野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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清涼剤、というお話



第参拾話 とある新任の存在

「うぉぉぉっ!」

 

「はぁぁぁっ!」

 

一夏と鈴が同時に仕掛ける。

 

「でぇぁぁぁッ!」

 

後ろからはシャルロットが。

今朝も寒い中、たんれんぶの部員達は元気に渋川道場にて、鍛錬に精を出している。

そして一夏と鈴とシャルロットからの猛攻を受ける、我らが部長は

 

「ぽひぽひ……」

 

上の空のまま、前方の二人の腕を掴んで、後方のシャルロットへ、まるで投球練習するかの様に投げ付けた。

 

「うわぁぁぁ!? あぶなっ!?」

 

「がふっ!?」

 

「ちょっ……受け止めなさいよぉ!」

 

迫り来る二人の弾丸もとい、弾塊を既の処で避けたシャルロット。受身を撮り損ねた一夏は背中から地面に叩き付けられ、束の間の無呼吸の苦しみに藻掻く。何とか反転し、着地に成功した鈴はシャルロットに文句を垂れつつも

 

「ぽひぽひ……」

 

「だぁぁぁッ!! さっきから、ぽひぽひぽひぽひ! 鬱陶しいのよあんたァ!!」

 

鈴が叫ぶも、対峙している恭一の隻眼の焦点は合っておらず、表情……いや、全身からテンションがドン底にある事を示している。何より自分達は本気で攻撃を仕掛けているというのに

 

「「 はぁぁぁぁッ!! 」」

 

二人からの連打乱打を両手で全て弾く恭一。

 

(くっ……! やっぱり恭一は強い…ッ)

 

(悔しいけど、シャルロットと二人でも当てられる気がしないッ……!)

 

でも、そんな事より……―――。

 

「ぽひぽひ」

 

(その顔で捌かれるのって、すっごいムカツクんだけど!!)

 

(コイツっ、人をイラつかせる芸に拍車掛かってない!?)

 

馬鹿にされていると、怒りの形相で襲い掛かる二人の後ろで

 

「げほっ……イッ、ちちちぃ…」

 

「フッ、派手に吹き飛ばされたな一夏よ」

 

ようやく酸素も吸える様になった一夏が、背中を摩りながら起き上がる。

 

「箒か。んでも、恭一の奴どうしたんだ? 何か放心しているみたいだけどさ」

 

放心してても強いって軽く反則だよなぁ……そんな事を思いながら。

 

ちなみにたんれんぶのメンバーは誰も知らないが、恭一の右腕には束から誕生日プレゼントで貰った『空間圧作用兵器《 王座の謁見(キングス・フィールド) 》』もしっかりと装備されてある状態だった。(※ 参照 R-18 第一話)

 

「ああ、その事か。今月は何がある?」

 

「何かあったっけ? 冬休みの話か?」

 

学生にとって春だろうが夏だろうが冬だろうが、休みはやはり嬉しいモノだ。其処にばかり目が行ってしまうのも、無理は無いのだが。

 

「はぁ……その前に期末テストがあるだろう」

 

「きま……つ…………?」

 

一夏の瞳の色が徐々に褪せていく。

 

「お、おい……一夏?」

 

「ぽひぽひ……」

 

IS学園唯一の男子生徒は二人共アホだった。

 

「全く……バカ共が」

 

そんな様子を見ていた千冬は、顔に手をやり溜息を付く。

 

「二人共そんなに成績悪いんですか?」

 

クラスが違う簪は気になったのか、千冬に聞いてみる。

 

「ん……まぁ織斑は一般的なバカだ。ちゃんと時間を作って勉強すれば、赤点は免れるだろうさ」

 

「……兄者は?」

 

(何故コイツは恭一の事を兄者と呼ぶのか……後で恭一に聞いてみるか)

 

「アイツは冬休みは皆勤賞を取るんじゃないか?」

 

「あっ……」

 

絶妙な例えに全てを察した簪、それ以上何も言わなかった。

 

「また勉強会を開かねばなりませんね!」

 

「その時はあのアホ共を頼む、ラウラ」

 

千冬に優しく頭を撫でられたラウラは

 

(ふぉぉぉ! 朝から私と嫁はラブラブだぞぅ! ひゃっほぉぉぉぉうッ!!)

