野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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ラウラちゃんが洗礼を受けるお話




第33話 洗礼?宿命?

クラスメイトが見守る中、ラウラは恭一の席から一夏の席までズンズン歩いて行き、いざ視線を合わせた。

一夏と目を合わせたラウラの目は一層険しくなり、そのまま座っている一夏に向かって

 

「貴様がッッ!!!!」

 

手を振り下ろした。

 

パァン!!

 

初対面のはずの相手に所謂ビンタを食らった一夏は、いきなりすぎて目を丸くしていた。

 

「私は認めない...貴様があの人の弟であるなどと、認めるものか!」

.

.

.

(転校してきた初日、挨拶もそこそこにいきなり男子生徒を殴る...か。1組の問題児は渋川だけで良いんだが、今の行動を渋川はどうおもっ―――)

 

ラウラの行動に溜息を付きながらも渋川に視線を戻す箒

 

(....なにやってんだアイツ?)

 

恭一は眉間にシワを寄せていた。

頑張って指で寄せていた。

どうやら、自分は怒っているぞ、という表情を作っているようだ。

 

殴られた頬を擦り、ようやく混乱から復帰した一夏がラウラに怒鳴りつけようと

 

「いきなり何しやがるッッ!!!!!!」

 

「「「「「 !? 」」」」」

 

クラスメイトが怒鳴り声に驚き視線を向ける。

 

 

―――何で渋川君が怒鳴ってんの?

 

 

「...何だ? 貴様には関係無いだろう」

「馬鹿野郎ッッ!! そいつは織斑じゃねぇ、渋川だ!」

 

 

―――何言ってんのッッ!!?!?

 

 

クラスの皆は思ったが口に出すと標的になる事を知っているので何も言わない。

 

「何だとっ...貴様、先程目でコイツを指しただろうが!!」

「言葉を交わさず理解し合える程、俺とお前は親しい仲なのか?」

「ふざけるな!! 誰が貴様のような者とッッ!!!!!」

 

ニヤニヤした態度で嗤う、自称織斑一夏に激昴したラウラは近づくために一歩踏み出そうとしたが

 

「その男に謝らんかッッッ!!!!!!!!!!」

 

ビリビリビリッッッ!!!!

 

恭一の咆哮にも似た声が教室全体を震わせた。

言われたラウラも訳は分かっていないが少し気押されたみたいだった。

 

「なっなにを...」

「お前の勘違いで殴られたそいつにまず謝るのが先じゃないのか? 話はそれからだろう。それとも無関係な者を殴っても許されるのが軍人か?」

「貴様...私を愚弄する―――

 

「さっさとせんかッッ!!!!!!!!!」

 

「ぐっ....」

 

ラウラは嫌々ながらも一理ある事を認め、一夏の方に向き直り

 

「...私の勘違いだ、すまん」

 

短い言葉だったが、確かに謝罪の言葉を述べた。

謝罪を受けた本物の一夏は

 

「あっ...いや、えっと....」

 

一夏で無くとも、この展開では何を話せば良いか、など咄嗟には出てこないだろう。

偽物の一夏はと云うと、軽く頭を下げたラウラの姿を見て満足そうに

 

「あっわりぃ俺の勘違いだ。そいつが織斑だったわ」

 

「「「「「えええええええええええッッッ!!!?!?!」」」」」

 

恭一の狂行にクラスメイト達はとうとう叫んでしまう。

 

「なっ.....貴様、私をおちょくっているのか!?」

「さぁ...どうだろうな?」

「ぐっ...どっちなんだ!? オイお前! この男は織斑一夏なのか!?」

 

近くに座っている1人の生徒にラウラは聞くが

 

「あーあははは....えっとー....」

 

聞かれた女子は視線を泳がせるだけで質問には答えようとしない。

 

(何で私に聞くのよ! ここで答えたら後で渋川君に何されるか分かったモンじゃないでしょ!)

 

恭一はクラスメイトにどんなイメージを持たれているのか。

 

「くっ...もういい! 小細工をしおって、貴様が織斑一夏なんだろう!?」

 

答えようとしない生徒の態度に痺れを切らし、ラウラは男に問い詰める。

 

「さぁ...どうなんだろうな?」

 

―――が、残念そっちは偽物の方であった!

