野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

24 / 180


敗北を知りたい(笑)



第23話 恭一、敗北

「勝手にしろッッ!!!!!!」

 

バタンッ

 

「ほ、箒!! 待てよっ」

「良いじゃない、子供じゃないんだからどうせすぐに帰ってくるわよ」

「いや、でもなぁ...」

 

―――なんでアイツあんなに怒ってたんだ?

 

いまいち人の機微に疎い一夏は箒が怒る理由がサッパリだった。

 

「そ、それよりさ一夏、あの約束...覚えてる?」

「約束...?」

「ほら、私が中国へ帰る前に話したやつ」

「ああ、アレか? 鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を...」

「そうそれ!(覚えててくれたんだ!)」

「奢ってくれるってヤツか?」

「...はい?」

「だから、俺に毎日飯をご馳走してくれるって約束だろ? いやぁ一人暮らしの身にはありがたいぐはっ!!!!!」

 

言い終わると同時に一夏の頬に鈴のビンタが炸裂した。

 

「最低ッッ!!!!!」

「へ?」

 

一夏は突然殴られた事に驚いたが、それ以上に鈴は一夏の言葉にキレていた。

 

「女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けない奴!!!!犬に噛まれて死ね!!」

「なっ...何でそこまで言われなきゃなんないんだよ!?」

「......もういいわよっっ!!」

 

涙が出そうになり、そんな姿を一夏に見せたくなかった鈴は部屋を飛び出した。

 

「あっおい鈴!!」

 

追いかけようとしたが、すでに扉は乱雑に閉められてしまった。

 

「なんなんだよいったい...」

 

殴られた頬を摩りながら、一夏はこの状況に独りごちるしかなかった。

.

.

.

なによっ一夏のバカ!!!! 私がどれだけ勇気を振り絞って言ったと思ってんのよ、信じらんないわよッッ!!!!

 

先程の出来事を思い返すと、涙が出てきた。

 

「ぐすっ....ん? あれって篠ノ之さん...と男?」

 

ロビーまで出てきた鈴が見たものは、自分よりも先に怒って部屋を出て行った箒の姿だった。

鈴も箒と同じく、結局怒って出てきてしまったのだが

 

「なによ...一夏の事が好きで怒ってたくせに、何であんなに他の男と楽しそうに話してるのよ」

 

恭一と笑顔で話す箒の姿に、鈴の中でドス黒いモノが渦巻いていった―――

 

 

________________

 

 

 

「ん? さっきぶりだな、篠ノ之」

「渋川...」

 

どうして良いか分からず、それでも煮え切らない態度の一夏に怒った私はつい部屋を飛び出してしまった。

頭を冷やすために、何か飲み物でも買おうとロビーの方まで行くと、自販機の前で何やら難しい顔をした渋川がいた。

 

「おいおい、さっき別れた時はすっきりした顔だったのに、まぁた眉間に皺が寄ってんぞ?」

「うるさい...お前だって珍しく難しい顔をしてるじゃないか」

 

「ああ...聞いてくれよ、篠ノ之」

「む...真面目な話か」

「どちらかと言えばな」

 

箒は恭一に私生活の事を話す事はあっても、一夏の事だけは話さなかった。

今の恭一との距離感が壊れてしまうかもしれないと思ったから。

自分は一夏が好きだ。

それなのに、どこか恭一に惹かれている自分もいる。

気づかないようにしていたのに、気づいてしまった。

今の自分では一夏との関係にまで踏み込まれてしまったら、恭一を一夏よりも好きになってしまうのではないか。

そう思うと箒は怖かった。

 

「俺はな、コーラを飲みたいんだ」

「飲めば良いじゃないか、売り切れてるわけでもあるまい?」

「ペプシは嫌なんだ。コカ・コーラが良いんだ」

「だからコカ・コーラを飲めば良いだろう! 売り切れてないじゃないか」

 

いつもの意味不明な恭一の言動に呆れる箒

 

「最近な、二つを同時に押すのにはまっててな」

「はぁ?」

「こう、左手の人差し指と右手の人差し指で同時に二つの飲み物をな、押すんだよ」

「なんだ? 二つとも自販機から出てくる検証でもしてるのか?」

「いや、別に」

「じゃあ何なんだ!?」

「...二つ同時に押すのに理由がいるかい?」

「カッコ良い感じで言ってるが、バカ丸出しだからな? 一応言っておくぞ?」

 

―――この男と話すと、本当に自分のペースが掴めない

 

