野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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悩んでこその青春、というお話



第66話 道へ

時は少し遡る―――

 

 

「そろそろ消灯時間だが、今日は特別だ。外出を許可する」

「....えっ」

「見るのも、見ないのもお前の自由だ。好きにしろ」

 

それだけ言うと千冬は部屋から出て行った。

一夏は閉められた扉を見たまま動かない。

 

 

『此処に居る専用機持ち共からは擁護されたか? アイツを批難したか?』

 

 

先程のイーリスの言葉が頭にこびり付いて離れない。

 

「......恭一」

 

 

アイツが強い事なんて分かっていた。

 

 

セシリアとのクラス代表を決める試合。

素手で地面に亀裂を走らせる程の膂力。

さらに、後で箒から聞けばアイツはセシリアのレーザーを予測して前もって避けていた

と云う。

 

 

だからこそ許せなかった。

 

 

そんな強さを持っていながら真っ向からの勝負を避け、セシリアを精神的に陥れて勝利を得たアイツを。

 

 

アイツが間違っている事を、勝って証明したかった。

 

 

結果は一夏の惨敗に終わる。

認めたくない相手にたったの一撃で沈められてしまった。

それでも一夏は受け入れられなかった。

 

 

戦いの最中に話しかけて油断させようなんて小細工使ってまで勝ちたいのかよ。

 

 

クラス代表が発表された時もそうだった。

1人だけ無関係みたいな顔をして、他の事に没頭していた。

俺が話しかけても見向きもしない。

 

 

いい加減な奴だと思った。

 

 

シャルロットの正体が女だって分かった時だってアイツはそうだった。

困ってる彼女を前にアイツはいつも通り、我関せずの態度を崩さなかった。

我慢の限界だった俺は、今まで思っていた事をアイツにぶちまけたんだ。

 

 

『いつも問題ばっか起こして...ISの戦闘だって、相手を挑発してから戦おうとする卑怯な手を使う! お前みたいに何も苦労せずにヘラヘラ生きてる奴には俺やシャルルみたいな人間の気持ちは分からないんだろうな!!!』

 

 

アイツは何も言わなかった。

俺はもうアイツが何を考えているのか分からなかった。

その思いは、アリーナでの事件で加速していく。

 

俺はラウラにボロボロにやられていたセシリアと鈴を助けようとしたんだ。

でもアイツは邪魔をしてきた。

アイツの行動がまるで理解出来なかった。

ラウラは明らかに試合の域を超えていたんだ。

傷付いた2人を助けたいって思うのは当然だろ。

 

 

『これは私の戦いです! 他人の出る幕じゃありませんわッッ!!!!』

『お前の意地、確かに感じたぜセシリア』

『恭一さん...貴方はそこでじっくりとご覧になってなさいな....このセシリア・オルコットの勇姿をッッ!!!!!!!』

 

 

俺は2人が理解出来なかった。

どうして2人共笑っているんだ。

俺が可笑しいのか?

俺が間違っているのか?

アリーナから恭一が出て行った後、其処に居た皆がアイツの行動を批難し、俺が正しいと言ってくれた。

 

 

やっぱり俺は間違っていないんだって思えた。

 

 

タッグ戦でもアイツは変わらない。

ヘラヘラしてると思ったらパートナーのラウラを痛め付け、卑怯な手に挑発。

案の定、皆がアイツを否定したんだ。

なのに―――

 

 

『ラウラは...無事なんですか?』

『ええ、渋川君のおかげで』

 

 

アイツに何か言わないと気が済まなかった。

殴る気なんて無かったんだ。

でも廊下でアイツを、アイツ達を見た瞬間頭が真っ白になったんだ。

笑っていた。

アイツも箒もセシリアもシャルロットも楽しそうに笑っていた。

俺は頭が真っ白になったんだ。

 

 

数日経ち、気が付けばラウラがアイツに懐いているのを見るようになった。

アイツに憎まれ口を叩いていたシャルロットも、いつの間にかよく話けているようになっていた。

 

 

あんな事をされたのに、何でアイツ達は...。

俺が可笑しいのか?

俺が間違っているのか?

 

 

『守りたければ、これからはどう過ごせば良いと思う?』

 

 

分からねぇ。

千冬姉ぇが何を言いたいのか俺には分からなかった。

 

 

『お前の女々しい言い訳に同調する奴なんざ、お前と同じアマチュアだけだ』

『此処に居る専用機持ち共からは擁護されたか? アイツを批難したか?』

『これが現実だ少年。今のオメーの言葉なんざ唯のクソなんだよ。現に此処に居る奴らは、これだけ私に責められているお前を一切庇おうとしねぇだろが』

 

 

俺が可笑しいのか?

俺が間違っているのか?

分からねぇ....分からねぇよもう.....。

 

それでもこれだけは、どうしても俺は納得出来ないんだ。

 

「......卑怯を嫌って悪いのかよ」

 

俺とアイツは違うんだ。

 

(恭一の戦いを俺が見ても......)

