野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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しぶちー分補充、というお話。



第参拾参話 ナイフはタレ

 

「……ん…?」

 

「急に立ち止まってどうしての、お兄…ンンッ、恭一君?」

 

 期末テスト前も何のその。

 生徒会のメンバーである恭一達は、来たるクリスマスに向けて学生寮の飾り付けの準備をしなくてはならない。

 

 その一環で、今から買い出しに行く訳なのだが。

 

 待ち合わせに集合した面々の楯無・ラウラ・本音。そして、その舵を取る恭一の足が、校門を出てからすぐ止まった。

 

「……………………」

 

「むむ……どうしたのだ、パパ? 眉間に皺が寄ってるぞ」

 

「ほんとだ~。お腹痛いの、しぶちー?」

 

 お腹は痛くない。もし痛かっても言わんわ。

 

「いや……箒の声が一瞬聞こえた気がしてな」

 

 別に胸騒ぎがするって程でもないが、何やら愉しい事をしてそうな、そんな気がするのは何故だろう。

 

「……本音ちゃん、今の言葉に対して一言どうぞ」

 

「ノロケいくない!」

 

「あ?」

 

 頬をぷくーっと膨らます本音だが、着ているのがバッファローマンのモフモフパーカーなので、まるで怖くない。むしろ弱そう。

 

「パパは今日も薄着だな! 寒くないのかー?」

 

 寒いと言えば寒いし、寒くないと言えば寒くない。要は気の持ちようってやつだ。っていうか、そもそも服そんな持ってねぇもん。

 

 今着てる服だって、アレだ、クロエが夜な夜な俺の為に編んでくれたやつだからな。こんな事なら、冬用も作ってもらっておくべきだったかな。

 

「っていうか何で制服じゃイカンのよ?」

 

 冬仕様の制服ならそれなりに防寒もされてるっつーの。あ、なんか段々寒くなってきたかも。

 

「IS学園の制服着てたら、しぶちー超目立っちゃうよ~?」

 

 恭一達はIS学園の生徒なのだ。女子が制服姿で外を出歩いたところで、何も問題は起きたりしないだろう。

 

 だが、恭一は男子である。この世で唯一ISを動かせる男性の片割れなのだ。恭一がIS学園の制服を着て町へ出て行くとなると、一瞬で身バレしてしまうのは目に見えている。

 

 故に、事前から楯無が今日の買い出しは私服である事を提案していた。

 

「恭一君は非国民的アイドルだからね」

 

「褒めてねぇだろそれ」

 

 非国民的ってどんなだよ、アンチしかいなさそうな肩書じゃねぇか!

 

「まぁまぁ。悪目立ちしなくて良いじゃない♪ 考えてもみてよ~? 恭一君が制服姿で町なんか行ったらさぁ」

 

 サインをねだられる事など皆無。

 写真を撮られる事など絶無。

 国民的アイドルな一夏と間違えられ、落胆されること数百回。

 

「いや多いな!? そんなに声掛けられんのかよ!」

 

 織斑ってすげぇ。

 本人の居ない処で、またもや恭一の中で彼の評価が上がった瞬間だった。

 

「まぁアレだろ? 私服ならンな煩わしい事は無いんだろ?」

 

 楯無から説明された内容は大げさかもしれんが、納得出来る部分もあった。なにせ修学旅行の行きしなにも確かに彼女の言うような、いわゆる織斑と間違えられて「うへぇ、偽物かよ」的な事があったし。

 

 だから京都に着いてからは、俺だけ私服で居る事を千冬さんから許可されたんだっけか。

 

「そうそう!」

 

「そだよ~!」

 

「パパが言うならそうなんだぞー!」

 

 うし。

 なら、気を取り直して出発といこうか!

 

 

.

...

.....

 

 

「よぉよぉ~、兄ちゃんよぉ~、別嬪どころ侍らせてんじゃーん!」

 

 えぇ……早速絡まれたんですがそれは……。

 

 チャラチャラした、いかにもウェーイな風貌をした3人組に道を塞がれる中、恭一は楯無をジト目で見やる。

 

(おい楯無、話が違うじゃねぇか。余裕で絡まれてんぞ?)