先程、自分の部屋で湧き上がった怒りはもう治まっていた。

 

「なぁ篠ノ之...俺は怖い。左手が勝ってしまうかもしれない事に。ペプシを押してしまうんじゃないかと思うと...身が竦むんだ」

「おいアホ、その小賢しい演技をやめろ。見てると腹が立つ」

「俺はお前に命運を託す...コカ・コーラを、頼む....ッッ」

「私をお前の世界に巻き込むなよ...」

 

と言いつつ、恭一の言いたい事が伝わったのか、コカ・コーラのボタンに右人差し指を添える付き合いの良い箒。

 

「頼むぜ篠ノ之、そのための右手...あとそのための拳.....」

「なにを言ってるんだお前...さっさと押すぞ、はいせーの」

「ちょ、ちょっと待て心の準備を―――

 

ピッ

 

「はい、コカ・コーラだ。良かったな渋川」

「俺...まだ押してない....」

「私の勝ちだな」

「ちっ...まぁ良い。敗者が勝者に奢ろうじゃないか。何が飲みたい?」

「それならアイスティーを頼む」

 

恭一とのバカバカしいやりとりが箒を笑顔にする

 

「ねぇ...楽しそうに話してるじゃない」

 

「凰...」

 

箒と恭一の前出てきたのは黒い影を落とした鈴だった。

 

 

________________

 

 

 

鈴は嫉妬していた。

一夏と同じ部屋で共に過ごしている箒を

 

鈴は嫉妬していた。

自分と同じく怒って出てきたはずの箒の笑顔に

 

「ふん...あんた怒鳴って出て行った割には、他の男といちゃいちゃしちゃって随分楽しそうね」

「...お前には関係ないだろう」

 

鈴の辛辣な言葉に、自覚がある箒は強く言い返せないでいる。

一夏といる時とはまるで違った箒のしおらしい態度にますます苛立ちを覚える鈴は

 

「はっ...まぁあんたにはそこの落ちこぼれがお似合いよ」

 

つい、心にも無い事を言ってしまった。

 

「...なんだと?」

「噂は聞いてるわよ? ソイツってば一夏と違って専用機を貰えないどころか、寮にすら住めない程の落ちこぼれなんでしょ? 一夏と違ってね」

 

こんな事を言うつもりなんて無いのに止まらない。

 

「貴様ッッ!!!!! 渋川は関係ないだろう!? 私が気に入らなければ、私を悪く言えば良いではないか!!!」

 

我慢ならなかった。

渋川を悪く言われた事に対してじゃない。

何も知らない奴に今の一夏より渋川が下に見られるのが何故か許せなかった。

 

鈴に手を出そうとした箒の腕を掴む恭一

 

「覚えてるか篠ノ之。俺がお前にした挑発の話を」

 

ぐっ、と掴まれ少し落ち着く。

 

「あっ、ああ。覚えてる」

「よく見とけ、あれは悪い例だ」

 

恭一は鈴を指差し首を横に振る。

指を差された鈴はカチンときたのか、恭一の言葉に噛み付く

 

「なっなによアンタ!!! 代表候補生の私に文句あんの!?」

「.........」

 

すごくつまらなそうな顔で鈴を見る恭一

 

「工夫がなっていない、単純すぎる。低能故の語彙力の無さか? これまで淘汰した凡愚共とまるで同じ言い分じゃないか。アイツが自信を持って羅列した言葉は既に使い古されたモンばっかだ。目新しさに欠け、華もない」

「なっ.....」

 

いともたやすく行われるえげつない言葉遊び―――箒はそう思ったそうな。

 

鈴は恭一の途方も無い切り返しに、動揺し言葉が出てこない。

そんな鈴を置いて狂者はさらに続ける。

 

「一番駄目なのはアイツの表情だ。挑発する時は不敵な表情の方が映えるんだよ。アイツを見てみろ。醜い顔してんだろ」

「なっ...もういっぺん言ってみなさいよ!!」

 

さすがに恭一の言葉にキレた鈴だったが

 

「........」

 

無言で放りつけてきた手鏡をキャッチすると自分の映った顔を見た。

 

「....な.....なによこの顔....こんな.......」

 

酷く歪んでいた。

嫉妬や憎悪にまみれた、自分とは思えない顔だった。

私は...一体何をしてたんだろう.....勝手に嫉妬して...。

 

「うっ....ぐすっ....うう.....」

 

「「!?」」

 

「ごっ...ごべんなざい.....ひどいごどいっで....ごべんなざい」

 

『なっ...泣いたああああああああッッ!?』

 

「おっおい恭一...泣いてるぞ?」

「わ、分かってる!! まさか泣くとは思わなかったんだっ」

 

恭一、相手を追い込みすぎる痛恨のミス

 

「いや俺も言いすぎたな、うん。悪かったなうん」

「わ、私もアレだ。怒鳴ったりして大人気なかったな」

 

「うう...うわあああああああああんッッ!!!!!」

 

『ひぇええええええええええッッ!!!!!!』

.

