野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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レゾナンスなお話



第58話 搦手と絡め手

「―――ではSHRを終わる。ちなみに山田先生はさっきも言ったが、来週の校外実習のために現地視察へ行っているため今日は不在だ」

 

教卓での千冬の言葉に生徒が各々反応を見せる。

 

「山ちゃんいいなぁ、一足先に海かぁ」

「私も連れて行ってくれたら良かったのにぃ!」

「泳いでそう...泳いでそうじゃない?」

 

IS学園とは云え、通っている者は咲き乱れる花の女子高生達。

話題があれば一気に賑わう。

 

「いちいち騒ぐな、鬱陶しい。あくまで仕事で山田先生は行っている。まぁ言わなくてもちゃんと理解しているとは思うがな。それでは以上だ。今日もしっかりと勉学に励めよ」

 

朝のホームルームが終わると、教室の至る所で皆が楽しそうに話している。

内容はもちろん臨海学校についてだ。

そんな楽しそうな雰囲気の中、1人だけ沈みに沈んでいる男が居た。

 

「....でめめん....おまのえなー.....なかなかなー......」

 

人外語(?)を呟く恭一の姿に箒とセシリアは哀れすぎて、話しかける事すら躊躇っていた。

 

「...おーのほ....てぃむさこ.....」

「ちょ、ちょっとどうしたのさ恭一!? ベトベトンみたいになってるよ!?」

 

事情を知らないシャルロットが机でぬめるーん、となっている恭一に駆け寄り心配そうに声を掛ける。

 

「たらーきぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 

―――ガダンッ!!

 

「ひょわぁ?!」

 

突如、謎の言葉を叫び立ち上がる恭一にシャルロットは腰が引けてしまった。

 

「やめんかアホッッ!!」

 

―――ゴツンっ

 

暴走仕掛けた恭一の後頭部を後ろから箒がはたいて、恭一を正常に戻した。

はたかれた恭一は何も反応する事無く、イスに座ると

 

「.....ぽひぽひ...」

 

まだ治っていないようだった。

とりあえず、助かったシャルロットは箒に近づいて聞いてみる。

 

「な、何があったの?」

「臨海学校が終わったら、すぐに何がある?」

「え? えーっと....」

 

答えられなかったシャルロットに代わって

 

「期末テストがありますのよ」

 

3人の様子を見ていたセシリアが応える。

 

「ああ、テストね....ってもしかして、恭一って...?」

 

「「........」」

 

2人の沈黙が全てを物語っていた。

シャルロットはもう一度、恭一に視線を向ける。

 

「えむゆーえすしーえるいー...まっそぅー...」

 

(...何でマッスル?)

 

恭一を口撃する事に変な快感を覚えてしまったシャルロットですら、今の彼に対して茶化す事が躊躇われた。

 

実の処、恭一の学力はどの程度なのだろうか。

まずは前世から思い出してみよう。

前世で彼が所謂、勉強と云う行為の対象は『国語辞典』を読んだ事。

それのみである。

では今世ではどうだろうか。

2週間程、束にウルトラハイパー基礎を学んだ。

それのみである。

 

「し、心配するな渋川! 私が教えてやる!」

「そうですわ恭一さん! 私もお手伝いしますわ!」

「まぁこんな恭一は見てても面白くないしね。僕も教えるよ」

 

3人の厚意から来る申し出に

 

「ありがとうございます」

 

渋川恭一敬語で頭を深々と―――

 

((( 重症だ )))

 

 

________________

 

 

 

それから数日経ち、今日は日曜日である。

さすがに恭一も立ち直りを見せ、今では鍛錬と共に勉学に勤しむ毎日だった。

 

「確か...学園前で待ち合わせだっけか」

 

今日は箒とセシリアと共に水着を買いに、ショッピングモール『レゾナンス』へ行く事になっている。

 

「...確か10分前くらいに着いてた方が良いんだよな」

 

恭一は待ち合わせの時間よりも早め着くように部屋を出た。

.

.

.