 

幸せ絶頂の最中、更にその先を求めて千冬に抱きつこうと

 

「時と場所を考えろよラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

 

「いだだだだぁッ!? も、申し訳御座いませんんんんッ……」

 

真っ向からアイアンクローで切って落とされた。恭一に対して時と場所を考えない千冬が言っても、まるで説得力皆無なのだが、ラウラに対しては今の処はまだ教師の面を保っている千冬だった。

 

(むむむ……放心状態の恭一さんを誘っても意味がありませんわ)

 

先程まで楯無と組手をしていたセシリアは、とある遊園地のペアチケットをカバンの中へ仕舞う。彼女にとっても今月は大事な勝負を懸けている月。虎視眈々とその時を狙っている様だ。

 

.

.

.

 

「ありえねぇだろ! ぬぁぁぁぁにが学生の本分は勉強だァ? クソ意味ねぇ知識詰めてどうしろってんだよ! なぁっ、マキマキ先生!」

 

「それやめろっツってんだろが!」

 

舞台は変わって保健室。

 

声を荒げるのは、ぽひぽひ状態のまま廊下を歩いていた恭一とばったり会った、オータムこと巻上礼子先生。

 

恭一はたんれんぶのメンバーに、愚痴を吐く事はしなかった。部長の面子というのもあるが、何より言われる内容など目に見えていたからだ。

 

『嫌な事から逃げるのかっ、恭一ィ!!』

 

『そんなの世界一位のパパじゃないやい!』

 

『むぷぷ……邪眼の力を舐めるなよ(笑)』

 

『俺と二人で補習受けようぜぇ』

 

どうせこんな感じになるに決まっている。

 

(言いたい事も言えないこんな世の中じゃ……おっ…?)

 

そんな事を考えていた時だった。

学園の廊下でオータムの顔を見るなり、恭一の瞳に少しずつ活気が戻る。

 

「おう、渋川じゃねぇか。どうしたよ? ショボくれたツラしてんなぁ、オイ?」

 

「ちょっと聞いてくださいよ、マキマキ先生!」

 

「ブッ殺すぞコラァ!! 誰かに聞かれたらあだ名決まっちまうだろうが、あ゛ァ゛ッ!?」

 

流石に生徒会長と新任教師が、往来で騒ぎ立てるのはマズい。そんな二人が取り敢えず移動してきた場所こそ

 

「そんなに私に会いたかったのかしら?」

 

(何言ってだこのおばさん)

 

同じく新任教師であるスコールの新たな拠点(保健室)だった。

そして恭一の愚痴に至る―――。

 

「ふふふ。恭一君もしっかり学生やっているのねぇ」

 

スコールはクスクスと微笑みながら、オータムと恭一の分のお茶を淹れて渡す。

 

「でもよ、おめぇ学年主席って言ってなかったか?」

 

アジトで織斑とアリーシャが闘っている時、確かにそう言っていた筈だ。

 

「ンなモン嘘に決まってんだろ」

 

「いや悪びれろよ、何で胸張ってんだよ」

 

ケラケラ笑う恭一に、パシッと肩を叩いて突っ込むオータム。

そんな二人を見やるスコールは、何処か優しげに温かな笑みを漂わせていた。

 

「そろそろ朝のHRの時間か……んじゃ、話聞いてくれてありがとな!」

 

元気良く出て行く恭一。

意外にも少年が最も学園内で気兼ね無く話せるのは、実はこの二人だったりする。

以前、スコールがIS学園の生徒達を白、恭一のみを黒に例えた事があった。その時、それを受けた楯無は否定したが、恭一からすればその通りである。

 

