野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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お菓子は美味しいが、というお話



第34話 蜜に逃げるか苛烈に進むか

『教官...教官はどうしてそんなにもお強いのですか?』

『私にはな、弟がいる。昔の私は弟を守るためだけに強さを求めていた』

 

私の問いに教官は寂しそうな笑顔を見せる。

 

『今は...違うんですか?』

『...私はな、1人の少年に負けたんだよ。完膚無きまでにな』

 

信じられない。

私が手も足も出ない教官を倒した...だと?

 

『もうあれから6年にもなるか...日本に帰ったら必ずリベンジしてやるのさ』

『お言葉ですが...教官は先程、少年と言いました。私には考えられません! 教官が年下の男になど負けるなんてッッ!!!!』

 

『ふっ...事実だ。私が17の時に一合で意識を刈り取られたよ。当時8歳の少年にな』

『なっ......?!?!?』

 

そんなバカなっ...何かの間違いだ!!!!!

何故、そんなにも優しい声で話すのですか!?

 

『そいつの....そいつの名を!!!』

『....名前は教えてくれなかったよ。私にも名乗らせてくれなかった。眼中に無いとはまさにああいう事なんだろうな』

 

私は耳を疑った。

そして、その者を激しく憎悪した。

 

『私が強いと言ったな?ラウラ』

『は、はい...』

『今の私は強くない...私は強くなりたい。今よりもだ。そして...あの少年に認められたいんだ』

『.........ッッ』

 

私にはそのような笑顔を見せてくれた事なんて無いのに。

その男が憎い...憎い憎いッッ!!!!!!

 

―――私から教官を奪う者は殺してやる

.

.

.

 

「........夢か」

 

焦るな...ようやく日本に来たんだ。

まずは教官の栄光を塗り潰した出来損ないからだ。

 

 

________________

 

 

 

「お前はここに居て良いんだシャルル!!」

 

(どうしてこうなった...)

 

恭一は目の前で繰り広げられている茶番に溜息をついた。

事の発端は30分前に遡る。

.

.

.

「ぬぁぁんで、ペプシが出てくんだ? 俺、確かにコーラの方を早く押したよなぁ!?」

 

恭一が自販機に八つ当たりしている処

 

「あっ...渋川君! 良かった。丁度、渋川君のお部屋に向かう処だったんですよー」

 

副担任の真耶がパタパタとやってきた。

 

「山田先生ですか、どうされました?」

「今朝配られた男性IS起動者用のプリントに記載ミスがありまして、訂正されたプリントを作り直したので、こちらをお渡しに来たんです」

 

そう言いプリントを渡される。

 

「あとは、織斑君とデュノア君に渡して―――

 

「山田先生、織斑先生が探してましたよー」

 

違うクラスの教師から途中で遮られてしまった。

 

「はわっ...ど、どうしましょう!?」

「それなら俺がこのプリントを届けに行きますよ」

「えっ...良いんですか?」

「山田先生にはお世話になってますからね、これくらい容易い御用です」

「そっそれじゃあお願いしますね」

 

真耶からプリントを預かり、恭一は一夏達の部屋に歩いて行った。

 

「えーっと...確か、この部屋だったか? おーい織斑、デュノアいるかー?」

 

ドアをノックし返事を待つ。

部屋の中から何やら慌てたような声が聞こえるが、とりあえず扉が開くまで待っている恭一

 

「ど、どうしたんだ恭一?」

「いやお前がどうしたんだよ、俺が来たくらいで吃るか?」

「あ、あはは。まぁ気にしないでくれ」

 

恭一は違和感を覚えたが

 

「そうか? まぁいい、俺の用件は山田先生からお前達へのプリントを渡されてな、持ってきたってわけだ」

「おっおう、ありがとな!」

「.........」

 

一夏の様子をジッと見る恭一

 

「な、なんだ?」

「....いや何でもない。それじゃあまた明日な」

 

このままココに居たら面倒事に巻き込まれる。

そんな気がした恭一は足早に去ろうとしたが―――

 

「ちょっと待って........」

「しゃっ...シャルル?!」

 

顔を出したデュノアに一夏が驚きを現す。

 

