野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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夢でもし逢えたら...素敵かどうかは私が決める



第48話 邂逅

「恭一! 大丈夫!?」

 

ラウラが気を失うとシャルロットが駆け寄ってきた。

 

「おう、それよりもコイツを頼む」

 

気を失っているラウラの首根っこを掴むとシャルロットに渡す。

 

「それは良いけど、恭一も保健室に行かなきゃ! 重傷なんだよ!? 平然としてる事に驚きだよ!!」

 

さあ早く行こう、と促すシャルロットなのだが

 

「いや俺は保健室には行かん」

「なっ、何言ってるのさ!!」

「僕のパパの知り合いに凄腕の医者が...」

「スネ夫はいいよッッ!! ほら行くよ!! 早く治療しないと治るものも治らないんだからねッッ!!」

 

ラウラを担いだまま腕を引っ張って行こうとするパワフルなシャルロットに対抗出来る程、今の恭一に余力は残されていなかった。

しかし、恭一は保健室に行く訳にはいかなかった。

ラウラとの戦いで自分が無茶をした自覚は持っており、このまま行くとカンカンに怒った千冬と遭遇するのは目に見えているからである。

 

「いや本当なんだって。顔に傷を持つ男が居てだな、小さなナリした女の子が助手の―――」

「ほう...その少女の名前はピノコと云うんじゃないか?」

 

絶対零度を纏った声がアリーナの入口から聞こえてきた。

恐る恐る恭一は声の方へ顔を向ける。

 

そこには―――

 

怒りに染まった顔で仁王立ちしている千冬を先頭に、箒達も待ち構えていた。

 

「ゲェーッ!! アシュラマン!?」

「...顔の種類は?」

「...笑い......かな?」

「怒りに決まっているだろうこの大馬鹿モンがッッ!!!!!!」

 

怒鳴られてシュンとなってしまう恭一に近寄ると

 

「小言は後だ。とりあえず保健室へ行くぞ」

 

恭一に肩を貸す格好になる千冬

 

「.....ぁぃ」

 

抵抗してこれ以上機嫌を損ねられたら困る恭一は為すがままである。

 

「他の者は織斑とボーデヴィッヒを頼む」

 

「「「「 はいっ! 」」」」

 

緊張の糸が切れたのか、アリーナから出ると恭一も意識が虚ろい始める。

 

「眠いのか?」

「はい...」

「それなら寝てろ。後の事は私がやっておいてやる」

「それじゃあ、お言葉に甘えますね...」

 

千冬を信頼している恭一はそこで意識を手放した。

 

 

________________

 

 

 

『鬼の子やーい!』

『うわっ鬼の子が泣いたぞー!』

 

これは...何なんだ?

私はあの男と戦って....

 

『二度と近づくんじゃないわよこの餓鬼っ!!』

『恭一...お母さんだけは味方だよ』

 

これは...あの男の記憶...?

 

『僕がお母さんを守るんだ!』

『イイコネ....キョウイチィィィ』

 

なっ....何をしている?!

 

『くるっ...しい.....おかあ......』

『バケモノがッッ!!!!』

 

おいッッ!!!! その手を離せッッ!!!!!

 

『どうしてアンタなんか生まれてきたのよ』

『うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!!!』

 

 

まるで後味の悪い映画を観ているようだった。

主人公は『恭一』と呼ばれる少年なのだろう。

矢継ぎに場面は変わっていくが、地獄とも言える日々の繰り返しを観せられていた。

 

 

母と呼ばれた者の亡骸の側で、最後の晩餐を楽しむ少年

空腹に耐えかね、幼虫を口に入れる少年

寒さを凌ぐために動物の死骸の皮を剥ぎ、包まう少年

 

目紛るしく映し出される場面だったが、1つだけ共通していた。

少年はいつも泣いていた。

 

 

「...これは......これが、あの男の過去なのか......?」

 

とうとう耐え切れずに、ラウラは目を背けてしまう。

 

「オイオイ...人のプライバシーを覗き見してんじゃねーよ」

「なっ....お前......」

 

ラウラの目の前には先程まで戦っていた『渋川恭一』の姿が

 

「これは...お前なのか?」

「んー...確かに俺だが......どうすっかなぁ」

 

正直に話しても良いものか。

恭一は少し悩んだが

 

『ここは夢の世界なんだろうし...まぁ別に良いか』

 

と結構軽いノリで自分に起こった事を打ち明かした。

 

「前世......転生.......」

 

恭一の説明を全て聞き終えたラウラは反芻する。

 

「折角第2の人生を貰えたんだ。見ての通り、楽しませてもらってるぜ?」

「楽しむ...確かにお前は楽しそうに戦っていたな」

 

どこか羨ましそうな目で恭一を見る。

 

「師匠と会うまではクソみてぇな人生だったからな。まぁ結局その後も『武』以外は何も分からん人生を過ごしてきたんだけどよ...だからこそッッ!!!!」

 

