野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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試合は良いが喧嘩はいけない、というお話



第65話 流儀

「.........」

 

(ふむ。部屋へ着いてからもずっとこの調子だな)

 

イーリスからの有難い(?)御高説を頂戴した一夏は何も言わず、俯いたままである。

千冬は時計を確認すると立ち上がり、部屋のドアまで移動する。

 

「一夏」

「.....千冬姉ぇ」

 

敢えて千冬も何も言葉を掛けなかったが、此処に来てようやく声を掛ける。

 

「そろそろ消灯時間だが、今日は特別だ。外出を許可する」

「....えっ」

「見るのも、見ないのもお前の自由だ。好きにしろ」

 

それだけ言うと千冬は部屋から出て行った。

 

「......卑怯を嫌って悪いのかよ」

 

それは誰に向けた言葉なのか。

 

(恭一の戦いを俺が見ても......)

 

 

________________

 

 

 

「......貴様ら、覚悟は出来てるんだろうな?」

 

ゴゴゴ、と背後から不穏な音が聞こえてきそうな千冬の前に少女2人は震え上がるが歯を食い縛り

 

「お、お願いします織斑先生! 罰は受けます故、どうか此処にいる事を許可してください!」

「きょ、教官! 私もセシリアと同じ気持ちです! あの2人の戦いを見てこれからに繋げたいのですッッ!!」

 

セシリアとラウラは頭を下げて懇願する。

 

「.....はぁぁぁ。帰ったら反省文だからな」

 

長いため息と共に千冬も折れる。

 

「「 はいっ! 」」

 

「ふふふ...しっかり若い芽が育ってるわねぇ」

 

それを見ていたナターシャは何処か嬉しそうだった。

.

.

.

千冬達が見守る中、ISを纏った2人は既に対峙している。

 

「千冬から聞いたぜぇ。至極あっさりと了承したらしいじゃねぇか。オメー、アメリカ代表をナメてんのか?」

 

そんな事は問うたイーリス自身がよく分かっている。

恭一からは一切の過信が伺えない事を。

ましてや、自分を軽く見据えている事など無い事も。

 

だからこそ、敢えて聞いてみた。

何て答えるのか興味を持った。

 

「やりてぇ奴はやりてぇ時にやれば良い。受ける方は何時だって受けたら良い」

 

 

―――滾ってンのはアンタだけじゃ無いんだぜ?

 

 

そう笑う恭一にイーリスも声を上げて笑う。

 

「くくくっ...やっぱいいなぁお前!! もう我慢できねぇよ....いっちゃうぜ? マジでよぉ!!」

 

 

―――試合の幕が切って落とされた

 

 

「そらぁ!!」

 

恭一から少し離れた所でイーリスは砂を蹴り上げる。

 

「ッッ!!」

 

砂による目晦ましを廻し受けで打ち払う。

 

(胴体ガラ空きだぜ少年!!)

 

勢いを殺さず向かってきていたイーリスは膝を入れ込む。

しかし、予測していた恭一は瞬時に両腕をクロスさせ、防御に成功。

 

(コイツっ! なんてェ反応速度だよ!?)

 

「だが....なぁ!!」

 

防御されてもイーリスはお構い無しに飛び上がり、身体を横へ捻り込み頭上から蹴りを

 

「ッシャアアッ!!」

 

狙うは恭一の後頭部。

 

(この動き.....『王龍』かっ!?) 

 

クロスさせていた腕をそのまま頭上に持っていく事でまたもや防御に成功したが、イーリスは笑っていた。

 

(膝打ちが防がれた時点でこうなるこたぁ.....分かってンだよッッ!!)

 

防がれた蹴りに上から圧力をかけ、空いているもう片方の足で胴を打つ。

 

「ぐっ......ッッ!!」

 

防御し損ねた恭一は蹴られた衝撃で後ろへ吹き飛んだ。

砂塵が舞う中、イーリスは高らかに張り上げる。

 

「私を唯の猿真似だと思ってンじゃねぇぜ少年? ちゃんとアレンジさせて貰ったよ」

.

.

.

「なっ....あの方は私達の模擬戦では蹴りなど使わなかったのに?!」

「むしろ、堂に入っている...こっちが本来の戦闘スタイルと云う訳か」

 

セシリアとラウラも驚愕していた。

 

(何を思う恭一...)

 

砂塵の中で、中々起き上がらない恭一を千冬は見ていた。

.

.

.

