肩を~並べて飲んで~
アレですよ、まぁ繋ぎ回みたいなモンです
あの謎のIS襲撃事件より1週間が経った。
恭一の怪我は階段から落ちた、という事でクラスの混乱を防いだ。
「しっかし、あんなに綺麗な髪だったのに、バッサリ切っちゃうとはねぇ」
「ふふふ、確かに勿体無い気はしますが今の篠ノ之さんは、以前のような壁を感じず自然体で過ごしているように見えます」
「あ、それすっごい分かる。なんか角が取れたって感じよね」
清香と静寐と癒子が箒の事を話していた。
「おはよーござーい」
「おはよう」
「しぶちーとしののんだぁ、あれ?しぶちーもう左腕固定してなくて良いの~?」
教室に入ってきた恭一と箒に本音が話しかける。
「ああ、全く不便で仕方なかったぜ。まぁでも篠ノ之に随分助けてもらったから、そこまで苦じゃなかったけどな」
「私のせいで怪我させてしまったからな。当然の事をしたまでだ」
そんな2人のやり取りを見ていた3人は
「篠ノ之さん、ニッコニコだね」
「ニッコニコですね」
「ニッコニコだ」
ちなみに、襲撃のあった翌日に箒は一夏の部屋から移動する事となり、今では静寐のルームメイトとなっている。
「しかし、のほほんさん何かテンションいつもより高くないか?」
「うむ、私もそれは思った。何か良い事でもあったのか?」
恭一と箒の疑問に笑顔で答える。
「あったっていうか~これからあるんだよ?」
「「これから?」」
「明日からゴールデンウィークで5日間もお休みなんだよーっ!!」
両手をブンブンさせて喜ぶ本音
「ああ...そういやそうだったな」
「ふむ、何か予定はあるのか渋川?」
「んー? 分からん。とりあえず篠ノ之と鍛錬かな?」
「そっそうか! うむ。とことん付き合ってやるからな!!」
いつの間にか本音も清香達の処へ来ていた。
「2人の距離感がすっごい近いよ~」
「あはは、何かどんまい本音」
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「さて、もう分かっているだろうが明日から5日間、学校が休みとなる。が、浮かれすぎてハメを外し過ぎないようにしろよ。それでは今日の授業はこれまでだ」
千冬と真耶が教室から出て行くと、皆が思い思いに集まる。
「おーい、恭一!」
「どうした、織斑」
教室から出る処で一夏に声をかけられる。
「明日、中学の友達の家に遊びに行くんだけどお前も来ないか?」
「明日は鍛錬するから無理だな」
「お前いっつもそれだな。たまには息抜きも必要じゃないか?」
「ブッ倒れたら考えるよ。んじゃな」
恭一は箒と鍛練場へ向かっていた。
「一夏の言う事も確かに一理あるんじゃないか? お前の鍛錬濃度はいつ倒れてもおかしくないと私も思うぞ?」
「言ったろ?倒れたら考えるって。それ以上に俺は篠ノ之と一緒に居たいんだよ(鍛錬的な意味で)」
「んなっ....わっわわ私もお前と一緒に居たい!!(恋愛的な意味で)」
「私も当然、恭一と一緒に居たいと思っているぞ(出歯亀的な意味で)」
何処からともなく、千冬が現れる。
箒が恭一の事で宣戦布告して以来、3人でいる時は自重しなくなった千冬であった。
以前までは早朝は千冬が恭一の鍛錬を共にし、放課後は箒が恭一と共に鍛錬する、という形だったのだが、今では早朝も毎日欠かさず箒も出てくるようになり、それが影響したのか、千冬も放課後に顔を出すようになった。
「ぐっ...今日も現れましたねショタコン大魔神」
「貴様、本当に肝が太くなったな」
「姉さんも千冬さんも私よりずっと渋川と近いですからね、強さじゃまだまだ勝てなくても、女としては白旗を振る気はありませんよ」
「小娘が...アイツは同い年よりも私のような年上がタイプなんだよ。きっと、そうだといいな」
「何で遠い目なんですか...」
千冬と箒が恭一に聞こえないように小突き合っていると
「そうだ。良い茶葉が手に入ったんだった。良かったら鍛錬の前にお茶で一息つかないか?」
恭一が思い出したように振り向いて2人にそう提案する。
「ふむ。それは良いな。そう言えば、戸棚にせんべいが入ってるだろ。お茶と合うんじゃないか?」
「どうして千冬さんがそんな事を知ってるんですか?」
「ふっ...私が恭一にあげたモノだからな」
「ぐぬぬぬ...」
「おーそれは良いですな。千冬さんも篠ノ之もお茶の方も期待しててくださいよ~」
――――ガチャ
言いながら恭一はプレハブ小屋の扉を開ける