常人では目を覆いたくなる様な、血生臭い事も恭一は平気で行う。そしてそれが理解出来るのは、血を浴びる裏の世界に生きたスコールとオータム、あとはダリル位だろう。

 

特に恭一自身がそれに対して、負い目を感じる事は無いのだが、IS学園の生徒達との間に見えない壁が存在するのは確かである。そして、それは箒達も例外では無い。

 

一般人にとって癒される存在が可愛いモノだったり、可愛い女性であるならば。

恭一にとっての清涼剤は、血の香りをさせる二人なのかもしれない。

 

恭一が扉を閉めて出て行ってから

 

「此処の居心地はどう?」

 

「へっ……意外に悪くねぇ。少なくともアイツが居る限り、退屈はしないで済みそうだしな」

 

グイッとお茶を飲み干したオータムも、椅子から立ち上がって教材を手に取る。

 

「これから授業かしら?」

 

「ああ。これでも教員免許はガチで持ってっからな。一発カマしてきてやるぜ」

 

「ふふ、いってらっしゃい」

 

オータムを見送ったスコールは、窓を開けて冷たい空気を保健室内に招き入れる。

 

国語の授業でカマすも何も無いでしょうに、ふふふ。オータムも楽しそうで何よりだわ。私もこんな穏やかな時を過ごす日が来るなんて思わなかった。

 

スコールはカレンダーに目を通す。

 

「テスト期間が終われば、私もたんれんぶの見学に行ってみましょうか」

 

保険医としての1日が今日も始まる―――。

 

 

________________

 

 

 

 

本日は土曜日。半日授業という事もあり、クラス内はテンション高め……かと思いきや、案外そうでも無かった。

 

「半ドンって言ってもねぇ、テスト勉強しなきゃだしねぇ」

 

「「「「 ねー 」」」」

 

テストの準備期間は、進学校の生徒内でも御免被りたいモノらしい。

 

「そういや、忘れてたんだけどよ」

 

流石にあれから時間も経って吹っ切れた(補習を受けるという意味で)恭一も、教室で本音に声を掛ける。

 

「寮の飾り付けの備品って今日買いに行くンか?」

 

「そだよぉ~」

 

寮内の飾り付けも、その買い出しも立派な生徒会の仕事である。授業が終わり次第、一度寮に戻ってから、改めて正門前に集合との事だ。ちなみに買い出し班は恭一、本音、ラウラ、楯無の四人である。

 

「重要なのは、昼飯をショッピングモールで食べるって事だな?」

 

「何が重要なのか分かんないよーぅ」

 

のほほんさんによる、のほほんな突っ込みを受けつつ

 

「箒は来ねぇのか?」

 

「うむ、少し用事があってな。すまないが、私は行けないのだ」

 

別に生徒会の役員だからといって強制では無いのだが、律儀にペコリと頭を下げてくるのが何ともいじらしい。

 

「そいつは残念だ」

 

てっきり箒も来るものだと思っていた恭一の表情には、少なからず落胆の色が見え隠れする。そんな恭一の様子を心配した箒は

 

「むっ……キスしようか?」

 

「するかアホ! お、おいっ、マジで、ちょっ……ゴルァ!!」

 

教室内でむーっと可愛らしく唇を突き出し、ハグしようとしてくるアホ可愛い箒の額を掴んでメキメキと。

 

「いだだだだッ……い、痛いじゃないかっ、恭一!」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

可愛いのは認めるがよ、コイツ修学旅行からレベルアップしすぎだろ……自重しない方面で。

 

人は必ずしも日々の鍛錬だけで強くなるものでも無い。

たった一つの勝利、たった一つの敗北。

そしてたった一つの出会いが、人を格段に強くしてしまう事もある。

 

篠ノ之箒は愛する者と添い遂げ、ついに京都では少女から女になった。

蚊トンボが獅子へと成長するには十分過ぎる出来事である。

 

(箒さんってばよぉ、成長して欲しくねぇ方向に成長してんよー)

 

そんな箒と恭一のやり取りを見ていた一組女子の反応はというと

 

「アホ可愛い篠ノ之さんもアリだよねー!」

 

「ギャップ萌えだよねー!」

 

「捗るわぁ……これマジ捗るわぁ!」

 

(えぇ……箒、いつの間にこんな人気になってんの?)

