長い長い夜でした、というお話
「ほれ…起きんか、箒」
「ん~……ね、眠いです千冬さん………くぅ」
時刻は6時を少し回った頃。少しずつではあるが、朝の明るみが果てしない遠方からにじむように広がってきた頃、千冬が隣りで寝息を立てている箒を揺らして起こす。
「私達が恭一の部屋から出る所を見られてはイカンだろうが。さっさと起きんか!」
ちなみに恭一は既に起きており、朝コーラに挑戦するため、自販機のあるロビーまで出て行っている。
「うぅ……昨日も寝ずにそのままハードな事しっぱなしでしたからつい………ん~~~~っ」
千冬に急かされ、ようやく身を起こす。
(はぁ……折角セシリアと性の修行をしたのに、帰ってきてから結局千冬さんと恭一に良い様に弄ばれたな……ぐぬぬ、もっと鍛錬が必要だ……!)
箒の心の声の通り、深夜の露天風呂で確かにレベルアップして凱旋してきた彼女だったが、結局何の問題にもならず、千冬と恭一にフルボッコに返り討ちに合ったらしい。
「っていうか2vs1で勝てる訳無いだろ……」
「ん? 何の話だ?」
「こっちの話ですよ……あれ、恭一は?」
部屋をキョロキョロ見渡す箒に、やれやれと事情を話す千冬だった。
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「わぁあああああああッッ!?」
「ふぉおおおおおおおッッ!!」
「ひょわぁ!? お、お二人共どうされたのです!?」
同じ頃、場所は恭一の部屋から姦三人乙女達の部屋に移る。既に起きていたセシリアは、咆哮からの飛び上がるように目覚めたシャルロットとラウラのシンクロっぷりに結構ガチで仰天していた。
「はぁっ…はぁっ……! あ、あれ…? 此処は………」
「……ふむ。どうやら醒めたようだな」
あたりをキョロキョロし、此処が現実世界である事を確かめるシャルロットとラウラ。しかし、二人の表情は同じ動作とは裏腹にまるで違うモノだった。
「お二人共、夢を見てましたの?」
「う、うん……でもどんな夢だったか、思い出せないや……」
(何かすっごい夢だった様な気がする……今まで見たどんな夢よりも………)
夢に堕ちる事を選んだシャルロットは、夢の内容までは覚えていない。
「うむ! 中々に意義のある夢だったと自負しているぞ! よ~し……私は頑張るぞ~~~!」
夢から醒める事を選んだラウラは、はっきりと覚えていた。
「箒さんもまだ帰ってきてませんし、宜しければ朝の散歩でもいかがです?」
昨日の朝と一緒で、箒はまだ恭一の部屋に居る。しかし、今朝のセシリアは憤慨する事は無かった。その箒本人と、3時間前まで一緒に居て事情は聞き及んでいるから。そんな彼女の提案に
「それはいいな! うむ、私も行こう!………む?」
「そうだね、僕も付いて行く………へ?」
またもや二人の動きがシンクロニシティー。立ち上がろうとした手前、とある着衣部分に違和感があるようで、おそるおそるその部分を上から覗き込む。
「わっ、わぁああああああッッ!! なっ、ななななな何で!?!?」
「ほう……これがクラリッサの言っていた夢イキというヤツか」
ここでも両者のリアクションは違った。自分が履いている、女の子の大事な部分を飾り守るパンツのクロッチのご様子に、滅茶苦茶動揺するシャルロットと何やら納得してみせるラウラ。
己のパンツのウエストエッジを引っ張り、覗き込むシュール過ぎる二人の図は、当然セシリアの目の前で行われている訳で。
「あ、あ、あ、貴女達……! そっ、そういう夢を見ましたのね!? そう捉えてよろしいのですね!?」
「ふむ……まぁそうだな」
「ちっ、ちが……! ぼ、僕は覚えてないよぉ~~~!」
特に反論する事もせず、肯定してみせるラウラに、恥ずかしさから手をブンブン振って否定するシャルロット。
「お黙りなさいな! いいですかお二人方! 私達は花も恥じらう女子高生でしてよ!? もう少し性に対する慎ましさを持って過ごす事が―――ペラペラペラペーラ。くどくどくどくど……―――」
淑女を自負するセシリアからの、ありがたいお説教が続く中
(正論だけどさ……セシリアも、その………ねぇ?)
