野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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使えるモンは使ってこそ、というお話



第25話 全開

「束お姉様、ゴーレムの準備が完了しました」

「あいよ~」

 

ここは、かつて恭一も過ごしていた3人の秘密基地

 

「しかし本当にレベル0でなくて宜しいんですか?」

「ん~クーちゃんはレベル1ゴーレムじゃ不満かね?」

「不満というより、不安です。レベルが1つ違うだけで強さも変わってきますからね」

「あっはっは、確かにキョー君も何回も死にかけたもんね~」

 

ケラケラと笑う束にムスっとなるクロエ

 

「初めて恭一お兄様の鍛錬を見た時は、2度としないで欲しいと思いましたよ」

「束さんはもうその頃には言い飽きてたよ」

 

恭一の事を懐かしむ2人

 

「今のままじゃキョー君と差が付く一方だよ。折角ならいっくんにも強くなって欲しいからね。そのためには雑魚と戦っても意味がない。強敵と戦う事で見えてくるものもあるはずだよ。この戦いをキッカケに何か掴んでほしいんだよねぇ」

 

モニターで鈴との試合を観戦し、むむむと唸る

 

「もし、一夏様が戦いに敗れて死ぬような事があれば?」

「その時はそれまでの存在だったって事だね」

 

冷たい表情で言う束だが、クロエもその考えに同調する。

恭一と苛烈に生きた5年は束の根底を変えるには十分過ぎたようだった。

良い方向なのか、悪い方向なのか、それはまだ誰にも分からない。

 

「まぁいざとなればキョー君がいるんだし、大事には至らないよ」

「私は恭一お兄様の活躍が観たいです」

「それじゃあ、今のうちに大画面モニター準備しとくね~」

「私はポップコーンとコカ・コーラを用意してきます」

 

 

________________

 

 

 

―――管理室にて

 

「なっ何が起こった!?」

 

先程まで接近戦を演じていた一夏と鈴だったが、少し距離が離れるや不敵に笑う鈴の前に吹き飛ばされる一夏だった。

 

「あれは『衝撃砲』と呼ばれるものですわね。空間自体に圧力をかけ砲身を生成し、衝撃を打ち出す、中国による第三世代兵器ですわ」

 

箒の疑問に答えるセシリア

 

「見えない攻撃か...ロマンが溢れるな」

「ロマンかどうかは知らんが、渋川ならどう戦う?」

「.........」

 

鈴と戦うイメージを思い浮かべているのだろうか、箒の質問に対し、しばし瞑目する。

 

「上半身のISを解除し、さらに肌を出来るだけ露出させ衝撃による風の起こりを身体に感じさせ、最小限の動きで少しずつ接近する。相手が少しでも慌てた様子を見せた処で『激流を制するは静水』とかそれっぽい事を言い、動揺を誘い、狙いをさらに強く定めさせる」

 

恭一の言葉に箒やセシリア、他にも真耶、千冬が耳を傾けていた。

 

「何故、狙いを定めさせるんだ? 逆じゃないのか?」

「鈴の攻撃で最もやられては困る事を想像してみろ。素人がやりそうな事だが、狙いもクソもない、めちゃくちゃに見えない『衝撃砲』を打たれまくる事だ。そうなってしまうと展開の速さに追いつけんよ」

「なるほどな」

 

「あとは...そうだな。対峙して分かる事もある。ここから観ている分では分からんが、あくまで相手は人間なんだ。何かしらのクセや無意識の仕草が隠されているはず。それをいち早く察知して利用する、といったとこかなぁ」

 

恭一を中心とした攻略談義が行われていたが

 

 

ズドォォォォォォン!!!!!!!!

 

 

耳を劈くような爆音と衝撃がアリーナを震撼させた。

原因の中心に見えるのは――――漆黒を全身に纏ったISだった。

 

 

 

________________

 

 

 

管理室に警報が鳴り響く

 

「システム破損! 何かがアリーナの遮断シールドを貫通して来たみたいです!!」

 

真耶の言葉に直様、千冬がアナウンスする。

 

「試合中止! 織斑、凰はただちに退避しろ!」

.

.

.

