野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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しぶちーが少し成長したのかもしれないお話




第32話 感情の原因

「鍛錬後のお茶はどうしてこうも美味いのかね」

「ふふ...そうだな。最近では購買でお茶に合うお菓子も買ってくるようになったしな」

 

恭一はデュノアの案内を終えた後、やって来た箒と共に汗を流し、今は最近恒例となりつつある鍛錬後のお茶会を2人で楽しんでいた。

 

(ふふっ...今日は千冬さんは会議、楯無先輩も生徒会の仕事で来れない。お昼は鈴たちと食事を共にする事となったが、今は正真正銘、渋川と2人きりだ!)

 

箒は渋川との2人だけの時間に喜びを噛み締めていた。

 

「なぁ...篠ノ之」

「なんだ渋川?」

 

「俺が胸を触らせてくれって言ったら嫌か?」

「ぶうううううううううッッ!!!!!! ゴホッゲホッ....」

 

お茶を思い切り吹き出してしまう。

 

「オイオイ、盛大にいったな...ほれハンカチだ」

「あっああ、すまない...では無くっ!! 何を急に言い出すんだお前は!!!!!」

 

(私が言えた事では無いが、渋川はそっち方面には疎いと思っていたのに...もしや私の身体に興味を持ってくれたのか?)

 

 

篠ノ之箒―――超高速乙女思考モード発動

 

 

(無駄にデカイ脂肪など忌々しいだけの存在だと思っていたが、渋川が喜んでくれるなら今だけは受け容れるぞ、ありがとう私のおっぱい!!)

 

「しっ...渋川なら私は―――

「ああすまん。言い方がおかしかったな。胸を他人に触られるのは嫌か?」

「...は?」

 

(........渋川は私の胸に興味を示したのでは無いのか)

 

そもそも自分はまだ気持ちを伝えていないのに、そのような展開などあり得なかったな、と苦笑いしてしまう。

そして気を取り直し、渋川の質問に対して考えてみる。

 

「そう...だな。その前に確認しておくが、この間の鈴との話で渋川はまだ恋を理解していないと言っていたが...あれからも?」

「恥ずかしながらまだだな。そういうお前さんは恋してんのかい?」

 

私は―――

 

「私は.....してる。1人の男を...心から愛している」

 

告白する勇気が持てない臆病な今の私に出来る事などたかが知れている。

それでも、せめてこの想いを言葉に乗せて――――

 

「...そうか。羨ましい限りだが、何でそんな事を聞いた?」

「愛する者には触れたいし、触れられたいと私は思う。これが渋川の問いに対する私の答えだな」

「なるほどなー...ん?」

 

恭一は箒の言葉で何かに気付く。

 

「って事は愛してない奴が触れようとしてきたら....?」

「断固拒否だ。良いか渋川、女にとって胸を好きでもない奴に触られるなどこれ以上無い辱めなのだ。陵辱とさえ言ってしまっても良いだろう」

 

キッパリ言い放つ箒に対し

 

(なん...だと..?)

 

「女と...男は違うのか?」

 

擦れ声で聞く恭一

 

 

「私は男ではないから男の気持ちは分からん。だがな、少なくとも愛する者以外に触られて喜ぶような女など私は知らん」

 

もしかして自分は軽い気持ちでトンでもない事をしたのでは...。

 

(いっ、いや待て落ち着け。あいつは男なんだ。男ならセーフのはず....だよな?)

 

うーん、うーんと唸りだす恭一に

 

「渋川...お前まさか―――

(...いや、渋川はそんな不埒な事をするような男ではないな)

 

箒は言いかけてやめる。

 

この時交わした2人の会話は今後、どう影響するのだろうか。

それは未だ誰にも分からない。

 

それよりも箒は2人きりのうちに少しでも渋川の事を知りたかった。

 

「...渋川は恋をしたいとは思っているのか?」

「そもそも恋って何なんだ?」

 

前世で愛を知る前に母と離別した恭一は、他人を慕い、慕われる事はあっても人を愛する感情だけは最後まで理解出来ずじまいであった。

 

そんな恭一は真っ直ぐな瞳で、愛する者がいる事を告げる箒を羨ましく思っていた。

 

「言葉で説明するのは少し難しいな...」

「複雑なのか?」

 

困ったような顔をする箒につられる恭一

 

「難しくは無いのだが....」

 

少し頬を染めてチラリと恭一を見る。

 

「言葉に出すと...その、だな..はっ恥ずかしいのだっっ」

「???」

「ううっ...」

 

首を傾げる恭一にどうしたものか、と悩む。

 

「さ、先程にも言ったが好きな者には触れて欲しいって思うし、私だって触れたいと思う。それに...だな。これからも私は側に居たい。困ってる事があれば支えてやりたい。

その人の...笑顔を見ると私も嬉しい」

 

恭一の瞳を見つめて強く、そう言った。

 

―――私みたいな弱い女は渋川には相応しくない。

 

