野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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場所を考えなさい、というお話



第52話 ファーストコンタクト

整備室へ着いた恭一とシャルロットは早速、自分のISのメンテナンスに取り掛かる。

 

「待ってろよ『打鉄』、今ピッカピカにしてやるからなぁ」

 

『ここにクリップをドラッグして、プロジェクトをビルドしてください』

 

「ほいほい」

 

『パルスのファルシのルシがコクーンでパージ』

 

「ほいほいほい」

 

流れるような手つきで打ち込んでいく恭一

 

「ふっ...嘗て俺を苦しめたスワヒリ語も今じゃ唯のスワヒリ語よ」

「そもそもスワヒリ語じゃ無いからね」

 

隣りでイチ早くメンテナンスを終えたシャルロットはそんな恭一の様子を見ていた。

 

(アリーナでの戦い、此処数日観察し続けた私生活で分かった事が幾つかある。まず恭一はISを纏っていなくても...もしかしたら纏っていない方が強いかもしれない規格外の存在だって事)

 

渋川恭一とはどんな男なのか、シャルロットは己と思議する。

 

(周囲を掌の上で転がす事が得意。格闘技に精通している。火種を好む。好きな食べ物はお肉。好きな飲み物は...よく買ってるペプシ?)

 

これじゃ駄目だ。

こんなの唯のプロフィールだ。

 

(弱点を探さなくちゃ...弱点...うーん......あっ...お菓子に釣られてたっけ)

 

そこまで思い描くと、シャルロットは1つの結論に至る。

 

(...とっても強い子供)

 

「ふんふふんふーん」

 

鼻唄混じりで作業を続ける恭一

 

(隙だらけだ...もし僕が今不意打ちを仕掛けたとしたら―――僕だってデュノア家に居る時に格闘技は叩き込まれたんだ。今なら...この距離なら―――)

 

シャルロットは我にも無く、重心が前に傾いていた。

 

「どうしたデュノア......好きな時に掛かってくるがいい」

 

―――ピクッ

 

「......えっ」

 

恭一は手を休めない。

 

「此処でも後手に回るのか? まっ、どうでも良いがね」

 

恭一はシャルロットを見ていない。

あくまでメインは『打鉄』のメンテナンスであり、自分の相手など片手間で足りる。

シャルロットにはそう聞こえた。

 

(見透かされている...)

 

恭一の横顔を見る。

一体、どこまで自分の行動は読まれているのか。

2手3手、いやその先まで考えても読まれてるような。

それでいて、何も考えていないような。

 

(...このままジッとしてたら呑まれるッッ!!!!! いくんだシャルロット!!)

 

「......ッッ!!!!」

 

(この距離なら外さないッッ!!!!)

 

シャルロットは自分を見ていない恭一の横顔に向かって右拳を繰り出す。

 

(躱さない!? このまま真っ直ぐ、入っ....!?)

 

シャルロットの拳は空を切り

 

―――ゾクッ

 

ビュンッッ!!

 

(横からッッ...肘!?)

 

既の処で躱す事に成功する。

 

「あぶっ....」

(あんなの喰らったら死ぬッッ!!!! ま、間合いをッ)

 

後ろに跳び距離を置こうとする。

シャルロットが跳んだ分だけ、恭一も歩を進める。

 

(取れないッッ...)

 

「くっ....ッッ!!!!」

 

(それなら左へッッ!!!!!)

 

後ろじゃ間合いを取れないと踏んだシャルロットは左へ身を躱す。

と、同時に恭一も左へ

 

(同時?! これも読まれたッ...ならッッ!!!)

 

―――ヒュッ!!

 

左へ移動した反動を利用して、右のローキックを恭一へ

蹴りに対し、恭一は上に跳び上がる事で避ける。

 

「...ここだッッ!!!」

 

(チャンスだ! 着地までは防御不能ッッ!!!)

 

シャルロットは左足を―――

 

(狙うは恭一のこめかみッッ!!)

 

「ッッ?!?!!?」

 

(もう右腕で防御してる!? これも読まれたッッ)

 

己の為す事全てを読まれ、後ろへ下がるしかなかった。

悔しがるシャルロットに、嗤い上げる恭一

 

「ハッハァ!!! 次は俺が攻める番だなッッ!!」

「...全部捌いてやるさ!!!!!」

 

(もうヤケだ!!!! 来るならこいッッ!!!!)