「出来れば、恭一にも聞いて欲しいんだ」

 

そう言ったデュノアの言葉に渋々ながらも一夏は頷き、恭一を部屋に招き入れる。

 

「シャルルの事で大事な話があるんだ。入ってくれ」

「嫌に決まってンだろ、アホか」

 

恭一の第六感はビンビンに感じていた。

このまま部屋に入ってしまうと、絶対に面倒な事になると。

それは決して自分の好きなタイプの面倒事では無いと。

 

「なっ...大事な話だって言ってるだろ!?」

「俺にとっては絶対に大事じゃねぇから断る」

 

断固拒否の恭一はさっさと離れようとする、が

 

「...お菓子あるよ恭一?」

「仕方ねぇなッッ! 聞いてやるよ!」

 

デュノアの罠にアッサリ引っかかる狂者。

何時から恭一はこんなにチョロくなってしまったのか。

部屋にお邪魔すると適当な処へ座り、デュノアからポテチを受け取る。

 

「コンソメ味か...分かってんな。んで何を聞いて欲しいんだ?」

 

早速、袋を開けパリポリ食べる恭一

 

「うん...一夏にもバレちゃったんだけどね、僕は実は女なんだ」

「んぐんぐ....続けてくれ」

 

本名は『シャルロット・デュノア』である事

シャルロットがこの学園に転入して来たのは父親からの命令のためである事。

デュノア社の経営不振打破のため、一夏本人と専用機のデータを取りに男のフリをして近づいた事。

 

「何で、父親が娘のシャルルにそんな命令するんだよ?」

 

堪らず一夏が疑問をぶつける。

 

「僕はね...愛人の子なんだよ」

「なっ...」

「引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなった時にね、父の部下がやってきたんだ。それで色々と検査をする過程でIS適応が高い事がわ分かって、デュノア社のテストパイロットをやる事になってね」

 

パリパリ...

 

「父に会ったのは二回くらいで会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活をしているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれた事があってね。あの時はひどかったなぁ...本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。お母さんもちょっとくらい教えてくれてたら、良かったのにね」

 

モグモグ...

 

「...とまあ、だいたいこんなところかな。でも一夏にも恭一にも話しちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ...潰れるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいい事かな」

 

サァーッ...ムシャムシャ

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までウソをついていてゴメン。恭一にも...あんな言い合ったのに結局僕は嘘をついてたんだ。ゴメンね」

 

「げぷっ...ああ気にしなくて良いぞ? んじゃお菓子も食い終わったし俺はお暇させてもらうかな」

 

そう言って恭一は立ち上がるが

 

「なっ...お前!! 今のシャルルの話を聞いて何にも思わないのかよ?!」

「いや...ポテチはやっぱりコンソメ味が一番だなって」

「こんな時にまで巫山戯てんじゃねぇ!!!!!! シャルルが可哀想だとは思わないのかよ!? 親が勝手に子供の生き方を決めるなんておかしいだろうが!!!!! 子供だって生き方を選ぶ権利はあるだろう!!!!」

 

一夏が恭一の態度に激昴し、掴み掛らん勢いで言い詰める。

 

「ど、どうしたの? 一夏」

「俺は...俺と千冬姉ぇは両親に捨てられたんだ」

「あっ...その、ゴメン」

 

一夏の言葉にシャルロットは申し訳無さそうに顔を伏せる。

一夏の言葉に恭一はどうでも良さそうに購買で買ったおっとっとを開封する。

 

「気にしなくていい。俺の家族は千冬姉ぇだけだからな。別に俺達を捨てた親になんて今更会いたいとも思わない。それより、シャルルはこれからどうするんだよ?」

 

「どうって...まぁ時間の問題じゃないかな。フランス政府もこの事を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生を降ろされて、良くて牢屋入りとかじゃないかな」

 

もう諦めているのか、抑揚の無い声で淡々と応える。

 

「それで...それで良いのかよ!?」

「良いも悪いも...そもそも僕には選ぶ権利が無いんだから、仕方ないよ」

 

そう言って見せたシャルロットの微笑みは痛々しいものだった。

 

「だったら...ここにいればいい!!」

「えっ...?」

 

一夏の力強い言葉にシャルロットは顔を上げる。

 

「特記事項第二一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」

 

IS学園の生徒手帳に記された特記事項を読み上げる。

 

「つまりこの学園にいれば、少なくとも3年間は大丈夫なんだ。それだけ時間あれば、何とかなる方法だって見つけられる。別に急ぐ必要だってないだろ」

 

一夏の言葉にシャルロットが反応を示す。

 

「お前はここに居て良いんだシャルル!!」

 

(どうしてこうなった...俺はいつまでこの茶番に付き合えば良いんだ?)