それでも...分かってはいても止まれなかった。

 

「しっ...渋川!!」

「お、おう?」

「私は....私はっ...お前の事が――――

 

「「ちょっと待ったあああああああああああッッッ!!!!!!!!!」」

 

世界最強と学園最強が現れてしまった。

 

「ゲッ...何故、千冬さんと楯無先輩が...仕事があるんじゃなかったんですか?」

 

「「第六感」」

 

「ぐっ...超能力者ですか貴女達は....」

 

折角の告白のチャンスを無にされた箒だったが、2人の行動に強く出れないでいた。

何故なら―――

 

「(どういうつもりだ篠ノ之。我らは決めたよな? 告白する時は皆ですると)」

「(そうよ! 恭一愛慕同盟の鉄則でしょ!!)」

「(うう...つい、感情が昂ぶってしまいまして)」

 

部屋の隅で恭一に聞こえないようにヒソヒソ話す乙女達

 

「(っていうか聞いたわよ!? あなた今日の授業で恭一君にお姫様抱っこされたばかりかキスまでしようしたらしいわねッッ!!!!!!)」

「(大衆の面前で発情するなど、猿かお前は。恥ずかしいと思わんのか? 性の悦びを知りやがったのか? あ゛ぁ? どうなんだ小娘)」

 

やっぱり、と言うか箒が授業中にした事に対しては普通にキレていた。

 

「(うう...つい、感情が昂ぶってしまいまして)」

 

「「(それしか言えんのかこの猿ッッ!!!!!!」」

 

 

ヒソヒソ話が少しずつ大きくなってきた頃、恭一は―――

 

(...側に居たい、笑顔が見たい、ね)

 

自分は今までそんな感情を他人に持った事があっただろうか。

強くなりたい。

強い奴と戦いたい。

前世での自分の理念はそれだけだったはずなんだが...

 

(俺もこの世界に来て少しは成長してるのかな)

 

『武』以外に興味を持つのも悪くない。

最早、ギャーギャー騒ぎ倒している3人の光景を眺める恭一の表情はどこまでも穏やかだった。

 

 

________________

 

 

 

―――翌日

 

「ええっと...ま、またまたこのクラスに転校生がやってきましたぁ!!」

 

「「「ええぇぇぇえっっ!?」」」

 

1組の生徒が真耶の言葉に驚きの声を上げる。

斯く言う真耶自体も生徒と同様に驚いているのだが

 

「そ、それでは入ってきてください」

 

そう言われ昨日に引き続き、新たな生徒が教室へ入ってきた。

 

「.........」

 

少女は何も発さず、周りを見下すような視線に高圧的な態度で腕を組んでいる。

 

「...挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

何も話さずジッと立っていた少女に千冬が声をかけると、ようやく反応を示した。

ラウラと呼ばれた少女は千冬に対し、尊敬の念を込めた敬礼を向ける。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、お前もこの学園じゃ一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」

 

教官と呼ばれた事への不満か、面倒くさそうに注意する千冬

 

「了解しました」

 

そう答えた少女はピッと伸ばした手を体の真横につけ、足を踵で合わせて背筋を伸ばしている。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

その一言で自己紹介を終わらせた転校生、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』―――白に近い輝くような銀髪を腰近くまで飾り着なく下ろし、左目は黒の眼帯で覆われており、開いた赤色の右目が黒色とよくマッチしていた。

 

「あの...以上ですか?」

「以上だ」

 

この微妙な空気を打破するために何とか画策する真耶だが、相手が悪かったらしい。

もう話すつもりは無いようで、さっさと教卓から降りるラウラは自分の席に向かわず、1人の男の席へと近づいた。

 

「貴様が織斑一夏か?」

「.........」

 

 

今回は折り紙をしていない狂者の元へ―――

 

 

________________

 

 

 

「貴様が織斑一夏か?」

 

恭一の前でも高圧的な態度で話しかける。

 

『その男はアカン』―――クラスメイトは心配そうに見守る。

 

「.........」

 

恭一は目の前のラウラに食指が動かない様で、目と顎で一夏の方を指した。

 

「そうか...」

 

理解したラウラは恭一の席から離れ、それを見ていたクラスの女子達は一安心したが

 

(....しぶちーがあんなに大人しいワケがないよー)

(おかしいですわ...恭一さんの事です、きっと何かしらのアクションを起こすと思ったのですが...)

(ふむ...ラウラに対して何か思う事でもあったか?)

(...渋川?)

 

恭一と普段から親交を持つ者は、クラスの皆が一夏に近づいていくラウラに視線を集中させている中、恭一に目をやる。

 

 

「「「「「「ッッッ!?!!」」」」」」

 

『アカン』

 

―――その男はラウラの背をジッと視ていた...嗤いながら

 

 





スーパー箒がなんかもうほんとスーパーしてる(格言)

ようやくラウラも出たし、もうお腹いっぱいだ!

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