 

シャルロットが構え、恭一がゆっくりと歩みを進めようと―――

 

 

「うるさあああああああああああああいッッッ!!!!!!!!」

 

 

―――ビクッッ!!

 

 

テンションが上がっていた恭一とヤケっぱち状態のシャルロットは突然の怒鳴り声に肩を震わせた。

 

「こっ、ここはISを整備する所なの! あ、暴れるなら出て行ってッッ!!!!」

 

「「 ごめんなさい 」」

 

2人は頭を下げるしかなかった。

.

.

.

「「...........」」

 

見知らぬ少女に怒られた二人は静かに自分達が散らかした物を片付けていた。

 

「...デュノアのせいだよなぁ」

「どう見ても恭一のせいでしょ」

 

2人はボソボソと醜い擦り付け合いを始める。

 

「先に手を出したのはお前じゃないか」

「よく言うよ。僕が手を出した時喜んでたじゃないか」

 

段々と過熱していく。

 

「そもそも恭一から挑発してきたよね?」

「お前が明らかに重心を俺に向けてただろうが!!」

 

自然と声が大きくなる。

 

「何だよ! 恭一だってハッハーとか言ってノリノリだったじゃないか!!!!」

「ぶり返すなよ!! 恥ずかしいだろうがッッ!!!」

 

ここが整備室である事を早くも忘れている二人

 

「何さッッ!?」

「お前が何だよッッ!!」

 

 

―――ガンッッ!!!!!!

 

 

―――ビクッ

 

 

言い争っていた2人は強烈な音がした方へ顔を向ける。

 

「.............」

 

先程の少女が修羅の如き形相で睨んでいた。

 

2人は整備室から仲良く放り出されました。

 

 

________________

 

 

 

その日の夜

 

「どうしたのかんちゃん?」

 

ルームメイトの本音が少女に話しかける。

本音に話しかけられた少女の名前は『更識簪』と云い、生徒会長『更識楯無』の妹である。

 

「今日...初めて物体Xとしゃべったよ」

「おー、どんな事話したの? 教えて教えてー」

.

.

.

「何て云うか...本音の言ってた通り、子供みたいな人だった」

「でしょー? 見ていてすっごく楽しいんだよー?」

 

ほんわかした雰囲気で同調する本音に簪も少し納得してしまう。

 

「この前の試合でも思ったけど...あの人は、いつも楽しそうに笑ってるね」

「楽しまなきゃ損だーってよく言ってるよー?」

「楽しむ....どうしてあの人は楽しんでいられるんだろう.....」

「かんちゃん?」

 

簪の表情に陰りが見える。

 

(あの人も私と同じ。私の意思なんか関係無い。周りの人間に勝手にお姉ちゃんと比べられて勝手に好き放題言われる私と同じ...なのに......ッッ)

 

気分が落ちていくのが分かる。

 

「はぁ....アニメ観よ」

 

こんな時は大好きなアニメを観るに限る。

 

「おー、この前の続きからだよね?」

 

簪がセットしていると、本音も隣りに座ってくる。

 

「本音も観る?」

「観るよーっ!! えっと...確かこの前はミート君がバラバラにされちゃったんだっけ?」

「うん。ここから正義超人達が結束しだすんだよ」

.

.

.

「いけー! そこだー!」

 

テレビに向かって映っているキャラクターを興奮気味に応援している本音とは違い、その画面を見つめる簪は無表情なのだが、これでも十分に楽しんでいる。

 

(...しょんぼりしてたな、あの人。私もキツく言い過ぎたかも...)

 

そう思う事はあっても、何も行動はしない。

ただ、思うだけ。

簪はそんな自分が堪らなく嫌いだった。

そして、それを受け入れている自分の弱さも―――

 

 

________________

 

 

 

「う~むむむむむ...」

 

次の日の放課後、恭一は自分の席でとある事を考え、唸っていた。

そんな時、彼の席を横切る貴公子の姿が。

 

「あっ、おい待てぃ」

「へ?」

 

江戸っ子風味で呼び止められたシャルロット

 

「今日も整備室行くだろ?」

「え? どうして?」

 

首を傾げる。

 

「いや、昨日のメンテの続きに」

「恭一...ひょっとしてまだ終わってなかったの?」

「なに?」

 