(うむ。思いっきりパパニーしてたな)
パパニーとは、恭一を想って自慰する意味を持つ造語である。
「いいですか? それ故に、私達女性という者は愛と性の分別をしっかりと「恭一殿をオカズにした自慰は良かったか?」んなぁっ!?」
気持ち良く話していたセシリアに、ラウラからの渾身のカウンターが突き刺さる。
「おっ、おなっ……にーした後の温泉は格別だったの?」
顔を真っ赤にさせたシャルロットからの追撃が更に刺さる。
「あ、あ、貴女達……起きてました…の?」
「「 起こされたんだよ 」」
事実しか言っていない二人に、自称淑女は思わず後ずさり―――。
「そげなアホなぁああああああああッッ!!」
手痛いしっぺ返しを喰らい、恥ずかしすぎる身に曝されたセシリアは、脱兎の如く部屋から飛び出して行った。
「やったね」
「成し遂げたな」
逆転勝利を収めた二人は満足そうに頷き合う。
「この下着どうしよ?」
「そうだな…洗うか」
部屋に帰ってきた箒が見たモノ……それは洗面所でパンツを手洗う二人の姿だったそうな。
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IS学園の生徒達が数日お世話になっている『天城屋旅館』には見事な造詣が施された庭園が存在する。一幅の絵のように広がる水と緑豊かな装飾池。その端に置かれた鹿威しの側で、1人の少年が誰かと空中投影ディスプレイ越しに話をしていた。
時刻は8時を過ぎたあたり。大広間での朝食を終えた生徒達は、京都での最後の自由時間を満喫するために、ほとんどが早くも旅館から出払っている。それは箒や他の専用機持ち達も同じで、カメラ役の恭一も後から行くと伝えてある。
そんな中、しっかり食事を摂り、英気を養った恭一は
「んじゃ、お願いしても良いっすか?」
『ええ、すぐに向かわせるわ』
対話通信を終えて、軽く息を吐いて振り向いてみせた。
「殺気は抑えてねぇのに、襲ってはこねぇんだな……?」
「小賢しい問い掛けサ……キミの拳の中にあるソレは何サ?」
いつからそこに居たのか。口に咥えたキセルから、紫煙の輪っかをモクモクと燻らせて獰猛に嗤う、恭一と同じ隻眼の持ち主。此処に着いた時から、いやホテルを出た時から、既に殺る気満々だった。そんな彼女の氣に呼応するかの様に、恭一も愉しげに顔を歪める。
「久々に対峙する実戦派……ワクワクするねぇ…!」
千冬を想うが故に、恭一を狙う二代目ブリュンヒルデ。アリーシャ・ジョセスターフに掌の上で転がる一握りの石を見せつけた。
「そんなモノぶつけられたら痛いからネ……まったく、手癖の悪いガキも居たもんサ」
「そんなに褒めても手加減してやんねぇぜ? 頭下げて頼むっつーなら、話は別だけどよ」
目の前のアリーシャ以上に歪み嗤ってみせる恭一は、掌にある石を握り潰す。
「………キミと話してると、失くなった筈の右腕が疼いて仕方無いサ……!」
「俺と話し続けりゃ腕が生えてくるかもな、うわはははは!」
口上戦においては、恭一に分があるようだ。
「……キミを叩き潰して千冬を奪う」
「ハッ……やってみろよ」
二人の間に歪みが生じ、互いに臨戦態勢が―――。
「当事者を放って何好き勝手している?」
初代ブリュンヒルデによって、待ったが掛けられた。
色恋沙汰な話なのに何故バイオレンスに(戦慄)