野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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スーパーヒーローじゃないのさ、というお話



第53話 嗚呼、心に愛がなければ

「たのもー」

「たーのもー」

 

献上品をぶら下げて、恭一と本音は整備室へ入っていく。

 

「これで居なかったらお笑い草なんだが」

「絶対いるよー」

 

自信満々に言い放つ本音を興味深そうに恭一は見る。

 

「へぇ、自信あり気だなのほほんさん」

「かんちゃんは放課後は、整備室にこもりっぱなんだよー」

 

そう言うとズンズン、奥の方へ歩いて行った。

簪の姿を発見した本音は声を掛ける。

 

「いたいたー、かんちゃ~ん」

 

ディスプレイに釘付けになっていた簪は声の方へ顔を向ける。

 

「...本音? と....ぶっ」

 

(ぶ...?)

 

思いも寄らない来客につい簪は恭一の事を『物体X』と口走りそうになった。

 

「ちゃんと話すのは初めてだな。俺は渋川恭一ってんだ」

「...知ってる」

 

不機嫌そうな顔で小さく答える。

 

(どうして彼が...もしかしてき、昨日の事で報復に...?)

 

毎日のように本音から恭一の意味不明な理由での暴れん坊っぷりを聞いている簪は、元来内気な性格と云う事もあり、少し腰が引けていた。

 

「昨日は騒がしくて悪かったよ。詫びと言っちゃなんだが、受け取ってもらえねぇか?」

 

(...抹茶アイス?)

 

「本音...貴女の差金?」

「違うよー、私はしぶちーにかんちゃんの好きな食べ物教えただけだい」

「.........」

 

無言で恭一から受け取る。

 

(わ、私も昨日は言い過ぎたって言わなきゃ...でも)

 

「用はそれだけ? 私はやる事があるから」

「...かんちゃん」

 

本音が寂しそうな顔で簪を見つめる。

 

(随分嫌われちまったみたいだな...まぁあんだけアホな事してりゃ当然か)

 

恭一も用は済んだと、『打鉄』のメンテナンスをするために離れようと―――

 

「......なっ!? こ、これはッッ!!!!!」

 

何気なしに置いてある筆箱に目をやった恭一が見たモノとは。

 

「...ウォーズマンキーホルダー......だとぉ.....」

 

(この世界にも『キン肉マン』が知られているのか!?)

 

恭一は思わず手にとってしまう。

 

(見間違いじゃねぇ...こいつは、やっぱ....)

 

「か、返してッッ!!」

 

恭一の手からふんだくるように筆箱を奪い取り、キッと睨む。

 

「...女の子が付けてたら悪い? 私が何を付けようと貴方には関係ない」

 

更識簪は自分の趣味を公言しない。

馬鹿にされると分かっているから。

 

(この人もどうせ皆みたいに私を変な目で...)

 

「見損なうんじゃねぇぞ小娘が」

「.....ッッ!?」

 

恭一から得体の知れない氣が放たれる。

 

「ひっ...」

 

簪は恭一が激しく怒っていると思い、後ずさる。

ちなみに当の本人は全く怒っていない。

それ処か久々に前世を思い出し、血が滾っていた。

 

(師匠から貰った『免許皆伝書』を思い出すな...この世界にゃ他にも存在してるのか? まぁ良い今はそれより、この高鳴りを...ッッ!!)

 

前世で師匠から恭一は数多くの『免許皆伝書』と云う名の漫画を授かった。

その1つこそが―――

 

「のほほん君ッッ!!」

「はっ! なんでしょうか、しぶちー隊長!!」

 

恭一のノリに付いていける数少ない存在である。

 

「周りに我々以外はおらんかね!? 確認してきたまえッッ!!」

「了解でありますッッ!!」

 

敬礼のポーズを取り、ピューッと走って行く。

 

「さて...更識簪」

「な、なに...?」

 

2人についていけず少し怯えが見える。

 

「鉛筆を貸せ...3本だ」

「え...?」

「持ってないのか?」

「も、持ってる」

 

恭一による謎の圧迫感に締め付けられている簪は、言われるがまま手渡すしかなかった。

簪から鉛筆を受け取ると、自分も筆箱から鉛筆を3本取り出した。

 

「.......?」

 

(鉛筆を...指の間に挟んで.....? 何だろう何処かで見たような...)

 

「しぶちー隊長ッッ!!」

 

本音が帰還して再び敬礼のポーズ。

 

「今現在、この部屋には私達しかおりませんッッ!!」

 

本音隊員(?)からの報告を受けた恭一は口角を上げる。

 

「そいつは僥倖.......ふッッ!!」

 

近くの物置に跳び上がった。

 

(なっなに!? 何する気なの!?)

 

ニコニコして見ている本音とは違い、簪は気が気でなかった。

 

物置の上でで両腕を上げる恭一。

その両手には3本ずつ、鉛筆が挟まれていた。

 

(あのポーズも...何か見覚えが......)

 

 

「100万パワー+100万パワーで200万パワーッ!!」

 

 

「ぶうううううううううううッッ!!!!!」

「おーっ!! 昨日観たヤツだーーーっっ!!」

 

恭一の高らかな声に吹き出す簪と嬉しそうに声を上げる本音。

 

「とうッッッ!!!!」

 

恭一は物置から大きくジャンプする。

 

「ってたかあああああああああああッッ!?!?!?」

「おーすごいすごーい!」

 

ジャンプしながらも口上は忘れない。

 

 

「いつもの2倍のジャンプが加わって200万×2の400万パワーッ!!」

 

 

天井付近まで到達すると、身体を上手く回転させる。

 

 

「そしていつもの3倍の回転を加えれば400万×3の―――」

 

 

(うそっ?! ほんとにッッ!?)

