野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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たまのお買い物は楽しい、というお話。



第参拾肆話 魅力溢れるショッピングモールレゾナンス

「これで全部か?」

 

「ん~っと……そだよぉ~」

 

 メモと睨みっこを終えた本音がのほほんと答える。

 

 レゾナンスに着くまでは道中色々とあったりもしたが、レゾナンスに着いてからは、割とあっさりミッションを終える事が出来た恭一達である。

 

 それもその筈だった。楯無・本音・ラウラの3人が買い物を担当し、そしてその荷物持ちとして後方に待機する恭一というシンプルな図だったのだが。女性陣はまるでナニかに急かされる様に、パパパッと買い物を済ませていくのだ。

 

「女の買い物は時間が掛かるって聞いてたけどよ、全然ンな事ァなかったな」

 

「「「 あははは…」」」

 

 乾いた笑い声でしか返事をしない3人は皆こう思った。

 

(しぶち~のせいだも~ん)

(パパのせいだぞ)

(お兄ちゃんのせいよねぇ)

 

 今回、買い物に来たのは生徒会として、いわゆる学園や寮内の備品を揃える為なのだが。私物ならともかく、この男がそんな中身に興味など持つ筈も無く。恋人が出来たと言っても、そこはまだまだ武一辺倒な恭一の事。

 

 ラウラ達が商品を選んでいる間、暇を持て余すのもアレだと、何をトチ狂ったのか周りに殺気を撒き散らす遊びに興じていたのだ。溢れる殺気を中てられる範囲はただただ広大であり、その対象はどうやらラウラ達も例外ではなかったらしい。

 

 まるで背中に尖った氷柱を当てられてる様な、割とホラーな錯覚に陥った彼女たちは全力で買い物を終わらせるのだった。

 

「むぅ~……しぶち~、メッだよぉ?」

 

「あ? 何が?」

 

「本音ちゃんの言う通りよ、恭一くん。女の子を急かす男の子は嫌われちゃうぞ~?」

 

「はぁ? 誰がいつ急かしたんだよ?」

 

 決して楯無達を急かしたくて、殺気を放っていた訳でないのがまたタチが悪いというか何というか。

 

「う~……パパと買い物に行く時は、一緒に選んだ方が精神的にも良い事が分かったぞ…」

 

「ん~?」

 

 本気で首を傾げる恭一に、3人は懇々と説明するのだった。

 

 余談であるが、本音達のこの行為のおかげでそう遠くない未来、恭一とデートに出掛ける箒や千冬、そしてセシリアの機嫌が損なわれる様な事態が回避されたらしい。

 

「あう~……急いだせいでお腹がすいちゃったよ~」

 

「本音ちゃんが急ぐって、割と奇跡よね」

 

「むぅ~! たてなっちゃんがバカにしたよぉ~!」

 

 プンスカプンに頬を膨らましてみせても、彼女が着ているモフモフなバッファローマンパーカーと相まって、癒されるだけである。

 

「飯食うんなら俺は賛成だぜ? いいや大賛成だぜ? もう決まりでいいんじゃないか? 多数決取るまでもねぇな、もう決定事項っぽいし」

 

「必死過ぎるわ恭一くん」

 

「パパが賛成なら私も賛成だぞ~!」

 

 という訳で、近くのファーストフード店に入る面々。そこは全国的にも有名なハンバーガーショップのチェーン店である。今日は土曜日という事もあり、店内は割と賑やかな様子だ。

 

 とはいえ、慌てて席を確保する程でも無し。4人はそのままカウンターで思い思いハンバーガーを注文していく。

 

「そうねぇ……私は普通のハンバーガーでいいかな」

 

「私は私はー、ダブルチーズバーガーお願いしまーす」

 

「ふんふむ……なら私はトリプルチーズバーガーにしよう」

 

 楯無は1段、のほほんさんが2段ときて、ラウラが3段のハンバーガーか。んならば、俺は……おぉ?

 

「このディカプルカルビバーガーにしよう」

 

「え、なにそれは」

 

 いやだってメニューに載ってあるんだもんよ。サンプル写真的からしてアレだな、10段に積み重ね合わせられた、ある種の悪ノリネタバーガーって事は明白だ。

 

 が、店員曰く人気商品の1つらしい。まぁ人気な理由も分かる気がする。10段ってだけで、なんかこう……ワクワクしてこねぇか?

 

 

.

...

......