 

「くうううううっっ.....」

 

怒りを通り越してどうすれば良いのか、軽い錯乱状態に陥るラウラ

 

(しぶちーが楽しんでる事だけは分かるよー)

(ボーデヴィッヒさん...ご愁傷様ですわ。ですが今の状況は、恭一さんの居るクラスでの目立つ者の宿命でしてよ)

(恭一のキャラが分かんないよ...男じゃないってバレたら僕どうなるんだろ...)

(はぁ...渋川め、相変わらず無駄な事に全力で挑む男だ)

(くっくっ...ラウラを言葉だけでここまで翻弄するか....もう少し続きを見てみたい気はするが、仕方ない)

 

「そこまでにしろお前ら。それと貴様が殴った方が織斑だ。ではHRを終わる。各人は着替えて第二グランドに集合。昨日に引き続き2組と合同でISの実践訓練を行う。以上、解散!」

 

「っしゃああああああああ!!!!! 織斑! デュノア! 先に行ってるぜ!!!!」

 

よほどラウラとの絡みが楽しかったのか、ウッキウキなまま出て行く恭一。

 

「す、すっごい笑顔だったね...恭一」

「...相変わらずアイツは何をしたいのか俺には分からん」

 

とりあえず恭一を先頭に男子三人は教室から出て行った。

それを確認して、女子達が着替えを行う。

そんな中、ラウラはまだ納得がいっていない様子でブツブツ何やら呟いていた。

 

「なんなのだあの男は...織斑一夏だけでも忌々しい限りなのに、あの男から始末してしまうか? いや、しかし....うむむむむ」

 

ラウラの言葉にあるあの男というのは、渋川恭一であろう。

近くで着替えていた女子がそんなラウラに話しかける。

 

「ボーデヴィッヒさん、悪い事は言わないから渋川君には絡まない方が良いよ?」

「む? 何故だ? あのような口が回るだけの男なぞ私の敵ではない!」

 

フンッと鼻を鳴らしながら女子の忠告にラウラはそう応える。

 

「いや...渋川君って何て言うか『最凶』なんだよね」

「『最凶』っていうか『最狂』じゃない?」

「いやいや『最恐』でもあるわよ?」

 

恭一の話になると数人が加わってくる。

 

「なんだと!? 『最強』は織斑教官だ!!!! あのような巫山戯た男ではないッッ!!!!!!」

 

ラウラは女子の言葉に思わず叫んで反論してしまうが、普段から『渋川恭一』という非現実な男のせいで慣れてしまっているのか、あまり怖がられなかった。

 

「んー...『最強』は織斑先生でも『最凶』は渋川君だよ」

「だから『最狂』だってば」

「貴様らさっきから何を言っている!? 『最強』は唯1人のみだろう!!!!!」

 

ドイツ人であるラウラが日本語を話す事が出来ても、日本人特有の言葉遊びをまだ理解出来なくても仕方ない事である。

 

「....文字が違うのだボーデヴィッヒ」

「何だと? 誰だ貴様は」

 

着替え終わったのか、1人の生徒がラウラに近づく。

 

「私は篠ノ之箒という。日本語は同じ読み方であっても、漢字が違うと意味も変わってくる。この者らが言っていた『さいきょう』は全て意味が違う言葉なのだ」

「フンッ...何を言っているのかサッパリだ。まぁ良い。私はあんな軽薄そうな男など眼中に無い。まずは織斑一夏を....そしてその後は....」

 

箒のフォローも徒労に終わってしまい、ラウラは教室から出て行く。

はぁ...と溜息をつく箒にセシリアが近づき話しかける。

 

「珍しいですわね。箒さんがあのようなフォローに回るなど」

「なに...渋川にひどいトラウマを植え付けられる前に忠告を、と思ったんだがな。お前のように模擬戦で泣き叫ばれては適わんし」

 

くっくっ、と話す箒に

 

「ぐっ....痛い処を突いてきますわね箒さん。まるで恭一さんみたいでしてよ?」

 

かつて同じやりとりをしたこの会話。

あの頃の箒は、セシリアにそう指摘されると真っ赤になって否定した。

今は――――

 

「ふっ...それは嬉しい限りだ」

 

胸を張って言い放つ箒に対し、セシリアはどこか歯がゆい想いを受ける。

 

「箒さんは...変わられましたわね。私は....」

 

あんなにいつもブスッと不機嫌そうに過ごし、対人関係も一夏以外はまるで寄せ付けなかった箒が転校生のラウラに話しかけ、今は笑顔でセシリアにも話している。

 

セシリアの表情に陰りを見た箒は

 

