野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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旅行はテンションをおかしくする、というお話



第62話 襲来

―――臨海学校、数日前

 

「織斑、今時間あるか?」

「ちふ...織斑先生? 時間ならありますよ」

「そうか。なら少し付き合え」

「は、はぁ」

 

一夏は千冬に連れられ生徒指導室へやって来る。

 

「俺...何か悪い事でもしたんですか?」

「ん? なに、ここなら生徒も入ってこん。他の者には詮索されたく無い話だからな」

「はぁ...」

 

千冬がイスに腰掛ける事で、一夏も対面に座した。

 

「それで、話ってなんですか?」

「今は敬語を使わんでいい。此処へ入学してから3ヶ月が経った訳だが、お前の考えを一度聞いておきたくてな」

 

湯呑に手を伸ばし、お茶を入れる。

 

「お前はISに乗って何がしたい? 難しく考える必要は無いぞ、思った事を言えば良い」

「そんなの決まってるだろ? ISで皆を守るさ」

 

一夏は即答する。

 

「そうか。お前がそうしたいなら、私は何も言わんさ。お前の好きにすれば良い」

「...? おう! この力で千冬姉ぇも友達も守ってやるさ!」

 

千冬が淹れたお茶を美味しそうに飲む。

 

「ふむ...ちなみに守りたければ、これからはどう過ごせば良いと思う?」

「は?」

 

遠回しに言っても気づかんか。

恭一ならこんな時、どう言う?

 

『いや無理だろ。お前弱すぎ、ぷっぷくぷー』

 

「ぶはっっ!! ゲホッゴホッ....」

「ち、千冬姉ねぇ!? いきなりどうしたんだよッッ!?」

 

飲み物を口に含んでいる時にアホな想像をしてはいけない。

 

「だ、大丈夫だ...」

「鼻からお茶垂らして言われても説得力ないって」

 

顔を拭きながら千冬は考える。

 

(私が言ってしまうか? だが、一夏の生き方を私が強制する道理はない。うむむむ)

 

千冬は恭一と一夏を比べて優劣を付けるつもりなど一切無い。

育った環境から生き様から何もかもが違うのだから、比べても意味が無いと千冬は思っている。

 

(タッグ戦の話を持ち出しても、卑怯の一点張りで平行線を辿る事になるだろう。恭一を見返すために強くなりたい、などと思う事もこの環境じゃ期待出来そうにない)

 

千冬の見解は当たっていた。

 

タッグ戦が終わってから、一夏は以前にも増して他生徒から声を掛けられる事が多くなった。

 

『あんな卑怯な奴の事なんて気にしない方が良いよ!』

『織斑君はシールドだって減ってたもんね』

『敵だったボーデヴィッヒさんの事も気にかけてたし、織斑君は間違ってないよ!』

『女の子に優しい織斑君の方が正しいんだよ!』

 

一夏に声を掛けて来る者の思惑は色々だ。

慰めて一夏に取り入ろうと考える者、単純に恭一を悪く言いたい者など多種多様なのだが、問題なのは彼を諭す声が皆無だった事である。

 

誰も一夏に対し、直接悪く言う者が居なかった。

 

断固たる信念を持っていなければ、大衆の言葉に流されても仕方ないのかもしれないが一夏はどうなのだろうか。

世界でたった1人の男性専用機持ちとは云え、15歳の子供である。

 

残念ながら一夏は、自分が弱いから、と云う考えに至る事はなかった。

 

 

________________

 

 

 

一夏との話を終えた千冬は部屋に戻り、臨海学校の下準備をしていた。

 

―――プルルルッ

 

「...ナターシャ?」

 

着信音が鳴っている携帯を取り、耳に当てる。

 

『はぁい千冬。元気にしてるかしら?』

「お前から連絡してくるとは珍しいなナターシャ」

.

.

.