(一回目だからまだセーフ)

 

 電車から降りてレゾナンスに向かう途中で、面倒くさそうなイベントが発生してしまった。元より恭一はこういった面倒事、もとい火種はスーパーウェルカムな性格なのだが、彼も彼で以前と比べ、人柄的に成長をしていた。

 

「いやあ、ははは、自分達はちょっと急ぎますんで」

 

 軽く頭を下げてみる。

 これで溜飲下げてくれりゃあ儲けモンだが。

 

「はあ? お前の都合なんか聞いてねぇよ、姉ちゃんら置いてさっさとどっか行けや」

 

「ああ、あとサイフもな」

 

「ギャハハハ!」

 

 知ってた。

 ぬぁぁぁんで、一人の時に声掛けてくれないんだよ…!

 

 女性からは好まれない人種かもしれないが、恭一からすれば割と好物だったりする。大した実力は持ってなさそうなのが惜しまれるが、それでも喧嘩が出来るのだ。

 

 これで恭一が一人だったならば、ある意味ナンパが成立。路地裏でこの者達と熱い抱擁(背骨折り)を交わしていたに違いない。だが、恭一にとっての現実は非情である。

 

 

『無闇やたらと暴れるなよ恭一。連れが居る時などなおさらだ』

 

 

 千冬さんにも箒にもよく言われてんだよなぁ。

 けどよ、黒毛和牛がタレを抱えて現れてくれたんだぜ? それでも歓迎しちゃいけねぇとか、もったいないお化けが出ると思う。

 

 ま、ここで暴れて二人にプンスカされてもアレだし、いっちょ頭脳的に切り抜けるのが吉だろ。

 

(こんなカス3人など私だけで十分だぞ!)

(ちょっと待ってラウラちゃん、騒ぎになると後で厄介よ)

(あうー、お腹すいたよ~…あ、チョウチョだ~)

 

 個々の戦力的にラウラも楯無も、まるで怯えた素振りを見せない。そんな二人と恭一を信頼しているからこそ、本音も普段通りのほほんとしている。

 

(恭一く~ん、どうしよっか?)

(俺に任せとけ)

(暴力は駄目よ~?)

(ハッ…俺を誰だと思ってんだ? たまには智略で切り抜けてやんよ)

(どうしてそんな無茶を言うの?)

 

 ひ、ひでぇ……急にマジなトーンになりやがった…!

 

 味方である筈の楯無から精神攻撃を受けつつ、それでも気丈に一歩前へと出る恭一に対し、何を察知したラウラが目を爛々と輝かせる。

 

(むむっ、パパに秘策ありと見たぞ)

(孔明も真っ青な策をご覧あれってな)

(さ、流石はパパだ! 自信に満ち溢れている!)

(しぶちーはいつも自信の塊だけどね~)

 

「あぁん? 金出す気になったか?」

 

「そ・れ・と、可愛い子ちゃんたちもだよなぁ!」

 

「ギャハハハ!」

 

 バカ笑いする3人を前に、恭一の視線が鋭くなる。武に携わる楯無とラウラは当然、武に疎い本音ですら恭一の気配が変わった事に気付いた。

 

(凄みだ…! 今のパパからは武道家としての凄みを感じるぞ…!)

(わ~、しぶちーがキリッとなったよ~)

(それでも私は信じない)

 

 本音曰くキリッとなった恭一は声高に叫ぶ。

 

「あっ! 空飛ぶこぶただ!!」

 

 快晴そのものな青空に向かって指を差す迫真の演技。いつか五反田兄妹を撒く時に使った必中(使用したのがその時のみ)の策だった。

 

 首尾は上々、後はコイツらが上を向いてるうちに、ラウラ達とすたこらさっさだ……ろ…?

 

「……おい、3人とも顔が真っすぐ固定されてんぞ?」

 

 そんなバカな、と後ろを振り向いてみれば、楯無の顔も身体も自分の方へと直立不動に固定されていた。ラウラとのほほんさんは……?