「なんだ!?何が起こってるんだ!?」

「一夏、試合は中止よ! すぐピットへ戻って!!」

 

鈴はいち早く状況を飲み込むと一夏に声をかける。

 

『ステージ中央に熱源。データ照合――該当無し、アンノウンISと断定――警告! ロックされています』

 

「...俺がアイツにロックされているのか?」

「一夏、早く!!」

「お前はどうするんだよ!?」

「私が時間の稼ぐから、その間に逃げなさい!」

「逃げるって...女を置いてそんな事出来るかッッ!!」

「バカ! アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょ!!!」

 

しかし、正体不明のISは待ってくれない。

 

『織斑君、凰さん! 今すぐ脱出してください! すぐに先生たちのISが駆けつけます!!』

 

真耶が逃げるように指示を送るが

 

「いや、みんなが逃げるまで食い止めないと!!」

『そっそれはそうですけど....でもっ...危険です!!』

「一夏さんっ...」

「一夏っ.....」

 

それを聞いていたセシリアと箒も悲壮な声を上げる。

 

「いいな、鈴?」

「誰に言ってんのよ? 当然でしょ」

 

「行くぞッッ!!!!!」

「ええ!!」

 

鈴が衝撃砲で援護をし、一夏が突っ込み斬りかかる。

 

『織斑くん!? 織斑くん!? っ駄目です通信が切れました...」

「...本人がやると言ったのだ。やらせてみても良いだろう」

「おっ織斑先生それは...」

「まぁ落ち着け、コーヒーでも飲め」

 

そう言って千冬は用意するが、さすがに動揺しているのか塩をコーヒーに入れていた。

そんな様子を真耶とセシリア、箒は見ていたが恭一だけはモニターから目を離さない。

いや、モニターに映るISの動きを凝視していた。

 

(...徹底している。鈴の攻撃と比べて織斑の斬撃に対してはかなり大きく避けている。『零落白夜』の威力を知っているのか? と、なると敵の狙いは...俺の予想が正しければ、このまま闇雲に突っ込んでたらシールド切れで終わる事になるぞ?)

 

恭一はあのISが束の作ったゴーレムであると気づかない。

束は恭一に気づかれたら面白くないとの理由で完全にコーティングを従来の物と替えたのだ。

 

(んー..今戦ってるのは織斑と鈴だしなぁ...ここで俺が出しゃばるのはあまりに無粋だ。かと言ってこのままの展開が続くようならあっという間に終わっちまうし....ん~むむむ)

 

「ん?」

 

セシリアが自分もISで出撃すると言っているが、何やらロックされてるようで行きたくてもいけない状況らしい、がそれよりも――――

 

(篠ノ之は何処に行った...?)

 

気づけば、管理室から箒が居なくなっていた。

 

(ここにいても暇だし、探しに行ってみるか...)

 

恭一はそう思うと管理室を出て左右を確認すると走っていく背中が見えた。

 

「篠ノ之」

 

ビクッ

 

恭一の声でビクリと反応する。

 

「どこへ行くつもりだ?」

「....一夏がッッ.....危険なんだッッ!!」

「ああ、そうだな」

「私は見てるだけしか....見てるだけしか出来ない、でもっそれでも...何か一夏のためにしてやりたいんだ!!!!!」

「......分かった。何をするのかは聞かん。だが俺もついて行く。お前が何をするか見届けさせろ」

「....分かった」

.

.

.

「ぐっ...当たらねぇ!!!!」

 

鈴の衝撃砲で注意を引いてるにも関わらず、零落白夜に対して最大警戒をしているのか、掠る事さえ許さない状況だった。

 

「本当にちょこまかと、うっとおしい敵ね!!!!」

 

2人のシールドの残量―――残り僅か

.

.

.

「はぁっ...はっ...ここだ」

「ここは...放送室か?」

 

勢いよくドアを開ける箒に中に居た生徒が驚く。

 

「なっなに、アンタ達!!! 危ないから避難しなさい!」

「そんな事は分かってる! だが、私にはやらねばならん事があるんだ! 力ずくでもどいてもらうぞ!!!!!」

 

(熱くなると周りが見えなくなるのは、簡単には変わらんか)

 

ため息と共に箒の腕をつかみ、後ろへ無理やり下げる。

 

「なっ何をする渋川!?」

 

箒の抗議を無視し、一歩前に出て

 

「この女は篠ノ之箒だ。どういう意味か...先輩なら分かるな?」

 

「「「なっ.....」」」

 

放送室に居た生徒に箒も恭一の放った内容に言葉を失う。

恭一は言っているのだ。篠ノ之箒に楯突くと篠ノ之束が黙っていないぞ、と。

さすがに、そう言われてしまうと生徒は下がるしかなかった。

だが、箒は恭一のやった事に納得できないで居た。

 

「渋川......貴様ッッ...」

「やりてぇ事があるなら、使えるモンは使え。プライドなんざ、二の次だ」

「くっ.....」

 

まだ納得した様子では無かったが今はそれよりも箒にはやるべき事がある。

.

