野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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気不味い空気に負けるな、というお話




第44話 昼行灯な狂者

「おーおー...見事にごった返してんなぁ」

 

今日は学年別トーナメントが開催される。

その慌ただしさは凄まじいもので、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行っている。

 

恭一はと云うと、観客席の様子をモニターから見ていた。

そこには、各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会している。

 

「3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認って処かしらね」

 

声がする方向に顔を向けると楯無が、やぁ、と手を挙げて話しかけてきた。

 

「それだけじゃ無いでしょう? 今年はイレギュラーな存在が1年に居ますからね。この人数の多さはそれが一番関係してるんでしょうよ」

「残念だけどそこに貴方は含まれてないのよねぇ...」

 

笑う恭一に溜息混じりでそう述べる。

 

「当然でしょう。『F』の訓練機乗りと『ブリュンヒルデの弟』の専用機乗り。俺だってそんな前情報があれば織斑にしか目がいきませんよ」

「...あの戦い方でいくの?」

 

何処か楽しそうに聞く楯無に対し恭一は頷く。

 

「はぁ....きっと物議を醸す事になるんでしょうねぇ」

「くっくっ...それがこの大会での俺の一番の目的ですから」

 

2人の会話が意味する処は、後に分かる事になる。

 

―――ピローン

 

「あ? メールか...」

 

恭一はポケットから携帯を取り出す。

 

『ヤッホー恭一君♪ 私とお兄様も来てるよー(^O^) シャルロットちゃんにバレたらいけないから表立って声は掛けられないけど、応援してるからね(。・ ω<)ゞ 』

 

オデッサと恭一はデュノア社の件でアドレスを交換しており、今ではメル友の関係になっていた。

 

「そうか...オデッサさんも来てるのか。まぁ考えりゃ当然だよな」

「.....むー」

 

穏やかな表情で返信している恭一にジト目な楯無

 

(なぁんか最近恭一君ってば変わったのよねぇ...表情がコロコロ変わるっていうか...今までと違って歳相応になったっていうか...まぁそんな処もギャップがあって良いんだけどね!)

 

楯無的にはアリだったらしい。

 

「そう言えば、恭一君は誰と組んだのかしら? やっぱり箒ちゃん辺りが無難かしらね」

「んー...1人誘ってみたんですけどね、断られちゃったんでランダムに任せましたよ。試合開始前に発表されるらしいんで、その時までのお楽しみですね」

 

ランダムに任せた生徒は自分の試合が始まるまで誰とタッグを組むか分からないシステムになっている。

それ故に恭一はモニターが見える所で待機している訳なのだが―――

そんな恭一の目の前を通り抜ける銀髪の少女の姿があった。

向こうも恭一に気づいたようで鋭い眼を向けてくる。

 

「今日が貴様の命日だな」

「シンプルではあるが中々シャレた口上だ、辞書で調べたのか?」

 

いきなりご挨拶なラウラの挑発を笑顔で迎え入れる恭一

 

「貴様...そんな減らず口を叩けるのも今だけだ。私と当たった瞬間、お前の死は確定するのだからなッッ!!!!!」

「...今日は死ぬにはいい日だ」

 

恭一は肩を揺すり、おどけてみせる。

 

「ふん...精々祈っておくんだな。私と当たらない事をッッ!!!!!!」

 

カッコ良くキメられて満足したのか、その場から去ろうと恭一達に背を向け歩き出す。

 

『Aブロック1回戦1組目を発表します。

 

―――シャルロット・デュノア、織斑一夏ペア

 

―――ラウラ・ボーデヴィッヒ、渋川恭一ペア』

 

ピタッ

 

アナウンスにラウラの足が止まる。

 

―――ギギギ

 

ゆっくりと首をこっちに向け、モニターをまじまじと確認する。

 

「....まぁアレだホラ...なんだ...とりあえず、控え室に行くか?」

「あ、ああ....そうだな。うん......そうだな」

 

先程まで熱いやり取りをしていた2人にとっては、言い様も無い気まずさである。

そんな2人の事情を知る楯無は腹を抱えて笑っていた。

 

 

________________

 

 

 

「「.........」」

 

(オイ...どうすんだよこの空気....ずっとこのままとか嫌すぎンぞ.....)

 

控え室に行くまでの道が異様に長く感じられる。

 

「あー...ゴホンっ」

 

(おっ...?)

