箒ちゃんは可愛いってそれ一番言われてるから(戒め)
「一夏....」
クラス代表を決める模擬戦が終わると、箒は保健室に来ていた。
そこには恭一と試合を行ったセシリアと一夏がベッドに寝かされていた。
まだ2人の意識が戻る気配はない。
「渋川恭一...アイツはいったい何者なんだ....」
今日の試合が始まるまでの恭一に対する箒の評価は、決して高いモノでは無く、どちらかと言えば、低かった。
ヘラヘラと笑い、馬鹿にされても飄々と流す。
一夏と違ってただの軟弱者。
________________
試合が始まってもそうだった。
セシリアの攻撃にいきなり全弾被弾し、みっともなく転げていた。
「ふん...やはり、軟弱者だ。一夏との試合を観ていれば予測出来ただろうに」
別に箒はガッカリしていない。
自分の下した評価通りの男の姿だったのだから。
しかし、男は豹変する。
起き上がってからは一度もセシリアの攻撃を被弾しなくなった。
だが、箒が驚いたのはソコでは無い。
「全て...予測しているのか?」
恭一がセシリアから光線が放たれるよりも前に、確信を持って動き出している事に箒は気づき、絶句した。
「あの男...何か武道を嗜んでいる。それも明らかに上のレベルで」
.
.
.
オルコットと渋川の試合が終わると一夏は明らかに不機嫌になり、ピットへ向かった。
私もついて行こうとしたのだが、それよりもアイツに一言文句が言いたかった。
何故あんな侮辱するような戦いをしたのか、と。
武道の心得を持つ者として恥ずかしくは無いのか、と。
しかし、私よりも前に千冬さんがアイツを待っていた。
千冬さんなら私の言いたい事を言ってくれるはず!
私はそう思いピットには入らず、外から様子を伺っていた。
しかし、私の期待は大いに外れる事となる。
それどころか、聞いてしまった。
余裕な素振りを見せていたが、実は必死に勝利を掴もうとしていたと。
「駆け引き---というヤツなのか。だが、それでも...」
それでもアイツを認めたく無い。
武道とは真っ直ぐのはずだ。
アイツのやった事は...邪道なんだッッ!!
.
.
.
『千冬姉ぇと同じこの力で---皆を守るッっっ!!!!!』
「ふっ...一夏の奴め」
自分の頬が緩むのを感じる。
6年ぶりに再会した幼馴染は変わっていない、優しいままだった。
一撃必殺の零落白夜を発動し、完全に間合いに入った時、箒は確信する。
「一夏の勝ちだ!やはり、邪道なヤツでは勝てんのだ!」
---が
「ここだっ!山田くんここからスローだ!」
千冬さんがここまで慌てているのを私は初めて見た。
それ程まで不可解な事をアイツはやったんだ。
スロー再生でアイツの動きを確認し、千冬さんが解説していく。
「あっ有り得ない...何なのだこの男は..」
---凄い...。
剣道を体得している自分だからこそ、今の流れるようなアイツの動きに魅了されてしまった。
「魅了...?ちっ違う!頑張れ一夏!!」
---さらに場面は進み
『何で俺の相手をしているお前は訓練機を纏っていない?』
「.....ッッ?!」
『意味わかんねぇよ!!!!もう良い!!』
「私は...私の眼は何時から...」
渋川の放った言葉で私もやっと気が付いた。
確かにこの試合に関してだけは、あの男の言葉にも一理ある。
渋川は訓練機...さらに武器をこれまで一度も使用していないじゃないか。
「...ッ!?ダメだっ行くな一夏あああああッッ!!!!!」
________________
「一夏...」
一夏はまだベッドで意識を失ったままだ。
一夏とあの男の試合、確かにあの男の言葉に理があった。
だが...だが、それでもッッ!!!!