.

.

「...落ち着いてくれたか?」

「うん。非道い事言ってごめん...」

 

とりあえず、暖かい紅茶を奢って何とか宥める事に成功した2人

 

「私が部屋を出て行ってから何かあったのか?」

 

そう聞く箒に

 

「うん....」

 

少し言い辛そうな鈴

 

「俺が邪魔ならあっち行ってるぞ?」

「うっ、ううん。良かったらあんたにも聞いて欲しい」

 

それから、ポツリポツリと鈴は話す

 

「それでね、私言ったの。『料理が上達したら、毎日私の酢豚を食べてくれる?』って」

「んなっ...それって所謂、アレか? 有名な言い回しの?」

 

鈴が一夏に愛の告白の意味を含めて言った事を箒は気付く

 

「...うん」

 

小さく頷く鈴

 

「でもっ...アイツは覚えてなかった処か、曲解までしてた。 『私が酢豚を毎日奢る』って!! そんなわけ無いでしょうがああああああッッ!!!!!!」

 

言葉にしていくうちに思い出したのかムキーッと叫ぶ鈴

 

「あの馬鹿者が...馬に蹴られて死ね!!!!」

 

恋する気持ちを介する箒も鈴の話に激怒していた。

恭一は―――恭一は...とりあえず無表情を貫いていた。

 

(やべぇ...分かんねぇ。織斑が正しいんじゃないのか? 毎日タダで飯をくれるんだろ? そもそも何で怒ってんだコイツら)

 

相変わらず、武道以外ポンコツだった。

 

「ねっ...あんたはどう思う!? 私悪くないよね!?」

「.......うんそうだね」

「.........おい渋川、なんだそのか細い声は」

「うん.......ぼくそろそろおやすみのじかんだから」

 

そう言って去ろうとするが、回り込まれてしまった。

 

「お前、そもそも意味を知らないのか?」

「ぐっ.....俺にだって知らん事くらい、ある」

 

プイッと吐き捨てる恭一に笑ってしまう箒と鈴だった。

 

「あっははは! 何よアンタ大物感溢れてたのに、ちょっと抜けてる処あんのね」

「くっくっ...もしかしたら、とは思っていたが武道以外は少しアレだったりするな」

 

ニヤニヤしてくる2人に白旗をあげる恭一

 

「......はあ、降参だ。良かったら教えてくれないか?」

 

恭一の言葉に箒は鈴に目をやる。どうするんだ?と―――

 

「まぁ別にアンタなら言っても良いか」

.

.

.

「なるほど...恋愛と云うやつか。分からん」

「なに? アンタ恋愛経験ないの?」

 

その言葉にピクッとなる箒

 

「ああ、まだだな。この世界を楽しむにはそれも必要だとは分かっているんだが、いまいち俺には恋愛感情というのがまだよく分かってないらしい」

「ふーん...」

 

そう言いつつ、箒を盗み見る鈴だった。

.

.

.

「色々聞いてもらって悪かったわね」

 

そう恭一と箒に軽く頭を下げた。

 

「いや、私の方も色々とわだかまりが溶けたよ」

「俺はもう途中から空気だったがな」

「あ、そうだ。私の事は『鈴』で良いわよ。あんた達の事も名前で呼ぶから」

「分かった、鈴」

「まぁ好きに呼べば良いさ」

 

そう言って校舎を出て行く恭一

 

「おやすみ、恭一」

「また明日な、渋川」

「ああ、またな」

 

「私達も戻るか...」

「ええ、私も自分の部屋に戻るわ」

 

そう言いながら歩いて行く途中

 

「あんた...恭一の事が気になるの?」

「......分からない」

「そう...」

 

二人の会話はそれ以上続かなかった。

 

「私、こっちだわ。おやすみ箒」

「ああ、おやすみ鈴」

 

まだまだ学園生活は始まったばかり―――

 

 






何だこの甘ったるい恋愛小説は(吐き気)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。