「ん?おーい恭一!こっちだ!」
翌朝、食堂に行くと一夏が声をかけてきた。
「おはよう、織斑君。ご一緒しても良いのか?」
「ああ、当然だ。な?箒」
「ふんっ」
一夏は恭一とも朝食を共に取りたがっているが、箒と呼ばれた少女は恭一を一瞥すると、いかにも不機嫌なオーラを放ち黙々と食べだした。
(...あまり歓迎はされてないな)
「そういや、箒とは話した事ないよな?自己紹介しろよ」
「篠ノ之箒だ」
目をこちらに合わせる事なく、淡々と言われた。
「あ、あはは。コイツ人見知りでさ」
「うるさいぞ一夏」
「よろしくな、篠ノ之さん」
「...ふん」
(束姉ちゃんとは雰囲気違うなぁ)
「私は先に行くからな」
せっせと食べ終えた箒は不機嫌オーラのまま、食堂を出て行った。
「いつまで食べている!授業に遅れた者はグランド十周させるぞ!」
担任からの有難い忠告により、皆が慌てて食べ出す。
「...ごちそーさん」
「おい、待ってくれよ恭一」
「10周とか少なすぎて遅れる気にもなれんよ。んじゃお先」
「は?...あぁ俺も急いで食べなきゃっ」
.
.
.
今日から本格的に授業が始まるのか。
教卓には真耶が立ち、ISについて様々な事を順序建てて説明していった。
(うむむ。山田先生の説明は分かり易いな)
「---もう1つ大事な事は、ISにも意識に似たようなモノが存在し、お互いが通じ合う事で更なる可能性の扉が開かれると言われています」
ここで授業の終わりを告げる予鈴が鳴った。
と、同時に一夏には女子が殺到しやんやんや、と質問攻めにあっているようだった。
「ひゃ~、織斑君ってスター選手みたいだねぇ」
「ん?」
後ろからの声に恭一は振り向くと、三人の女子が立っていた。
「やっ、しぶちー」
「やぁ、のほほんさん」
「本音のあだ名つけたのって渋川君なんだって?良いセンスしてるじゃん!」
そう言い、笑いかけてきた少女は相川清香、といった。
「昨日の様子を見る限り、激情型な方だと思いましたが、普段は物静かなんですね?」
恭一を何故か分析している少女は鷹月静寐、という。
「...君達は中々にモノ好きだな。本人が言うのもアレだが、昨日のを見るとあまり近寄りたくない存在だと思うが?」
「お~、しぶちー凄かったもんねー」
ユルい雰囲気でそう話す本音。
「いやぁ映画のワンシーン観てるみたいで面白かったよ!!」
何故か興奮気味な清香。
「うふふ、確かに。オルコットさんに近づいてからのセリフは痺れました」
静寐がそう言うや、本音が清香に近づく。
「なっ...何をしてるの?」
「うふふ~、私はねぇ見てるんだよ...きょーちゃんの---
「「「 足元をッッ!!!!!! 」」」
余程、その場面が気に入ったのかキャッキャ、とはしゃぐ三人娘に
「......やめてくれよ」
さすがの恭一も三人の寸劇に赤面してしまった
________________
「さて、来週のクラス代表者を決める模擬戦についてだが---」
「織斑の専用機はまだ準備に時間がかかるそうだ。模擬戦には間に合うらしいからそのつもりで居ろ」
千冬の言葉に教室が騒めく。
「せ、専用機!?一年の、しかもこんな早くに!?」
「はぁ...いいなぁ私も早く専用機持ちたいなー」
皆が羨ましる中
「専用機を持つってそんなに凄い事なのか?」
「織斑君、現存するISは467機です。その全てのコアはIS開発者である篠ノ之博士が作成したもので、使われた技術は一切開示されていません。本来なら、IS専用機は国家や企業に所属する者にしか与えられません。代表候補生が1つの例ですね」
真耶の説明に千冬が付け足していく
「だが織斑、お前には政府が状況を鑑みた結果、例外としてデータ収集を目的として専用機が与えられる事となった」
「よく分かんないけどそれじゃあ、恭一にも専用機が用意されるんだよな?」
「...いや渋川は学園から訓練機を無期限で貸し出す事になった」
「え?な、なんで?」
「そりゃそうよねぇ」
「千冬様の弟でもないアイツが貰えるわけないじゃん」
「Fが専用機貰っても宝の持ち腐れになるに決まってるもんねー」
察しの良い生徒はヒソヒソ言い合っている。
「良かったですわね、渋川さん?」
一夏はまだ理解出来ておらず、追求しようとしたがセシリアが横槍を入れてきた。
「..........」
「負けた時の言い訳が出来ましたわね?無様に訓練機のせいにしても良くってよ?」
「..........」
「ちょっと?なんとか仰ったらどうなんですの?!」
「なんとか」
「きぃぃぃぃぃ!!!!!あなたって人はどこまでもぉ!!!!」
バンッ
「静かにしろッッ!!!!!」
千冬の喝で一気に静まる教室。
すると、1人の生徒が手を挙げ
「あの、篠ノ之さんってもしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」
「.....そうだ、篠ノ之箒は妹にあたる」
少し逡巡したが、千冬はそう応えた。
すると、クラス全員が窓際にいる目つきの鋭い少女に関心を向ける。
「えええええっ!!それって凄いね!!」
「ねぇねぇ!篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才なの!?」
(うさ耳こすぷれいやー)