『あら...てっきり反対すると思ったのに』

「まぁ会えば分かるさ。処でお前に少し頼みたい事がある」

 

(これでアイツが何かを掴んでくれたら)

 

何だかんだ姉として少しばかり世話を焼いてしまう千冬だった。

 

 

________________

 

 

 

時は現在に戻り、合宿二日目。

 

今日は朝から夜まで丸一日が授業といっても過言では無い。

各種装備試験運用に、データ採集。

特に専用機持ちは大量の装備が待っているので大変である。

 

「ようやく全員集まったか」

「お、織斑先生。恭一さんと箒さんの姿が見当たらないのですが」

 

千冬の言葉にセシリアが挙手して指摘する。

 

「ああ、篠ノ之は体調不良で今日は欠席だ。渋川も諸事情により遅れる事になった」

「そ、そうですか」

 

1組と2組の生徒が心配そうにザワつく。

 

「体調不良だって...篠ノ之さん大丈夫かな?」

「うーん、しののんは夏風邪でもひいたのかな~」

 

パンパンッ

 

手を叩き前を向かせる。

 

「静かにしろ、今から簡単に最初の流れを説明する」

 

千冬の声に皆が静かに集中する。

 

「各班毎に振り分けられたISの装備試験を行って貰う。専用機持ちは別の場所へ移動してから専用パーツのテストだ。専用機持ちは私と山田先生に付いて来い。それでは各人、迅速に準備しろ!」

 

『 はいっ! 』

 

一同は返事をしてから、各々準備に取り掛かる。

千冬と真耶の前にはセシリア、ラウラ、シャルロット、鈴、一夏の姿が。

 

「よし、それでは私達も移動するぞ」

 

『 はいっ! 』

 

 

________________

 

 

 

「クロエ、篠ノ之のタオルを換える。濡らして持ってきてくれ」

「はい、恭一お兄様」

 

恭一は寝ずに箒の看病をしていた。

束はナノマシンで箒と自分の治癒作業を終えると、隣りのベッドでくーくー寝息をたてている。

 

「熱は......まだ少し高いか」

 

クロエからタオルを受け取ると箒の額に優しく乗せた。

 

「熱い姉妹喧嘩でしたね」

「ああ...正直、血が滾ったモンだ」

 

2人はようやく一息つく。

 

「お兄様はこれから授業へ出られるのですか?」

「んー...クロエも居るし、確かにもう俺が居なくても良いんだが。ぶっちゃけ装備とか今の俺にゃ関係ねぇしなぁ」

 

そう言いながら、部屋の隅に置かれてある将棋盤を持ってくる。

 

「やるかね?」

「ふふふ。私は強いですよ? 束お姉様に鍛えられてますからね!」

「それは楽しみだ」

 

クロエの言葉に恭一も笑顔で駒を小さな箱に詰めだした。

 

「???」

 

恭一の動作を不思議そうにクロエは見ている。

 

「...ほいっ!」

 

全て詰め終えると箱を素早く盤の上に被せ、静かに引き上げていく。

 

「んー、見事な『山』だ。そう思わんかねクロエよ」

 

将棋盤の中央に出来た駒の山盛り状態を前に得意気な恭一。

 

「は、はぁ...」

 

曖昧に頷く事しか出来ないクロエ。

 

「よし、どっちからいく?」

「???」

 

恭一の意図が分からず首を傾げる。

 

「将棋を指すのでは無いんですか?」

「将棋を崩すんじゃないのか?」

 

「「 ??? 」」

 

 

________________

 

 

 

「さて、ここでお前達は装備の試運転、データ採集を行う訳だが」

 

一夏達を前にして千冬は少し時計を気にする素振りを見せる。

 

 

キィィィィン

 

 

「....来たか」

 

千冬は上空を見上げ、皆もそれに習った。

 

「なっ....IS!?」

「て、敵襲ですのっ!?」

 

即座にラウラがISを纏い迎撃態勢に入るが、千冬が止める。

 

「安心しろ。今日のゲストみたいなものだ」

 

 

ブゥゥゥ....ン

 

 

ゆっくり地上へ降りてくる人物とは

 

「ふうっ...久しぶりね千冬! まーやんも元気にしてたかなっ?」

「ああ、元気そうで何よりだ」

「ま、まーやんはヤメてくださいよぅ」

 

ISを解除し千冬と真耶と言葉を交わしている。

 

「紹介しよう。こちらの方は『ナターシャ・ファイルス』、アメリカの軍に所属しているIS操縦者だ。見て分かっただろうが、専用機持ちでもありお前達よりも遥かにISを理解している。今回のアドバイザーとして来てもらったと云う訳だ」

「千冬と真耶とは懇意にさせてもらってるわ。そういう訳だから遠慮無く聞いてね!」

 

『 はいっ! 』

 

「よし、それじゃあまずは各自、専用パーツを展開・装備しろ!」

 