「オイオイ...さっさと起き上がって来いよ少年。こんなんで終わりな訳ねぇだろ?」

「くくっ...クァーハッハッハッ!!」

 

寝たままで笑声を上げる恭一を訝しむ。

 

「何がオカシイんだ? あんなんで壊れちまったって事はないだろう?」

 

ゆっくり立ち上がる恭一に対して、イーリスは油断は無く構えも崩さない。

 

「久しぶりに心躍る闘いだ。武道家にとってこんな嬉しい事があるかい?」

「なら...私をがっかりさせンじゃねぇぜ少年ーーーッッ!!!!!」

 

迫り来るイーリスを前に身体をダランとさせたまま恭一

 

「なんだぁ!? 戦意喪失かぁ!?」

 

―――間合いに入った!!

 

「がッッ!?!?!?!」

 

腹部に強烈な衝撃を受け

 

「ぐうううううッッ!!!」

 

先程の恭一と同じように後方へ吹き飛ばされた。

 

「ガホッ.....な、何をしやがったテメェ....ぅん?」

 

視界が良好になるや、恭一の姿に違和感が。

 

「部分解除....してるだと.....いつの間に.....ッッ」

.

.

.

「見えたかお前達」

 

横で観戦していた千冬がセシリア達に問いかける。

 

「い、いえ....」

「辛うじて足が薄らと...」

 

実戦経験を多く持つラウラで何とか見えた位だった。

 

「千冬は見えてたの? 正直言って私も見えなかったんだけど...」

 

ナターシャも何故イーリスが吹き飛んだか分かっていない様子だ。

 

「あれは『無影脚』。自然体のまま予備動作が無く高速で放たれる蹴り、だ」

「おお! さすが教官です!」

 

千冬の解説に瞳を輝かせるラウラ

 

(...あれを生身で喰らった私は.....ううっ...思い出したくない)

 

恭一の前で吐瀉物を撒き散らしてしまった事を未だに悔やんでいる千冬だった。

.

.

.

既に恭一は解除されていた右足を再び纏わしている。

 

「コーリングさんは蹴りが得意なのかい?」

「得意っつーかよぉ...なぁんかパンチよりも好きなんだよ....」

 

自分が蹴りを喰らった事を彼女もようやく理解した。

 

(焦るな...よく目を凝らせッッ!!)

 

「今度は俺からいかせてもらうッッ!!」

「こいッッ!!」

 

己を奮起させるように声を上げるイーリス

 

「ふっ! シッ!!」

「...!......!!」

 

恭一から放たれる上段、中段の蹴りを躱し防ぐ。

 

(見えるッッ!! 反撃だ!)

 

「はああああッッ!!」

 

イーリスは威嚇の飛び後ろ回し蹴りを放ち、恭一を後方へ下がらせる。

 

「ふっ!」

 

そのまま水面蹴りを

 

「っ...!?」

 

恭一は跳び避ける。

 

「せりゃ!!」

 

息もつかせぬイーリスの中段二連前蹴。

 

「...!....!」

 

それを掌で上から被せるように弾き返す。

 

「まだまだいくぜッッ!!!!」

 

恭一に反撃させる暇を与えない、とばかりに蹴りの応酬。

イーリスからの中段蹴りを間合いギリギリまで下がって躱す。

 

(ここだッッ!!)

 

上段に蹴りを放つ絶好のチャンスが彼女に訪れた。

 

「ッッ!?」

 

しかし同じく恭一も上段蹴りで迎え打つ。

 

(ちっ...誘われたのは私って事かよッッ!?)

 

2人の脚がクロスする。

 

 

ガンッ!!

 

 

2人の脚に衝撃が駆け巡る。

 

 

上段蹴りvs上段蹴り

 

 

(くっ....なら下段だッッ!!)

 

二回の上段攻防から空かさず下段蹴りへ移行させるイーリス

 

「ッッ!?」

 

またしても恭一も同じく下段蹴りで迎え打ってくる。

 

ガンッ!!

 

2人の視線が絡み合う。

 

(根比べといこうじゃねぇか)

 

恭一の挑発的な瞳に

 

「上等だああああああああッッッ!!!」

 

イーリスも吼える。

 

 

下段蹴りvs下段蹴り

 

 

ガンッ!!

 

ガンッ!!

 

「ぐっ....」

 

ガンッ!!

 

ガンッ!!

 

「っっ....ッッ!!」

 

ガンッ!!

 

2人の脚がぶつかり合う度に衝撃で脚が折れたような感覚が奔る。

 

ガンッ!!

 

2人は下を一切見ない。

お互いがお互いを睨み合って脚を出し続ける。

 

ガンッ!!

 

(さっさと根を上げろよ少年ッッ!!)

 

ガンッ!!

