「ふぅ...今日はこの辺で終いにするか」
恭一が汗を拭きながら終わりを告げる。
「ああ、明日からまた授業が始まるしな。今日は軽めで終わらせるのも良いだろう」
「はあっ....はっ...はっ....私っ....は...生きてるな」
軽いストレッチをする千冬と地獄の5日間を無事終えた事への喜びを感じる箒
「それなら、この後皆でお茶会しないかしら? 今日でゴールデンウィークも最後だからお姉さん、クッキーを焼いてきたのよ」
当然のようにいる楯無
「結局あれから毎日顔を出すようになったなコイツ...」
「恋敵が増えるのは嫌ですけど、鍛錬仲間が増えるのは嬉しいですね」
楯無も共に鍛錬する事になったが、千冬と箒は歓迎しているようだ。
「強い人と手合わせするのがここまで楽しいとは思わなかったわ。お姉さんも強くなれるし、恭一君とも触れ合えるし、まさに一石二鳥ね」
ふふん、と話す楯無に若干の危機感を覚えるが、何だかんだ恭一も楽しんでる姿を見て何も言えないでいた2人
「...やはりお菓子など作れた方が恭一も喜ぶのだろうか.....」
「お菓子....りょ、料理の勉強ならしてますっっ」
鍛錬が終わると乙女思考になる千冬と箒だった。
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「あっ、そうだ。明日から恭一君のクラスに転校生が来るんだよ」
「転校生ですか...鈴に続いて2人目ですね」
楯無の言葉に箒が反応する。
「んぐっ...明日に1人、また後日にもう1人お前達のクラスに転入予定だ」
クッキーを咀嚼し終わると千冬が付け加える。
「2人も私達のクラスですか....何やら色々と勘ぐってしまいますね」
「そーなのよねぇ...生徒会長の私はもう2人の資料に目を通したんだけど実はね――――」
「はい、そこまで」
恭一が楯無の言葉に待ったを掛ける。
「ネタバレはイカンぜ会長。今の学園生活に新たな風を吹かしてくれるかもしれねぇんだ。俺はそれを真っ白なままで迎え入れてぇ」
何やらカッコ良さげな事を言っているが、そんな本人の頰にしっかりとチョコが付いてるのでいまいちシュールさの方が勝ってしまっている恭一
そんな姿を見て、3人は思う。
(ああっ...恭一の頬にチョコが....ど、どうやって取ってやれば恭一は喜ぶのだ?)
恭一を想うがあまり、これまで武一辺倒の人生だった故、どうすれば男心をくすぐるのか分からない世界最強。
(ここは無難にティッシュで拭いてやるのが良いのか? 指で掬ってやって....その後はどうするんだ? 指についたチョコをな、舐め取れば良いのかッッ!?)
恋愛に鍛錬に、と今が最も充実しており、恭一と自分の恋仲を想像しては一喜一憂するがイマイチ勇気が足りず一歩を踏み出せない武道少女。
(.......恭一君のほっぺたを舐めるチャンス...)
なにかおかしい学園最強。
3人の視線が口元にあるのを気づき、自分で拭くしっかり者の恭一
「「「あぁ........」」」
こうして恭一を含めた4人は何だかんだこの5日間で親睦を深めていったらしい。
________________
「さて、ゴールデンウィークも終わり今日からまた授業が始まるわけだが、休日気分は今ここで無くせ。今日からは本格的な実践訓練も開始されるからな。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使え。忘れた者は代わりに学校指定の水着を代用してもらう事になるからな。分かったか?」
「「「「「はいっ」」」」」
千冬の言葉でまだ休み気分が取れていなかったクラスの緩い空気が引き締まる。
「では山田先生、ホームルームを頼む」
「は、はいっ」
連絡事項を終えると、真耶が教卓に立ち、軽く挨拶を述べると
「ええとですね、今日はなんと皆さんに転校生を紹介します!」
「「「えええええっっ!!!!」」」
まさかの転校生にクラスが一気にざわつく。
そんな声の中、真耶が転校生を教室へ招き入れる。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします。」
ペコリ、と頭を下げにこやかな顔をしている男子生徒。
「お、男?」
誰かが呟く。
「はい。此方に僕と同じ境遇の方達がいると聞いて本国より転入を―――」
人懐っこい笑顔に加え礼儀正しい立ち振る舞いと中性的に整った顔立ち。
金色に輝く髪は丁寧に首の後ろで束ねられている。
『貴公子』―――クラスの皆はそんな印象を受けたようだ。
「「「「きゃあああああああああああッッッ!!!!!!」」」」
歓喜の咆哮である。