千冬の号令にそれぞれが動き出した。

そんな様子を見ながら

 

「イーリスはどうした?」

「えっ....あっ....あははは、どうしたんだろうね」

 

視線を逸らしながら言葉を濁すナターシャに近づく。

 

「私は言ったよな? 渋川に会うのは良いが、まずはこちらに来いと」

「ううっ...だって朝起きたら居なくなってたんだもん」

 

指をグルグルさせて言うナターシャ

 

「携帯があるだろう」

「あの子ったらご丁寧に電源まで切っちゃってるのよねぇ」

 

まいったまいったと笑っていた。

千冬は腕を組み、考える。

 

「直接、渋川の所に行っていると思うか?」

「...おそらく」

 

千冬は溜息をつき皆の様子をもう一度、見渡し

 

「山田先生、此処は頼んで良いか? すぐに戻る」

「は、はい。分かりました!」

「ナターシャも付いて来てくれ」

「まっ、当然よね」

 

2人は急いで旅館へ戻るのだった。

 

 

________________

 

 

 

「ちっ...訓練機の奴らの所覗いてもいねぇじゃねぇかよー」

 

イーリスは独り言ちていた。

 

「これじゃ何のために早く抜け出していたのか分かんねぇなぁ」

 

ナターシャから聞いた千冬の条件はこうだった。

 

渋川と接触するのは許可する。

ただし、まずはアメリカ代表者として専用機持ちの授業へ顔を出す事。

その際、軽く生徒達と模擬戦をして実力向上の手助けをする事。

 

この2点だったが

 

「雑魚とやっても面白くねぇんだよなぁ」

 

思い出すのは渋川以外の3人である。

 

「ドイツっ娘もフランスっ娘も、もう1人の男も弱すぎて話になんねぇよ」

 

自分は強くなりたいから軍へ所属している。

過酷な鍛錬は己を高めてくれるからだ。

 

「あーもう!! 喉渇いちまったよ。飲みモン売ってる処はどこだ?」

 

頭を掻きながら旅館へ入って行くイーリスだった。

.

.

.

「くぅぅぅ...外から入りゃ天国に感じるねぇ!」

 

エアコンの涼しさに感謝しながらロビーを抜ける。

 

「フゥーハハハハッッ!! 敵前逃亡とは堕ちたモンよな!」

「あん?」

 

廊下の角の方から男の声が聞こえてきた。

 

(...まさか)

 

目当ての人物がいるのでは?

そう思ったイーリスはコッソリ角から顔を出して覗いてみる。

 

「......なにやってんだアイツ....」

 

 

________________

 

 

 

「これでまた私の勝ちですね」

「ぐぬぬ...」

 

結局、恭一達は通称『将棋崩し』別名『山崩し』をしていたのだが。

 

「私の7連勝ですね、恭一お兄様」

 

勝負が始まってからクロエの全勝である。

 

「ち、違うんだって! 今のは間が悪かったんだよ!」

「駒を取っていくのに、間って何ですか...」

 

7回目にして言い訳のバリエーションが底を突いたようだ。

 

「......」

 

立ち上がり、部屋の出口に向かう恭一。

 

「何処かお出掛けですか?」

「おしっこ!!」

 

子供である。

.

.

.

「くっそー...何故勝てん。アイツはもしかしてその道の達人じゃないのか?」

 

気分転換にコーラでも買って戻ろうと廊下を歩く。

だが、恭一は嫌な予感しかしない。

 

「ペプシ買っちまう未来しか見えねぇ...」

 

頭を振り、気を取り直していざ自販機へ。

 

「...ん?」

 

自販機の前へやってきた恭一は何かに気付く。

 

「......んー?」

 

何度も何度も確認する。

 

―――ニヤリ

 

「フゥーハハハハッッ!! 敵前逃亡とは堕ちたモンよな!」

 

ペプシが並んでいないだけである。

余程嬉しかったのか、セシリア直伝の尊大ポーズまでとる始末。

そこに彼女のような気品さは伺えなかった。

 

一頻り高笑いした後は、両手をニギニギさせ

 

「俺はコーラの神に愛されている、間違いない」

 

ふんふふんふーん

 

「おい」

「へ?」

 

ポチッ

 

「あ」

「ん?」

 

ガコンッ

 

 

 

「おんどれえええええええええええええッッッ!!!!!!!!!!」

 





不用意に声を掛けてはいけない(戒め)

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