一夏くんガンバレ超ガンバレ
恭一とセシリアの試合は終わった、というのに未だ観客席はザワつきが治まる気配は無かった。
「ねぇ...渋川君って凄くなかった?」
「っていうかコンクリートの地面を素手で穴あけるってどんな筋肉してんの...?」
「誰よっ!渋川君がF判定とか言った子は!?」
今まで恭一の擬態に騙され、下に見ていた女子達が目の前の現実をまざまざと見せられ、混乱していた。
「しぶちーつよぉぉぉい!!!」
興奮からかピョンピョンとハネる本音
「本当、たまげたわね。あの筋肉...ハンドボール部に来てくれないかなぁ」
「いや、関係あるんですかそれ?しかし...渋川君は本当に演出家ですわね」
清香と静寐も、食堂での恭一が不敵な笑みを浮かべていた理由が分かった気がした。
『渋川恭一は余裕でセシリア・オルコットに勝った』
これがこの試合を見ていた者の大半の感想であろう。
---しかし、実際は...
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「ギリギリだったな、渋川?」
「...織斑先生にはやっぱりバレちゃいますか」
たはは、と頭をかく恭一
「試合が始まったと同時に心ここに在らず。まさか被弾する事態になるとは思わなかったぞ?」
ジト目の千冬に
「俺もまだまだ弱いって事ですね実際、あの時点でIS搭乗者として戦っても負けは確定でしたし...」
「ああ。あそこからお前が勝利を掴むには、武道家の戦闘スタイルに変わるしか無いと思ったよ」
「関節破壊か腕・足・背中・首あたりを強引にへし折る...事も確かに考えましたがね。そうすれば、続行不可能で俺の勝ちだ」
難しい顔をして答える恭一
「あの時のお前は武道家の眼もしていなかったな」
「目の前に居たオルコットは、俺の中で武道家として相対する価値すら失っていましたから」
ふむ...と相槌を打つ千冬に
「意地ですよ。IS搭乗者としてでも無く、武道家としてでも無い。この2つ以外のスタイルでアイツを地に伏せてやりたくなった」
「なるほど...そこであの苦肉の策だな?」
「あはは、さすがに辛辣ですね。自覚はしてますよ...」
「ふっ...許せ。今のは武人としての私の感想だ。いち観客としての感想は正直、かなりワクワクしたぞ?」
くっくっ、と笑い合う2人
「俺があそこから逆転するには、オルコットを精神的に追い詰める必要があった」
「そこであのパフォーマンスだな?」
「はい。シールドをワザと減らし、絶対的優位に立たせた処で力を見せた」
「相手は血生臭い戦いをまだ知らぬ15やそこらの小娘だ。効果は...まぁ見ての通りだったな」
「ええ、プレッシャーと恐怖を同時に与える事に成功した俺は、さらに揺さぶりをかけましたから」
その言葉に疑問を抱く。
「む?観ている限り、それ以上の事はしていないと思っていたが...」
「プライベート・チャンネルでこれでもかと煽りましたよ、恐怖心をね」
ニヤリと嗤う恭一に
悪い男だ...そう言った千冬も口角が上がっていた。
「さて、打鉄の充電は完了だ。もうすぐ、お前と織斑の試合だが...私の弟だからといって、手は抜くなよ?」
「当然です。ある意味ちょいと楽しみだったりします」
---オルコットを凡愚にまで堕とした戦いが
「では...行ってきます」
「ああ、行ってこい」
---壊されるなよ、一夏...
千冬の呟きは恭一には聞こえただろうか。
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「お待たせ、織斑君...んん?」
「...何であんな真似をしたんだ」
待っていたのは怒りに満ち溢れ、恭一を睨む一夏の姿だった。
「...?あんな真似?」
一夏が何故こんなに怒っているのか。
理解出来なかった恭一は首を傾げた。
「あんなのは戦いじゃねぇ!!!!!あんな...あんな陥れるようなやり方、情けないと
思わないのかよッ!!!」
(真っ直ぐな男だな織斑)
「俺のやり方が汚いと?」
「ああ!!お前も男だろうが!!!!!正々堂々戦いやがれええええええええええ!!!!!!」
余程、恭一の戦い方に激昴したのか。
有無を言わさず、『白式』の装備武器、近接特化ブレード『雪片弐型』を構えて突進してくる。
(オルコットとの戦いで1次移行は終えてるみたいだな)
剣先を避け、距離を取る恭一
「しっかし、凄い武器だなそれ。1次移行して得た武器か?」
気になった恭一は試合の最中だと言うのに一夏に尋ねる。
そんな恭一の言葉に少し毒気が抜けたのか、自慢気に語ってしまう。
「ああ、千冬姉ぇが使っていたモノと同じ『雪片弐型』だ...この力でお前が間違っている事を証明してやる!!!!!」
---スッ
「くっ...避けてるだけじゃ話にならないぜ!?」
「良い剣筋だ。特訓の成果か?」
尚も危なげなく躱し続け問いかける恭一。
このままじゃ埓が明かないと思った一夏は恭一から一度距離を取り、呼吸を整える。
「ああ、この1週間箒に散々剣道で扱かれたからな!それだけじゃあないッ!俺は最高の姉を持った...千冬姉ぇと同じこの力で---皆を守るッっっ!!!!!」
「皆を.......守る?」
---ドクン
「ああッ!!家族を...友を守るッッ!!!!!」
---ドクン
「家族を.....守る.....」
---ドクン
「だからッッ!!あんなやり方でセシリアを追い詰めたお前を許さねぇ!!!!!!!」
『白式』---ワンオフ・アビリティー発動
---顕現《零落白夜》
「うおおおおおおおおッッ!!!!!!」
.
