言えるセシリアの職業は役者、間違いない。
「しぶちー、変な顔になってるよー?」
高揚感に浸っていた恭一に話しかけてきたのは、ダボダボの制服をこれまた妙に着こなしていた少女だった。
「し、しぶちー?それは俺の事かい?」
「そだよぉ~、しぶかわきょういち、だからしぶちー。私は布仏本音っていうんだぁ」
ぽわわんとした雰囲気で話す少女に
「まさかあだ名を付けられる日が来るたぁな」
「嫌だったぁ?」
「いや、嬉しいよ。俺にあだ名をくれた、そんな君はのほほんさんだ」
「のほほんさん~?」
「君のその雰囲気と名前から考えてみた。我ながら中々のネーミングセンスだと思うが、気に障ったか?」
「ううん、そんな事ないよぉ~。今日から私はのほほんだぁ~」
両手を上げて緩く喜びを表す本音の姿に
(これはアレだな、何というか...清涼剤だ)
釣られて恭一も笑顔になった。
「しっかし、のほほんさんも変わってるなぁ」
「むむ?どーしてぇ?」
「さっきの話聞いてたろ?俺は皆が認める落ちこぼれ君だぜ?」
「あぁ~IS適正値のことぉ?べつに興味ないよぉ」
「....へぇ」
(女尊男卑に染っていると思いきや、こんな子もいるのか)
恭一と本音がまったり話していると
「授業を始める。席に着け」
これまでとは違い千冬が教卓に立った。
真耶は端の方でノートを手に控えていた。
「授業の前に、クラスの代表者を決めなければならないな」
「「「クラスの代表者???」」」
「所謂、委員長の様なものだな。クラスを纏めたり、委員会への出席などが挙げられる。ただ、ここはIS学園だ。クラス代表者には再来週のクラス対抗戦に出場してもらう」
「織斑先生、それって模擬戦のようなものですか?」
1人の生徒が質問を投げかける。
「そうだな。入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点では大した差は無いが、競い合う事で向上心を生み出す目的もある。ちなみに、一度決まると1年間は
変わる事はない。それを踏まえて自薦他薦は問わない。意見がある者は挙手しろ」
それからは雪崩の如くであった。
「はい。織斑君を推薦します!」
「私も!」
「私も同意見です」
「えぇ!?お、俺!?」
(まぁ妥当だろう。ネームバリューもバッチリだ)
ちなみに恭一は女子から推薦される事は無かった。
何故なら既に周りの女子からは、ただISを起動させる事が出来るだけの木偶。
大半がそのように恭一を認識していたからだ。
そして、恭一も興味なかった。
クラス対抗戦と響きは良いが、さすがに1年間もパシリ的な任務で拘束されるのは勘弁だった。
それに、わざわざクラス代表に成らずとも、自分には教卓に立っている最強の好敵手が存在する。
故に推薦されない状況に胸を撫で下ろした。
「ちょ、待ってくれ。俺はそんなの---」
「ちなみに推薦された者に拒否権は無いからな」
「いぃ!?」
(ううむ。まぁこれも社会か?頑張れ織斑)
「そっ、それなら俺は恭一を推薦する!」
「何言ってだお前」
クラスが少しザワつく。
「うわー織斑君ってばきちくー」
「いや、さすがにありえないでしょ?」
「勝てるわけないじゃん、Fだよ?F」
「が、ガンバれ!しぶちー!」
アウェーに引き摺られない本音はクラスメイトの鑑である。
「どうして、俺を推薦する?」
「だって俺だけじゃ不公平だろ。こんなの」
「うーむ...確かに一理ある.....のか?」
---バンッッ!!!!
机を叩いて立ち上がったのは、恭一お気に入りの英国貴婦人『セシリア・オルコット』その人だった。
「納得いきませんわッッッ!!!!!!」
________________
「そのような選出、認められません!男がクラスが代表だなんて恥曝しも良いとこですわ!そのような屈辱をこの私に耐えろと仰って?!」
セシリアはさらにヒートップしていく。
「実力から言えば私がクラス代表になるのは必然!それを、ただ物珍しいからというだけで代表になられては困ります!ISの知識も無い素人同然の猿とF判定の出来損ないの猿の下になれと?!私がわざわざこの様な島国まで来たのは、IS技術の修練を積むため、そして誇りを守るだめですわ!!サーカスをする気など毛頭ございませんわ!!」
(こっちに来てから猿の脳味噌喰ってねぇな)
恭一のどうでも良い考えを余所に、まだまだ止まらないセシリア。
「大体ですね、文化としても後進的な国で暮らさなくてはならない事自体、私にとっては耐え難い苦痛ですのに---」
今まで面白がって見ていた周りの女子も日本自体を貶され、さすがにムッとする。
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理何連覇中だよ」
ついに我慢出来なくなったのか。
一夏がイギリスを悪く言い、それに対してまたしてもセシリアがキレた。
「なっ、あなたねぇ!私の祖国を侮辱いたしますの!?」
「先にこっちを悪く言ったのはそっちだろ!」
まさに売り言葉に買い言葉、アレやコレやと2人は罵り合う。
そんな中、千冬は恭一を見ていた--
(ふむ。まるで対照的だな。一夏は怒り恭一は無表情を装ってはいるが、この状況を
しっかりと楽しんでいるな)
「恭一!お前も何とか言えよ!俺たちは馬鹿にされてんだぞ!!」
「あーら、そちらのサルは貴方と違い身の程を知ってるようですが?」
「............」
2人の熱さなどどこ吹く風か、恭一は無表情を貫いていた。
「ぐっ...決闘ですわ!」
「おう、いいぜ。四の五の言うより分かり易い」
「........へぇ」
恐らく恭一の僅かな反応に気づいたのは、千冬だけだろう。
「言っておきますけど、わざと負けたりしたら私の小間使い、いえ、奴隷にしますわよ!」
「勝負事に手を抜く程、腐っちゃいない」
「ふふふ、結果が目に見えた勝負など面白くも何ともありませんが、私、セシリア・オルコットの実力を示すにはもってこいの舞台ですわ!」
尊大なポーズを取り豪語するセシリア。
「そうかよ、ハンデはどうするんだ?」
「あら?さっそくお願いかしら?」
「いや、俺がどの位ハンデをつければいいのかなぁと」
一夏の言葉にクラス中から笑いが起きた。
「お、織斑君ってばそれ本気で言ってるの?」
「男が女より強かった時代なんてもうとっくの昔の話だよ?」
「今じゃ女の方が強いって常識だよねー」
周りの女子達の反応から自分の発言が失言だと思ったのか、しまったという顔をした。
「じゃあ、ハンデはいい」
一夏の言葉に対して
「むしろさぁ、織斑君がハンデ貰った方が良いよ?そうじゃないと、何も出来ずにボコボコにされて終わっちゃうよ?」
一夏の身を案じるというよりも、どこか馬鹿にした言い方に恭一は聞こえた。
「男が一度言いだした事を覆せるか。ハンデはなくていい」
「...........」
恭一、一夏の漢気溢れる言葉にも反応せず
「えー?それは代表候補生を見くびり過ぎだよー」
「そうそう」
「カッコつけてもどうせ恥晒すだけだと思うなぁ」
さすがに馬鹿にされていると気づいたのか。
カチン、ときて言い返そうとした一夏だったが
「.....なら俺はハンデをつけてもらう」
今まで沈黙を貫いていた男の声が、静かに一夏の言葉を遮った。
適正値『F』判定だもんね、仕方ないね。