野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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とある少女の分岐点になりそうなお話




第40話 理解と納得は別物

「「 あ 」」

 

場所は第3アリーナ

学年別トーナメントに向けて練習するために足を運んだ専用機持ちの2人の声が重なる。

 

「奇遇ね。あたしはこれから次のトーナメントに向けて特訓するんだけど?」

「ええ、私も全く同じですわ」

 

「「.......」」

 

2人の間に沈黙が流れる。

 

「アンタもあの噂信じてるの?」

 

鈴が言う噂とは、今回のトーナメントの優勝賞品の事である。

 

「べべ別に信じてませんわ! 私はただ己を高めるためにですわね―――

「いや何で吃るのよ....んで、どっちを取るの?」

 

鈴の質問にセシリアが首を傾げる。

 

「鈍いわねぇ...一夏と恭一、どっちを取るのって聞いてんのよ」

「...どうしてそこで恭一さんが出てくるんですの? あの方とはただのお友達ですわ」

「本当に?」

 

セシリアに対して鈴は伺うような目を向ける。

 

「何ですの? 言いたい事があれば、ハッキリと仰ってくださいな!」

「アイツが休んでる時あたし達、嫌ってくらい箒をフォローしたわよね。その時のアンタが箒に向けてた眼がね...少し気になったのよ。まぁあたしの気のせいかもしれないから気に障ったのなら謝るわ」

 

(鈴さんにも困ったもんですわ。私はクラス代表を決める試合で一夏さんが魅せたあの勇姿に惹かれたのです。下賤だと思っていた男性にも強い人がいる事を教えてくれた一夏さんの姿に)

 

一夏の顔を思い浮かべ、うんうんと頷く。

 

(それに比べ、恭一さんは....恭一さんは..........?)

 

「...リア...シリア? セシリアってば!!!!」

「ひょわぁ!!!」

「ひゃっ!!」

 

2人して驚き飛び跳ねる。

 

「なっいきなり変な声出してんじゃないわよ!」

「りっ鈴さんの方こそ大声出さないでくださいまし! 何考えてたか飛んでいってしまいましたわ!」

 

むむむ、と火花を散らす。

 

「ここはアリーナよ。この際だからどっちが上かハッキリさせとくってのも悪くないわね」

「ふふふ...望む処ですわ。私に纏うこのモヤモヤしたモノを打ち消すには丁度良い相手ですもの」

 

そう言うと2人は少し距離を置き、それぞれの武器を召喚させた処

 

―――ズダダダダッッ!!!!

 

「「 !? 」」

 

いきなり鈴とセシリアに向かって放たれた砲弾を緊急回避し、打った本人の姿を確認する。

2人の目の前には漆黒の機体を纏った銀髪の少女が佇んでいた。

 

機体名『シュヴァルツェア・レーゲン』

登録操縦者―――『ラウラ・ボーデヴィッヒ』の姿だった。

 

「...どういうつもり? いきなりぶっ放してくるなんていい度胸してるじゃない」

 

軽口を叩いているが、鈴の表情には怒りが現れていた。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か...ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

鈴の言葉には無反応であり、ただただこちらを見下している。

そんなラウラの態度がさらに鈴を苛立たせた。

 

「何? やるってわけ? わざわざドイツからボコられに来たなんて大したマゾっぷりねアンタ。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」

 

「あらあら鈴さん、このお方はきっと精一杯お勉強なさって来たんですよ? かっこいい挑発の仕方を。しかしお一人で考えたんでしょうねぇ...まるで格式・文言が成り立ってません事よ? 恭一さんの破天荒な言葉踊りに比べれば、ゴミッカスで憐れにすら感じますわ。ドイツの貴女はまず絵本を読む処から始める事をお勧めしますわね」

 

ラウラの挑発に挑発で返した鈴

ラウラの挑発に恭一仕込みの超挑発で返したセシリア

 

「...アンタも恭一に影響されてない?」

「あら? 恭一さんと同じクラスに居れば鈴さんもこれくらいスラスラ出てきてしまいますわよ?」

「いや、それってどうなのよ」

 