「お前は今を楽しんでいるか?」

「えっ...?」

「私はな...小難しく考えるのはヤメたんだ。折角の人生だ、楽しまなきゃ損するってなモンさ!」

 

本心からそう思っているのだろう。

セシリアにとっては今の箒の姿が眩しく映った。

 

「......ふふふ。今のお言葉も恭一さんの影響かしら?」

「ふっ...アイツと共に居るとバカになれるぞ? まぁお勧めはせんがな!」

 

そう笑い、箒は本音達と共に教室から出て行く。

 

「私は....私も.....」

 

言葉が続かないセシリアは果たして何を思ったのだろうか。

 

 

________________

 

 

 

その日の授業は大した事件も起きず、滞り無く進み放課後になった。

一夏達は第3アリーナにてISの鍛錬を行っている。

 

「なんとなくこう分かるでしょ? 感覚よ感覚。はあ? なんで分かんないのよバカ! 感じろっツってんのよ!」

 

感覚派の凰鈴音

 

「防御の時は右半身を斜め上前方へ5度傾けて、回避の時は後方へ20度反転ですわ」

 

理論派のセシリア・オルコット

 

「...率直に言わせてもらう。全然分からん!」

 

2人の解説が両極端過ぎて、余計に理解するのに苦しむ一夏だった。

 

「そういや最近、箒は鍛錬に顔を出さなくなったなぁ。やっぱり専用機が無いと中々厳しいのか?」

 

「「は?」」

 

一夏の言葉に鈴とセシリアが驚く。

 

「いやいや、アイツ鍛錬してるわよ?」

「ええ、私も見た事がありましてよ」

「えっそうなのか?」

 

今度は一夏が驚く。

 

「まぁアリーナが違うんだから、気づかないのも無理はないのかしら?」

「何で違う場所でやってるんだ? 一緒にすれば良いじゃないか」

 

鈴の言葉に疑問を浮かべる。

 

「箒は箒でしょうが、それにアイツは恭一に教わってるから良いのよ」

「恭一さんも打鉄ですからね、訓練機は専用機とはどうしても仕様が違ってきますから、箒さんも恭一さんに教わる方が宜しいでしょう」

 

2人の言葉に納得する一夏だったが

 

(あの2人っていつの間にそんなに仲良くなったんだ?)

 

今では箒とも相部屋では無くなったため、接する機会も前より少なくなったのは確実だった。

 

「一夏、ちょっと模擬戦の相手お願い出来るかな?」

「ん? シャルルか、良いぜ!」

 

とりあえず、鈴とセシリアの説明の伝わり辛さは後回しとして、デュノアと一夏が模擬戦を始める。

 

が、あっさりと負けてしまった。

.

.

.

「えっとね、一夏が勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからじゃないかな」

 

「そ、そうなのか? 一応分かってるつもりだったんだが...」

 

まだまだ素人の域で完璧に理解しろ、というのは酷である。

 

「うーん...一夏は知識として知ってるって感じかな。さっき僕と戦った時も殆ど間合いを詰められなかったよね?」

「確かに...『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』も読まれたしなぁ」

「一夏のISは近接格闘のみだからね。ある意味、僕達よりも深く射撃武器の特性を把握しないと中々勝つのは難しいと思うよ。一夏の『瞬時加速』だって確かに脅威的だけど、あくまで直線的だから反応出来なくても軌道を予測して反撃する事は容易いんだ」

 

デュノアの説明に鈴が反応する。

 

「あんた、一応言っておくけど、『瞬時加速』中に下手に軌道を変えようなんて思ったら駄目よ?」

「えっ何でだ? 直線的な攻撃じゃ読まれ易いんだろ?」

 

一夏の疑問にセシリアが応える。

 

「確かに一夏さんの言う通りですけど、それをしてしまうと身体への負担がかなり大きく掛かってしまいます」

「セシリアの言葉をもう少し深く言うと、空気抵抗とか圧力の関係で普通の肉体じゃあ最悪の場合、骨折したりするからね」

 

デュノアもセシリアの言葉に加えて危険を促す。

 

「....なるほど」

 

(普通の肉体なら.....恭一さんの身体ならどうなんでしょうか)

 

セシリアはふと疑問に思った。

.

.

.

『――――ってなワケでまだまだ篠ノ之じゃ『瞬時加速』中に遊びを入れる事は出来んな』

『なるほど...これも1つの身体を鍛える指標になるか。ちなみにお前以外じゃ不可能なのか?』

『ンなこたぁ無い。少なくとも、千冬さんと束姉ちゃんは余裕だろうな』

 

同時刻、このようなやりとりが別のアリーナで行われていたとか

.