 

想いとは裏腹に身体は出口へ向かう。

 

 

________________

 

 

 

「見てどうしろって言うんだよ、千冬姉ぇ....」

 

一夏が着くと、まさに試合が始まった処だった。

砂を目晦ましに使われたキッカケから、恭一が攻撃を貰い吹き飛ばされていた。

 

「き、汚ねぇ!!」

 

思わず口から出てしまった。

 

「アイツ...何で笑ってられるんだよ....」

 

無意識に恭一がやられた事を自分と想定してしまう。

 

(汚いって言葉が勝手に出てきた。俺なら.....多分イーリスさんを睨む......と思う)

 

一夏の想いを余所に、試合はさらに白熱していく。

一夏は目が離せなかった。

2人のハイレベルな攻防に惹きつけられた訳ではない。

事実、イーリスでは無く恭一だけを見ていた。

 

(笑っている。楽しそうに.....楽しそう、だって?)

 

そうだ。

思えば、アイツはいつも笑っている。

何時だって楽しそうに過ごしている。

 

 

『飛んでんだぜ今、俺たち空をよ!? やっぱり翼だぜコイツは!!』

『貫いてみせろセシリア』

『さあ...闘ろうぜ!』

『温泉か...旅行の定番ってヤツらしいな!』

 

 

学園でも試合中でも臨海学校でも.....今、この瞬間も。

 

俺は......どうなんだ?

IS学園に入学してから、恭一みたいに過ごせているのか?

 

―――ゾクッ

 

身体が震える。

 

(...俺はISで何がしたいんだったっけ?)

 

 

「「 ハァーッハッハッ!! 」」

 

 

試合を終えたらしいイーリスと恭一の楽しげな笑い声が聞こえてくる。

その声が今の一夏には、やけに遠く感じた。

 

「.....戻ろう」

 

言い知れ様の無い感情を胸に、部屋に戻る一夏だった。

 

 

________________

 

 

 

「ふんふふんふーん、ふんふふんふーん」

 

ウサギの耳がついたカチューシャが揺れる。

岬の柵に腰掛け、足をぶらぶらさせている女性は無邪気に微笑む。

月明かりが照らすその顔は、いつもと少し違っていた。

 

「こんな所に居たのか束」

「やあ、ちー....」

 

千冬の声に束が振り向く。

 

「ちゃああああああああッッ!?」

 

束が驚くのも無理は無い。

全身ズタボロで顔は絆創膏だらけの幼馴染が現れたら、さすがの束でも声を上げてしまう。

 

「な、何があったのさ?! ゴジラ?! 怪獣と戦ったの!?」

「......ある意味それよりもタチが悪い馬鹿共とな」

 

千冬は何があったのか、軽く説明する。

 

「く~~~~~~~ッッ!! まさか束さんがノスタルジックに浸っていた時にそんな面白い事が起こってたなんてッッ!!」

 

残念そうに、否、とても残念そうに地団駄を踏む束。

 

「束さんも参加したかなったなぁ」

「やめてくれ。お前まで混ざると本当に収拾がつかなくなる」

 

想像して青ざめてしまう千冬だった。

 

「ねぇ、ちーちゃん。姉妹って良いね」

「なんだ.....ノロケか?」

 

ニヤリ、と笑ってみせる千冬に対しニヘラ、と笑い返す束。

 

「ちーちゃんといっくんはどうなのかな?」

「......お前は何時からそんなお節介な事を言うようになった?」

「えっへっへー...今夜は何となくそんな気分なのさっ♪」

 

2人はお互いが背中を合わせて話す。

 

「一夏の生き方は一夏が決めれば良い。私が口を出すつもりは無い」

「キョー君の考えですなぁ」

「そう思っていたんだがな....やっぱり導いてやりたいとも思ってしまう。1人の姉として。だが....」

 

言葉を濁してしまう。

 

「いっくんはちーちゃん大好きっ子だもんねぇ。それっぽい事言えば何でも聞いちゃうんじゃないかなぁ」

「導いているつもりが、強制になってしまうと思うと.....私は」

「怖い?」

「....少しな」

 

2人の髪がそよ風で揺れる。

 

「束さんもね、怖かったよ。箒ちゃんと会った時」

「.......」

 

千冬は何も言わない。

 

 

―――試してみないと分からない。

 

 

「恭一の言葉か?」

「うんっ! これも1つの心理だって束さんは思うなっ♪」

 

(試す.....試す....か)

 

「まさかお前の言葉に感銘を受ける日が来るとはな」

「むー! それってどう云う意味かな、ちーちゃんっ!」

「想像にお任せする」

「むーっ!!」

 

しばらくの間、2人は幼い頃のようにじゃれ合った。

.

.

.