 

いつの間にか見入ってしまっている簪。

 

「いけー! しぶちーマーン!!」

 

天井を蹴り勢いをつけると同時に身体を捩り回転させながら落下してくる。

 

 

「これがッッ!! 1200万パワーのッッ!!!!!!」

 

 

「「「 スクリュードライバーッッッ!!!!!!! 」」」

 

 

3人の心が1つになった瞬間である。

 

 

―――ギュルルルルルッッ!!!!!

 

 

両腕を前に高速回転しながら地面へ―――

 

 

―――ドパァァンッッ!!!

 

 

突き刺さった瞬間に鉛筆は粉砕した。

 

「あっ...やっちまった」

 

普段の恭一ならこうなる事は予測済みなのだが、今回は余程気持ちが昂ぶってしまっていたらしい。

ポリポリ頭をかく恭一の元へ興奮気味に2人がやって来る。

 

「すごかったよしぶちー!」

「まさかあの有名なシーンの再現を見られるなんて...思わなかった」

 

両手をブンブンさせて喝采を上げる本音とは違い、あくまで簪は物静かな言い方だったが、瞳をキラキラさせていた。

 

「ふっ...楽しんで頂けたかね?」

 

2人の反応に気を良くした恭一も、つい劇団員のような振る舞いで応えた。

 

「貴方も...好きなの? その...」

 

オズオズ、恭一に問いかける簪に

 

「うん、大好きさ!」

 

(...ボロボロになるまで読み込んだし。実際結構好きだし)

 

その言葉で簪は初めて恭一の前で笑顔を見せた。

 

更識簪は自分の趣味を公言しない。

馬鹿にされると分かっているから。

 

しかし、目の前の男は次元が違った。

自分も知っているだとか、話を合わせてくれるだとか、興味を示すだとか、そんなレベルじゃなかった。

何と言えば良いか、もう途方も無かった。

 

「しぶちーも『キン肉マン』のアニメ観てたのー?」

「なにぃ...この世界じゃアニメまでやってるのか? 俺は漫画しか読んだ事ないぞ」

「この世界?」

「こっちの話だ」

 

(アニメは観た事無いんだ....そ、それならっ......あう.....い、言っちゃえ!)

 

「あ、あのっ渋川君!」

「ん?」

「ほ?」

 

簪の声に恭一と本音が顔を向ける。

 

「私...アニメのDVD全巻持ってて、その...良かったら渋川君も....」

「...あの動きを映像で観られるだと......」

 

(これは...新たな技の追求が出来るんじゃないか?)

(ドキドキ...)

 

「昨日もかんちゃんと一緒に観たんだよー、しぶちーも一緒に観ようよー!」

 

此処に来て本音が最高のアシスト

 

「お邪魔じゃなきゃ、俺も観せてもらって良いか?」

「う、うんっ!」

 

簪はヒーロー・バトル物のアニメが好きだ。

正義の心を持ち、時には悪と戦い、時には悪に染まった者までも正義の心を芽生えさせてしまう『友情』『努力』『勝利』が詰まった『キン肉マン』も彼女のお気に入りの作品の1つだった。

 

恭一は強さの探求のため、が最たる理由であり簪とは趣旨が少し違うのだが、何にせよ2人の間に友情が芽生えた事だけは確かだった。

 

「でも意外だなー、しぶちーも漫画とか読むんだねぇ」

「ふっ...子犬を助けるために電車を止めた事もあったな」

 

(ふふっ...テリーマンだ)

 

つい恭一の言葉に笑ってしまう。

 

「しぶちーなら本当にやりそうだから嘘かどうか分かんないよー」

「カッカッカ!! 信じる信じないはオメーらの自由だぁな」

 

一頻り談笑し終えた3人であったが、恭一の本来の目的はまだ果たせていなかった。

 

「危ねぇ...忘れる処だった。『打鉄』のメンテしなきゃ」

 

恭一は簪の隣りに座ると、メンテナンス作業を開始する。

 

「昨日は中途半端な処で終わらせて悪かったな。今日こそ綺麗にしちゃるけんの!!」

 

いつものように『打鉄』に話しかけながら、補修していく。

そんな楽しそうに作業する恭一を見てると、簪も穏やかな気持ちになってくる。

 

(...今日はいつもより良い気分でこの子を組み立てられそう)

 

本音が2人を見守る中、恭一の鼻唄をBGMに簪も作業にいつも以上に集中できた。

.

.

.

(......あの人は何してんだ?)

 

メカニカル・キーボードを打ちながらも、外からこちらの様子をコソコソ覗き込んでいる生徒会長の姿に恭一は溜息をつく。

 

(くぅぅぅぅ...簪ちゃんと恭一君......お姉ちゃんはどっちに嫉妬すれば良いのぉぉぉ...)

 

本音と簪は気付いていない。

恭一はどうするか悩む。

声をかけるべきか、否か。

 

「.........」

 

もう一度チラリと見てみる。

視線の先では、何やら楯無がくねくねしていた。

 

(...そっとしておこう)

 





さすがの簪ちゃんも『ウォーズマン理論』を見せられたら
打ち解けるに決まってるんだよなぁ

今回の話がよく分からない方は

ウォーズマン理論  で検索したら分かるかもYO!!

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