「早いな、渋川」

「ふふふ、お待たせしましたわ恭一さん」

 

待っていた恭一に声を掛ける二人の姿が。

 

「おう! 俺も日々進化してるからな。女性と出掛ける時は男が先に待ってないといけないんだろ?」

 

フフン、と胸を張る恭一に対して、箒とセシリアは

 

「「 おおー 」」

 

―――パチパチパチ

 

惜しみない拍手を送った。

 

ちなみにそれを教えたのはクラリッサである。

ラウラが自分の父を部下に紹介したい、との流れから気が付けば恭一とクラリッサはメル友になっていた。

 

「んじゃ行くかね」

 

そう言って歩き出す恭一の左腕に

 

「ええ!」

 

セシリアが腕を組んでくる。

 

(くっ...やるなセシリアッッ!!)

 

負けじと箒も恭一の右腕に自分の腕を絡ませる。

 

「そ、それじゃあ行こうか渋川」

 

季節は七月を迎え、3人共薄着である。

箒もセシリアも人並み以上のバストの持ち主だ。

密着する事で、当然恭一の腕にムニムニと主張されるのだが、乙女の身体を張った作戦だったりする。

 

(恋愛に疎い恭一さんでも、これなら...っっ)

(は、恥ずかしい...だが、私も負けておれんのだ!)

 

そんな2人の思惑を知ってか知らずか

 

「なぁ2人共...」

 

恭一は不意に止まる。

 

「「 ??? 」」

 

「あっちーんだよ! アホかッッ!!」

 

「「 あぁ....うん 」」

 

無理やり腕を解かれてしまった2人。

チョロそうでチョロくない恭一だった。

 

 

________________

 

 

 

「あれ...恭一達じゃないか?」

「ん?」

 

レゾナンスに着いた3人は入口で、一夏と鈴と遭遇した。

 

「おう織斑と鈴か...会う時は簡単に出会うもんだな」

「俺達は今度の臨海学校での水着を買いに来たんだ」

 

どうやら目的は同じようだった。

箒とセシリアは表情にこそ出さないが、少しモヤモヤした気持ちになる。

 

『VTシステム』事件後に恭一を殴り飛ばした件について、一夏は結局謝罪しなかった。

恭一自身は「一発は一発だ。これでオアイコだな!」とまるで気にしてないのだが、少女達はそこまで達観していない。

 

一夏自身も自分の行動に非があるとは思っておらず、自分が殴った時に恭一も謝ってきた事だし許してやろうと、数日後には普通に話し掛けた。

 

「恭一達も水着を買いに来たのか?」

「おう。何でも自前で用意した方が良いって聞いたからな」

「なら、皆で行こうぜ」

 

その言葉に鈴が固まる。

鈴の気持ちを知っているセシリアは助け舟を

 

「まあまあ、折角2人でいらしたんでしょう? このまま―――」

「大勢で行った方が楽しいだろ?」

 

―――ピキッ

 

「アンタから誘ってきたんでしょうが! 最後までエスコートしなさいよ!!」

「な、何で怒ってんだ?」

「怒ってないわよッッ!! ふんっ」

 

すたすた行ってしまう鈴を慌てて一夏は追いかける。

 

「...さて、進化しているらしい恭一さんに問題を出してみましょう」

「なんだ?」

 

一夏と鈴のやり取りを見ていたセシリアが恭一に問いかける。

 

「先程、何故鈴さんは怒ってらしたと思いますか?」

 

セシリアの問いに箒も薄ら笑みを浮かべた。

 

(面白い事を聞くなセシリア。確かに渋川が何て応えるのか興味深い)

 

「コイツは...とびきりの難問だぜぇ...」

 

(( そうでも無い ))

 

セシリアの問いに

 

「うーん、うーん......」

 

少し悩んだ後

 

「鈴は織斑と2人で居たかった?」

「箒さん、判定を」

「及第点だな」

 

少し厳し目の評価だった。

 

 

________________

 

 

 

水着売り場に着いた処で恭一の足が止まる。

 

