野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

167 / 180

ジャンケン(意味深)
というお話



第弐拾弐話 闘争前曲

「………千冬」

 

「ラウラ、それにやーまだ先生まで」

 

突然、二人の真ん中に割って入ってきた乱入者に恭一とアリーシャは目をパチクリさせる。千冬は分かるが、何故ラウラと真耶まで居るのだろうか。

 

「今日も今日とて、教官と共に回る予定だったからな!」

 

「私もですよ~。あと、山田先生ですよ渋川君!」

 

エッヘンと胸を張るラウラと、その隣りで歳不相応にメッのポーズをする真耶である。そんなのんびりした雰囲気を発している二人とは別に、もう1人の乱入者が纏う氣はというと―――。

 

「貴様ら……己の立場を理解していないのか…? ええオイ?」

 

怒れる彼女の身長は166cm。それ以上に大きく見えてしまうのは、何故だろうか。

 

「恭一ぃ!!」

 

「は、はいっす!」

 

千冬からの大喝に、背筋ピーンな向かうところ敵無しでブイブイいわせている狂者。

 

「貴様は普通の立場の人間では無いと、前に言ったなァ!! 周りの一般人に迷惑を掛けるなと言っただろうがッ!! 覚えてないのか!?」

 

「お、覚えてますです!」

 

「此処で殺り合えば、天城屋旅館の方々はどうなる!? 言ってみろッ!!」

 

「ご、ご迷惑になります!」

 

正論を渾々と放たれ、織斑大先生に平伏す世界最強のガキ。つい数時間前までイチャコラしていた二人とは思えない空気感である。

 

そんな千冬が次に睨み上げるのは、当然もう1人の立場を理解していない者であり

 

「貴様はもっと重罪だぞ、アーリィ!!」

 

「な、何でサ!?」

 

身内贔屓か、と頬を膨らますアリーシャだが、それは今の千冬には完全に悪手だった。

 

「口答えか!? 貴様ブリュンヒルデだろうが! 恭一以上に世界に面が割れてる貴様がこんな非常識な事をして良いと思っているのか!?」

 

「い、いやでもだネ―――」

 

「まだ口答えする気か!? 貴様もうにじゅう「わー!!」歳だろ! 来月になればにじゅう「わっ、わー!!」歳だろが! 周りを無視してはしゃいで良い歳か!? どうなんだ!?」

 

正論&乙女の痛い処を突かれ、恭一の隣りで平伏す世界最強の二代目ブリュンヒルデ。

 

(千冬って……怖いヨネ)

 

(うん……そーだネ)

 

「聞いているのか貴様らァ!!」

 

「「 はいッ!! 」」

 

千冬の世界一怖い説教はまだまだ続く。ラウラと真耶は恐怖のあまり抱き合ってガクブル震えているだけで、二人のフォローに入る余裕は無かった。

 

「おーおー……渋川にも、頭が上がんねぇ人物が居るんだなぁオイ」

 

何ともシュールな光景を、楽しそうに笑う者在り。

その人物とは―――。

 

 

________________

 

 

 

「よぉ、渋川。数日振り「おぉ! マキマキさん! マキマキさんじゃないですか!」誰がマキマキだ!? 巻紙っ…じゃねぇ、オータム様だ!」

 

救世主様のご登場に、恭一の顔から安堵の表情が生まれる。

 

「むっ……貴様は確か」

 

恭一と中々に仲良さげに話している、何処か見覚えのある顔に千冬が唸る。

 

(私はコイツの顔を何処で……っ…そうか、文化祭の時か…!)

 

思い出した。

コイツは文化祭の時に、恭一と殺り合った『亡国機業』のメンバーだった筈…!

 

千冬がオータムを自称する女を思い出していた頃、その本人はアリーシャにも声を掛けていた。

 

「テメェとは結構久しぶりだよなァ、オイ」

 

「くふっ……確かに久しぶりサ。いつの間に義眼になったんだい?」

 

「ケッ……テメェも隻眼だろがよぉ」

 

どうやら二人……と言うより、アリーシャと『亡国機業』も何らかの付き合いがあるらしい。だが、千冬からすれば何故『亡国機業』の人間が此処に来て、しかも普通に恭一やアリーシャと親しげに話しているか、である。

 

「俺が連絡してたんですよ」

 

「……恭一が?」

 