目の前の空気を切り裂くように拳を突き出す。

 

「この世界を目一杯楽しんでやんだよッッ!!! 何処までも好きに生きてやるぜ俺はな!!」

 

(目の前の男が羨ましい...こうまで本音で生きられる男が....でも、私は―――)

 

「私は...普通の人間じゃない......遺伝子強化試験体なんだ...私はお前のようにはなれ―――」

「普通じゃねぇとダメなんて誰が決めたんだ?」

 

ラウラの言葉を最後まで云う事を許さず、真正面から肩を掴む恭一

 

「えっ....」

「お前が楽しんでいけないなんて...誰が決めたんだ?」

「でっ、でも私はっ...私は試験管―――」

「関係あるかああああああああッッ!!!!!! お前の人生だろうが!! お前が本音で生きねぇでどうすんだ!?」

 

強く肩を握られる。

 

「いいのか...? 私も好きに生きても.....」

「それは俺が決める事じゃねぇよ。それも含めてお前の好きにすりゃ良いさ」

「...それでも、否定されたら.....」

「あ゛ぁ? そん時は力でねじ伏せりゃ良いだろ」

 

豪快にそんな事を言い放つ恭一を思わず呆れて見るラウラ

 

「...お前、今とんでもなく悪い顔してるぞ」

「オイオイ...俺が正義の味方に見えんのかよ?」

 

恭一はおどけてみせる。

 

「そう言えばお前は学園一嫌われているんだったな」

「カッカッカ!!! 早く悪の親玉を倒してくれる強い奴が現れてくれねぇかなぁ」

 

(楽しい...肩肘張らずに話すなんて、初めてかもしれん)

 

「私も....」

「ん?」

「私も本音で生きてみる...」

「...そうかい」

 

何処か楽しそうに頷く恭一の姿がラウラにはとても印象的だった。

 

 

________________

 

 

 

「......ここ.....は」

「気付いたようだな」

「...教官?」

 

保健室で目を覚ましたラウラを待っていたのは、彼女が敬愛する織斑千冬だった。

 

「全身に無理な負担が掛かった事で筋肉疲労と...打撲だな。しばらくは動けんよ」

「私は...あの男と...」

「ふむ...記憶は残っているのか。機密事項なのだが、お前には話しておかねばならんだろうな」

 

千冬はラウラに起こった事を一から説明していく。

 

「VTシステム....」

「まぁまさか『零落白夜』まで発動させるとは思わんかったがな」

 

千冬は苦笑いでそう言う。

 

「私は...」

 

(...本音で生きる)

 

「きょっ、教官!!!!!」

「ん?」

「わたっ...私は...っ....私は貴女と共にいたいッッ!!!!!!!!」

 

ドイツの教え子からのいきなりの告白(?)に唖然としてしまう。

 

「急にどうしたんだボーデヴィッヒ―――」

「私はもう自分を誤魔化すのをやめますッッ!!!! ドン底に居た私を救ってくれた貴女に憧れるのは悪い事なのでしょうか!? 貴女と一緒に過ごしたいと思うのは悪い事なのでしょうか!?」

 

捲る様に、それでも想いを伝えようとするラウラの熱意を感じた千冬

 

「...断ればどうする?」

「その時は...貴女をねじ伏せてみせます......ッッ!!!!!」

 

(怒られてもいい...それでもこれが私の本音なんだ!!)

 

「なっ.....」

 

この言葉、この目は自分がよく知る男と同じでは無いのか。

 

「くくっ....はっはっはっは!!!!!」

 

千冬はラウラの言葉が予想外過ぎて腹を抱えて笑い出す。

 

「わっ、私は本気ですよ教官!!」

「分かってる。分かっているさラウラ」

「あっ....」

 

そう言うと、千冬はラウラの側まで寄り優しく頭を撫でる。

 

「言っておくが、私は強いぞ?」

「知っていますし望む処です...そうでなきゃ、楽しくありませんから」

 

千冬の手を気持ちよさそうにしながら笑顔で応えるラウラ

 

「処で、いつの間にそんなに渋川に影響されたんだ?」

「それは...その....」

 

言える訳が無い。

夢の中で語り合ったなど、非現実的すぎる。

困ったように言い淀むラウラだったが

 

「これだけはハッキリ言っておくがなラウラ」

「はい...?」

「アイツは私の旦那だからな。これはもう揺るぎない事実だからな。私に惚れるのは構わんがアイツには惚れるなよ?」

 

しれっと嘘をつく千冬だった。

 

「......それは」

 

何かを言わんと口を開くラウラ

 

 

―――ガラガラッ

 

 

「ボーデヴィッヒはおらんかね~?」

「失礼します」

 

治療を終えた恭一が箒に肩を借りて入ってきた。

 





好きに生きたらええんやで(ニッコリ)

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