 

 

「……食わねぇの?」

 

「食べないよぉ」

 

「私もまだいいわ」

 

「パパと一緒に食べるぞ!」

 

 各々、注文したハンバーガーをトレイに乗せてテーブル席に座るが、恭一のトレイだけ未だ何も乗せられていない。商品が商品なだけに、流石に少しばかり時間が掛かるとの事だった。

 

「あ、そうだ。パパ、一つ聞いていいか?」

 

「おうおう、可愛い娘からの質問なら何でも答えてやらぁな」

 

「え、えへへ」

 

 隣りに座るラウラの頭を優しく撫でてやる。恭一に撫でられ、嬉し恥ずかしといった表情で可愛らしく笑みを零すラウラ。その様子は彼女の小柄な身長と相まって、対面に座る楯無と本音まで癒されてしまう程だ。

 

(恭一くんが一番甘いのって、実は箒ちゃんでもなく織斑先生でもないわよね?)

(しぶち~が一番甘やかしてるのは、らうらうだよぉ)

 

 唯我独尊を地で行く恭一は『NO』と言える日本人筆頭クラスである。その対象は恋人である箒も千冬も例外ではない。

 

 唯一例外にあたるのが、このラウラだったりする。ラウラからパパと呼ばれ、親子の契を結んでまだ半年弱といったところだが、意外にも恭一は子煩悩だった。

 

「んで、何が聞きたいね?」

 

「うむ! どうしてパパは買い物の手提げ袋の束を、小指にだけ掛けてたのだ?」

 

「あ、それ私も思った。普通親指以外に引っ掛けて持つわよね」

 

 ああ、なんだそんな事か。

 

「力士の小指って凄ェんだぜ?」

 

 何故レジ袋の話から力士が出てくるのか。

 唐突に意味不明すぎてラウラと楯無が目を丸くさせる中、本音がのんびりと手を挙げた。

 

「ほい、のほほんさん」

 

「りきしってリキシマンのこと~?」

 

 ほう……流石はのほほんさんだ。簪と毎晩アニメ観てるだけあって、そっちからイメージを持ってくるか。

 

「ああそうだ。キン肉マンでいうリキシマンだな。ちなみにアニメじゃリキシマンだが漫画じゃウルフマンって名前で……っと、そんな話はいいか。力士……相撲って競技はマワシの捕り合いだ」

 

 マワシを捕るのは小指からであり、力士にとって小指が命綱なのだ。それこそ横綱クラスなら、その小指で250kgは優に超えてくる力士を軽く転がせる程だ。

 

「……なるほど、恭一くんは小指を鍛えていたって訳ね?」(例えが回りくどいわ恭一くん…! 別に言わないけど)

 

「ま、そんなところだな」

 

「おぉ…! 日々鍛錬を欠かさないパパは、やっぱり世界一位だな! ちなみにパパは小指でどれくらい持てるのだ?」

 

「100億兆億万トンは軽いな」

 

「100億兆億万トン!? やっぱりパパはすごいや!」

 

(あ、それ普通に信じる流れなの? 別に言わないけど)

(分かんないよ~? しぶち~なら或いは……かもだよぉ~?)

(ないでしょ)

(ないか~)

 

 そんな小話で盛り上がってると、ようやく恭一のところにもハンバーガーなるモノがやって来た。

 

「……ほう、これは中々に中々だな」

 

「うわ、実物で出てくるとやっぱり迫力あるわねぇ」

 

「ううむ、重ねすぎて若干傾いてしまってるな」

 

「ピサの斜塔バーガーだよ~う!」

 

 全国的にも人気商品らしいディカプルカルビバーガー、通称10段重ねバーガー、別名ピサの斜塔バーガー(本音命名)のご登場である。

 

「これ、どうやって食べるのかしら? あ、ナイフとフォークが備え付けてあるのね」

 

 流石にこの高さのハンバーガーにカブりつくのは無謀である。楯無は「はい、どーぞ」と恭一にナイフとフォークを手渡すが、この男が応じる筈もなく。

 

「相手はハンバーガーだぜ? そんな野暮な事する奴がいるかよ」

 

 バランスを崩さぬよう優しくソレを持ち上げ、口を大きく開いてみせる。

 

「いやいやいや、それでも無理だから」

 

「それでも…! それでもパパなら…! パパなら何とかしてくれる…!」

 

「しぶち~に不可能はないんだい!」

 

(え、なにこの流れ。私の反応がおかしいの?)