あくまで冷静な時に限るが、恭一も街中で派手にドンパチするつもりなど毛頭無い訳で。しかし、京都の地理に詳しく無い彼には、人通りが少なく、そして存分に戦えるような場所は知らない。

 

「っつー訳で、スコールさんに連絡して場所を借りようって思い付いたんです」

 

「成程ネ。さっきの通信相手はスコールだったのサ?」

 

恭一の言葉にピンときたアリーシャは、ポンッと手を叩く。

 

「んで、コイツらを案内しに来たのがアタシって訳さ」

 

成程、流れはよく分かった。

アリーシャはともかく、恭一は恭一なりに、ちゃんと考えていたんだな。そうなると、私が恭一に怒鳴ったのは早合点だったか……これは謝らればなるまい。

 

「きょうい……」

 

いや、待て。

場所を確保したのなら、何故あの時戦闘態勢に入っていた?

 

「おい、恭一」

 

「なんすかー?」

 

「話は分かったが、それなら何故アリーシャと闘ろうとしていた?」

 

当然の疑問である。

 

「ああ、何かもうテンション上がっちゃっ…て゛ぇ゛ッ!?」

 

千冬から拳骨を喰らう恭一だが、流石に自業自得だった。

 

「はぁ……まぁいい。私も付いて行くからな、嫌とは言わさんぞ」

 

今回アリーシャが恭一を狙う理由は、他でもない千冬自身なのだから。千冬からすれば、当事者の知らない所で、好き勝手に事が運ぶのは我慢ならないのだろう。

 

「いいネいいネ! 渋川ブッ倒して、そのまま千冬とランデブーと洒落込むサ♪」

 

恭一もアリーシャも千冬が来る事に異論は無いようだ。

 

「まっ、別にいいんじゃね?」

 

一応、今から連れて行くのは『亡国機業』のアジトなのだが、オータムも特に気にしていないらしい。

 

「と、いう訳だ真耶。旅館の出立時間までには戻る」

 

「全然話が見えませんよ~!」

 

それでも最終的に納得するのは、真耶が千冬を信頼しているからなのだろう。

 

「そういう訳で、すまんなラウラ。京都の見回りは「わっ、私も行きますッ!!」……なに?」

 

断片的な会話からではあるが、洞察力に優れたラウラはアリーシャと恭一、そしてその中心にある千冬の三人の関係性を見抜いていた。

 

自分の大切な家族がまたもや、私の見知らぬ場所で闘い合い、傷付くかもしれない……何より、二代目ブリュンヒルデだか何だか知らないが(いや実際には知っているのだが、今回は文字通りの意味では無く)教官はパパと私の嫁なのだ! 

 

(ぽっと出の貴様なぞに渡してたまるかッ!!)

 

「………何であの娘、私を睨んでるのサ?」

 

「さぁな。あんたアイツに前世でオイタでもしたんじゃねぇの」

 

ラウラが歯軋りしている理由を察する恭一だったが、特に明かす事はしなかった。

 

「……ふむ。まぁ冷静なお前が居れば、万が一の時には心強いか」

 

「で、では!」

 

元々、京都の街を共に回ろうという約束を破ってしまい、ラウラに対して申し訳無く感じていた千冬は、彼女からの申し出に頷いてみせた。

 

「コイツも連れて行って良いか、マキマキ」

 

「誰がマキマキだコラァ!! ま、まぁ別に今更1人増えようが問題はねぇけどよ」

 

「おぉ…! 感謝するぞマキマキ!」

 

「ブッ殺すぞテメェ!!」

 

かつて自分やスコールから「まどっち」と呼ばれて激怒していたエムを思い出し、アイツには悪い事したなぁ……と、しみじみ懐かしむオータムだった。

 

 

________________

 

 

 

「お久しぶりです、渋川殿」

 

「えぇ……何で敬語?」

 

早速オータムに先導されて、数日前に壊滅させたアジトへやって来た異色の面々。そんな彼らを入口で待っていたのは、先の闘いで恭一に生きる道を照らされた副隊長、ジョン・マッケンジーだった。

 

「敬意を表しているまでです」

 

「ほう……貴様、軍人の様だが中々分かっているな!」

 

頭を下げてくるジョンに対し、何故か上機嫌の恭一…では無く、同じく彼を敬愛しているラウラだった。

 

「コイツも戦場格闘技に精通している身だからよ、オメェの強さに惹かれた1人って訳よ」

 

「フッ……スコール様が奥でお待ちに―――」

 

「うふふっ、待ちくたびれて出て来ちゃったわ」

 

ジョンから少し後ろ、扉の向こうには、恭一に敗れたとはいえ、未だ世界でもトップクラスの実力を誇る『亡国機業』の大幹部、スコール・ミューゼルが涼しげな顔ですらりと立っていた。

 

「数日振りね、恭一君……傷の具合はどうかしら?」

 

(スコール・ミューゼル……コイツが恭一も買う程の手練……しかし、名前呼びするとは些か慣れ慣れしくないか?)

