ようやく暗い話から抜け出せそうなので初投稿です
「入門希望者ですか?」
「いや、ここの道場で一番強い奴に話を聞きに来た」
「...お名前は?」
「九鬼恭一」
「!?...少々お待ちください」
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「.........」
呼ばれて道場に入った恭一を待っていたのは、20人程の道着を来た男達だった。
「おいおい、こんなガキが噂のキチガイ君なのかぁ?」
「ああ、間違いねぇよ。聞いてた特徴通りだ。しっかし全国の武道場を敵に回すとか頭沸いてんじやねぇの?」
「.....」
「おいおい、さすがの道場破りさんもこれだけの人数相手じゃびびって声も出せねぇか?」
「「「ぎゃははははは!!」」」
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「すっすいませんでした...勘弁してくださいっっ」
「ゆ、許してください...ほ、骨が折れてるんですっっもうやめっ」
「.......」
「やめて...やめっあっあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「ひっひいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
散って行く男達を尻目にため息をつく恭一。
「ここも外れか」
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何も考えず本能に従い生きてきた恭一は、神崎との1件から少し変わった。
自分を負かしてくれる強者を探し求めたのだ。
それは何故か?
喰うか喰われるか。
野生の世界で生きてきた恭一は、自分より弱い者の言葉など信じる事が出来なかった。
どれだけ素晴らしい言葉でどれだけ理に適っていようが、それを発した者が自分より弱ければ即ち嘘になった。
強さを教えてくれ。
力を教えてくれ。
---俺を...納得させてくれ---
少し成長した野生はもがき苦しんでいた。
まるで人脈の無い恭一が強者に会うために考えついたのが、全国各地にある道場に真っ向から喧嘩を売ることだった。
日本拳法、空手、柔道、柔術、合気、剣道、ボクシング、相撲、レスリング、ボクシングetc...。
やり方は至ってシンプルだった。
道場に行き、その中で一番強い奴を探し襲った。
有無を言わさず。
その際、邪魔をする者もついでに潰した。
完膚無きまでに。
そんな事を毎日繰り返していたら、いつの間にか格闘技界で有名になっていた。
悪い意味で。
---鬼のように強いキチガイ---
と言われていた。
当然である。
さらに最近ではもう最初の問答すら面倒がり、道場に入るや否や全員を無言で屠るようになったせいで『九鬼恭一お断り』の札を掲げる道場まで出てきてしまった。
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『全国道場巡り』を初めてから早三年。
数え切れない程の場数を踏んだ結果、自分を負かす者を求めているにも拘わらず皮肉にも恭一の実力は意図せず精錬されていた。
「腹減ったな...飯でも食いに行くか」
恭一は今田舎の方に来ており、人通りの少ない散歩道を歩いていた。
「こっちの方は涼しくて過ごしやすいな」
澄んだ青空を見上げながら歩いていた恭一は一人の男とすれ違った。
---ドクン---
「!?!?!」
なんだ今の感じは...俺は何を感じた!?
そう思ってるうちにも男との距離は離れていく。
「くっ...ちょっ、ちょっと待ってくれそこのアンタ!!」
すたすたすた
恭一の声が聞こえていないのか男は構わず進んで行く。
人付き合いの無い恭一はどうすれば良いか悩んだが、とにかく男を止めない事には話にならないと思い、走って後ろから方を掴んだ。
---瞬間
「え?」
投げ飛ばされていた。
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「がはッッ」
受身を取る事さえ許されない速さで背中から地面に落とされ、一瞬呼吸が止まるが、男の顔を凝視する。
「んん?なんだおめぇさん邪魔だどけ」
男は投げ飛ばした事に対して詫びを入れる処ろか、恭一に対して進行方向の邪魔だと言い切った。
「ぐっ...いきなり肩を掴んだ事はすまなかった。だがアンタ別に耳が遠いわけじゃないだろ?俺は声をかけただろうが」
そう言いながら恭一は男の見た目から情報を得ようとした。
(だいたい40歳前後か?服の上からでも引き締まった筋肉の存在が感じられる。重心の動きがまるで読めない...)
「進みたかったオイラ。止めたかったおめぇさん」
「あ?」
「進みたかったオイラが止まらなかったんは、おめえさんがオイラよりも弱かったからだろうよ」
「(ブチッ)...誰が弱いって?」
「おめぇさんだよ。ほれ話は終わりだどけ」
「どかしてみろよ...お・じ・い・さ・ん?」
「あんまり生き急いでんじゃねぇぞガキ」
「それでもあんたよりゃ、長生きするわなぁ」
「「.........」」
「...はぁ降参だ降参、オイラになんのようだい」
「ああ、実は---」
---ガッッ!!---
「!?...ほう。タイミングを外した掌底を予測しよるたぁスポーツマンでは無く、武術家か」
「....ぐうっ!!(何て重い打撃だ?!)...武術家じゃねぇよ。鬼だ!!」
「カカカっ!!おめぇさん鬼なんか!!おめぇさんが鬼なら、桃太郎たちもきび団子要らずだったろうよ」
中々キレの良い挑発を喰らった恭一は
「ぶっ殺すッッ!!!!!!!」
---異様に沸点が低くなっていた。
「はあっ..はあっ!!はあっ...クソっ...」
「おんやぁもう終わりかね?鬼ちゃん」
「ぐっ...」
すべての攻撃を紙一重で避けられ続けパンク寸前の恭一。
すべての攻撃を紙一重で避け続けピンピンしてる男。
---2人の格付けが完全に決まってしまった。
「はぁ...あんた一体、何者だ?」
「オイラかい?そりゃ当然、宇宙最強の男だぁね」
「...バカじゃねぇの?」
「あ、そうだ。鬼ちゃん今からオイラの弟子ね」
「はあ!?いきなり言ってんだアホか!!あと鬼ちゃんって言うんじゃねぇよ!!!」
「いやぁそろそろ弟子が欲しいと思ってたんだよ。オイラの道場は何部屋か空いてるからそこに住め」
「なに決定事項みたいに進めてんだよ!!俺はこのままで良いんだよ!」
目の前の男の強引っぷりに殺気を籠めて威嚇する恭一。
それを平然と受け止めた男は言った。
「弟子にしたいオイラと拒否したい鬼ちゃん」
言い終わるや否や、恭一が放ってた殺気が子供レベルと錯覚してしまう程の気配を男が放つ。
「ぐっ...」
「弟子になりたくないんなら、オイラに勝ってから否定しな鬼ちゃん。オイラはオイラより弱い奴の言葉なんかを無理やり納得する程落ちぶれてないんだよ」
「はっ...良いぜ。速攻だ...速攻でブチ抜いてやるよじじい。そん時はあの世に逝く事になるだろうがな」
「カカカッあんまり大きい言葉を吐くなよ鬼ちゃん。底が見えんぜ?」
「ぐっ...いちいち腹が立つなじじい!!」
気づいているだろうか。
この男こそ恭一が求めていた究極の存在である事を。
気づいているだろうか。
たった数時間で失われていた人間性が表面に出た事を。
気づいているだろうか。
今の自分が微笑んでいる事を。
「名前くらい教えてくれよ。じじい扱いは嫌なんだろ?俺は九鬼恭一ってんだ。まぁ好きに呼んでくれ」
「オイラかい?...勇次郎...範馬勇次郎。オーガでも良いぜ」
「オーガって何だよ。二つ名みたいなもんか?」
「いずれ分からぁな、カカカッ」
---これこそ、九鬼恭一が最も尊敬して止まない師匠との初めての出会いだった---
恭一くんは進化し頼もしい仲間も出来た!
やったぜ。