「ん? どうした渋川」

「いや、俺でも分かる。此処は男は入りにくい場所だろ...」

 

まずは箒とセシリアの水着から、と云う事で女性用の水着売り場の入口まで来たのだが、恭一は入りたく無いようだった。

 

そんな恭一を2人は悪戯な目で見るや両端から腕を組む。

 

「おっ、おい!?」

「此処なら暑くないだろう?」

「エアコンが良く効いてますからね。さぁ行きましょう!」

 

一体何処からこんな力が出るのか。

グイグイ引っ張られて行く恭一

 

「は、離せっ!! お、織斑あああッッ!!!! 助けてくれえええええッッ!!!!」

「ん...? 気のせいか」

 

近くの男性用売り場に一夏は居たが、恭一の声が届く事は無かった。 

.

.

.

「非道い目にあった...」

 

箒もセシリアも争うようにキワどい水着を手にしては、恭一に意見を求めてくる。

セシリアはまだ良かった。

臆面もなく堂々と聞いてくるので、恭一としても思った事を口に出せた。

 

セシリアとは正反対に箒は顔を赤く染めモジモジしながら聞いてくるので、さすがに恭一も意識してしまい、ゆでダコ2人の出来上がり状態だった。

 

(うーむむむむ...最近じゃ2人きりじゃなくても箒と居ると、なんかこう....なんかこう......なぁ?)

 

誰に同意を求めているのか。

とりあえず、気持ちを切り替えて男性用のコーナーに入って行く。

 

「遅かったな。何処に行ってたんだ?」

「...言いたく無い」

 

一夏と合流した恭一は早速水着を見ていく。

 

「んー...どういうのが良いのか分からん。織斑はもう決まったのか?」

「俺はコイツにするよ」

 

シンプルなトランス型の水着である。

 

「恭一もこれにしたらどうだ?」

 

そう言って手渡してきたのは一夏が選んだ水着と全く同じである。

 

「..............」

 

(俺、知ってる。こういうのペアルックの派生系だって。俺、知ってる)

 

「オレ、モウスコシ、サガス」

「何でカタコトなんだ?」

 

先に会計を済ませに行った一夏の事はさて置き、適当に見繕う。

 

「動きやすそうな...これで良いか」

 

水着を手に取り、恭一もレジに向かった。

 

「そこのあなた」

「ん?」

 

見知らぬ女性に恭一は声を掛けられた。

 

 

________________

 

 

 

お目当ての水着を買い終えた箒とセシリア、それに少し不機嫌な鈴に一夏も合流する。

 

「なぁ...渋川に話しかけてるのって誰だ?」

「話しかけられていると言うより...絡まれてませんか?」

 

2人の会話に鈴と一夏も視線を向ける。

確かに恭一は絡まれているようだった。

 

 

「この水着も一緒に買いなさい」

 

(...なにいってだコイツ)

 

名前も顔も知らない相手からの命令だった。

これも女尊男卑思想による歪みの一つと言える。

ほとんどの国で女性優遇制度が設けられた結果、男を道具のように扱う女性が増え、このように歩いているだけでも見ず知らずの女性から命令される始末である。

そしてそれに従わないと、非常に面倒な事になってしまうのだ。

 

(とりあえず両手両足バキ折って、両目抉り出して食わしてやるか...って駄目だろ。篠ノ之とセシリアも居るんだった。面倒事は避けねぇとな.....どーすんべ?)

 

その様子を見ていた一夏が助けに行こうとするが、3人から止められる。

 

「な、何で止めるんだよ?」

「アンタ...恭一の所に行ってどうするつもりなのよ?」

「あんな女ガツンと言ってやればいいんだよ!」

 

「「「 却下(よ)(だ)(ですわ) 」」」

 

3人は一夏を放さない。

 

「な、何でだよ!?」

 

一夏の抗議を無視して3人は話し出す。

 

「どう切り抜けると思う?」

「目にも見えない速さで気絶させるんじゃない?」

「恭一さん的にはそれが妥当ですわね...」

 