 

スコールの言葉に対し、内心ピキピキな千冬。そんな彼女の内心を余所に、スコールは挨拶変わりと言わんばかりに、豊かな胸を腕組で持ち上げてみせる。

 

年頃の少年なら恥ずかしくなってしまう、その何とも言えない艶めかしさに、恭一は……特に目は逸らさない。

 

「あらあら、相変わらず隙を見せてくれないわねぇ」

 

「ハッ……目ぇ逸らしてたら火球飛ばしてくるだろ?」

 

上品に微笑むスコールと、威嚇的に口角を上げてみせる恭一だが

 

「そうねぇ……炎よりも熱いキッスを貴方の可愛い頬に捧げてたかしら」

 

「「「 は? 」」」

 

言ってから、歳不相応にやんやん照れてみせるスコールの姿に、ポカンとなるIS学園組。ジョンは苦笑しており、オータムはやれやれと頭を軽く抱えて、同じく苦笑いだ。

 

スコールは女性でありながら、同じく女性のオータムと恋人関係にある。彼女を愛している気持ちは変わってないし、これからもそれは変わる事は無いだろう。そして、自分が男に靡く事も。

 

ただ一つ、此処に例外が存在する。これまで数多く屠り焼き消してきた数多の男とは違った、唯一己の乾きを満たしてくれた少年、渋川恭一。

 

(貴方に貰ったあの熱い一撃……今でも忘れられないわ)

 

元来、スコール・ミューゼルという人間は、貪欲な女性である。気に入らない者は焼き潰し、気に入った者は何が何でもモノにしてきた。そんな彼女からすれば、異性だろうが、敵だろうが、超絶年下だろうが、関係無い。

 

オータムだけが知っている事だが、ここだけの話、結構マジで彼を狙っていたりする。色んな意味で。そんな彼女の真意は分からないIS学園組だが。

 

当の本人である恭一は―――。

 

(……この人、実際何歳なんだ? 俺の前世位だったらおもしれぇなぁ)

 

特に言葉の内容は意に介さない。

 

恋人の千冬は―――。

 

(最近、私の変な彼氏が妙にモテている様な気がする……何故だろう?)

 

スコールの眼を見て、本気っぽい事を悟り。

 

娘のラウラは―――。

 

(パパの魅力は敵味方の壁をも超える、まさに無差別級チャンプだな!)

 

相変わらず、恭一に毒されていた。

 

「そんな事はど~~~でもいいサ! さっさと殺ろう、渋川恭一!」

 

そんな中、この緩い空気に馴染まないアリーシャが声を荒げる。

 

「それもそうだな……時間は有限だ」

 

決して此処へ来たのは、おしゃべりするためでは無い。恭一は首をコキリと鳴らしながら、アリーシャの元へ一歩前に出る。

 

「まぁ待て恭一」

 

旅館の庭園での時の様に、再び待ったを掛ける千冬。

 

「なんすか? 此処なら一般人にも迷惑掛け「アリーシャとは私が闘る」………は?」

 

今なんつった…?

 

「ちょ、ちょっと待って千冬! 何で私が貴女と闘う必要があるのサ!?」

 

「大アリだ。お前の目的は私なのだろう? そんな私を差し置いて、恭一と闘おうなどど、お過度違いも甚だしい。ここは私が闘うのが筋という―――」

 

 

ズゥゥ……ゥ…ン―――。

 

 

「「「 !? 」」」

 

千冬が言い終わる前に、周りに纏っていた一切の空気が失せ溶けた。1人の少年から放たれた本気の殺意によって。

 

「……テメェ俺の獲物横からカッ攫う気か?」

 

そこには普段、千冬と仲睦まじい恋人…では無く、一個の狂った武人の怒りだけが存在していた。

 

