野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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誰かに似てるやり方、というお話



第弐拾伍話 恭一に感化された証

「……………」

 

「またもや止まってしまってネ、千冬」

 

左の銃口を突きつけられているのだ、無理もない。

 

(……ガード越しであの破壊力…そして私が避ける方へ飛んでくる『トレーサー』)

 

成程、コイツは左手1本で人体を破壊出来る術を備えている…!

 

「ISで有名になるってのも、考えものサ」

 

「……?」

 

唐突に何を言い出す…?

油断を誘う為…いや、今有利に事を運んでいるのはアーリィだ。

まぁいい、何のつもりか知らんが、私も少し頭を冷やせる。

 

「確かに周りから尊敬されるけど、その分妬みも多い……勘違いした男共からネ」

 

ククッと笑うアリーシャの言葉に、少し離れた場所で観戦しているスコールとオータムは同調するかの様に、うんざりした表情で頷いていた。

 

「千冬も経験あるんじゃないのサ? 『お前なんかISが無ければ』ってネ」

 

「フッ……無い、とは言わんよ」

 

女が男より強いのはISに乗っている時だけ。

ISさえ無ければ、強いのは男なんだ。

 

「そう言って私に襲い掛かって来た凡愚共は皆、『トレーサー』と『バレット』で粛清してやったのサ……!」

 

「バレット……弾丸、か。スクリューブローに大したネーミングじゃないか、オイ?」

 

千冬の言葉に僅かに反応するアリーシャ。

 

(流石は千冬……一発で見抜くとは恐れ入るサ)

 

束が持ってきた恭一の戦闘データで、一度観ているからな。

そして、スクリューブローは打つ度に身体に溜めを作る必要性から、連打は出来ん事も知っているぞ―――ッ!!

 

何より、私が毎日喰らっている拳は誰のモノだと思っているッ! その程度の破壊力であるなら、急所に貰わなければ動ける…! 否、貰いながらでも詰め寄らせて貰うぞ、アーリィ!!

 

タテ揺れのリズムを刻むアリーシャに、腰を落として突き進む千冬。それだけでは無い。上体を左右に揺らし、狙いを定めにくくさせながら。

 

(連打出来ない『バレット』は初手で来る筈…! その後は唯の左拳か『トレーサー』しか無いッ!!)

 

ならば初弾を避けて、それからはガード越しに強引突破すればいい……ッ!!

 

距離を無くそうとする千冬へ、アリーシャの初弾が襲い掛かる。

 

(やはりバレット…!)

 

瞬時に避け―――!!

 

「なっ…!?」

 

「一発だけの弾丸なんて、持ってて誰が喜ぶネ?」

 

アリーシャ・ジョセスターフは後天的な鍛錬の末、己の肉体を強化し続けている。強靭的な手首と肩を備え持つ事に成功した彼女は、スクリューブローを打ち出す際に、わざわざ全身を捻る必要など無い。

 

(『トレーサー』だけでなく『バレット』まで連打可能なのか―――ッ!?)

 

まるで散弾銃の如く、千冬に襲い掛かる『弾丸』。肘の角度を固定し、肩を内側に廻転させる事による脅威の『弾丸連射』―――。

 

何とか避け続けるも

 

「あぐぁッ……!」(速すぎる…っ……それに、何て正確性だ……ッッ!!)

 

とうとう被弾してしまった千冬は、またもや弾き飛ばされてしまった。

正確無比の強打『バレッド』に追尾型の『トレーサー』。更に、どちらも連打可能のおまけ付きときた。

 

千冬は一度、大きく深呼吸。

 

(……久しぶりだな、この感情を抱くのも―――)

 

「ふ、ふふっ…ふふふ……」

 

俯いたまま、全身が粟立っているのか、小刻みに震え出す。

 

「ありゃりゃ…もしかして打ち所が悪かったサ?」

 

自分の優位は決定的。そう確信しているアリーシャは、精神的余裕から戦っている相手を気遣う素振りすら見せてくる。

 

現に此処まで千冬には全くと言って、良い処は無い。逆にアリーシャは、今までの攻防に置いてパーフェクトと言っても良いだろう。

 

千冬を心服しているラウラですら、この状況にオロオロしてしまっている。誰が見ても、千冬の不利は否めない。そんな中、彼女を良く知る少年だけは

 

(あんまその人を見くびってェと……頭ッから喰われちまうぜ?)

