風景よりも談合談話、というお話
「これはまた見事な紅葉構えってヤツだな」
金閣寺に向かう途中、長い階段を前に紅葉を咲かせた木々が、青い空を背景に涼しげに揺れて、観光客達を大いに歓迎していた。被写体になる生徒は居ないが、これはこれで写真に収めるべき風景であろう。
「お待ち下さいな、恭一さん!」
カメラを構えた処で、後ろから声を掛けてきたのはセシリアである。
(今朝は箒さんの巧みな話術に嵌ってしまいましたけれど、私も完全復活しましたわよ!)
箒さんは着実に堅実に、恭一さんとの親愛を一歩一歩上がっていっていますわ。行程の早さを競うつもりは毛頭ございませんが、それでも私なら三段飛ばし位の勢いで上れる筈です。
「このような絶景に誰も写らないのは勿体無いとは思いませんか?」
狙うは恭一さんとの劇的なツーショットですわ!
「それもそうだな.......はい、チーズ」
「むふん」
パシャリ
不意のシャッターにもかかわらず、見事なモデル的ポーズをしてのけるセシリア。英国淑女の名は伊達では無い。
「ってそうでは無く! 一緒にですわ!」
「......? んじゃ、お前こっち持て」
カメラを2人で一緒に持つ。
先程セシリアが立っていた場所にレンズを合わせて、2人で一緒にシャッターを
「ってそんな訳無いでしょう! 何の共同作業ですか!?」
「いや俺もおかしいとは思ったんだけどよ、お前が一緒にっツーから」
「一緒に撮るのではなくて、一緒に写りましょうって事ですわ!」
(ああもう! 日本語って難しいですわね!)
別にセシリアは悪くない。
「それじゃあ、誰かに撮ってもらうか」
周りをキョロキョロ見渡す恭一に
「カメラマンは任せろ~!」
のほほんな声を奏でながら、本音が何処からともなくやって来た。
「のほほんさん? さっき相川達と餡蜜食いに行くって」
「ちょっと何言ってるか分かんない」
「えぇ......」
献菓展の時といい、人力車の時といい、気付けば居るなこの子。多分突っ込んだら負けなんだろう。
思う処はあるものの、カメラを本音に手渡し、恭一はセシリアの居る位置まで向かう。
恭一の隣りで佇むセシリアは小さく拳を握った。
(紆余曲折はありましたが、まずは満足。ですがここからもう一歩先へ行きますわよ!)
「ほーい、撮るよ~」
「おう、いい感じに撮ってくれよな」
写真というモノは形が残る大切な思い出の産物。ですが今の私は平凡なツーショットなどで歓ぶ女では御座いませんわ。私が望むは飽く迄ドラマチックなモノと決まっておりますもの!
「はーい、チーズ」
「恭一さんッ!」
セシリアは機を見落とさず、ガバッと恭一に抱きつき
「うおっ!? な、なんだァ?!」
驚いてつい彼女の方へ顔を向けてしまった恭一に対し、これまた機を逃さず己が唇を寄せる。
(セカンドキッスを果たすは今ッ!)
「ん~~~っ♥」
彼女の言う、劇的でドラマチックな写真の出来上がり―――
「い゛ィッ!?」
「オイオイいきなりアグレッシブすぎンぞテメェ」
な訳も無く、恭一にカウンターでアイアンクローをかまされるセシリア。
「いたいっ、痛いですわ恭一さん! 乙女に何なさるんですか!?」
「それは俺の台詞だろ。お前ら最近開放的すぎンだよマジで」
ここで言うお前らとは箒と千冬の事を指し、そこへ新たにセシリアが加わった形である。恭一は呆れながらも、彼女の頭を掴んだ手は放さない。
「だ、大丈夫、大丈夫ですわ!」
「いや大丈夫の意味が分かんねぇよ」
「私、実は舌でさくらんぼのヘタを結べますの!」
「だから何なんだよ!? 何アピールだお前!」
(セッシーはエロいなぁ)
いつものようにのんびり半開きな目でカメラを構えている本音だが、どうやら彼女にはセシリアの言葉の意味が伝わったらしい。
「も~ぅ、撮っちゃうよ~?」
「おう、いいぜ」
「ちょっ、まっ―――」
パシャリ。
劇的でもドラマチックでも無いが、自然体でじゃれ合う2人の姿が思い出の一枚として収められた瞬間だった。
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「織斑も此処に居たンか」
「おう、やっぱり金閣寺は外せないからな!」
セシリア達と別れて金閣寺までやって来た恭一は、一夏の他にも見知った顔がチラホラいる事に気付いた。
「......私もいる」
「私もいるよーぅ」
一夏と話している処に声を掛けてきた簪と本音。
「カメラ撮った後、消えたと思ったらいつの間に」
「かんちゃんと待ち合わせしてたからね~」
神出鬼没な本音にまたもや内心驚かされる恭一。
「ああ、そうだ織斑」
金閣寺の周りを歩きながら、恭一は弾の事を一夏に話してみる。
「弾が来てるのか!? ってか何でバイト?」
「金貯めてよ、アイツの妹にゲームをプレゼントするんだってよ」
「ゲーム?」
「名前なんだっけ。確かインフィニット・ストラトスヴァー......ヴァーミリオンサンズだっけ?」
そこそこ長い名前なのか、いまいち覚えきれていない。
「......もしかして『IS/VS-Ultimate-』(インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイ-アルティメット-)?」
そこへゲームにも詳しい簪が助け舟を。
「ああ、そうそれだ!」
「そういや最近よくテレビでも宣伝してるなぁ。すっげー高いんだろ?」
だからこその高額短期アルバイトである。
「お前の『白式』も簪の『打鉄弐式』も出るらしいじゃねぇか、おう? おうコラ?」
「いや俺に絡まれても困るって......もしかして恭一の『打鉄』が出ないのに不満なのか?」
「別にちげーしそんなんじゃねーし」
否定する恭一だが、その言葉にいつもの覇気は感じられない。
「これは極秘だけど......兄者の『打鉄』も出るよ、特殊な形でだけど」
「ま、マジで!?」
「おお、良かったじゃん恭一!」
「バッカお前別に俺は嬉しくねぇよお前、うわははははッ!」
(すごく嬉しそうだな)
(良かったね、しぶちー!)