 

1つ咳を入れ、流れを引き戻すラウラ

 

「...貴様に言っておく。織斑一夏は私の獲物だ。手を出す事は許さん」

「まぁアイツに対しても何か思う処があるようだし、別に俺は構わんが...デュノアはどうすんだ?」

「同じ事だ! あんな馴れ合っている雑魚共など私1人で十分だ! 貴様は端で怯えていろッッ!!!!!!」

 

何処までも傲慢不遜な姿勢を崩さないラウラ

 

「...相手は代表候補に零落白夜だぜ? そう簡単にいくのかね?」

「フンッ!! 戦う前から早くも弱腰の貴様では無理だろうが、私なら3分もあればカタを付けられる!!」

「...そうかい。それなら俺は大人しく見学させてもらうよ」

 

控え室に着き、ラウラは集中を高めるためか瞑目していた。

 

―――プシュゥゥ...

 

時間になり、アリーナへの道が開かれる。

向こう側からは一夏とシャルロットが中央へ進んでくる。

 

 

「「「「「「 ブーブーッッッ!!!!!!! 」」」」」」

 

恭一が姿を現した途端、観客席から大ブーイングが発せられた。

 

 

『出てきたわよ、出来損ないの男が!!!!!』

『F判定がいい気になってんじゃないわよ!!!!!』

『あんたなんか無様に負けてこの学園から居なくなればいいのよ!!!!』

『織斑く-ん! デュノアさーん! そんな奴瞬殺しちゃえ!!!!』

 

 

日頃から恭一の強さを知っている1組の面々と合同練習で彼の実力の高さを垣間見た2組の生徒達以外から心無い罵声を浴びせられる。

 

「ふん...貴様随分な嫌われようだな?」

 

流石にこの声には無関係のラウラも嫌悪を抱いた。

 

「まぁ当然だろ。女の時代に無銘の石ころが紛れ込んでりゃ苛立ちもするさ。それにこの前のお前達の模擬戦で、俺は女の子を助けるヒーローを邪魔した悪者だと思われてるからな。うわはははは!!」

 

罵詈雑言を喰らっているにも拘らず、当の本人は楽しそうに話す。

.

.

.

この光景は当然、来賓席からも丸見えである。

 

「あっはっはっは...2人目の男性起動者は随分と嫌われているようですね」

「当然ですわ。彼は織斑一夏と違ってIS適正値最低の『F』。本来ならこの学園に居る事すら許されない存在なのです」

 

そう話すのは日本政府のトップであり、男性起動者2人の境遇を決めた者達である。

 

「聞きましたか? 2人目はかなりの出来損ないのようですわよ」

「当然でしょう。『初代ブリュンヒルデ』の弟とは違い、ただのゴミなんですから。血統が違うんですよ血統が」

 

来賓席に居る者は大半が女性であり、悲しい事にほとんどが女尊男卑思想の持ち主である。

彼女達は皆、嘲笑の目で彼を見ているのだそんな中

 

(うふふ...さてさてどうなる事やら)

 

そんな様子を見て1人ほくそ笑むオデッサの姿に

 

(....彼が2人目ね。白式はいつか奪うから良いとして...彼はモルモットとして利用すれば良いかしら)

 

無表情でアリーナを見下ろす金色の髪をした女性の姿がそこにはあった。

 

 

________________

 

 

 

「なんだと!?」

「聞こえなかったのか? 貴様らは私1人で相手してやると言っているんだ」

「.......」

 

ラウラの言葉に一夏が噛み付き、シャルロットは何か考える素振りを見せた。

 

「まっ、そういうこった。3分でお前ら倒されるらしいから俺は端っこの方で観戦しとくよ。まぁ俺としてはお前らがゼットンになってくれる事を楽しみにしてるぜ」

 

(((ゼットンってなんだろう)))

 

(...これはチャンスだ。タッグ戦だと乱戦になる可能性があったけど、一夏と2人でボーデヴィッヒさんを倒せたら、恭一の動きに集中出来る)

 

「...いいよ。その提案飲もう」

「シャル!?」

「鈴達の仇を取るんでしょ? 僕達を見くびった事を後悔させてやろうよ」

「あっ、ああ。そうだな!」

 

 

試合開始まであと5秒。4、3、2、1―――開始。

 

 

「うおおおおおッッッ!!!!!」

 

試合開始と同時に一夏は『瞬時加速』でラウラに向かっていく。

恭一は端の方まで移動し終えると、壁に寄りかかった。

 

 

________________

 

 

 

「始まりましたわね」

「セシリアか...」

 

観客席で観戦していた箒にセシリアが話しかける。

 

「まさか恭一さんのパートナーがボーデヴィッヒさんとは...ランダムとは云え、複雑な気持ちになりますわ」

「...そうだな」

「それで...どうして恭一さんは寝転んでますの?」

「....ほんと何やってんだろうなあのアホは」

 

2人の呆れた視線の先にはISを完全解除し、腕を枕にして寝っ転がっている恭一の姿が。

 