目の前のラウラを置いてきぼりにしてここに居ない男の話をする2人に対し、今度は挑発を始めた本人が苛立ちだす。

 

「フン...ソイツは確か口が回るだけしか能の無いゴミクズの出来損ないの名だったか。ヘラヘラ笑い、誇りを微塵も感じさせん下賤のカスだ」

 

恭一をこれでもかと侮辱する言葉に対し

 

(...何でしょうねこのドス黒い感情は)

 

「確かに決して褒められた殿方では無いですけれど、今の貴女の言葉は妙にムカつきますわね」

 

無表情で応えるセシリア

 

「...あたしもアイツの事はあんまり好きじゃないけど、そこまで堕とされる程じゃないわ」

 

セシリア程では無いが、鈴もラウラの言葉に嫌悪感を現す。

2人の反応にニヤリと笑う。

 

「ああ、出来損ないと言えばもう1人クズが居たな。いや汚点と言っても良いか」

 

くっくっ、と嗤うラウラにとうとう堪忍袋の緒が切れた。

 

「...今なんて言った? あたしの耳には『どうぞ好きなだけ殴ってください』って聞こえたんだけど?」

「この場にいない人間をこうまで侮辱するとは...その軽口、2度と叩けぬようにここで叩いておきましょう」

 

臨戦態勢を取る鈴とセシリアを冷ややかな視線で流すと

 

「下らん種馬を取り合うようなメス共など私の敵では無い。さっさと掛かってこい」

 

ラウラは僅かに両手を広げて自分の方へ向けて振る。

 

「「 上等ッッ!!! 」」

 

 

________________

 

 

 

「話があった模擬戦はどこでやってるんだっけか?」

「確か第3アリーナと言ってたな」

 

恭一と箒が目的の場所に向かっていると

 

―――ドゴォンッッ!!!!!

 

爆発音が鳴り響き、激しい戦闘を繰り広げている事が予想された。

 

「鬼が出るか、蛇が出るか~っと」

 

恭一の言葉と共に、アリーナに入った2人を迎えた光景とは―――

 

先程の爆発の影響下の煙を切り裂くように影が飛び出してくる。

 

「戦ってんのはオルコットと鈴...と...えーっと...シャウエッセン」

「誰だそれ? ラウラ・ボーデヴィッヒな」

 

特殊なエレルギーシールドで隔離されているため。こちらに爆発が及ぶ事は無いが、こちらの声も聞こえないので、恭一達には気づいていないようだった。

 

「...ふーん。見た処、オルコット達の方がかなりダメージを受けてんな」

「それに比べてボーデヴィッヒは無傷には見えんが、それでも軽傷みたいだな」

 

そんな2人を余所に、彼女達の試合は激しさを増していく。

 

「くらえっ!!」

 

鈴のIS『甲龍』の両肩が開く。

そこに搭載されている第三世代型空間圧作用兵器・衝撃砲『龍咆』の最大出力攻撃だ。

 

―――ズォォォォォンッッ!!!!!!!

 

そんな攻撃を前にラウラはまるで回避する素振りを見せない。

 

「無駄だ。この『シュヴァルツェア・レーゲン』の停止結界の前ではな」

 

唸りを上げる衝撃砲の不可視の弾丸はラウラに届く事は無かった。

 

「くっ...まさかこうまで相性が悪いだなんてッッ!!!」

 

悔しそうに下唇を噛む。

 

(マジジャンみたいな奴だなぁ...)

 

恭一は鈴の衝撃砲を何故か喰らわないラウラを見て思った。

 

「こちらからもいくぞッッ!!!!」

 

ラウラの纏ったISからワイヤーのようなモノが複雑な軌道を織り成し、迎撃射撃を潜り抜け、鈴の右足を捕らえる。

 

「そうそう何度もさせるものですかっ!」

 

鈴を援護するためビットを射出し、ラウラへと向かわせる。

 

「ふん...やはりこの程度の仕上がりか。理論値最大稼働には程遠い。下らん種馬に媚を売る事に夢中になっている証拠だ」

「ッッッ!? わっ私は....くッ...」

 

ラウラの言葉に動揺したのか、セシリアの狙撃にいつものキレは無く、簡単に躱されてしまっている。

 