「フッ……常人レベルならば、その殺気だけで黙らせられるのだろうが」

 

現に其処に居るジョン、オータム、ラウラは全身から言い様の無い汗が止まらず、震えすら起きている。

 

恭一の殺気を浴びながら涼しげにしているのは、そう言って笑ってみせる千冬、対面しているアリーシャ……そして、何故か恍惚な表情を浮かべているスコールの三人だった。

 

「御託はいい……アンタが俺の邪魔するってンなら「ジャンケンで決めよう」………は?」

 

珍妙な提案に、殺気を削がれてしまう恭一。

 

「ふ、ふざけてんのかよ? いくら千冬さんでも、俺だって「私はグーを出す」いや、話聞けよ!………は?」

 

本日三度目の「は?」である。

 

「5秒の猶予を設けてやる。私に死合いを譲りたくなければ、お前の鋏で私の石を断ち切ってみせろ……!」

 

「そ、それって恭一殿のっ……!」

 

事情を知らない外野からすれば、千冬の提案した言葉はまるで理解出来ないのだが、恭一とラウラだけは通じていた。(※ 本編『第51話 謳歌してこその日常』参照)

 

千冬は挑戦的な眼差しで、恭一の前に『グー』の『石』を出す。

 

「ラウラや一夏の石は切れても、私の石はどうだ……?」

 

「………上等」

 

千冬の拳を、恭一が作った『チョキ』の形を司る『鋏』がゆっくりと挟み込む。

 

「ラウラ」

 

「は、はい!」

 

「ゴングを頼む」

 

「わ、分かりました!」

 

二人の重なる手に上から、己の手を重ね

 

 

「レディ……! GOッ!!」

 

 

5秒間の『グー』VS『チョキ』のジャンケンが始まった。

 

「ずぉりゃああッ!!」

 

「はぁああああッ!!」

 

「「「 !? 」」」

 

展開に付いていけてないスコール達の目が点になっている中

 

「ぬうっ!?」

 

「っ…がぁぁぁあ!!」

 

ラウラと恭一の目が驚きで見開かれる。

 

(す、凄いです教官…! 私は一瞬でパパに負けたのに!)

 

千冬の拳を挟んでいる恭一の人差し指と中指に万力が込められる。それなのに、千冬の拳は一向に開こうとしない。

 

(じ、自信がある訳だ……! マジで硬ェ…!)

 

(き、気を緩めると一気に断ち切られそうだ……!)

 

刹那に感じる5秒間と、気の遠くなる程に長く感じる5秒間。恭一と千冬は同じ5秒間でも、まるで体感時間は異なっていた。

 

「ぐっ…ぐぬぬぬぅ……!」

 

(骨ごと鋏み潰してやる……!)

 

恭一の指に挟まれた千冬の拳から、軋む音が聞こえてくる。

 

「くっ……わ、た、し、は……」

 

(負けん………………負けんッ!!)

 

「か、カウントファイブ! 教官の勝ちですッ!!」

 

ラウラのコールにより、千冬の勝利が確定した。

 

.

.

.

 

「私が闘る。これで文句はあるまい?」

 

「わぁーってますよ! 敗者は勝者に従いますよ、どちくしょうッ!!」

 

5秒間のルールがあったとはいえ、久々に真っ向勝負で負けた恭一は地面を削り蹴りながらも、千冬の言葉に頷いた。

 

「いやいや、私は千冬と闘るなんて一言も言ってないサ!!」

 

今から行うのは決してルールに守られた、現役時代に二人が対峙したような試合では無い。そもそも好きな人を傷付けるなんて、無理に決まっているサ!!

 

「そんなお前に朗報だ、アーリィ」

 

渋川恭一とは闘れないし、千冬は俄然やる気だし、朗報も何も悲報ばっかりじゃないのサ!!

 

 

「私に勝てばお前の女になってやる。二言は無しだ」

 

 

「ほう」(恭一)

 

「あらあら」(スコール)

 

「オイオイ」(オータム)

 

「いやはや」(ジョン)

 

「………えっ」(ラウラ)

 

 

「っしゃあああああッッ!! さぁ闘ろう! 今すぐ闘ろう! 新婚旅行は世界一周サ!!」(アリーシャ)

 

 

 

「…………………江っ」(ラウラ)

 

 

 





千冬が負けても勝っても、どっちに転ぼうが作者的には美味しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。