「うっ...うう...」
一夏の顔が痛みからなのか、歪む。
「いっ一夏...仇はとってやる」
木刀を携え保健室を出る。
寮には確か住んでいないんだったな。
運動場を抜けて行ったところか。
足早に向かう箒。
すると---
「篠ノ之箒...どこへ行く?」
「織斑先生..」
「もう一度聞くぞ。木刀片手に殺気を放ちながらどこに向かっている?」
「........」
箒は答えられないでいた。
自分のやろうとしている事は明らかに非常識だ、織斑先生にバレたら止められるに決まっている。
「答えたくないのか?」
「........」
「織斑の仇討ちに渋川の処へ、というトコか?」
「ッッ!!!??」
「くっく...反応しすぎだ馬鹿者」
「わっ私は...一夏をあんな目にあわせたアイツを許せませんっ!!」
「...そうか。なら行ってこい」
「だからっ...え?」
今、なんて?
「行きたいんだろ?行ってくれば良い」
「...良いんですか?」
「いいんじゃないか?アイツも1人で退屈してるだろうしな」
はっはっはっ、と笑う千冬だったが
「織斑先生は何とも思わないんですか?」
「んん?何がだ?」
自販機にお金を入れながら相手をする千冬
「一夏の事です!あんな..あんな....っ」
何故かそこから言葉が出てこない箒
「...ふむ。それをお前が聞くのか?もう気付いていると思ったが...」
「なっ...なにを」
「まぁ認めたく無い気持ちも分からんではないがな」
千冬さんは私に何が言いたいのだろう。
「ほれ、さっさと行け。私も今から保健室に様子を見に行ってくる」
「はっ、はい」
「ああ、そうだ篠ノ之」
校舎を出ようとした箒に一言
「渋川にかすり傷でも負わせたければ殺す気でいけ」
「なっ....」
満足したのか千冬は去って行った。
.
.
.
歩いて行くと小屋が見えてきた。
「あそこにアイツが居るのか」
...勝てるのか私は?
たった2試合だけだがアイツの強さは本物だ。
今の私の実力で勝てるのか?
「関係ない!!仇を取るんだ.....!」
一歩一歩進んで行く。
「......なっ」
ドガッ バキッ ダゴッ
「はあああああああああッッッ!!!!!!!」
鍛錬用なのだろうか。
人の形に見立てたモノに、一心不乱に拳や蹴りを放つ渋川の姿があった。
---烈火の如き苛烈な攻めに流麗な足捌き
「..........キレイ」
箒は無意識に出た自分の言葉に、気付いていなかった。
.
.
.
「.....ふぅ」
恭一は一息ついた。
「さすがに何分も見られてたら気になるぜ、篠ノ之さん」
「えっ....わっ、私は.....」
私は何をしていた?
ずっと見ていたのか?アイツの動きを?
そんなはず無いッッ!!!!!
「何か用事があって来たんだろ?」
「私と...私と立ち合え!!!渋川ッッ!!」
「......」
渋川は何やら考えているようだったが、今の私には関係無かった。
「お前に非は無い事は重々承知している!!私が言い掛かりを付けている事だって理解している!!だがッッ...一夏を傷付けたお前を許すわけにはいかんッッ!!!」
「こんなものは私のワガママだ。それでも---」
「戦うのによォ......いちいち誰も彼もが納得するような、荘厳な理由がいるかよ?」
「えっ...」
首をコキリと回しながら恭一は続ける。
「気に入らねぇからブン殴る。喧嘩を売る理由なんざ単純でいいンだぜ?」
「わ、私....は......」
「かかってきな、篠ノ之。お前の意地を俺にぶつけてみろッッ!!」
「.....ッッ」
構えていた木刀を下ろす。
(私を渦巻いていたドス黒い感情が、霧散していくのが分かる...)
「自分から来て申し訳ないが仕切り直して欲しい」
箒は頭を下げ恭一に言った。
「...話を続けてくれ」
「道場で試合たい...剣道家として武道家のお前に---」
「分かった。今からか?」
「ああ、ついて来てくれ」
.
.
.
道場で待つ事、数分----
恭一の前には道着に着替えた箒の姿が。
「...お前の強さは分かっているつもりだ。織斑先生にも言われたんだ。殺す気でいくぞ?」
「...中々、心地の良い剣氣だ。言っただろ?...遠慮せずぶつけてこいッッ!!」
「はあああああああああッッ!!!!!!」
.
.
.