「貴様らはつまらんッッ!!!!」

 

ラウラは先程捕まえた鈴をセシリアにぶつける。

 

「「 きゃああっ! 」」

 

―――そこからは一方的な蹂躙だった。

 

セシリアと鈴はラウラから放たれたワイヤーブレードで捕らえられ、身動きが取れない状態になる。

そんな2人をラウラはひたすら殴る、ひたすら蹴り上げる。

2人のシールドエネルギーはあっという間に減っていき、『機体維持警告域』を超え、『操縦者生命危険域』へと到達する。

 

「..........」

 

それを見つめる恭一の表情から妙に違和感を感じる箒

 

(...渋川?)

 

ラウラは攻撃の手を止めない。

だが、その表情は愉悦に染まり口元を歪めていた。

 

そんな時だった。

 

「うおおおおおッッ!!!!!!」

 

咆哮と共にアリーナを取り囲んでいるバリアーを切り裂き、ラウラに向かって行く1人の男が居た。

 

 

________________

 

 

 

恭一達とは違う入口で見ていたのだろう。

ラウラの行為に対し、怒った一夏が『白式』を展開し『零落白夜』を発動させる。

 

「あれは...一夏!? と、シャルロットか?」

 

恭一と居る箒の驚く声と共に一夏がバリアーを切り裂き、ラウラに向かって加速して行く。

 

「うおおおおおッッ!!!!!!」

 

一夏の姿を確認するや

 

「ふん...感情的で直線的、絵に書いたような愚図だな」

 

ラウラは余裕を持って迎え撃とうとする―――が、

 

2人の間に1つの影が高速で迫っていた。

 

―――ドガッッ!!!!!

 

ラウラに向かっていた一夏は横っ面に衝撃を喰らい、吹き飛ばされる。

 

「あがッッ!!!!!!」

 

「「「「「「 なっ!? 」」」」」」

 

そこには無表情の恭一が立っていた。

 

「........」

 

―――試合を終わらせる権利を持つのは勝者のみ。武道の世界に身を置く恭一なればこその計らいであった。

 

しかし、この恭一の行為を理解出来る者はこの場では箒のみ。

他の者達から見れば、助けに入った一夏を邪魔した者、と捉えられても仕方ない事である。

 

「なっ...何で邪魔するんだよ!?」

「...どういうつもりだ貴様」

 

一夏とラウラの声にも耳を貸さず、恭一はボロボロになったセシリアと鈴に目を向ける。

 

「...助けがいんのか?」

 

その言葉の意味に気づいた鈴は咄嗟には何も出てこず、セシリアは震えた。

 

「何言ってんだよ!! 2人共こんなに傷ついてんだぞ!?」

 

恭一の言葉に一夏が声を上げる。

 

(私は...くっ....私はッッ!!!!!!)

 

「寝言は寝て言ってくださいな恭一さん。誰がそんな事を言いまして? まだまだこれからですわよ」

 

傷を負った身体に喝を入れ、ゆっくりと立ち上がると再び武器を構えるセシリア

 

「なっなに言ってんだよセシリア!! その状態じゃ無理だ! 俺が―――

 

―――ドンッッ!!!!

 

前に出てこようとした一夏の足元に銃弾がめり込む。

 

「なっ......」

「これは私の戦いです! 他人の出る幕じゃありませんわッッ!!!!」

 

一夏を牽制し終えると、息を深く吸い呼吸を整える。

 

(....私はオルコット家の誇りを守る者...)

 

「お待たせしましたわボーデヴィッヒさん...続きを」

 

フラフラになりながらも、武器を構えるセシリアの姿に

 

「...見事だ。お前の意地、確かに感じたぜセシリア」

 

(今......初めて私の名前を...)

 

「貫いてみせろセシリア。お前が殺されたら...俺がコイツを殺してやる」

「何だと? 貴様如きカスが私を...? 笑わせるなよ―――

 

―――ビュンッッ!!!!!