.
.
---俺は何を見ている?
『この力でお母さんを守るんだ!』
---これは...
『どうしてアンタなんか生まれてきたのよッッ』
---母さん..?
" バケモノ "
" 鬼の子 "
---俺は.....ッッ
.
.
.
「うおおおおおおおおッッ!!!!!!」
当たるッッ!!!!
この距離なら外さねぇ!!!!!
恭一の力量を知る千冬でさえも
(渋川の負け...か)
一夏は確信を持って斜めから振り落とす。
《全く、見ておれんのぉ...》
「えっ...?」
上空で『雪片弐型』を掴んだ者はゆっくりと降りてくる---
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「なっ...何が起こった!?」
「分かりません!!気づいたら渋川君が雪片弐型を一夏君の上で掴んでいるとしかっ!!!」
管理室で見ていた千冬も真耶も、そして一夏を応援していた箒も何が起こったか把握出来ないでいた。
「くっ...山田くん、この試合録画しているな?巻き戻してスロー再生してくれ!!」
「はっはい!」
『うおおおおおおおおッッ!!!!!!』
「ここだっ!山田くんここからスローだ!」
「はいっ!」
一夏が斜めから斬りかかる。
と、有り得ない低さで恭一の身体が一夏の剣の軌道先へ高速で潜り込み、一夏が握り余している雪片弐型の『柄の先端』通称『柄頭』をカウンターの要領で蹴り上げる。
と同時に、跳び上がり一夏の手から上空へ吹き飛んだ雪片弐型をキャッチ。
そして---
ゆっくりと一夏の目の前に降りてくる恭一の姿。
この映像を確認した三人は
「す、すごいです渋川君...」
「あっ有り得ない...何なのだこの男は..」
「恭一.....」
(私に出来るか?今の動きを...くっ...必ず、必ず追い付いてみせるぞ恭一!!!)
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一夏はいったい何が起こったのか、全く分からなかった。
「な、なんでお前が雪片を持ってんだよ!!!」
(恭一は...起きんか。師匠と会った頃の未熟な精神力じゃ、織斑君の言葉で崩れるのも仕方ないかのぉ)
恭一(?)は持っていた雪片を一夏に投げ返した。
「なぁ...わっぱ、じゃない。織斑君や.....疑問に思ったんじゃ、ゴホン..思ったんだが聞いていいか?」
(急じゃったから、じじいの言葉を治せんわい)
先程までの恭一から発せられていたモノとは比べ物にならない闘氣を感じ、つい付き合ってしまう。
「な、なんだよ?」
「何でそんな姿で戦ってんだ?」
「はぁ?何言ってんだよ恭一」
「男は正々堂々と戦わなきゃいけないんだろう?」
「そ、そうだ。だから俺はあんな真似をしたお前が---」
---何で俺の相手をしているお前は『訓練機』を纏っていない?
恭一(?)は疑問に思っていた事を口にした。
(専用機相手に専用機。なら訓練機相手には?訓練機で相手をするのがこの童の言う『正々堂々』じゃないんかのぉ...)
「意味わかんねぇよ!!!!もう良い!!お前のそういうトコも汚いって言ってんだ!!!!