「あれ、でも特殊ってどういう事だ?」
「兄者の『打鉄』を使うには特殊コマンド入力が必要なの」
「特殊コマンド?」
簪曰く、ゲームの起動画面で『上・X・下・B・L・Y・R・A』を入力。成功したら地響きのような唸り声と一緒に『伝説のスーパー打鉄』として選択可能との事。
「なにその超武闘伝2......完全に裏ボス扱いじゃないか、ズルいぞ恭一!」
隠しキャラクターにロマンを感じる一夏は、恭一の『打鉄』の待遇を羨ましそうに騒ぐ。
「フッ......とうとう来ちまったらしいな、俺の時代がッ!」
「ちなみに兄者の『打鉄』のステータスは攻撃力に全振りされてて、どんな機体が相手でも一撃で倒せる」
「おうおう、制作した奴は分かってんねぇ!」
簪の言葉にますますご機嫌になる恭一だが
「その代わり防御力は0に設定されてるから、何食らっても一撃死だけどね」
「......は?」
恭一の『打鉄』が参戦決定し、機体設定された背景には過去のトーナメントでの試合、ファストボールでの来客救出のための特殊鋼材ブチ破り、タッグマッチでのゴーレム相手への破天荒な技の応酬が色濃く反映されてあったり。
「防御しても?」
「オワタ式」
「.......掠っただけでも?」
「オワタ式」
もしかしてそれって制作会社の悪ノリ枠じゃないのか。
「ちなみにその伝説さんの武器装備は?」
「兄者は武器なんて使ってないでしょ? ある訳無いよ」
「やっぱりネタ枠じゃないか!」
近接オンリー紙装甲。Dead or Aliveを楽しみたいなら、是非使ってどうぞ。という感じなのだろう。
「でも何か凄いよなぁ、俺達の乗ってるISがゲームに出るんだぜ?」
そう、一夏が感慨深そうに。
「それだけISが世界に受け入れられているって事なんだろうよ」
恭一もそれに同調する。
「もしかしてもしかしてぇ~、いつか格闘ゲーム以外も出ちゃったりぃ」
楽しそうに本音が話すが、需要を考えれば格闘系以外に何があるというのか。
「.......恋愛シミュレーションゲーム」
思いつきで簪が呟いてみるが
「誰が?」
「ISが」
「誰と?」
「.......ISと?」
疑問形に対し、疑問形で終わってしまう簪だった。
「ISの擬人化とかこれもう分かんねぇな」
「もしテレビのコマーシャルとかで流れたら、お茶の間フリーズ間違い無しだよ~」
本音の言う通り確かに、いきなりISの擬人化に加え恋愛ゲームなどが発表された日には、皆がビックリ仰天するに違いない。
「―――結婚したのか、俺以外のヤツと…」
「「「 は? 」」」
唖然となる3人を余所に
「―――お前と結婚するのは、俺だと思ってた…」
一夏の迫真の演技は続く。
(いや何言ってだコイツ)
「テレレレレレレー↑」(本音の声)
(え、えぇ......のほほんさんまでおかしくなった......ん?)
(兄者兄者、織斑君の元ネタはこれ)
「―――今夜は、帰したくな「不倫ゲーじゃねぇかボケ!」へぶぅっ!?」
盛大に吹き飛ばされた一夏だったが彼曰く、お茶の間フリーズから連想した渾身のボケだったようで、いつものようにスルーされず、久々にツッコミをもらった事に対して結構嬉しそうだった。
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「ん......?」
金閣寺のある敷地内を丁度一周した処で、恭一の携帯が震える。どうやらメールが着たらしく、発信主はラウラからだった。
『大徳寺で茶道が学べるらしい。嫁も一緒だし、パパも茶を飲もう!( ^-^)o旦~~』
「何か微妙に茶道を勘違いしてねぇかアイツ」
ともあれ、次の行き先場所は決まった。時間を考えると、恐く次の行動が最後の自由時間になるだろう。
「んじゃ、俺は次の場所に行ってくるわ」
「おう、また後でな恭一!」
時間が進むのを早く感じるのは、楽しんでいる証拠か。
ふと、そんな事を思いながら、飛び立つ恭一だった。
IS11巻の発売が今月ってほんとぉ?(疑心暗鬼)