 

恭一の言葉で矛先を向けようとしたラウラの目の前をレーザーが横切る。

 

「 !? 」

 

視線を向けるラウラに対し、ニヤリと笑ってみせるセシリア

 

「貴方の相手は私でしてよ? それに恭一さん?...貴方はそこでじっくりとご覧になってなさいな....このセシリア・オルコットの勇姿をッッ!!!!!!!」

「茶番が....望みとあらば...殺してやるッッ!!!」

 

ラウラがまさに飛び出そうとしたその瞬間、1人の強者が割り入ってきた。

 

―――ガギンッッ!!!!

 

金属同士が激しくぶつかり合う音が響いて、ラウラはその者に加速を中断させられる。

 

「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

「千冬姉ぇ!?」

 

IS用近接ブレードを補佐無しで軽々と扱う者―――

織斑千冬の姿がそこにはあった。

 

 

________________

 

 

 

「...模擬戦をやるのは構わん。が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。主張したければトーナメントでするんだな」

「教官がそう仰るなら」

 

千冬の言葉に素直に頷き、ISを解除すると立ち去ろうとする。

 

「お前もだ...渋川」

 

ピタッ

 

「........」

 

前へ進もうとした、これ以上無いタイミングで機先を制された恭一は千冬を睨む。

理由は何であれ、ラウラはセシリア達との試合を終えた。

その瞬間を狙っていた恭一は、去ろうとするラウラの後ろから頭を掴み地面に叩き伏せ顔面を潰し、粉々にするつもりだった。

 

「「.........」」

 

恭一の睨みを千冬は真っ向から受け止める。

 

「ちっ....さすがは織斑先生って処か。全く...大した洞察力してらぁな」

 

そう言うと恭一は、つまらなさそうな顔で出口へ向っていった。

傷付いたセシリアや鈴を一瞥する事も無く。

 

「何だよあの態度...セシリア達に対して何も無しかよ」

「ほっときなよあんな人...セシリア、鈴、大丈夫?」

 

一夏とシャルロットや他の生徒達は心配そうに駆け寄る。

皆が集まる中、その場に箒の姿は無かった。

 

 

________________

 

 

 

恭一がアリーナを出て行くと入口には箒が待っていた。

 

「不器用な男だなお前は...」

「あん? なーに言ってんだい?」

 

おどけた態度を取る恭一に対しツカツカと詰め寄り、ポケットに突っ込まれている左手を箒は掴み上げた。

 

「つっ....」

 

箒が掴んだ恭一の左手は、ずっと強く握りしめていたのだろう。

爪が食い込み血が滴り落ちていた。

 

「...気付いてたのかよ」

「セシリア達が嬲られ始めてからお前の様子が少し変わった気がしたからな。それに頑なに左手をポケットから出さないお前の姿は不自然極まりなかったよ」

「けっ...よく見てやがる」

 

そんな箒に対して恭一は悪態をつくしか出来ないでいた。

 

「他人の戦いを邪魔してはならない。それが武道家の不文律の1つだったな?」

「頭では理解してるんだけどな。何だかんだ気に入っている奴を蹂躙されて平気でいられる程...ってヤツさ。まぁ武道家としては甘いんだろうが...納得は簡単には出来そうにねぇや」

 

自嘲気味に笑う恭一

 

「...しかし、そんなお前の心は知られる事は無い。これでお前の評判はまた下がるな。傷付いた少女を助けに入ろうとした一夏を邪魔する悪者って処か......」

 

少し悲しそうに話す箒に対し

 

「はっ...俺がいつ評判を気にしたよ? それに...俺の事を分かってくれる奴なら目の前に居る。それだけで十分だよ」

「渋川.....」

 

恭一の言葉に優しい笑みを浮かべる箒に対し

 

(...何かまた今朝の変な空間になりそうな予感がする....はっ話変えなきゃ!!)

 

「....さっさと治療しに部屋に戻るか」

「保健室へ行けば良いではないか」

 

その言葉に首を振る。

 

「傷付いたオルコットや鈴が運ばれてくるだろ。俺が居たら空気を悪くしちまうわ。部屋に救急箱があるからよ」

「ふっ...なら私が治療してやる」

「ああ頼むよ」

 

(本当に不器用な男だ...そんなお前だからこそ私は―――)

 





良かった...ラウラは無事にイベントをこなせたんやなって(安堵)

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