戦いの最中にごちゃごちゃ喋りかけて相手の油断を誘おうとする、そのやり方があああああああッッッ!!!!!!」
『白式』---ワンオフ・アビリティー発動
---顕現《零落白夜》
セシリアと一夏の試合を最後まで観ていなかった恭一(?)は『零落白夜』の効果を知らなかった。
『零落白夜』---エネルギー性質のモノであればそれが何であれ無効化・消滅させる白式最大の攻撃能力。
発動条件として、自身のシールドエネルギーを削る諸刃の剣であるが、威力は全ISの中でもトップクラスである。
(アレに触れたら終わりじゃの。今までの経験がワシに語りよるわ)
再び斬りかかってくる雪片を同じように刀身を避け、柄の部分に衝撃を与え一夏から手放させる。
「くそっ!!」
(恭一の意識が戻らん以上、ワシが穏便に済ますしかあるまいて)
転生を完了させてから渋川恭一の『理性』となり『守護者』となった者。
いつも恭一の中で見守っていた者。
武神--- " 九鬼恭一 " がこの世界で初めて表へ顔を出した。
.
.
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九鬼恭一は人格者である。
渋川恭一という狂者。
『本能』の塊のような者よりも遥かに---
だが、武道家としての『理性』は渋川恭一よりも遥かに劣る獣---
故に---躊躇わない
武術には存在すべきでは無い技がある。
喰らった相手の人生を一切配慮しない無慈悲な技---
九鬼は流れるような動きで一夏の間合いに入るや、瞬時に手首をつかみ横へ並び立つ。
「絶対防御、様々じゃな♪」
後方へ投げ飛ばす---
のでは無く『足元』へ
---相手の『踵』に向かって落とすッッ!!
古武道拳心流---
投技 " 切り落とし "
ドガッッ!!!!!
「がっ...はっ..........」
結果---
受身を取る事が出来ず、後頭部を地面に強打激突。
「.........」
一夏の状態を確認する九鬼。
「ふぅ...ISというもんは凄いな。意識は飛んどるが打撲程度に済ませるのかよ」
『おっ、織斑君試合続行不可!よって---勝者、渋川恭一!!!!』
『わああああああああああッッ!!!!!』
「ひょえ~っ..い、一撃だぁ!!!!しぶちーってばいったい何者なのぉ~?」
「いや、凄すぎでしょ渋川君。訓練機で専用機に2連勝しちゃったよ?」
「そもそも、武器を一切使用せずに勝った事自体おかしいですよね?」
しぶちー応援隊(?)も驚きの連続である。
(ふん...恭一は負けとるよ。織斑君の放った言葉でな。ワシが出てきてしまった時点で恭一の負けじゃ....)
ゆっくりピットへ戻っていく恭一の姿を間借りした九鬼。
(まだまだこれからじゃ、恭一人生を広く、深く楽しめ。この負けを糧にさらに視野を広げてみせろ)
.
.
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九鬼恭一の意識が沈み、渋川恭一の意識が戻ってくる...。
「........ちっ」
ピットに向かっている自分を確かめ
「夢じゃなかったか......弱いな俺は」
後ろを振り返ると、救護班が一夏を運んでいるところだった。
「織斑の言葉についガキの頃を思い出して意識を手放しちまうたぁな。意地をぶつけてきた織斑に申し訳が立たねぇな...」
「何の話だ?」
再び振り向くと千冬の姿があった。
「織斑先生...」
「まさかヤツに同情してるのでは無いだろうな?」
「はっ...まさか」
言葉少なく否定する恭一
「愚弟はお前の眼にはどう写った?」
「別に...。俺を認めたくないアイツの意地、と俺の意地がぶつかり合った---ただそれだけです」
(正確には俺じゃなくて九鬼の方だったけどな)
「ふっ...なるほどな。まさにお前らしい言葉だ。それでお前が2勝したわけだが、クラス代表になるか?」
恭一はその言葉に少し考え
「いえ、やめときますよ。鍛錬の邪魔ですから」
「そうか...分かった。今日はもう寮...じゃなかったな。なんだ、あの部屋に戻ってゆっくりと休め」
「そうさせてもらいます」
そう言ってピットから出て行く恭一は、思い出したかのように千冬に言った
「千冬さん...」
「ん?」
「俺ァ...もっと強くなりますよ」
「.....ああ、私もな」
渋川恭一の模擬戦結果---1勝1敗
しかし、見ている者にとって---2勝0敗
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「クーちゃん、コーラおかわり!」
「分かりました」
束とクロエはポップコーン片手に、恭一の試合を大画面で観戦していた。
完全にシアター気分である。
「カッコ良かったねぇキョー君♪」
「はい。さすが恭一お兄様です」
ニコニコと上機嫌で話す2人
「よぉーし、私も鍛錬するぞぉ!キョー君に置いてきぼりなんて、束さんのプライドが許さないのだぁ!!」
「お供します、束お姉様」
これが2人の平常運転だった。
おい、主人公強すぎんだろ
っていうか、隙なさすぎィ!!!!
やべぇよ、やべぇよ...
九鬼恭一って誰だよ(唖然)
って思った方は
第6話を読んで頂ければ理解出来るはず?
転生特典3つ目の影響です、はい