 

とりあえず、手持ち無沙汰な恭一は潜水艦を探して暇を潰していた。

終始どうでも良さそうな態度を崩さない、そんな恭一に一夏がとうとうキレた。

 

「お前はさっきから何やってんだよ!! 自分は関係無いみたいな顔しやがって、シャルルが困ってんだぞ!? 助けてやりたいって思わないのかよ!!!!!!」

「やっ、やめなよ一夏! 恭一は悪くないよ...僕が悪いんだから」

 

シャルロットが止めようとするが

 

「いいや、前からコイツには言いたかったんだ。いつも問題ばっか起こして...ISの戦闘だって、相手を挑発してから戦おうとする卑怯な手を使う! お前みたいに何も苦労せずにヘラヘラ生きてる奴には俺やシャルルみたいな人間の気持ちは分からないんだろうな!!!!!!!」

 

「一夏ッッ!!!!! 言い過ぎだよ!!」

 

「俺の事は良いとして、どうやって助けるんだ? 織斑先生に相談するか?」

 

一夏の言葉にも何も憤りは無いのか流して話す恭一

 

「千冬姉ぇに迷惑はかけられねぇよ。でも安心しろシャルル、俺が何とかする」

 

(何言ってんだコイツ)

 

一夏の言葉からまるで根拠が感じられない恭一は、取り敢えず

 

「デュノア、お前はどうしたいんだ? このまま流れに身を任せるのか? それとも立ち上がってみせるのか?」

「ぼっ、僕は.....」

 

その問いにシャルロットは詰まらせる。

 

「お前の過去や境遇なんぞ全く興味無い。俺が興味があるのは唯1つだけだ。お前の意志を知りたい」

「僕は....」

 

「もういい。人を馬鹿にしかしないお前に話すのは俺は反対だったんだ。もうシャルルの事で口を出すな!!」

 

「.......」

 

それでも何も言わずジッとシャルロットを見る恭一に対し

 

「っっ.......」

 

シャルロットは視線を逸してしまった。

 

 

―――そうか、残念だ。

 

 

恭一は興味を失くしたのか、部屋から出て行こうとする。

 

(止めなくちゃっ....)

 

理由は分からないが、何かがシャルロットにそう告げる。

それでも...声が、手が、足が出なかった。

 

―――バタン

 

「前からおかしい奴だと思ってたけど、見損なったぜ恭一のヤツ」

「.........」

「心配するなシャルル。3年もあるんだ、その間になんとかなるさ」

「......そうだね」

 

弱々しい、それでも精一杯の笑顔を向けるシャルロットは何を思う。

 

 

________________

 

 

 

『もすもすひねもすぅ~、キョー君の未来のお嫁さん束だよ~』

『おう、相変わらず元気そうで何よりだぜ姉ちゃん』

『むっふっふ~、モチのロンさ! キョー君からの電話だもん元気100倍だよっ』

『そいつは僥倖....ちと調べて欲しい事があるんだ』

『なになに~、何でも言っちゃって~』

『デュノア社とシャルロット・デュノアの関係を調べてくれ』

.

.

.

「ううっ...何で俺は胸なんか触っちゃったんだ」

 

恭一の頭に浮かぶのは箒の言葉だった。

 

『女にとって胸を好きでもない男に触られるのは辱めで、陵辱だ』

 

「デュノアがどうなろうが知ったこっちゃねぇが...俺がしちまった分の落とし前は付けないとな......はぁ」

 

束からの折り返しを待つ恭一の背はいつもよりも丸くなっていた。

 




やべぇよ、やべぇよ...
しぶちーが作者の範疇越えようとしてるよ


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