 

 ここにきて、このメンツの中で一番の常識人(苦労人ともいう)ポジションは自分だったのか、と思い始める楯無だった。

 

「あー……アガッ…! ふへへ、ひははいはーふ」

 

「あはー、しぶち~変な顔になってるよーぅ」

 

「お、おぉ…! 両アゴを外して口の許容範囲を広げるとは……なんと冷静で合理的な判断なのだ…!」

 

(つっこまないわよ……本音ちゃんもラウラちゃんも反応がおかしいけど、絶対につっこんでやらないんだから…!)

 

 関節という枷を外した恭一は、パックマンの如き一口でビッグモンスター級のハンバーガーを平らげるのだった。

 

 

.

...

......

 

 

「ミッションも達成したし、そろそろ帰るか」

 

「その言い方だとあのハンバーガーがミッション内容に聞こえちゃうわ」

 

 もうレゾナンスには、特にこれといった用事も無し。ウィンドウショッピングを純粋に楽しめる楯無や本音とは違い、ブラブラ散策するくらいなら、早く学園へ帰りたい親子組はスタスタ出口へと向かっていく。

 

 と、そこに休日のショッピングモール名物、ヒーローショーの告知が流れた。

 

「まもなく、屋外展示場にて、ヒーローショー『超人サイバーZ』を、開始いたします」

 

 ぴんぽんぱんぽーんと、告知が遠ざかっていく。間を置かずに、苦し気に額を押さえたのは恭一だった。

 

「超人サイバーZ…? うっ、頭が……」

 ※ 第104話『絶対に引いてはいけないワールド・パージ』参照

 

「あらあら、簪ちゃんが居たら飛んで見に行ってるわねぇ」

 

 簪はホモに興味あるのか(絶句)

 人の趣味にとやかく言うつもりはねぇが、ますます此処から帰りたくなったわ。

 

 気持ち早歩きになる恭一を先頭に、ラウラもトコトコついてくる。その後ろから楯無と本音がのんびり歩いて出口に向かう一行だったが。

 

「あっ、ちょっと待って恭一君。最後にあそこ寄って行かない?」

 

 楯無が指さしたのは、これまたショッピングモールでお馴染みの福引コーナーだった。

 

「……福引? ああ、ガラガラーってするやつか」

 

「ええ、そうよん♪ いっぱい買い物したからね。前から溜まってた抽選券と合わせて……ほら!」

 

 わっさりと重なり合った抽選券を見せてくる。どうやら、これだけで5回もガラガラ出来るらしい。

 

「福引ってなんだー?」

 

「あのね、福引っていうのは―――」

 

 ラウラが楯無から教わっている最中にも、小さな福引会場では声を張って宣伝している男の声が聞こえてくる。

 

「さー、いよいよ本日最後ですよー! 1等は残り1本! 確実にこの中に残ってます! 箱の中で当ててもらいたくてウズウズしてますよー!」

 

 何か聞き覚えある様な声が……?

 

 ちなみに特賞の『サイパム旅行』は既に昨日、当てられたらしい。何でも金髪とトゲトゲ頭のやんちゃそうな二人組が見事にゲットしたとか。

 

 残っている一等の商品は『Deランドの一日無料招待券+Deランド豪華ホテルの一泊無料招待券セット』という、これもまた凄い中々に中々な商品である。

 

「Deランドぉ? よく分かんねぇから俺はいいや」

 

 あまり興味なさげな恭一と違い、ラウラは瞳に炎を灯している。楯無に福引の説明をされている時、Deランドが遊園地である事と、恋人のデートスポットの1つでもある事を聞いていたのだ。

 

「おぉ……何やら燃えてるな、ラウラよ」

 

「うむ! 絶対1等を当ててやるんだ!」

 

 先頭は打って変わってラウラになる。闘志を燃やす銀髪少女の手には、強く握りしめられた夢の代替品、福引の抽選券の束だ。

 

「1等を貰おうかッ!……む?」

 

「ははは、がんばっ……あれ、君は…っていうか、シブカワキョウ! シブカワキョウじゃねぇか!」

 

 燃えるラウラから招待券を受け取る法被を着た兄ちゃん。それは修学旅行中でもばったり出会った恭一の数少ない友の1人、五反田弾だった。

 

「おう、ゴタンダン。ホントにバイト頑張ってんだな」

 

「へへっ、まぁな!」

 

 妹の為ならエンヤコラ。

 来春IS学園に入学がほぼ確定している蘭のために、学生身分ではかなり値を張るゲームソフト『IS/VS-Ultimate-』をクリスマスプレゼントとして買ってあげようと、日々バイトで汗を流しているのだ。

