野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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スコールさんは考える、というお話。



第参拾弐話 見極めの刹那

 

" 小娘の信条にいちいち付き合ってあげる程、私が優しいとは思わない事ね "

 

 

 炎剣【プロミネンス】の剣先を真っすぐ突き付ける。相手は勿論、まるで苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべている篠ノ之箒に、だ。

 

……とは言ったものの。

 少し大人げなかったかしらねぇ。

 

 篠ノ之箒は見る限り丸腰だ。普段の私だったら、素手で向かってくる相手には素手で受けていた筈……いえ、そもそもこんな事に本気で付き合っていたか…?

 

 喧嘩を売られたのは紛れもない事実。しかし、相手はまだ高校生ではないか。いつもの私なら高校生の言葉など意に介さず、適当に濁してその場を去っていたんじゃないかしら?

 

 それが何故……?

 どうして私は相対しているの?

 

 しかも、何も武器を所持していない少女に対し、こちらは無意識に【プロミネンス】まで顕現させてしまった。こんな状況、オータムに知られたら笑われちゃうわね、いい大人が何ムキになってんだって。

 

 理性が押し留めるよりも先に、勝手に身体が【プロミネンス】を顕現させた。その原因は一体何…? 

 

「……気になるわね」

 

 私の呟きは、どうやら篠ノ之箒までは届かなかったらしい。彼女もこちらへ踏み込むタイミングを見計らっている処なのだろう。

 

 ならその間、私は原因を自問自答する。まず、私と対峙しているのは誰だ。それは既に分かりきっている、今この瞬間だけで何度も唱えた名前、篠ノ之箒だ。

 

 篠ノ之箒……か。

 『亡国機業』に属していた頃、よく耳にしたわね。ただし、あくまで篠ノ之束博士の附随としてだけれど。ISを作った天災博士の妹、ただそれだけが私達のこの子に対する印象だった。

 

 以前彼女が出ていたレース……何だったかしら…そう、『キャノンボール・ファスト』では、確かに実力の高さを垣間見させてもらった。いまだ専用機持ちでないのが不思議なくらいな実力を、ね。

 

 けれど、それだけだ。

 確かに目を見張るモノがあった事は認めるが、あくまで学生の域に過ぎない。オータムやマドカが苦戦するレベルでもないだろう。

 

 ふむ……第6感が危険を察知して、私に得物を出させたって線は無さそうね。なら、他にはどんな理由が考えられ……---。

 

「……上等ッ!」

 

「ッ……」

 

 考えが纏まらない内に、私を無駄に悩ませる少女が砂埃を巻き上げて迫ってきた。思案に耽るのは後回しね、まったく…!

 

「見くびられたモノねぇ…! 素手で剣を持つ者相手に本気で立ち向か……ッ…」

 

 いいえ、本当にそうかしら。

 彼女の瞳をよく御覧なさい、スコール・ミューゼル…! あれが得物相手に丸腰で挑む者の眼か…!? 

 

 今でも鮮明に思い出せる。かつてISを纏う私に、ISも纏わず武器すら持たず立ち向かってきた彼の……惹き込まれそうな狂気を孕んだ眼を…!

 

 眼前まで迫りつつある少女の瞳は、まるで恭一君のソレとは違う。狂気ではなく、別の強い意志が籠った瞳だわ…! まるで織斑千冬を思わせる……っ、織斑千冬ですって!?

 

「はぁぁぁッ!」

 

 コンマの世界で脳裏に蘇るは、先の激闘。羅刹姫と風神姫、ブリュンヒルデ同士の世紀の試合。アリーシャが右腕に仕込んだブレードを、あの時無手だった筈の織斑千冬はどう捌いた?

 

「―――ッ!!」

 

 

ギィィンッ!

 

 

 甲高くも鈍い音が木霊した。

 それは金属同士が鍔迫る、剣と剣が交差した事を示す独特の音だった。

 

「中々の役者っぷりじゃない……ねぇ、篠ノ之さん…?」

 

 第6感もクソもない。

 ただがむしゃらに【プロミネンス】を振るった処、運良く少女からの横薙ぎを防げたに過ぎなかった。

 

 背中に流れる冷や汗を感じつつも、それを表情には噯にも出さずに笑ってみせるスコールは続ける。

 

「それで、貴女が手に持つそれは何かしら?」

 

 上質なワインを思わせる赤い柄部分に、そこから伸びる紅黒い刀身。色合いこそ派手だが、どこからどう見ても日本刀だった。

 

「銘刀【紅椿】。姉さんからプレゼントされたモノだ」

 

 名前など聞いていないし、それが刀なのも一目見て分かる。騙し討ちしようとした事に対する軽い皮肉のつもりだったのだが、スコールの期待していた返答とは違い、眉がピクリと反応してしまう。

 

……わざと言ってるのかしら? それとも天然…?

 

「丸腰と見せ掛けての強襲とはねぇ? 可愛い顔に似合わず、随分卑怯な手を使ってくるじゃない」

 

 幾多の戦場を駆けてきたスコールに、箒を非難する気持ちなど一切無い。むしろ賞賛に値する攻めだと認めるほどだ。ただ、『卑怯』だと蔑まされた時の反応が見たかった。

 

 故に、今度は遠回しではなく、より明確に伝わりやすいよう、あえて非難じみた言葉を投げかけたのだったが。

 

「フッ……剣術家が剣を使って何が悪い」

 

 箒から返ってきたのは、まるで悪びれないどころか、ちょっとドヤ顔が入っていた。

 

「……なるほど」

 

 この時、初めてスコール・ミューゼルは実感した。自分が戦っているのは、ただの小娘ではないと。相手は超実戦派、渋川恭一の恋人なのだ……と。

 

 






久しぶり過ぎてシリアスな戦闘を長く書けない\(^o^)/

※これまでの話を少しずつですが、修正していく予定です。
「...」部分を「……」に。
やたら多い「!!!!!」を程々に、など。
読みにくいと思う部分を加筆・修正していけたらいいなぁ(願望)

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