....ふむ)

 

千冬は何かを思いついたようだ。

 

(恭一から聞いた話でもしてみるか)

 

お茶とコーラを買い、部屋に戻る。

 

―――ガチャ

 

(真っ暗だな....もう寝ているのか?)

 

部屋に入り、目を凝らすとベッドの上で座っている一夏が見えた。

 

「電気も付けずに、何に浸っている?」

「...千冬姉ぇ」

 

―――パチッ

 

「っっ.....」

 

眩しさで一夏は少し目が眩む。

ようやく一夏の視界が慣れた頃、千冬は彼を背にコップを取り出しながら

 

「お茶とコーラ、どっちが良い?」

「....コー.....ラッッ!?!?!」

 

驚いた表情の一夏に怪訝な顔をする千冬。

 

「オイ...姉の顔を見て驚く奴がいるか」

「いやっ....絆創膏だらけじゃないか千冬姉ぇ!!」

「あっ....忘れてた」

 

とりあえず千冬は一夏が去った後に起こった事を説明する。

いつもの一夏なら、飛び跳ねて気遣うのだろうが

 

「そう....か。ははっ....俺は居なくなってて良かったのかもな」

 

今は流石に堪えていたらしい。

 

「ほれ....ついでやる。コップを持て」

「あ、ああ。ありがとう千冬姉ぇ」

 

一夏はコーラをグイッと飲むと、ポツリと呟いた。

 

「なぁ...千冬姉ぇ」

「ん?」

「正々堂々って悪い事なのかな? 卑怯な手を嫌うって悪い事なのかな?」

 

自分の想いに自信を失くしつつあった一夏の言葉に覇気は無かった。

 

「人の想いはそれぞれだ。お前の考えと全ての人間が同じ考えとは限らん。仮に私が否定したとしたらお前はどうするんだ?」

「それ....は...」

 

一夏は咄嗟には返事出来なかった。

 

「面白い話をしてやろう」

「....へ?」

 

どこか悪戯めいた顔で笑う千冬にポカン、となる。

 

「ある男から聞いた話だ。どうだ? 聞きたいか? 聞きたいだろう?」

「えぇ...えっと.....聞きたいかな、うん」

 

聞かせる気満々の千冬を前に一夏は頷くしかなかった。

 

「そうだろう! なら話してやる」

 

何やら嬉しそうに話し出す。

 

「とある場所に人を殺す事に快感を感じる男が居た―――」

「ちょ、ちょっと待ってくれ千冬姉ぇ!」

「なんだ? いきなり話の腰を折るな」

 

速攻で話を止められ少し不機嫌な顔をするが

 

「ほ、本当に面白い話なのか?」

「今のお前にとって、何かしらの役に立つかもしれんぞ?」

 

其処でやっと一夏も千冬の想いに至る。

苦しんでいる自分を想って話そうとしてくれているんだ、と。

 

「分かった。もう遮らないから続けてくれ」

「ゴホンッ....ならもう一度、頭から話そうか」

 

 

とある場所に人を殺す事に快感を感じる男が居た。

コイツをAと呼ぼうか。

Aは今日もターゲットを探し街を徘徊する。

Aは活きのいい女を見つけた。

今日はコイツを殺そう。

後ろから襲おうとしたが、その時邪魔が入った。

別の男が現れ、女を助けようとした。

この男はBと呼ぼう。

Bは実に正義感に溢れた男だった。

 

 

ここまで語ると、千冬はコップを手に取り一息つく。

 

「さぁ一夏。この後どうなったとお前は思う?」

「そりゃ当然Bが女の人を助けたに決まってるさ!」

「ふむ。なら話を続けよう」

 

 

助けに現れたBはAに気絶させられ、同じく意識を奪われた女と一緒に廃墟に運ばれる。

Bが目を覚ますと全身をイスに縛られ、目の前では女が縛られた状態で寝転がっていた。

Bは何とか縛りから抜け出そうと藻掻くがまるで動けない。

すると奥の部屋からAがノコギリを持って現れた。

AはBの目の前で泣き叫ぶ女の身体を足から1cmずつ切断―――

 