 

不敵に微笑を深めていた。

 

 

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「何だって……? 今、何て言ったのサ?」

 

余裕の表情を見せていたアリーシャの眉間が僅かに寄る。

 

「おや、絹糸よりもか細く言ったつもりだったが……もしや図星だったか?」

 

千冬はニンマリ笑ってみせる。その表情、物言いはアリーシャがよく知っている、昔の千冬からは到底想像も付かない。気に障る、人を食った様な態度だった。

 

(……大道芸。確かにそう言った…! 私の技が大道芸……!? この技を修得するのに、私がどれだけ苦労したのか、知ってるのサ…!? いや、それよりも―――ッ!!)

 

「私の知っているキミはッ……そんなゲスな表情を浮かべたりなんかしないッ!!」

 

「クククッ……女は愛する男に染まるモノだ」

 

声を荒げるアリーシャに、まるで嘲う様に下卑た嗤みを浮かべる千冬。

 

 

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「恭一君って恋人公認でゲス扱いなのねぇ」

 

「いやはや、照れますな」

 

(照れる要素皆無ですぞ、渋川殿)

 

 

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「さて……また私から攻めてやるか。貴様のソレは迎撃でしか輝けんからな」

 

退屈そうに首をコキリと鳴らしつつ、ヤレヤレと腰を落とす千冬に対し

 

(ブリュンヒルデの称号まで得た者が、何という負け惜しみッ……! 何という虚栄サ……ッ!!)

 

いや、私と競い合った頃の千冬は、こんなみっともない事など口が裂けても言わなかったサ! 誰の影響……そんなモノは決まっているじゃないサッ!! 

 

アリーシャは強く奥歯を噛み締める。

 

渋川恭一……―――ッッ!! アイツのせいで、千冬が変わってしまった……! 千冬を元に戻すには…絶対に勝たなければならない…! 勝って私の女にする! あんな男とは二度と会わせないっ、イタリアに連れて帰るのサ…!!

 

(それに…私の『トレーサー』と『バレット』を貶すのだけは、千冬でも許さない―――ッ!!)

 

千冬が動くよりも早く、アリーシャは地面を蹴り上げた。

 

「誰の拳が大道芸だってェッ―――!!」

 

この試合、初めて攻めに転じたアリーシャは、挨拶変わりに千冬が蔑んだ『トレーサー』から入る。

 

「―――ッ」

 

「甘いサッ!!」

 

千冬は『バレット』と思ったのか、避けようとするが、避けた方向に追尾され、あえなく被弾―――ッ!!

そのままの流れに乗った連打連打の嵐が、弾幕の如く千冬を襲う。

 

(私が受けに回ってばかりと思ったら大間違いサッ!!)

 

何とかして、迫り来る弾幕を避けようとする千冬だが、現実は甘くない。彼女が大道芸と見下した技は、彼女の身体に一つ、また一つと痣を作っていく。

 

(やっぱり唯の虚勢だった……! 遠慮はしないっ、このまま倒させて貰うサッ!!)

 

 

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「オイオイ、挑発しておいてあのザマかよ? 案外、織斑千冬もだらしねぇなァ」

 

「なっ、なんだと!? 貴様もっかい言ってみろッ!!」

 

千冬の無様なやられっぷりに、悪態を付くオータム。そんな彼女に噛み付こうとするラウラだが、恭一がそれを止める。

 

「ぱ、パパ!? 何故止める!?」

 

「余所見してる場合かよ? これから面白ぇモンが見られるってのによ」

 

あくまで落ち着き払っている恭一に、怪訝な目を向けるスコール。

 

(自分の恋人が、為す術も無く攻撃を受けているというのに、この余裕は……)

 

「面白いモノ、と言ったわね? 一体、何が見られるのかしら?」

 

「そうだな……強者の絶対条件…ってヤツか」

 

恭一の言葉を聞いた其々は、言葉の意味はピンと来なくとも、少年に倣って試合に視線を戻した。

 

その時、千冬とアリーシャの攻防に変化が訪れる。

 

 

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「ッ……っ…!」

 

千冬を狙い定めて放ち続ける拳。それが彼女を捉える事なく、空を切り続ける。いつしか千冬を襲っていた猛威は、まるで当たらなくなっていた。

 

(何故ッ……どうして―――!?)

 

『バレット』が避けられるのなら、まだ分かる……! 

 

アリーシャは真っ直ぐを二つ放ち、その最後に軌道を変えて、千冬が避ける所をドンピシャで『トレーサー』……も何気無くあっさりと避けられてしまった。

 

(何故―――ッ!! どうして『トレーサー』まで避けられるのサ!?)