 

 家族の為に頑張る弾だからこそ、恭一も気に入っている訳である。

 

「って、んな事はどうでもいいわ! なんだよシブカワキョウ! てめぇ篠ノ之さんって美人な彼女が居ながら、なに可愛い女の子たち侍らせてんだよ! アレか!? ハーレムか! お前も一夏と同じハーレムってんのかよぉ!?」

 

 鼻息荒々に必死な形相でハンドベルをカランコロン鳴らしてくる。いやソレ今は鳴らしちゃダメだろ、何も当たってねぇよ。

 

 しかしコイツの発言は聞き流せねぇやな。

 

「何を勘違いしてんだか。キャーキャー言われてんのは織斑だけだっつーの」

 

「嘘つけ! ねぇっ、そこの扇子が似合うお姉さん! コイツも一夏みたいに女の子からキャーキャー(主にカッコいい的な意味で)言われてるんでしょう!?」

 

「ええ、恭一くんも女子からしょっちゅうキャーキャー言われてるわよん♪」(主に「ひゃぁぁぁぁっ、怖いいいぃぃぃっ!」的な意味でだけど)

 

 嘘は言ってない。

 キャーキャーの意味合いが違うだけである。それが決定的な齟齬を産むのだが。

 

「ほら見ろ! 見損なったぜ、シブカワキョウ! おめぇはそんなハーレマーな奴じゃねぇと思ってたのに! 無自覚なハーレマーは一夏だけでお腹いっぱいなんだよ!」

 

「ゴタンダン……おめぇは俺が嘘をつく様な男だとでも思ってんのか?」

 

 ギンッと誠実な眼差しで弾に訴えかける。

 

「いやお前割と嘘つくだろ」

 

「あ、そっかぁ」

 

 そういやそうだった。何処に出しても恥ずかしくない嘘つき君だったな俺。しかしアレだ、そうなるとゴタンダンに証明する手立てが……いや、あるぞ。

 

「なら証明してやる。ちょっと見てろ」

 

「へ? あ、おい、シブカワキョウ!?」

 

 そう言って、恭一は近くでおしゃべりに華を咲かせる女子高生な3人組へと近づいていく。もちろん、恭一はこの3人を知らないし、3人も知らないだろう。

 

「オイ、ちょっといいか?」

 

「はぁ?」

 

「なによ、ナンパなら他所でやってよね」

 

「まぁ聞いてくれ。俺はIS学園に通ってる者だけどよ」

 

 突然知らない男から声を掛けられ、怪訝な顔をしていた3人は、そのたった一言で目の色を変える。

 

「えぇ~っ! うっそ、マジ!?」

 

「IS学園の男子って言ったらアレでしょ!? 千冬様の弟の!」

 

「「「 織斑一夏くん! 」」」

 

 熱い手のひら返し、ここに極まれり。

 気怠いテンションから一転、少女たちは目を爛々と輝かせ、写真やら握手やらサインを求めてきた。

 

 うむうむ、これは確かにハーレマーと言われてもおかしくねぇな。

 

「フッ……俺はもう一人の方だ」

 

「………………は?」

 

 一気に上がった空気感が急激に冷えていく。上げられて落とされた少女たちの心に慈悲は無く。

 

「消えろ」

 

「死ね」

 

「あ、はい」

 

 短い言葉ながら、濃縮に心を抉ってくる辛辣さだった。というか、正直そこまで言われるとは思ってなかった。

 

 なんにせよ、目的を果たした恭一は彼女達からクルリと背を向け、福引会場へと戻ってくる。その姿は心なしか悲しげだった。

 

「……………な? 全然ハーレマーじゃねぇだろ?」

 

「あ、ああ……疑って悪かったよ」(ちょっと涙目になってるじゃねぇか…後でコーラでも奢ってやろう)

 

 恭一のナンパ(?)シーンを見ていたのは弾だけではない。当然、楯無達も見ていた訳で。

 

(ちょ、ちょっとラウラちゃん…! そんな殺気を溢れさせて何処行く気よ?)

(決まっている。あの不届き者共を屠ってやるのだ!)

(だ、ダメだよらうらう~!)

(は・な・せ! ぬぉぉぉ! パパの仇を取るんだぁぁぁぁ!)

 

 弾が恭一を慰めている間、そんなやり取りが密かに行われていたとか。

 

 





簪はホモに興味ないです(断言)


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