野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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頭一つ分どころじゃ無いだろこれ、というお話






第43話 お墨付き

「...なに? その前にタコさんというのをやめろ」

「.........」

 

困った顔をして箒を見る恭一

本当に困っているのは意味不明な呼ばれ方をしているラウラだったりするのだが

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

本人に聞かず箒に聞くあたりがアレだった。

 

「なぁボーデヴィッヒ...俺とタッグ組んでみるか?」

「.......」

 

(何だこの男、無かった事にして最初から始める気なのか....)

 

「断る。貴様は私の―――

「そうだよな。俺と組んだら千冬さんに良い処を見せられなくなるもんな」

 

食い気味にくる恭一に苛立ちを感じたが、それ以上に言葉の内容が腹を立たせた。

 

「なんだと?! どういう意味だ貴様!!」

「だって俺と組んじまったらお前出番無くなるだろ? 千冬さん的に考えて」

「貴様が教官の名を呼ぶなッッ!!!」

 

恭一がラウラを観察した結果、とりあえず千冬の名前を出せば動く、と踏んでいた。

 

「私が日本へ来た一番の理由は貴様を潰すためだ!! そのような奴と組むだと!? 反吐が出る!!」

「...へぇ」

 

―――ゆらぁ....

 

「まだ躾が足りなかったか.....」

「ひっ....」

 

またあの激痛が自分を襲いに来る...ッッ

だが、それでも―――

 

「くっ...こ、断ると言ったら断る!!!!! 貴様とは組まんッッ!! 私は決して負けんッッ!!!!!!」

 

ジッと恭一を睨むラウラ

 

(これは....予想以上に楽しめそうだ)

 

「そうか.....今の言葉は忘れてくれ」

「ふんっ...覚えていろ渋川恭一....織斑一夏を潰した後はお前だという事をな!!」

 

そう吐き捨てるとラウラは走り去って行った。

 

「すまんな恭一」

 

ラウラが居なくなると、千冬が詫びる。

 

「アイツはどうも私を盲信しているようでな、私がお前に夢中になっている事が気に入らんらしい」

「軍人だからか...それとも千冬さんに育てられたからかな? いい我侭っぷりだ」

 

恭一はラウラが去っていった方を満足そうに見ていた。

 

「このままじゃ結局ランダムになりそうだな渋川」

「まっそれもまた良し! だな」

 

そんな二人のやり取りを見ていた千冬だったが

 

(前よりも距離感が近くなってないかアイツら...)

 

それは決して杞憂では無かった。

『恭一愛慕同盟』の中では自分が一番リードしていると思っているが、実際は入学以来、最も恭一と長くいる箒が頭一つ抜けていた。

 

(むむむ...これはマズいぞ。結局恭一とは接吻の件についても未だ話せていない...しかしここで焦っては駄目だ。ガツガツいって引かれては元も子も無い。私は大人の魅力で恭一をメロメロ(死語)にしてやるんだ。自然に...自然にお茶でも誘うんだ)

 

うーんうーん、と唸っている千冬を箒は見ている。

 

(...あの人が唸る時は渋川絡みの時がほとんど....何を言い出すかは分からんが、要注意だ)

 

「ゴホンッ...あー...恭一?」

「どうしました?」

 

1つ咳を入れ、空気を入れ替える。

 

「今夜一緒に寝ないか?」

「へ?」

「は?」

「あっ、ちが...」

 

「なっなななな何を考えてるんですか千冬さんッッ!!!! ああああ貴女は教師でしょう!?」

 

恭一が何か言い出す前に箒が千冬に詰め寄る。

 

「ちがっ...今のは違うんだ!!」

「何が違うんですか! 顔を真っ赤にさせて説得力0じゃないですか!!!!!」

 

千冬の大胆すぎる発言に声を上げながらも箒は何処か安心していた。

 

(大丈夫だ。渋川は疎いから今の千冬さんの言葉にだって何も―――)

 

「あ....えっと....あははは.....」

 

(何故赤くなっているんだ渋川ああああああああああッッ!!!!!!!)

 

最近色々ありすぎて頭の片隅に追いやっていた千冬とのキス事件を思い出してしまい、顔を赤らめてしまっていた。

 

(何でキスされたんだっけ俺...理由聞いてない...もしかしてアレなのか? 千冬さんは俺の事が好きなのか!? 分からん!! こういうのは本人に聞いた方が良いのか? 分からん!! くっそぅ、恋愛漫画なんか読んだ事ねぇんだよ!! 分からん!! バキ+SAGAくらいしか知らねぇよ、SEXは格闘とか言ってた記憶しかねぇよ!! 俺にどうしろってんだッッ!!!!)