 

「むー、どこなのだー?」

 

「あれじゃないかな~?」

 

「フッ……やはり俺は間違ってなかった……が……ま……」

 

「おい、あんま調子乗ってんなよ兄ちゃん」

 

「もう面倒くせぇわ、最初からこうすりゃ良いんだよ」

 

 一人の男が自身のポケットを弄る。

 

 無垢なラウラと本音の反応は、Lの魂が憑依するほど恭一を喜ばせるものだったが、ナンパ目的な3人組には、その様子が単純に苛立ちを倍加させるものだったらしい。

 

「オラ、血ぃ見せてやろうか兄ちゃんよぉ」

 

 太陽の光でキラリと反射するソレは、巷でいうところの光り物である。それを指先で威嚇するように遊ばせる男は、恭一に対して下卑な笑みを浮かべる。それは他の男達も同じだった。

 

 

「「「 !!?!? 」」」

 

 

 しかし、その勝ち誇った表情も一瞬。男達の表情から色が失せる事になる。

 

(ナイフね)

(ナイフか)

(ナイフだぁ)

 

 男が見せびらかせたモノは、楯無達の心の声通りナイフ、紛れもなくナイフである。用途は色々だが、人を簡単に傷つける事の出来る凶器の類と言えよう。

 

 だが、唯一この中で恭一だけが違うモノと認識してしまった。

 

(高級タレだ!!)

 

 オイオイオイ! 

 オイオイオイオイ!

 黒毛和牛がぶら下げていた安物のタレが、高級タレに早変わりしたぞ!?

 

 そんなビッグサプライズを見せられて、どうして素で居られようか。

 

「な、なんだコイツ急に顔が……!?」

 

「お、おい、なんか急に寒くなって……ヒッ…!?」

 

 今の恭一に何を言おうが、最早それは「美味しく食べてほしいモー」にしか聞こえない。ご馳走を前に昂るのは当然の事。

 

 鼓動は高まるよりも上、動悸が激しくなり、瞳孔がこれでもかと開くのも必然だった。武道家としての顔は消え失せ、そこに在るのはただ肉を喰らいたがる狂鬼の貌と氣。

 

 不運にも、恭一を知らぬ男達はソレを真正面から受け浴びてしまう。

 

「「「 ひぃぃぃぃぃッ!! 」」」

 

 男達の本能が逃げる事を自身に選択させるのも必然。そこに人目を憚る余裕は既になく、一刻も早くその場から離れる為、我先にと背を向けて走り去るのだった。

 

「待てゴラ肉ぅぅぅッ!!」

 

 折角のご馳走を逃がす訳にはいかんと、恭一も動き出すが、当然それに待ったを掛ける者も居る訳で。

 

「待ちなさい、恭一君ッ! こっちを見なさいッ!」

 

「あァ゛!? なんだッ、ふんぐぅ!?」」

 

 振り向きざま、口に何かを突っ込まれる。突っ込んだのは、カワバンガな俊敏さを隠し持つ本音。恭一の腰回りには彼を押し留める為、既にラウラがぎゅっと抱き付いていた。

 

「はーい、しぶちーの大好きなコーラだよ~」

 

「パパはコーラが大好きだからな!」

 

「んぐ……んぐんぐんぐ……んぐんぐんぐ…」

 

「どう、恭一君? コーラを注ぎ込まれた感想は?」

 

「……ンまい」

 

 彼の瞳に光が戻ってくる。

 どうやら、コーラの旨味により自我を取り戻す事に成功したらしい。

 

 何はともあれ、恭一が男達を撃退したのは確かである、が。

 

「……孔明も真っ青な策、ねぇ…?」

 

「暴力は振るってないからセーフ。なぁラウラ、お前もそう思うよなァ?」

 

「う、うむ! 流石はパパだぞ!」

 

 そこに見えない圧力があったのは言うまでもない。

 

「お外は寒いから早く行こ~」

 

 舵取り役が恭一から本音に変わり、一同は改めてレゾナンスに向かうのだった。

 





まだ第0話のみですが、リメイクしました。

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