「男の子よ! 三人目の男の子!」
「しかも美形! 守ってあげたくなる系の!」
「私っ、このクラスで本当に良かったぁ!!!」
いやっふうううううううううう、と騒ぐ女子の中で恭一は――――
久しぶりに折り紙に夢中で見てなかった。
「ではHRを終わる。各人は着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でISの模擬戦闘を行う。以上、解散」
クラスの女子達が準備に取り掛かる中、千冬が一夏と恭一に声をかける。
「織斑、渋川。同じ男子だ。デュノアの面倒を見てやれ」
「わ、分かりました」
千冬の言葉に返事をした一夏に対しデュノアは軽く挨拶をすると、まだ座っている恭一の方へ向かっていった。
「君が渋川くん? 初めまして僕は――――」
「女子が着替え始めるから挨拶は後回しで先に移動しよう、恭一も行くぞ!!!」
そう言って一夏は恭一の肩を軽く叩く。
「ん? おお、もう授業か」
「は? まぁいいや、急ぐぞ二人とも」
一夏がデュノアの手を握り、先導して教室を出る。
恭一もそれに続き教室を出る。
「男子は空いているアリーナ更衣室で着替える。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれ」
「う、うん」
「...........」
説明をする一夏に顔を赤らめながら頷くデュノアと無言でついて来る恭一
3人は階段を下って行ったが、他のクラスメイトがデュノア目当てで張っていたようで、先程の教室内以上に女子達が騒ぎ出す。
「ああっ! 転校生発見!」
「しかも織斑君と一緒よ!」
「1人余計なのがいるけどね!」
「こっちよ皆の衆!!」
「者ども出会え出会えい!」
わらわらとゾンビの如く群れだし邪魔となる集団に
――――どけ
恭一の一言でそれまで廊下のど真ん中にいた女子達が一斉に壁際に移る。
理性ではなく、彼女達の本能がそうさせた。
一夏とデュノアも立ち止まってしまったが、恭一は2人を構わず歩いて行く。
その光景はまるで紅海を渡ったモーゼの如く―――
暴威が去るやいなや、先程まで壁際で固まっていた女子達が一夏とデュノアに再度群がる事となるのだが...
絡まれなければ、どちらかと言えば温厚な様子で過ごす恭一なのだが、今の彼はイラ立っていた。
(何故...八方手裏剣が上手く折れない......)
何が原因なのかを考えながら着替えを終えるとアリーナに向かう。
「む...渋川、織斑とデュノアはどうした?」
「ん? 気づいたら消えてましたっていうか、デュノアって何ですか?」
「なに?」
恭一の言葉に疑問を浮かべる千冬
「はぁっ...はぁっ...」
千冬が問いかけようとすると一夏とデュノアがやってくる。
「遅い! 何をやっていた!!」
2人とも頭に出席簿が落ち、初めて喰らったデュノアは少し涙目になっていた。
「「す、すいません...」」
「さっさと列に並べ」
一夏とデュノアが列に並び終えたところで授業が始まる。
________________
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
「「「はい!」」」
HRでも千冬が言っていた通り、今日から本格的にISを起動させた授業が始まるわけだが、やはり専用機を持っていない生徒からすると嬉しいものなのか、歓喜と気合が混じった返事である。
「今日はまず戦闘を実演してもらう....そうだな、凰! オルコット! それと渋川! 前に出て来い」
千冬の声に前に出ていく3人
「........」
「なんであたしが...」
「渋川さんと戦いたくない渋川さんと戦いたくない渋川さんと戦いたくない渋川さんと戦いたくない.....」
「ちょっ....アンタどんだけアイツにトラウマ植え付けられてんのよ!?」
セシリアの呪詛に鈴が驚くが、恭一との模擬戦を観ている生徒達からすると
『残念だけど当然』
知らずのうちにクラスメイトから同情されるセシリアであった。
そんなセシリアと鈴に千冬は近づくと
「お前ら少しはやる気を出せ。特に凰は愚弟にいいところを見せるチャンス、オルコットは前に踏み出すチャンスじゃないのか?」
それを聞いた途端、鈴がやたらテンションを上げる。
「まっ実力を見せるいい機会よね! あたしの!」
「ううっ....が、がんばりますわ......」
対照的にセシリアはまだ少し、張り切るには勇気が足りていないようだった。
「3人ですけど、どんな試合形式にするんですか?」
「まぁ待て。そろそろもう1人対戦相手が来る―――」
鈴の質問に答えていた千冬が言い終わる前に
キィィィィン......