 

「ま、待てっ!! 待ってくれ千冬姉ぇ!! さすがに話が見えてこねぇよ!」

「なら簡潔にいくか。女もBも殺され、Aはそれからも人を殺し続けました。終わり」

 

しれっと終わらせる千冬に

 

「何だよそれ...そんなの可笑しいだろッッ!! 許される訳がねぇよ!!」

「ああそうだ。こんな胸糞悪い奴は私だって許せんさ」

「な、ならッッ!!」

 

「ちなみに何故BはAから女を助けられなかったと思う?」

 

千冬の問いかけにただただ首を横に振る。

一夏の中ではそんな事は有り得ない。

理由なんか出てくる訳が無かった。

 

「なら教えようか。Aはな、人を殺したくて殺したくて死ぬ気で身体を鍛えていたのさ。Bは正義の心を持っているが鍛えた事など一度もなかった。それが2人の明暗を分けた」

「なっ......」

 

千冬の淡々とした言葉に絶句してしまう。

 

「100人いれば100人がBを応援するだろう。私を含めてな。だがBは無残な結果を迎える。さてもう一度同じ事を聞こうか」

 

真っ直ぐ一夏の瞳を見据えて問う。

 

「正義感の強いBは何故、人間として許しがたいAから女を助けられなかったと思う?」

「......BがAより弱かった.....から」

「ならBはどんな過ごし方をしていれば女を助けられたと思う?」

 

一夏の頭に蘇る、嘗て姉に問われた言葉

 

 

『ちなみに守りたければ、これからはどう過ごせば良いと思う?』

 

 

「千冬姉ぇ.....」

「難しく考えるな一夏。思った事を口にすれば良い」

 

千冬は何処までも優しく微笑む。

 

「強く....強くなる。強くならなきゃ......守れないんだな?」

「さぁな? お前の人生だ、好きに生きろ」

 

其処まで言うと千冬は部屋の扉へ向かう。

 

「これだけは覚えておけ一夏。お前はまだ15歳なんだ。悩む事を恐るなよガキ」

 

―――バタン

 

「悩む事を恐るな.....か」

 

残っていたコーラを一気に飲み干す。

 

「まったく...俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

 

『高尚な言葉を放とうが、崇高な想いを持っていようが負けた時点でそれらはクソの役にも立たねぇ塵芥に等しいゴミクズに変わる』

 

 

恭一から放たれた言葉が思い出される。

 

(あの時はただ、馬鹿にされていると激昴したんだっけな....)

 

「負けた時点でゴミクズ....か」

 

耳が痛い。

何より、今まで気付かずに過ごしていた自分が情けない。

 

「強く....ならなきゃいけないんだな......あれ?」

 

其処まで想い終わると、ふと疑問が浮かんでくる。

 

「放課後の練習だけじゃ強くなれないのか?......んん?」

 

千冬に言われたように、悩んでみる。

 

「分からんッッ!! とりあえず明日千冬姉ぇに聞いてみるか」

 

勢い良く布団に潜り込んだ。

 

「恭一にも....聞いてみるか」

 

ブリュンヒルデの弟としてでは無く、織斑一夏としての一歩目をようやく踏み出した瞬間だった。

 

 

________________

 

 

 

「もう傷は癒えただろう! さっさと部屋に戻らんか小娘がッッ!!」

「ベッドに寝転がってる貴女の台詞じゃないでしょう!?」

 

世界で最高の姉さんは隣りの部屋で箒と絶賛醜い言い争い中である。

 

「頼むから寝かせてくれよー....」

 

寝て傷を癒したい恭一の声は虚空へと消えた。

 





少し時間くれって言ったダルルォ!?

OVAと一話だけ観たゾ。
まぁうん。
まぁ....うん。

てっきり臨海学校から帰ってきた処からスタートすると思ってたら、普通に夏休みだったんでこのまま書いていきますYO!!

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