「完全にくつろいでいるな」

「...みかんでも置いてあればソファーの上状態ですわね」

 

 

________________

 

 

 

「ど、どうしたんでしょうか渋川君...あれってどう見ても...」

「くっくっ...所謂お休みモードってヤツだな」

 

教師のみが入る事を許されている観察室で不安そうな真耶と楽しそうに観ている千冬

 

「まぁだいたい予想はつく。ボーデヴィッヒが言ったのだろう。1人で戦うから邪魔するな、と」

「す、すごい自信ですね....でも」

 

そんなラウラは一夏とシャルロットのコンビネーションの前に意外にも苦戦を強いられていた。

 

「凄いですねぇ。2週間ちょっとの訓練で良く連携が取れてますよ」

「デュノアが織斑の動きに上手く合わせているな。あれじゃ連携では無くフォローなんだが...存外、型にハマっているようだ」

 

一夏に対して辛口評価も口角はしっかりと上がっているのを真耶は見逃さなかった。

 

「でも、このままじゃ渋川君も助けに行った方が良いんじゃないですか? 自宅気分で寝転んじゃってますよ?」

「ふっ...そう見えるか?」

 

真耶の言葉に含みのある言い方をする千冬

 

「...渋川の表情をよく見てみろ」

「へ?......あっ.....」

 

千冬に言われて真耶も気が付いたようだ。

 

「先程まで緩みきっていた顔をしていたくせに、ボーデヴィッヒ達の攻防が始まった途端にあの眼だ」

「すごい眼で見てますね...何と云うか......観察というか...もっと上の」

「デュノアと織斑の動きを1つも洩らさず見極めようとしているんだろう。豪放な態度を取りながら本当に油断も隙も無い男だ」

 

(さすがは私の恭一だ)

 

最後の言葉はしっかり心の中で唱える千冬だった。

 

 

________________

 

 

 

(うん...やっぱり思った通りだ)

 

恭一は苦戦中のラウラも、良いタイミングで攻撃を仕掛けるシャルロットも既に見ていなかった。

 

(キーマンはやはり『白式』の『零落白夜』。一発で戦況を覆す正にジョーカーだ)

 

ラウラは『零落白夜』に意識を持っていかれるとシャルロットが攻撃、シャルロットの攻撃に意識を傾けると一夏が襲ってくる、という悪循環に飲まれつつあった。

 

(格闘オンリーの俺にとっちゃ『白式』は天敵だ....どうするか)

 

恭一の中では最早ラウラは負けが確定しており、自分が戦う事を想定して一夏の動きを見極めていた。

 

「.....そろそろ、だな」

 

 

________________

 

 

 

―――ズガンッッ!!!!!!

 

 

「がっ......あぐっ.....」

 

シャルロットによってパイルバンカーがラウラの腹部に叩き込まれる。

 

「ぐうっ.....」

 

この攻撃によりISのシールドエネルギーがごっそりと奪われる。

しかもシールドでは相殺しきれない衝撃がラウラの身体を深く貫き、苦悶の表情を浮かべた。

 

「まだまだいくよッッ!!!!!!」

 

ズガンッッ!!!!

ズガンッッ!!!!

ズガンッッ!!!!

 

これこそがシャルロットが纏うIS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』最大の切り札『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』である。

69口径のパイルバンカーであり、その特徴はリボルバー機構の装備によって『連続打撃』が可能な上、その威力は第2世代では最高クラスである。

 

そんな武器による攻撃を続けざまに3発撃ち込まれ、ラウラの身体が大きく傾く。

 

「ぐっ....くそっ......こんな....処で......」

「これで―――終わりだよッッッ!!!!!!」

 

トドメの一撃と言わんばかり振りかぶる。

 

「ッッ!? 危ないシャル!!!!!!!」

「えっ....うわッッ!?」

 

横から高速でやって来る影にシャルロットは何とか後ろへ回避する。

ラウラとシャルロットの間に割り込む打鉄を纏った男の姿

 

「ぐっ......き、貴様どういう......つもり」

 

恭一に守られる形になってしまったラウラは声を搾り出す。

 

「悪いが約束の時間は過ぎたんでな」

 

そう言うと、視線をシャルロット達の方へ向けた。

 

「さっきまではお前達の戦いだった訳だが、こっからは―――」

 

恭一はニヤリと嗤ってみせ、氣を吐く。

 

 

―――俺も混ざらせてもらうッッッ!!!!!!!

 

 





ラウラvsシャル・一夏コンビの描写はサラッと流させてくれよなー頼むよー

ランダムにしても結局ラウラとペアとかどういう事だよオラァン!
気不味くなる光景を書きたかっただけです(反省)

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