3人はどちらかと云うと、恭一ならどう対処するか気になっているようだった。

 

 

 

「は?」

 

女は素っ頓狂な声をあげる。

レジの近くに新商品として飾られている水着を手にして恭一はもう一度言う。

 

「貴女には是非これを着てもらいたい。これを買おう!」

「ふ、巫山戯てるのかしら? それってどう見ても...」

 

どう見ても子供用だった。

可愛らしいアニメのキャラクターがプリントされている、女の子が好みそうなフリフリの水着だった。

 

「貴方、私に向かってそんな態度なのね? 立場を分からせてあげようかしら?」

 

ニヤニヤと女は嗤う。

今は女性が強い時代である。

警備員を呼び、「暴力を振るわれた」とでも言えば問答無用で有罪が確定してしまう世の中なのだ。

 

「もう一度言うわよ? この―――

「これじゃなきゃ嫌だッッ!!! こーれー!!!! これがいいのーーーーーー!!!!! 買わせてよおおおおおおんッッ!!!!! お願いお願いお願いいいいいいッッ!!!!」

「ちょっ....」

 

「「「 ぶはッッ!!! 」」」

 

絵に描いたような地団駄を踏み、子供のように喚き叫ぶ恭一だった。

 

「頼むよう! これにしてよう! 買っていいよね!? 買っちゃうよ? 買っちゃうよーーーーーーッッ!!!! 同じヤツ2着買おっか! ペアが流行ってるらしいからね!」

「くっ...なんなのよコイツっ...」

 

まるで話が噛み合わない。

女は恭一を関わってはいけない類のモノだと思い、さっさと何処かへ移動してしまった。

 

イソイソと去って行く女の背中を見届けながら―――

 

「ふっ...敗北が知りたい」

 

満足気にそう呟く。

 

「あのー...本当にこの水着も買うんですか?」

 

店員が女の子用の水着を手に、確認してくる。

 

「買う訳ねぇだろッッ!! アホか!」

「で、ですよね。それではお会計の方が―――」

 

会計を終わらせた恭一は箒達と合流する。

 

「てっきり力でねじ伏せると思ったのだがな? お前にしては珍しい、というか珍妙なモノを見させてもらった」

「ふっ...搦手にも豊富さが求められるからな。ああいう撃退法もあるって事さ」

 

箒の言葉に恭一は笑ってみせる。

しかし納得しない者もいる。

 

「普通に断れば良かっただろ? あんな恥ずかしい真似して、皆に笑われてカッコ悪かったぞ?」

 

一夏の言葉にセシリアは少しムッとする。

 

「一夏さんならどうしましたか?」

「当然、断って終わりだ。あんな道化みたいな事できねぇよだせぇ」

 

(...貴方と他の男性は立場が違うんでしてよ)

 

心の中でセシリアが突っ込む。

 

「それにしても...なぁんで手を出さなかったの? アンタなら気絶させるなんてお手の物でしょ?」

「あーん? だから言ったろ、たまには別の―――

「箒とセシリアに迷惑かけさせないため?」

 

―――ギクッ

 

鈴の鋭い指摘に僅かに反応してしまった。

それを聞いていた2人は一気に顔を綻ばせる。

 

「セシリアッッ!!」

「分かってましてよッッ!!」

 

同時に恭一の両腕に自分の腕を絡めさせる2人。

 

「や、やめんか! 離れたまえ!!」

「い・や・だ!」

「い・や・で・す!」

 

結局恭一の抗議も虚しく、学園に戻るまでこの状態が続いたのだった。

 

 

________________

 

 

 

『はぁい千冬。元気にしてるかしら?』

「お前から連絡してくるとは珍しいなナターシャ」

『実はね―――』

.

.

.

「なるほどな、良いんじゃないか」

『あら...てっきり反対すると思ったのに』

「まぁ会えば分かるさ。処でお前に少し―――」

 

 

楽しい楽しい臨海学校はもうすぐである。

 




ちなみにシャルはラウラと千冬と真耶の4人で前日に水着を買いに来てます。

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