 

恭一も驚く程、大絶賛の嵐だった。

『希望の巫女姫』の人気は伊達では無いという事である。

 

.

.

.

 

「ううむ……やっぱこの季節は昼でも、そこそこに冷えんなぁ」

 

恭一は待ち合わせの正門前に、ポツンと1人で佇んでいる。特に服装には無頓着な恭一だが、今日は制服では無く私服に着替えていた。寒くても分厚いコートやらジャンパーを羽織る事を嫌う恭一は、冬でも薄着である。

 

(動きにくいと何かあった時、アレだしな)

 

「……寒いし、スクワットでもしてるか」

 

信頼と実績のスクワットだからな。

 

「そんな事しなくていいから」

 

後ろから声を掛けてきたのは、買い出し班の1人楯無だった。彼女の後ろには本音もラウラの姿も見える。

 

(ほぼ女子高の正門前で若い男がスクワットとか……犯罪要件よ、お兄ちゃん)

 

そうなる前に止めた楯無は、改めて

 

「早いのね、恭一君。まだ約束の時間前よ?」

 

楯無も本音もラウラも同じ様に、制服から私服に着替えていた。三人とも寒さ対策はばっちりという事らしい。本音だけバッファローマンの着ぐるみチックなパーカーを着ているのがアレだが。

 

「モフモフでホカホカなんだよーぅ!」

 

との事らしい。突っ込むのも野暮なので、スルーしつつ

 

「ハッ……男ってのはな、女を待たせちゃいけねぇ生き物なんだよ」

 

ニヒルに笑ってみせる恭一。そう言ってみせる少年の姿はデッカイ自信の塊だった。

 

「きゃぁぁぁっ! カッコいいわ恭一くぅぅぅんッ!!」

 

「おぉぉぉ! 流石パパだ! 世界一位はやっぱり違うなぁ!!」

 

「しぶちーってば男の中の男だよーぅ!」

 

渋川恭一=超アホ

更識楯無=アホ(恭一限定)

ラウラ・ボーデヴィッヒ=アホ(恭一限定)

布仏本音=空気の読める賢い子

 

結果、アホ3+1がショッピングモールへ向けて出発した。

 

 

________________

 

 

 

「……行ったか、恭一」

 

そんな彼らの後ろ姿を、寮の窓から眺めていた箒は歩き出した。

寮を出て、真っ直ぐ学園に入っていく。

彼女の目的地は―――。

 

 

コンコンッ……―――。

 

 

「どうぞ、開いてるわよぉ」

 

「失礼します」

 

箒は一礼してから中へと入る。

 

「どうかしたのかしら? 怪我は……してない様だけれど」

 

取り敢えず、奥へ招き入れようとしたが、箒はそれを拒否。

 

「話があります……スコール・ミューゼル先生」

 

(何やら訳ありって表情ねぇ……恭一君の恋人、篠ノ之箒さん)

 

無表情のまま一方的に話してくる箒に対し、あくまで涼しげに応対するスコール。

 

「此処でかしら?」

 

「付いて来て下さい。誰にも邪魔されない場所がありますから」

 

箒は返事を待たずして、保健室から出て行く。

 

(……退屈しない、か。確かに退屈しないわねぇ……うふっ、うふふふ…!)

 

これから何が待ち受けているのか。

年甲斐も無く躍る好奇心を胸に、スキップする様な足取りで、箒に付いて行くスコールだった。

 

 





遅くなりましたが、ようやくISの11巻も読み終わりましたよ~!

一夏君がシャルパパ殴ってて草しか生えない。
流石にここまでキチガイじゃないやろ。
パワー系ガイジとかしぶちーだけでいいから(良心)

結論、今の一夏君は束博士が用意した偽物に違いないんだ!


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