「お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする?それともわた......し?」
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――――遡る事数日前
「会長、またその映像を観てるんですか?」
会長と呼ばれた女性はもう何度も観たにも拘らず、食い入るように画面に釘付けであった。
「...ええ、何度観ても凄いとしか言い様が無いわ。この首を仕留めてからの流れるような動き...一体どんな修羅場をくぐり抜けたらこうなるのかしら?」
画面から目を離さず、そう応えたのは『更識楯無』と云い、IS学園2年生であり生徒会長を務め、ISの操縦能力が高く現ロシア代表でもある。
しかし、それはあくまで表の顔であり実際は、裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部『更識家』の現当主、というのが彼女の本当の顔である。
そんな彼女が観ているのは、先日起こった謎のISによる襲撃事件の映像であり、打鉄を纏った者が撃退するシーンを何度も何度も巻き戻しては観続けていた。
「はぁ...この間までは彼の模擬戦の映像を観て、今はその映像...会長よく飽きませんね?」
溜息ながらにそう言うのは『布仏虚』と云い、IS学園3年生で生徒会の会計を務めている。
ちなみに恭一と同じクラスの本音の姉である。
「.............」
虚の呆れた声に反応する事無く、ひたすら彼の動きを凝視する楯無。
そんな彼女を見て、虚は1つ疑問をぶつけてみた。
「.....『渋川恭一』に勝てますか?」
「...ISの試合ならさすがにまだ私に分があると思う。でも....」
「でも?」
「彼は間違いなく試合では無く死合の経験がある。その経験は土壇場で必ず生きてくる。私には無い。この差は大きいわ。それに彼は明らかにISで戦う事を嫌がっている。もしかしたら生身の方が彼の真骨頂かもしれない...正直IS抜きで戦ったら....勝てる気がしないわ」
真剣な表情で語る楯無を見て虚は戦慄した。
『更識楯無』という存在は『織斑千冬』を除けば、肉弾戦・IS戦、どちらもIS学園最強を誇る実力者である。
そんな彼女が手放しで認める程の実力を持っている男。
彼は一体何者なのか。
「調べてもらった『渋川恭一』の経歴表をもう一度見せてもらえるかしら?」
「...こちらです」
虚から手渡された簡易に書かれたモノに目を通す楯無。
「ほんっっ...とうにペラッペラねぇ.....」
更職家の力を持ってしても恭一の過去を調べ上げるのは困難を極めた。
「捨て子であり、彼を拾ったのが渋川剛気....「歩く姿が武」とまで言われた達人に育てられたが、彼が10歳の時に渋川先生が死去。そして彼の姿も忽然と消える。が、3ヶ月前に全国の男子に対する一斉IS適正検査の場に突如現れる―――か」
「10歳からの5年間、彼は一体、何処に居たんでしょうね?」
「ほんと...謎に包まれすぎでしょ。気になるわねぇ...」
(近いうちに突撃しちゃおうかしら。インパクトがあるシチュエーションの方が良いわよね♪)
ニヤけた顔の楯無に気づいた虚
(またこの人は...良からぬ事を考えてるんだろうなぁ...)
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私はもう何度も彼に会ってるけど(映像的な意味で)彼は私の事はまだ知らないわよね。
ファーストコンタクトってやっぱり大事よね。
どうしよっか? 攻めちゃう? 少し過激に攻めてみる...?
裸エプロン...は、さすがに恥ずかしいから妥協して水着エプロンでお出迎えなんてどうかな。
強いと言っても彼は私より年下の子なのよ。
お姉さんの余裕を見せてメロメロ(死語)にしちゃうのも良いかもねっ♪
あっ...足音..帰ってきたんだわ。
むふふふ、映像では観れなかった少年の赤くなる顔、楽しみだなぁ♪
――――ガチャ
「お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする?それともわた......し?」
「「「............」」」
時間が止まった。
私の鼓動も止まった。
「..........という訳で、私はこの辺で」
ガシッ
「帰すと思っているのか? このメス豚が」
学園最強が世界最強に捕まった瞬間である――――
千冬:いいカラダしてんねぇ!
楯無:ありがとナス!(絶望)