恭一が心の中でツッコミを入れていると
「篠ノ之さんも天才だったりする!?今度ISの操縦教えてよっ」
「あの人は関係ないッッッ!!!」
それまで質問していた女子達は、突然の事にポカンとしている。
「...大声を出して済まない。だが、私はあの人じゃない。教えられる事なんて無い。私を...天才の妹だと思わないでくれ」
言い終えるや窓の方へ顔を向け、周りとの空気を遮断してしまった。
そんな態度に周りの女子は、困惑する者、不快な顔をする者、興味を失くした者、事情を察した者など様々であったが、次第に教卓の方へ向き始めた。
そんな中---
(抗う事を諦めた少女...ってか)
________________
「しぶちー、ご飯食べに行こ~」
先程の三人組が誘ってきたので、それに了承する恭一。
「俺たちも一緒に行っていいか?」
「ん?」
恭一が見ると一夏と不機嫌な顔をした箒がいた。
(コイツいっつも不機嫌な顔してんな)
「やっぱりクラスメイト同士仲良くしたいもんな!箒もそう思うだろ?」
「...私はいい」
(あっ...何か面倒くさい事が起きそう)
「先に行ってるから適当に来ればいい」
一夏にそう言い恭一は教室を足早に出た。
本音たちも悟ったのだろう、恭一に続いた。
出て行った教室から何やら大きな音が、聞こえたが気にしたら負けである。
恭一達が食堂で昼食を摂っていると一夏と箒も現れたのだがこっちには来ず、離れた場所に席をとっていた。
「渋川君、来週の模擬戦に向けて何か秘策でもあるの?」
「ん?相川さんだったか、何故そう思う?」
「んーだって相手は専用機持ちのしかもイギリス代表候補生だよ?絶対強いって」
「確かに、あの方の常に人を見下した態度は気に障りますが、清香の言った通りです。強くないと候補生になどなれませんよ」
清香の言葉に静寐も渋々といった感じで賛同する。
「まぁやるだけやってみるさ。こちとら失うモノは無い。だが、君たちを敢えてワクワクさせるのも一興か」
「お~しぶちーに秘策ありッッ!!だねぇ」
「まぁ当日を期して待てってトコだな」
そんな会話を楽しんでいると、一夏達の方へ1人の生徒が話しかけていた。
「イギリスの代表候補生と勝負するって聞いたけど、本当なのかしら?」
「ええ、まぁ」
「あなたIS稼働時間はどれくらい?」
「えっと...まだ30分くらいですね」
「そんなんじゃ話にならないって。良かったら私が教えてあげるよ?」
帯の色からして先輩か。
純粋な厚意からか、それとも---
「結構です。コイツには私が教えますので」
箒が先輩の言葉を遮る。
「あら、貴方が?見た所、特に普通の生徒に思えるけど私は三年よ?貴方よりも彼に---
「私は篠ノ之束の妹ですから」
キッと睨む箒に生徒は引き下がるしかなかった。
当然この光景は皆が盗み見しており
「あの人は関係無い、とか言ってたのにね」
「なんか、ちょっとアレよね」
箒の言葉に反感を覚えた女子もいるようだが
(利用できるモンは躊躇わず使う、か......面白い奴だ、篠ノ之箒)
他者と擦れた存在、恭一の中では評価は上がっていた。
.
.
.
「なぁ恭一、これから箒にISの事教えてもらうんだけど一緒にどうだ?」
放課後になり、一夏から提案される。
チラリと箒を見ると
(...熱い想いがひしひしと伝わってくるよ)
明らかに、来るなという眼をしていた。
「いや、ありがたい申し出だけど俺は俺の方で色々やってみるわ」
「そうか?」
「ああ、お互い頑張ろう」
挨拶も程々に恭一は教室を出ると、職員室へ向かった。
「山田先生は居られますか?」
「渋川君?どうしたんですか?」
「セシリア・オルコットの専用機について開示されているデータを見たいんですど」
「良いですよ、少し待っていてくださいね」
「はい、こちらに載っているのがイギリスの閲覧許可部分のデータになります」
「ありがとうございます。情報を制する者は何とやらですから」
「ふふふ、そうですね。渋川君、来週の模擬戦頑張ってくださいね」
「...勝ちますよ」
________________
『もすもすひねもすぅ~皆のアイドルたば「切るぞ」ひどっ?!ちーちゃんから掛けてきたのにぃ~』
「ふん...まぁなんだ、元気にしていたか?」
『おやおやぁ、どったのどったの??ちーちゃんからそんな言葉を聞けるなんて、束さんは夢の中にいるのかなぁ』
「私だって気を遣う事くらいあるさ。まぁいい、聞きたい事がある」
『なになにっ、何でも聞いてくれちゃって良いですよー』
「...渋川恭一はお前の知り合いなのか?」
『うーん、そだねぇ...知り合いって言うか恋人?きゃっ、束さん言っちゃった♪』
「ハァ!?」
『恋人って言うかぁ~...夫婦?束さんってば、だいたーんっ♪』
「巫山戯ているな?巫山戯ているんだろ?巫山戯ているに決まっている。ナァそうだろ?そうなんだな?おいどうなんだ?早く言えッッ!!!!!言わないかッッッッ!!!!!!!!」
『ちっ、ちーちゃん怖いよ...じょ、冗談だよもぉ~』
「そ、そうだよな。驚かせるなよ全く...」
『ちーちゃんの変わり様に束さんが驚かされたよ』
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.