 

(根比べなら俺が負ける訳にゃいかねぇんだよッッ!!)

 

ガンッ!!

 

2人の表情が苦痛に歪む。

 

 

________________

 

 

 

「本当によくやりますわ、お二人共...」

「見ているこっちまで痛くなってきたな」

 

セシリアとラウラも手に汗握り、いつの間にか顔を顰めてしまっている。

 

 

________________

 

 

 

「ぐっ.....くそがっ!!!!!」

 

ヒュンッッ!!

 

恭一の脚による風を斬る音が木霊した。

 

(俺の.....勝ちだッッ!!)

 

これ以上の衝撃を嫌い、先に脚を上げてしまったイーリスは後ろへ下がろうとするが

 

「.....なっ.....に!?」

 

蓄積された脚のダメージにより、身体がぐらつき、重心が崩れる。

 

―――ニヤリ

 

それを見逃す恭一では無い。

 

左足を踏み出し荷重をかける。

同時に右腕を左上方に振り上げ上体に捻りを入れる。

 

「はあああああああああッッ!!!!!!」

 

捻った反動を利用し、膝を横から振り上げ、上げた右腕を振り下げると同時に回転させた軸足を踏ん張らせる恭一が狙う箇所はッッ!!

 

(狙うはコーリングさんの―――ッッ!!)

 

「ちぃっ!!」

 

(軌道は読めてんだよ! 私の.....顎だ!.......ッッ!?)

 

下から迫る脚を腕で迎え撃つイーリスの表情が

 

「なっ!!?」

 

(蹴りの軌道が―――ッッ!?)

 

膝を内側に捻り込み無理やり軌道をかえた恭一の蹴りは

 

(狙うは側頭部ッッ!!)

 

 

斜め上からイーリスの頭に蹴り下ろされた―――

 

 

「ガハッッ.......」

 

 

―――ガクガクガクッ

 

 

膝から崩れ落ちる

 

「ヴィーキングッッ.....こいっ.....」

 

寸前で2本の剣を召喚し、足に力が入らない身体を何とか支える。

 

「はあっ....まだだぜ少年....シールドはまだまだ残ってンだよ」

 

(とは云え、思ってた以上に身体を蝕んできやがるッッ....)

 

「当然だ。貴女はまだ立っているからな」

 

(ちっ....少しは油断しろってんだよ、勉強しすぎだろこのガキ....)

 

恭一の全く変わらない闘気に思わず心の中で毒突く。

 

「1つだけ聞いていいか? ずっと気になってたんだよ」

「...どうぞ」

 

(回復だ....この間に息を整えろ....)

 

「何で少年は武器を使わねぇんだ? 格闘メインの私だってこの『ヴィーキング・ソード』を装備している。何か理由があんのかよ?」

 

回復も目的であるが、これもイーリスの本音だった。

 

「俺の流儀じゃ無いからな」

「ハッ......ガキが流儀ときたかよ」

 

恭一から次に放たれる言葉は此処に居る者達を抉る事になる。

 

「ブレードだの、レーザーライフルだの、衝撃砲だの、パイルバンカーだの、AICだの...そんなモンはお前達で共有すれば良い」

「.....おまえたち、とは?」

 

 

―――俺を除く総てだ

 

 

「オメー以外の.....総て....だと」

「俺以外の生物は、勝手に創意工夫してりゃ良い。弱者は弱者らしく肉体以外の武器に頼ってろ」

 

 

________________

 

 

 

「ちょっ...ちょっと! 今あの子とんでもない啖呵切ったわよッッ!?」

「くっくっ....恭一らしいな」

「いや何で其処で笑ってられるのよ千冬!」

 

「...先程の言葉、お前はどう受け取るセシリア?」

「アーアーキコエナーイ」

 

ラウラの問い掛けに、耳を塞ぐセシリアだった。

 

 

________________

 

 

「あんま調子乗ってンじゃねぇぞガキが....」

 

幾分回復を経たイーリスは『ヴィーキング』を手に構える。

 

「くくっ....」

 

殺気を抑え切れないイーリスを前に恭一は纏っていたISを全解除させ、大きく両腕を広げた構えを見せる。

 

―――ビッ...ビリビリッ

 

着込んでいた服が破れ散り

 

 

「調子こかせてもらうぜッッ!!!」

 

 

鍛え抜かれた上半身がイーリスの前に晒された。

 

「.....おおおっ...」

 

思わず見蕩れてしまったイーリスを前に恭一は笑う。

 

「俺だって武器をちゃんと装備しているさ。この五体全てが俺の自慢の武器だ」

「ククク...」

 

恭一の啖呵にイーリスは笑みが込み上げくる。

そして

 

「ククク...」

 

恭一も。

 

「フフフフ.....」

「フフフフ.....」

 

「「 ハァーッハッハッ!! 」」

 

一頻り笑い終えたイーリスは

 

「さっきまでありがとうよ『ファング・クエイク』」

 

恭一と同じように身にまとっていたISを解除させる。

そんな彼女の姿に

 

「試合はここまで.....って事で良いんですね? コーリングさん」

「確かに...試合は此処までだ。少年」

 

―――ぐにゃぁ...