 

なら、これならどうサ……! これはまだ見せてない。

『トレーサー』のバリエーションはフックだけに在らず。千冬がアリーシャの拳を掻い潜った所へ、アッパーでの追尾―――ッ!! 

 

この闘いで初めて見せる、千冬の下から迫った『トレーサー』を

 

「フッ……!!」

 

「ッッ!?!」

 

彼女はガードする事も避ける事もせず、打ち掃ってみせた。

 

(初見のパンチにこの対応……ッ、まさか…っ……見切られたっていうのサ……!?)

 

絶対的な自信を持っていた技が看破されてしまった。その様な事、認めたくないアリーシャは拳を出し続ける。そんな彼女が拳を打つ寸前、刹那の刻を掛けて千冬は下を見る。

 

(『バレット』は分からんが、少なくとも『トレーサー』を放つ時、コイツは軌道を変える為に、通常の左よりも軸足の爪先を深く入れる……!)

 

『トレーサー』さえ分かれば、どうとでもなる!

 

千冬はアリーシャからの『バレット』を避ける。そして、その後の追撃『トレーサー』を再び、己の拳で打ち掃った。

 

(フッ……たくさん披露してくれて、礼を言う。私も挑発した甲斐があったというものだ)

 

千冬は今……完全に彼女の左拳を見切り、アリーシャは攻め手を失った。

 

 

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「……モーションを完全に盗んだわね」

 

スコールの感嘆めいた呟きに、オータム達も先程の千冬の挑発めいた言葉、それにふてぶてしい態度の意図を把握した様である。

 

「ひゅぅ~♪ 数多く観察する為に、わざとアイツを怒らせて打たせ続けてたって訳かい? やるじゃねぇかよ…!」

 

「ふはははは! どうだっ、教官は凄いだろう!」

 

「いや確かに凄ェわ……別にオメェが威張る事じゃねぇけどな」

 

感心するオータムに威張るラウラ、そして最後は呆れるオータムである。

 

(褒める処はそこじゃねぇんだけどな)

 

アリーシャの技の癖を見抜く為とはいえ、あれだけの攻撃を喰らい続けていたのだ。それなのに彼女が倒れなかった理由は、根性論でもタフネスでも無い。

千冬はあの猛襲の中、避けられぬと判断するや拳が当たる寸前、アリーシャにも気付かれない程度、僅かに身体を後退させ続けていたのだ。

 

(威力はざっと3割減……って処だろう。見事な身体捌きだったぜ、千冬さん)

 

恭一は人知れず、顔を綻ばせた。

 

「あっ、そうだパパ! 強者の絶対条件って結局なんなのだ?」

 

そういや、まだ言ってなかったっけか。

 

「それはだな―――」

 

「学習能力の高さ……かしら?」

 

スコールの言葉に恭一は場面を取られた様な、拗ねた様な、明らかに不機嫌そうな顔になる。

 

((( 正解だ )))

 

「あらあら、そんな顔しても私がキュンキュンしちゃうだけよ?」

 

(何言ってだこのおばさん)

 

気を取り直して、説明に入る恭一。

 

「誰だってよ…『初めて』にぶつかる時なんざ幾らでもある。そん時に、いちいちアタフタしてる奴は二流も良いとこだ。強ェ奴ってのは『初めて』の脅威を見逃さねぇんだよ。テメェの経験則かき集めてよ、何とかしちまうモンだ。だから強ェ……だから強くなれる……ってな」

 

「ほぉぉ……オメェって意外に頭良いんだな!」

 

オータムはバシバシッと肩を叩いてくる。

 

「これでも学年主席さ」

 

「あらあら、恭一君ってば成績も優秀なのねぇ」

 

「これでも生徒会長さ」

 

(生徒会長はホントだけど、パパの成績はビリだぞ……)

 

恭一の面子を考慮した結果、黙っておく事にしたラウラであった。

 

 

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「……はぁっ、はぁ…! クッ……!」

 

悔しげに睨む無傷のアリーシャと、傷を負っている涼しげな表情の千冬。

緒戦から主導権を取られ続けていた千冬であったが、此処に来て漸く奪い返す事に成功した。

 

(それでもキミは負ける……覚悟して貰うサ、千冬…)

 

心の内でそう告げるアリーシャ。

それは果たして虚勢か否か―――。

 





すまんな、鈴ちゃん。
まだ終わんないんで、この後よろしく。


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