「はあっ....はあっ...はあっ......」
「良い剣筋だが、ちと真っ直ぐすぎるな」
何とか息を整える箒。
「ぐっ...息一つ乱してないじゃないか」
「日頃の鍛錬の賜物だなぁ」
2人の現時点での力量差は子供と大人、いやそれ以上かもしれなかった。
「私は弱いのか...?」
「さて...」
「これでも私だって中学の時は全国大会で優勝したんだぞ」
「ふーん...」
「ここまで手も足も出ない奴と戦ったのは初めてだ」
「はっ...そりゃそうだろうよ」
「え?」
「なんせ、俺とお前は今まで出会わなかったんだからよ!」
ビシッとポーズをとる恭一に
「ぷっ...くくっ...なんだそれ?」
つい恭一が醸し出す変な雰囲気に笑ってしまう箒。
「おっ、おお!?」
「ど、どうした?」
「篠ノ之って...笑えるんだなぁ」
「なっ...お前は私を何だと思ってたんだ?」
「プリプリウーマン」
「な、なんだそれは!?」
「いや、いっつも不機嫌な顔してたろ?何か誰に話しかけられても眉間に皺寄ってるしよ」
「ぐっ....これは生まれつきブハッッ!!!!!」
いきなり恭一の手を使った変な顔が目に飛び込んで吹いてしまう。
「だあーっはっはっは!!!!!吹いてんじゃねぇよ!」
「お前のせいだろうが!!!!」
「なぁ渋川...また試合を申し込んでも良いか?」
「ああ、俺はいつでも歓迎するぜ」
「そうか...っと、もうこんな時間か」
時計を見ると結構な時間が経っていた。
「楽しい時間はあっという間だなぁ」
「楽しかった...のか?私との試合が...」
「おう。篠ノ之の剣道家としての意地、確かに堪能したぜ?」
「そっそうか。い、言っておくがな!私はまだまだこれから強くなるぞ!!」
「当然だ。そうでなくちゃあ面白くねぇ」
「それじゃあ、また明日な篠ノ之」
「ああ、また明日な渋川」
渋川が道場を出るのを見届けると、備え付けられてあるシャワー室へ入って行った。
「フンフーン、フフーン...ッッ!?何故私は鼻唄などを...そもそも私は一夏の仇を取るためにッッ...」
本当にそうか?
---黙れ
もう気付いているんじゃないのか?
---黙れ
アイツの強さに惹きつけられ
「黙れえええええええええええええッッッ!!!!!!!」
くっ...私は..違う....違うんだ一夏...。
________________
「....ここは?保健室ですの?」
「ん?目が覚めたかオルコット」
「おっ織斑先生?私は何故このような場所に?確か私は...」
「ふむ。結果から伝えておくか。お前は渋川との模擬戦の最中に気絶し敗れた。そして、その後の織斑と渋川の試合は渋川が勝利を収めた」
淡々と結果を述べていく千冬
「気絶...はっ?!..私の顔は...殴られて....無い...」
「アイツは最初から殴る気なんざ無かったよ」
「えっ...?」
「ただ単にビビッたお前の負けだ」
「....そ、そう言えばどうして一夏さんも眠られているんですか?」
一夏の方が気になったのか話題を変えるセシリア
「渋川に受けたダメージの影響で気絶したんでな。まぁもうすぐ起きるだろう」
「そ、そうですか」
ホッとしたようなセシリアに
「貴様、いつから織斑の事を名前で呼ぶようになった?」
「えっ...そ、それはですね...」
顔を紅く染め、答え辛そうにする様を見て何かを察した千冬、そして---
何故、恭一がセシリアに興味を失くしたのかも理解出来た。
(目は口ほどに物を言う...か。確かに恭一からすれば、今のオルコットには何の魅力も感じないだろう)
「まぁいい。身体に異変が無いのなら部屋に戻れ」
「はい」
「ああ、そうだ。渋川はクラス代表を辞退するそうだが、お前はどうする?」
「...私も辞退しますわ」
「そうか、分かった」
「では、失礼致します」
「織斑先生、そろそろ会議の時間です」
「む...そうか。それなら仕方ないか」
「保健室には保険医の私が居ますんで大丈夫ですよ」
「ああ、それでは宜しく頼む」
「はい、お疲れ様です」
---バタン
保健室から退室し会議室へ向かう千冬
「...篠ノ之は今頃、どうなっている事だろうな」
モッピーちゃうやんけ!!!
セシリアは...あっ...(察し)