.
「なるほどな、お前との間にそんな事があったのか」
『いやぁキョー君と初めて会った時の衝撃は今でも忘れないよ。10歳の子供がライオンにサブミッションかけてたんだから』
「アイツらしいと言えばアイツらしいな」
『束さんこそ驚いたよ?まさかちーちゃんが、束さんよりも前にキョー君と知り合ってたなんてねぇ』
「苦い思い出だがな....しかし意外だな、お前の事だ。てっきり恭一の専用機を作っていると思ったんだが?」
『断られたからね。翼の力は俺自身だってさ♪』
「ふっ...声が弾んでるぞ?」
『えっへへぇ、だから束さんはキョー君から頼まれないと助力する事はしないつもりだよ~、それがキョー君の願いでもあるしね』
「そうか」
『...ただこれだけは言っておかないとね♪もしIS学園でキョー君が死んじゃったりしたらぁ.....皆殺しにするから』
「...そんな事態にはさせんさ。アイツの背は私が守る」
『それって教師の立場から?生徒として?』
「....答える必要は無いな」
『キョー君ってばモッテモテだねぇ♪』
「ふん...そろそろ切るぞ。久しぶりにお前と話せて良かった」
『束さんもだよ♪ちーちゃんからのラブコールなら、いつでもオーケーだからねっ』
「またな」
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.
「束お姉様?随分と楽しそうにお電話されてましたが」
「お~クーちゃん、親友との会話は笑顔にさせるもんさ」
---姉ちゃん電話だぜ、姉ちゃん電話だぜ
(恭一お兄様の着信ボイスいいなぁ)
「むむっ...キョー君からの電話だっ!もすもすひねもすぅ~?」
『もすもすへびーもすぅ~姉ちゃん元気か?』
「キョー君からのラブコールで元気モリモリだよっ♪」
『そいつは良かった。少し姉ちゃんに調べてもらいたい事があるんだよ』
「なになにぃ?何でも調べちゃうよ~?」
『セシリア・オルコットの過去を調べて欲しい』
________________
「なぁ、箒」
「何だ、一夏」
今からクラス代表決定戦が行われる。
その準備のためピット室にいるのだが
「ISの事について教えてくれるって話はどうなったんだ?」
プイッ
「目を逸らすなっ!」
どうやら一夏はこの1週間剣道のみ行なっていたらしい。
「しっ、仕方ないだろう!?お前のISが届いてないのだから!!」
「いや知識とか基本的な事とか他にあっただろ!!」
プイッ
「だから目を逸らすなっ!!」
気が気でないのか一夏は恭一に声をかける。
「恭一はどんな事をしてたんだ?」
「ん?まぁ色々だな。出来る事はやったつもりだよ」
「そ、そうか」
顔から自信が伺えたのか、少し気後れする一夏だった。
「織斑君の専用機が届きました。今すぐ準備してください!」
「アリーナの使用できる時間は限られている。慣らし運転をさせてやりたいが、そうも言ってられん。ぶっつけ本番でモノにしろ」
真耶と千冬に言われ、一夏はISに近づいていく。
「これ...が俺のIS..」
「はい!これが織斑君の専用機『白式』です。指示に従って用意していってください」
.
.
.
「箒」
「な、なんだ?」
「行ってくる」
「ああ。勝ってこい」
突然話しかけられて驚いたのか。
少し吃る箒だったが、しっかり激励の言葉を繋げた。
「雰囲気を楽しめばいいさ」
恭一も恭一なりの激励を一夏に投げかける。
「ああ行ってくるッッ!!」
そう言って飛び出していく『白式』を纏った一夏。
それを見届け、恭一は待機室へ行こうとしたが
「待て、渋川」
千冬がそれを止めた。
「へ?公平にするために試合模様は、見てはいけないんじゃ?」
「セシリアからの要望だ。お前は訓練機だからな、織斑との模擬戦から対策を練って精々、瞬殺は免れてくださいまし。と言ってたか」
「なるほど....見る必要はもう無いんですが、せっかくのご厚意は受けねぇとなぁ」
戦慄の瞬間まで、残り僅か---
やっぱりモッピーじゃないか!
なお渋川君は結構気に入っている模様