空から空気を裂く音が鳴り響き
「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」
大声を出しながら高速で突き進んでくる真耶の姿が――――
それに気づいた生徒達が悲鳴を上げて四方八方に逃げ出す。
真耶の軌道上に居たセシリアと鈴も直様逃げるが恭一は...。
「しっ...渋川、何をボーッとしてるッッ!!! 逃げろおおおおおおッッ!!!!!!!」
箒が懸命に大きな声を張って注意を促す。
「しっ渋川くんーーーーっ!!! どいてくださあああああああッッ!!!!」
「へ?」
ガッ..ガガガガガガガッッ!!!!!!!!
突進してきた真耶を咄嗟に両腕で鍔競る形で止める恭一
「とっ...止まった?」
「っていうか...相変わらずしぶちーってば規格外だよぉ」
「突進してきたISを生身で止めるとか、どんだけ腕力自慢の持ち主なんですか」
元祖しぶちー応援隊が恭一の無事な姿を見るとホッとしながら話す。
そんな3人の声をよそに恭一は―――
「あ゛ぁ? いきなりなんだテメェ喧嘩売ってんのか?」
バゴッ!!!!
「あでっ...」
後ろから千冬が恭一を叩く。
「馬鹿モンが。まるで心此処に在らずだったではないか。それと、お前が止めたのは山田先生だ。教師にその口の利き方はさすがに見過ごせんぞ」
「.......?」
「あっ...あははは、止めてくださってありがとうございます渋川君。でもそろそろ頭を離してくれると嬉しいかなーって、あいたたたたっっ」
生徒が教師にアイアンクローを掛けてるの図
「おっ...おお、すいません山田先生」
ここで恭一の頭からようやく手裏剣が飛び出て、意識が外に向けられた。
謝る恭一と謝る真耶を見ながらセシリアと鈴が問う。
「もしかして、もう1人の対戦相手って山田先生ですか?」
「ああ、対戦形式は『山田先生・渋川vsオルコット・凰』のタッグマッチだ」
「えっ...でも山田先生も恭一も訓練機ですよ?」
「........鈴さん、少なくとも渋川さんは私達よりも格上でしてよ」
「んなっ...確かに一度だけアイツの戦ってるのを観たけど、はいそーですかって簡単に納得できるワケないでしょ!!」
セシリアの弱腰ともとれる発言に鈴が噛み付く。
「アンタも代表候補生でしょうが! プライドが無いの?! この模擬戦でアイツにリベンジしてやるって気概を少しでも見せたらどうなのよッッ!!!」
「うっ....た、確かに鈴さんの仰る通りですわ。いつまでも渋川さんに苦手意識を持ったままなど、オルコット家の長女として許せる事ではありませんわ!!!!!」
セシリアが鈴の言葉に奮い立つ。
「ふふん、そうこなくっちゃね」
「あ、でも二人掛りで渋川さんと対峙しましょうね。絶対ですわよ? 私を一人にしないでくださいましね? 分かりました? 分かってますよね? お願いしますよ本当に」
「えぇ...? まぁアンタがそこまで言うなら分かったわよぉ...」
そう簡単にトラウマが払拭できれば苦労しない。
そんなセシリアと鈴の様子を観察していた恭一は2人が真耶を軽視している事に気付く。
すかさず真耶に作戦を提案し、それに真耶も大きく頷く。
「まぁ...アイツら程度なら俺1人で1分も掛からんだろ」
2人に聞こえるか聞こえないか、絶妙な大きさで呟く恭一
「は? 今なんて言ったのアンタ?」
「さて? なにか聞こえたかね?」
「....ふーん。あのクラス対抗戦以来、アンタとは疎遠だったけど、アンタに対するわだかまりをぶつける良い機会ね」
「くっくっ....出来もしない事を言うもんじゃないぞリンリン?」
「ッッ!? アンタァァァ.....上等よ、ぶっ飛ばしてやるわ!!!!!!」
「「「「「ゴールデンウィーク明けから絶好調だなぁ渋川君」」」」」
クラスメイトは思ったそうな。
「足手まといにはならないでよセシリア!」