.

.

「おい」

 

デュノア達の説明を遮る者が第3アリーナに現れる。

その声に振り向くと、黒い機体と銀髪に隻眼が特徴の少女、ラウラ・ボーデヴィッヒが鋭い眼差しで立っていた。

ラウラが睨みつけているのは一夏ただ1人。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな? なら話が早い。私と戦え」

「嫌だ。理由がねえよ」

「貴様に無くとも私にはある。貴様さえ居なければ教官が大会二連覇の偉業を成し得ただろう事は容易に想像できる。だから、私は貴様を...貴様の存在を認めない」

 

勝手が過ぎるラウラの口上に

 

「またな」

 

過去の事を掘り返され、内心穏やかでは無かった一夏だったが、会話を終わらせピットへ戻ろうとする。

 

「ふん...ならば、戦わざるを得ないようにするまでだ!」

 

ラウラは自身のISを戦闘状態へとシフトさせ、一夏に向かい、左肩に装備された大型の実弾砲に火を噴かせた。

 

ゴオオオオッ!!!!! ガギンッ!!

 

「「なっ!?」」

 

デュノアが一夏の前に割り込み、即座にシールドを展開して実弾を弾き飛ばす。

 

「こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。ビールだけじゃなくて頭もホットなのかな?」

「貴様.....」

 

攻撃を邪魔されたラウラはデュノアを睨む...が当のデュノアは涼しい顔のままた。

 

(僕はあの恭一にだって言い合いで勝ったんだ。口下手な君じゃ僕の相手にならないよ)

 

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 

突然アリーナにスピーカーからの声が響く。

騒ぎを聞きつけてやって来た担当の教師なのだろう。

 

「ちっ...今日は引いてやる」

 

興が削がれたのか、ラウラは言うやアリーナゲートへ去っていった。

 

「ふぅ...大丈夫だった一夏?」

「おっおう。助けてくれてありがとなシャルル」

 

そんな2人に鈴とセシリアも近づいてくる。

 

「変なのに絡まれたわねぇ一夏、アイツあんたと知り合いなわけ?」

「いや...初対面のはずだが、千冬姉ぇをどうも慕っているみたいなんだ」

「ふぅん...」

 

鈴と一夏が話している間、セシリアだけは黙ったままであった。

そんな彼女を見て不思議に思ったデュノアが話しかける。

 

「どうしたのセシリア? なにか考え事かな?」

「考え事、という程でも無いのですけれど、もし先程の場に恭一さんが居たらどうなっていたのか、と思いまして」

 

セシリアの言葉に皆が黙る。

 

「まぁ....何もしないってのは考えにくい...か?」

「絶対良からぬ事をしたわ。一億賭けても良いわ、早速教室でも絡んだって話じゃない」

 

自信満々に言う鈴に

 

「あはは...僕もまだ恭一とは知り合って1日しか経ってないけど10億賭けても良いかな」

 

昨日恭一から逆転勝利をもぎ取ったデュノア

 

「ふふふ...この出来事を恭一さんが知ればさぞかし悔しがるに決まってますわ。ちなみに私は100億賭けてもよろしくてよ?」

 

恭一に挑んだ最初の犠牲者セシリア

 

 

『へぁ.....へあっっ......クシッッ!!!!』

『風邪か? 渋川』

『俺程になると居なくても話題独占間違い無しだからな。俺の武勇が今日も何処かで語られてるんだろうよ』

『なるほど、お前はやはりアホだな』

 

 

後にこの出来事は鈴とセシリアから恭一へ話されるのだが、それを聞いた恭一は子供のように地団駄を踏み、悔しがったと云う。

 

鈴とセシリア、そしてその場に居た箒はその時の事をこう語る―――

 

 

『天を仰ぎ、どちくしょうッッ!!って叫ぶ人間を初めて見た』

 

 

________________

 

 

 

「ふぅ.....」

 

ラウラは部屋につくと風呂場に入り、熱いシャワーを全身で浴びる。

 

 

―――織斑一夏はあくまで前菜に過ぎん。

私が真に求めている者はただ1人...織斑教官を倒したなどと言われた名も知らぬ男。

必ず見つけ出し―――殺してやる。

 

 





ちーちゃんを倒せる男なんて居るわけないだろ、いい加減にしろ!!

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