「ねぇ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」

「当然だ。毎日が楽しくて堪らないさ」

 

不意の問い掛けに笑顔で答える千冬。

 

「ふふっ....束さんもすっごぐ楽しいよ!」

 

岬に吹き上げる風が、微笑む二人を彩った。

 

 

________________

 

 

 

「.....ん」

 

薄らと瞼が開いていく。

 

「私...は....」

 

部屋の明かりは点いていないが、月に照らされているので視界は悪くない。

 

「おう、ようやくお目覚めか」

 

箒は声がする方に視線を向ける。

恭一はベッドの横に置かれた椅子を背に、外の景色を眺めていた。

 

(....そうか。私は姉さんと....そして気を失っていたんだ)

 

辺りをもう一度見渡すと、どうやら此処は自分が泊まっていた部屋では無いらしい。

 

「なぁしぶか.....」

 

箒が声を掛けると同時に恭一も振り返った。

 

「わあああああああああッッ!? なんだお前その顔!?」

 

絆創膏だらけの恭一に声を上げて驚く箒。

恭一は箒が寝ている間に起こった事を簡単に説明した。

 

「ぐっ...私が眠っている間にそんな楽しそうな事があったのか.....」

 

―――同時刻

 

「く~~~~~~~ッッ!! まさか束さんがノスタルジックに浸っていた時にそんな面白い事が起こってたなんてッッ!!」

 

篠ノ之姉妹によるシンクロニシティーが起こった瞬間だった。

 

場面は恭一達に戻る。

 

「あれ...此処ってもしかして渋川の部屋......なのか?」

「ん? ああ。さすがにボロボロのお前を部屋に戻すと騒ぎになるからな。此処で束さんが治療したって訳だ」

「そ、そうか.....」

 

恭一は立ち上がり、冷蔵庫へ向かい

 

「お茶買ってんだ。飲むか?」

「ああ、頂こう」

 

恭一からペットボトルを受け取り、喉を潤わせる。

 

―――ゴクゴク

 

ボトルを口につけている箒の視線に入り込んだ恭一は

 

 

「むにょーん」

 

 

「ぶうううううううううううッッ!!!! ゲホッゴホッ....」

「だあーっはっはっは!!! 吹いてんじゃねぇよ!」

「お前のせいだろうがッッ!!!」

 

 

飲み物を口に含んでいる時に変な顔するアホを見てはいけない。

 

 

「.....懐かしいな」

「あん?」

 

落ち着いた箒は何かを懐かしむように語りかける。

 

「私がいつも不機嫌な顔をしてるって言ったお前は、今みたいなアホな顔して私を笑わしてきたっけ」

「ああ.....そんな事もあったな」

 

私はあの時からコイツに惹かれていたのかもしれない。

 

「あ、あのよ....篠ノ之」

 

少し申し訳なさそうに話しかけてくる。

 

「どうした?」

「あーっと....昨日、その...誕生日だって、束さんから聞いてな.....わ、わりぃ。プレゼントまだ用意出来てねぇんだ」

 

親に怒られた子供のような顔でこっちを伺ってくる恭一に笑いが込み上げてきた。

 

「くくっ.....お前でも、そんな事気にするんだな?」

「ぐっ...柄じゃねぇってのは分かってんだがよ。そういうモンなんだろ誕生日ってのは!」

 

つい恥ずかしさを誤魔化すように声を上げてしまう恭一だった。

 

「なら...1つだけ私からお願いしても良いか?」

「おう! 俺はプレゼントなんかやった事ねぇからな! 言ってくれた方が助かるぜ!」

 

まだまだ女心を理解出来ていない恭一なのだが。

箒は思い返す。

目の前で何故か威張っているアホに恋心を自覚した日の事を。

 

(あの頃の卑屈な自分はもう居ない。私はやっとあの時想った事を言える)

 

 

「私の事を箒と...箒って呼んで欲しい。私はお前を恭一と呼びたい」

 

 

自然と箒の手は恭一の手に重なっていた。

 

「......分かった」

「今、呼んでみてくれ」

「お、おう!」

 

恭一も箒の手を優しく握り返す。

 

「........ぅき」

 

か細いってレベルでは無かった。

 

「小さすぎる。聞こえないぞ! きょ......きょ.........ぃち」

「お前だってミクロ世界じゃねぇか! アリンコかお前ッッ!!」

「誰がアリか!」

 

「「 ぐぬぬぬぬ 」」

 

いがみ合う2人の手は既に放れてしまっている。

 

「ぷっ....」

「くくっ.....」

 

自然と笑い合う。

 

「なぁ...恭一」

「なんだ、箒」

 

2人は隣り合わせに窓から外を眺める。

 

「....楽しいな」

「ああ、本当にな」

 

今は唯、この距離を愛しむ。

 





くぅ~疲れましたw これにて完結です!
思いつきで書き始めた初小説がこんなにも多くの方に読んで頂けて感無量です!


...じゃあ俺、ギャラ貰って帰るから(2期のアニメまだ1話も観てないって言ってんの!)

少し時間下さい(観るとは言っていない)

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