「冷静にお願いします。張り切りすぎて1人で突っ走らないでくださいまし!」
「わ、分かってるわよ!! ちゃんとクールに戦うわ!」
熱くなる自分を何とか落ち着かせようとするが
「...1分だけ、この大地ともお別れだなぁ」
「ぬっがああああああああ!!!!!! 絶対吠え面かかせてやるんだからッッ!!!!!!」
「ああっ...鈴さんお待ち下さいっっ」
急上昇して行く鈴について行くセシリア
そんな2人から少し遅れて、嗤う恭一と苦笑いの真耶も上がっていく。
その時恭一は視線を送り、真耶は少し頷く。
「では、始め!!」
千冬の号令にいち早く飛び出した鈴とそれを援護するセシリア
2人の狙いは当然、恭一である。
「ぶっ潰すッッ!!!!!!!!」
鈴は近接武器である青龍刀『双天牙月』を振るい恭一を裂こうとするが、ヒョイヒョイと避けられる。
「あんたっっ、本当に武器を使わないのね!!」
「使う必要がないからなぁ...なんでなんだろうなぁ」
ニヤニヤしながら言う恭一に熱くなる鈴
「どこまでも口が回るわねッッ...ってセシリア! 何で援護しないのよ!?」
「ぐっ...そんな事を言われましてもっっ...射線上に鈴さんが!!」
このまま打ってしまえば鈴もろとも、という形になる。
どうする、旋回を――――そんな事を考えていると鈴の攻撃を捌いていた恭一が一転してセシリアの方へ向かってきた。
「なっ...どういうつもりか分かりませんがこれならッッ!!!!!」
直線的に向かってくる恭一に『スターライトmkⅢ』で狙いを定め....
「逃げんじゃないわよアンタあああああああッッ!!!!!!」
セシリアより先に鈴が恭一に向かって衝撃砲『龍砲』を放つ。
鈴とセシリアを挟み撃ちになるよう恭一に仕向けられていた2人の攻撃は恭一が上に急加速し避けた事によって―――
「「きゃあああああああッッ!!!!!!」」
自らの攻撃で同士討ちをしてしまう。
そして、その瞬間を待っていた者が満を持して火を噴く。
「お見事です。渋川君」
アサルトライフル二丁同時射撃という荒業を正確無比にやってのけ、2人を磔にしたまま動く事すら許さず、瞬く間に代表候補生2人をボロボロにする真耶の姿に観戦していた生徒達からも感嘆の声が聞こえる。
「ふっ....そこまで、試合終了だ!」
千冬の声で2人がいがみ合いながら降りてくる。
「アンタねぇ、何面白いように攻撃読まれてんのよ!」
「それはこっちのセリフですわ! 鈴さんが渋川さんに龍砲を打ってからおかしくなってしまったのでしてよ!?」
「「ぐぬぬぬぬぬぬ.....」」
バシッッ!! バシッッ!!
「あがっ」
「ふぎゅっ」
千冬の出席簿を喰らう2人
「馬鹿者共が。戦う前から頭に血を昇らせた凰、対角線上になった時点ですぐに旋回を怠ったオルコット、そしてタッグ戦の戦い方を理解していなかったのが敗因だ」
恭一はタッグと聞くとすぐに真耶に聞いていた。
何が得意なのかを。
射撃が得意と分かると瞬時に作戦を考え実行に移った恭一、そんな彼を信じ来るべき時に力を最大限活用した真耶の当然とも言える完勝であった。
千冬の説明にセシリアと鈴の背中が次第に丸くなる。
「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できたな? 以後は敬意を持って接しろ、良いな?」
「「「「「はい!」」」」」
「そして、今の模擬戦を観ても分かるように訓練機でも実力と対策をしっかりと練れば専用機を圧倒する事も可能だ。自分には専用機が無いから、などと腐りかけた時は今日の渋川と山田先生の事を思い出せ。分かったな?」
「「「「「は、はいっ!!!!!!」」」」」
皆の気持ちのこもった良い返事に大きく頷く千冬
「よし、それではこれから授業を始める」
しぶちータッグでもイケるやん!
原作でシャルロットの問題、解決してなかったとか驚いたゾ。
どうすっかなぁ俺もなぁ