 

この世界に来て此処まで恭一が焦ったのは初めてである。

とにかく分からんらしい。

 

「うっ...うう...違う...違うんだあああああああああああああッッ!!!!!!!」

 

恥ずかしさに耐え切れず顔を赤らめたまま縮地で消える千冬

 

「...行ってしまったか.....なぁ渋川?」

 

千冬を追いかけるよりも箒は目の前の恭一の様子の方が気になるらしい。

恭一は恭一で頭をぐわんぐわんさせていた。

 

「な、なんだ篠ノ之?」

「お前...千冬さんと何かあったのか?」

「.........」

 

(多分、こういう事は本人同士以外には話したらいけない気がする...ぐっ駄目だ。正解が見当たらねぇ.....オイ九鬼!! 見てンだろ!? 何とかしろよ!!!!)

 

『ワシに分かるはず無いだろハゲ』

 

決して恭一には聞こえないが、何故か情けない顔の武神が見えた気がした。

 

「...何か合ったんだな?」

「確かにあったけど...これは話したらいけない事なんだと思う」

 

いつもの自信に満ち溢れた恭一の姿はそこには無く、何処か怖がっているようにさえ箒には思えた。

 

「....千冬さんを今までと違った感じで意識しているんじゃないか?」

 

―――ビクッ

 

「そうなんだな?」

「ああ...今まで何も思ってなかったはずなんだが......俺はおかしくなっちまったのか?」

 

不安そうに聞く恭一に箒は笑顔で近づくと―――

 

ナデリ...ナデリ......

 

「...何故俺の頭を撫でる?」

「ふふっ...渋川の成長っぷりがつい嬉しくてな」

 

これは偶然か。

恭一が今朝した事を今度は箒が恭一にしていた。

 

「...成長」

 

撫でられながらも箒の言葉を反芻する。

 

「渋川が今抱いている感情は誰しもが生じるモノなんだ。恋を理解出来ないと言っていたお前が1歩前へ進んだ証拠なんだ」

 

箒は出来るだけ優しく慈しむように語りかける。

 

「1歩...前へ....」

 

噛み締めるように恭一は呟く。

 

―――ぎゅっ

 

「しっ、篠ノ之?」

 

恭一の手は箒の両手に包まれていた。

 

「...以前のお前なら私にこんな事をされても何とも思わなかったんじゃないか?」

「ああ...多分何も感じなかったと思う」

「今は....どうだ? 私に手を握られて......ドキドキしてくれているか?」

 

―――コクン

 

頷く恭一を見てニッコリ笑う。

 

「それは私が女であり、お前が男だからなんだと思う」

「そっ、そうなのか....」

 

箒は自分が今何をしているのか分かっている。

それでも止まらない。

恭一に少しでも恋する気持ちを分かってもらいたくて。

 

「私も...恭一の手を握っていると凄くドキドキする......でもそれは恭一が男だからじゃない」

 

頬が熱くなるのを感じる。

 

「相手が恭一だから...恭一だから私はこんなにもドキドキするんだ」

「それ...は......」

「ふふっ...今の私からは此処までだ」

「篠ノ之...」

 

ゆっくりと2人の手が離れる。

 

「焦る必要なんて無いんだ渋川、ゆっくりいこう? これもお前が言ってた世界を楽しむって事になるんじゃないか?」

「そう...だな。そう...だよな。何か、俺ってばらしくなかったな」

 

そう言って鼻を擦り照れてるのを誤魔化した。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおッッ!!!!! 俺は成長しているらしいぞおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」

 

アホな事を空に向かって叫んでいる恭一を見て箒は微笑む。

 

 

―――そんなお前が大好きだ。

 

 

________________

 

 

 

「うむむむむ...今日は有意義な一日を過ごせたな。恋についても成長したって篠ノ之のお墨付きだもんな!」

 

恭一は部屋で1人、今日の事を思い返していた。

 

「俺は女だからドキドキしたのか、それとも篠ノ之や千冬さんだからドキドキしたのか...ううむ」

 

恋愛について少し前進した恭一だったがそれと同時に難しさも感じているようだが

 

「おっと...いかんいかん。難しく考えるンは性じゃねぇんだ。篠ノ之も言ってたしな。この状況すら楽しんでやるさ!」

 

パンッと頬を叩く気合を入れると

 

「っしゃあああああああ!!!! こういう時こそ鍛錬だよなぁ!?」

 

どんな日でも最後は明るく締める。

それこそが恭一である。

 

 

________________

 

 

 

―――同じ頃、箒の部屋にて

 

「ふおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!! 私はしたり顔で何て事をおおおおおおッッ!!!!」

 

今日のやり取りを思い返し、がっつり悶えていた。

 




しぶちー...色を知る歳かッッ!!!!!(100歳超え)

前世の分まで恋愛も楽しんだら良いと思うよ(ハナホジー)


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