シャルロットの目がキラリと光る。

 

「あんなに時間があったんだよ? とっくにメンテナンスし終えたに決まってるじゃないか」

「ぐぬぬぬぬ」

 

さも当然と言わんばかりのシャルロットの態度に苦虫を噛み潰したような顔になる恭一である。

 

「あれぇ? も・し・か・し・て...恭一はまだ終わってないのかなぁ?」

「ぬぬぬ...」

 

悔しそうな顔で反論出来ずにいる恭一に対して

 

(なんだろう、この湧き上がってくる感情は...僕より強い恭一がこんな...も、もうちょっとだけ意地悪言っても良いよね)

 

シャルロットは何処か妖し気な笑顔を纏っていた。

 

「しょうがないなぁ恭一は。僕が手伝ってあげよっか?」

「ううっ....」

 

(うわーうわー! これアウトだよ! 楽しんじゃったらいけないヤツだよー!!)

 

「ふ、ふんっ...俺も終わってるよ当然だろ」

「えーそうなのぉ? それじゃあ、何で僕の目を見ないのかな?」

 

拳を握り締めた恭一は、シャルロットをキッと見る。

 

「うっ...うるせぇバーカバーカ!」

「あっ恭一!?」

 

恭一は教室から飛び出していった。

 

「....行っちゃった」

 

『シャルロット・デュノア』、天敵『渋川恭一』に対し、ここに完全勝利ス―――

 

(いや、さすがにこんなんで勝ったなんて思わないよ...)

 

「ふふっ...見事な一本勝ちだったなシャルロット」

「箒...僕、恭一に悪い事しちゃったや」

 

恭一との試合(?)を観戦していた箒達が声をかけてくる。

 

「明日になればコロッと忘れてると思いますわよ?」

「むっ...恭一殿を馬鹿にするのはセシリアでも許さんぞ?」

「甘いですわねラウラさん。物事をグダグダ引き摺らない良い男、という意味でしてよ」

「そ、そうか! セシリアは恭一殿をよく理解してるんだな!」

 

セシリアとラウラの微笑ましい会話である。

 

「まぁもしアレならお菓子でも持って行けば機嫌が良くなると思うぞ?」

「...完全に子供に対する扱いだよねそれ」

 

しかし、箒の言葉に妙に納得してしまうシャルロットだった。

 

 

________________

 

 

 

「あーっ、しぶちーだぁ」

「おう、のほほんさんか」

 

廊下を歩いていると本音と遭遇した。

 

「何処へ行くの~?」

「売店に買い物にな」

 

そうだっ、と本音は昨日の事を恭一に話す。

 

「昨日、整備室で怒られたんだって~?」

「...何故知っている」

「怒った本人が私のルームメイトなのだぁ」

 

その言葉に恭一は

 

「仲良いのか?」

「マブダチだよぉ」

「なら、好きな食べ物は分かるか?」

「んー? どしてぇ?」

 

さすがに昨日の騒ぎは自分に非があると思った恭一は、今日も『打鉄』のメンテナンスに整備室へ行かなくてはならないので、詫びのしるしに何か買って渡そうと思っていたのだった。

その事を本音に説明する。

 

「かんちゃんはねぇ...抹茶が好きだから、抹茶アイスなんて良いんじゃないかなぁ」

「抹茶アイスか...ついでだ。情報をくれたのほほん君にも何か買って進ぜよう」

「わぁい!」

 

売店で目的の物を手に入れると2人は整備室へ向かう。

 

「...何故、のほほんさんも付いて来るのかね?」

「うんとねぇ...楽しそうだから!」

「さいですか。処でかんちゃんってのも、のほほんさんが付けたあだ名か?」

「そうだよぉ、『更識簪』だからかんちゃん!」

 

『更識』と云う言葉でようやく恭一は謎が解けた。

 

(誰かと似てると思ったが、なるほど...会長の妹さんだったのか)

 

「のほほんさんが居てくれると俺も心強い......ような気がするな? とりあえず、よろしく頼むよ」

「ほぉーい」

 

 

頼もしい味方と共に、いざ整備室へ

 

 





簪ちゃんメインなお話だと思った?
残念! シャルちゃんでした!


...じゃあ俺、ギャラ貰って帰るから(逃走)


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