.

.

「なぁ...鈴、あのISって何かおかしくないか?」

「はぁ? こんな時に何よ」

「何て言うか、機械的って言うか...本当に人が乗ってんのか?」

「いや、そもそも人が乗らなきゃISは動かない――――」

 

そこまで言って鈴は少し考える

 

「そう言えば、私達が会話してる時は確かあんまり攻撃してこないわね」

「だろ?」

「でもさ、無人機だからなんだって言うのよ?」

「ああ、人が乗ってないなら遠慮なく『零落白夜』で攻撃出来るからな」

「その攻撃が当たらないから苦戦してるんじゃない!」

「...大丈夫、次は当てるッッ!!!!!」

「根拠ゼロじゃない...」

「なに、ちゃんと俺に考え――――

 

『一夏あああああッッ!!!!!!! 男なら.....男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとするッッッ!!!!!!!』

 

アリーナに箒の声が響き渡る

 

「ほっ箒?!」

「アイツ何やってんのよ!!!!!!」

 

ギギギ...

 

敵のISが見逃す訳もなくビーム兵器を放送室へ向ける。

 

「鈴!!!!やれッッ!!!!」

「ちょっ...やれって何よ!!どきなさいよ!!」

「いいからっっ!!!俺の背中ごと撃て!!」

「はぁ!?」

 

だが、無慈悲にもこのやり取りの最中にビームが箒に向かって放たれた。

 

「あっ......」

 

間に合わない...一夏と鈴はビームが箒に吸い込まれるのをただ見ているしか出来なかった。

 

 

――――粋じゃないか、篠ノ之

 

 

「ぐっ....ぐうううううううううううううう!!!!!!!」

 

「「恭一!?」」

「しっ...渋川..?」

 

箒の前に立ち塞がったのは打鉄を纏った恭一だった。

 

「今のうちにさっさと殺れ!!!!!!!!!」

 

恭一の声に一夏が反応する

 

「鈴ッッ!!! 今しかチャンスは無い!! 俺の背中を撃てッ!!!!!!!」

「もうっ分かったわよ!!!」

「これでッ....いけええええええええ!!!!!!」

 

一夏の攻撃は今まで一度も当たらなかった。

なら、どうすれば良い?

速さを上げる。

どうやって?

鈴に後押ししてもらうッッ!!!!!!

 

「うおおおおおッッ!!!!!!! これで終わりだああああああああッッッ!!!!!!!」

 

ザンッッッ!!!!!!!

 

 

『――――それじゃあ、甘いよいっくん』

 

 

モニターの前で呟く者が居た。

 

「なっ....」

「そんなっ.....あの攻撃まで......?」

 

一夏と鈴は唖然とした。

今の2人にとっての最速最強の技をいとも簡単に避けられてしまったのだから。

 

完全に誤算だった――――1人の男を除いて

 

 

 

――――その動き...想定内だッッ!!!!!

 

 

 

(敵ならば、容赦はしない――――前世からの禁じ手を...ここに解くッッ!!!)

 

一夏の斬撃を避ける方向を予測し、傷を負いながらも既に辿り着いていた恭一はISの首を掴み力任せに握る。

圧倒的握力に物を言わせた技とは言えない暴技――――握撃ッッ!!!!

相手の首を握り潰し、頭部が転げ落ちる。

 

「「なっ....」」

 

ISの首からは大量の血...では無く、オイルが吹き出した。

恭一は即、理解する。

 

(無人機かッッ!! ならば――――)

 

腕を真っ直ぐ、弓を引くように力を溜めながら引いていく。

螺旋のような回転を加えて獲物を貫く――――貫手の最高位に位置する技

 

「はあああああああああああッッッ!!!!!!!!!」

 

九鬼流絶招弐式―――― " 焔錐 " 

 

恭一の右腕によりコアは貫かれ、完全停止した。

 

そして――――

 

「ちっ......」

 

箒を庇った際の傷は決して浅くなかったようで、恭一はフラつく。

 

「恭一!!!」

「救護班はまだなのッッ!? 恭一ッッ!!!」

 

失いかける意識の中で恭一が見たものは、一夏でも鈴でもなく、涙を流し自分の名前を叫びながら走ってくる箒の姿だった。

 

 




なにモッピーを庇ってんだよオォン!?
おかしいダルルォ!?

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