 

2人の間に歪みが生じる。

 

 

________________

 

 

 

―――ザッ

 

それまで見ていた人影が走り去って行くのを千冬は気付いていた。

 

(一夏...お前はアイツの闘いから何を感じた?)

 

消えていく一夏の背中から視線を戻し

 

「はぁ...さすがに此処からは止めざるをえんな」

 

恭一とイーリスの距離が狭ばる前に千冬は2人へ駈けて行く。

 

 

________________

 

 

 

(私は何で軍に入ったんだっけ...ISに乗るためだったか....?)

 

違う。

私は強くなるために軍に入ったんだ。

イーリスは恭一をもう一度見据える。

 

「こっからは喧嘩だぜ少年」

「滾る....滾るなぁオイ...もう止まんねぇぜ、なぁ?」

 

2人が間合いに

 

「そこまでだッッ!!」

 

入る前に千冬が待ったを掛けた。

 

「私が許可したのはあくまでISでの試合だろう。これ以上は見過ごせんぞ」

 

何処までも正論である。

 

「今良い処なんだよ、引っ込んでてくれ千冬さん」

「説教は後で聞くからよ...下がってろや千冬」

 

だが2人は既にどうしようも無く熱くなっていた。

 

「あのな....そういう訳にいくか」

 

呆れた口調の千冬

 

「うるせぇぞ千冬。そんな融通が利かねぇからテメェはその歳でまだヴァージンなんだよ」

 

 

―――ブチッ

 

 

「殺す」

「うおっ...テメェ何しやがるッッ!?」

 

顔面に放たれた鬼のような裏拳を肘で受け止め、バックステップするイーリス。

 

「殺す」

「ハッ!! テメェが私の疼きを満たしてくれんのかよッッ!!」

「殺す」

 

構えるイーリスに飛び蹴りを放つ千冬。

 

(...バージンって何だ? バージニア州の事か?)

 

恭一ここで痛恨(?)の和訳ミス。

 

「オラァ!!」

「ッッ!!」

 

恭一そっちのけで殴り合う千冬とイーリス。

おいてけぼりを食らった狂者は

 

「.....フッッ!!」

 

2人の拳が重なり合う間に低空で飛び割り

 

「がっ.....ッッ!!」

「あぐっ....ッ」

 

爪先をイーリスの、返す刀で踵を千冬の、それぞれ土手っ腹にブチ込んだ。

 

「ぐっ....きょ、恭一.....」

「テ、テメェ.....がっ...」

 

膝を突く2人を見下ろし

 

「小競り合いしてんじゃねぇよ....オラ、まとめて掛かって来いやッッ!!」

 

何処までも傲慢に嗤う恭一

 

「こうなりゃトコトン暴れてやんぜッッ!!!」

「もういい! 貴様ら2人共、粛清してやるッッ!!」

 

三つ巴の喧嘩が開始されてしまった。

 

 

________________

 

 

 

「はわわわ....ど、どうしましょうラウラさん、織斑先生まで乱入しちゃいましてよッッ?! あ、あら? ラウラさん?」

 

セシリアの横に居たはずのラウラが居ない。

 

「ラウラさん? 何処ですの?」

 

キョロキョロ見渡すセシリアの肩を叩くナターシャ

 

「セシリアちゃん....ボーデヴィッヒちゃんはあそこよ」

 

ナターシャが差した指の先には

 

「私も混ぜろおおおおおおおッッ!!!」

 

3人の熱に当てられたドイツっ娘が飛び込んで行く姿

 

「ちょおおおおッッ!? ラウラさーーーーーーんッッ?!」

「セシリアちゃん、貴女はあんなアホ共みたいになっちゃ駄目よ?」

「あ、あははは....」

 

この後、恭一含む4人はナターシャに滅茶苦茶怒られた。

 





ぬわああああああん、疲れたもおおおおおおおおんッッ!!!!!
やんなりますよー戦闘描写ぁぁぁ(チカレタ)

早くイチャコラ書かせろって言ってんだYO!!

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