野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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第拾肆話 秋の夜長

「しかしお前らな、遊びに来ても良いとは言ったが......」

 

ちゃっかり恭一の隣りに座った千冬は、ビール片手に部屋内を見渡す。

ちなみにそれまで座っていたセシリアは抵抗虚しく、羅刹の覇氣によって簡単に押し退けられてしまった。

 

「多すぎるだろ」

 

同じ部屋に泊まる一夏は勿論、恭一に箒、セシリア、シャルロット、ラウラ、鈴、簪、そして真耶と自分の計10人である。

 

「飲むのは私の部屋にしましょうか?」

「ふむ......それが良さそうだな」

 

真耶も恭一と同じく一人部屋で、千冬達の部屋の隣りだ。そのまた隣りが恭一の部屋になっている。

 

「あ、織斑先生......それと兄者も」

 

簪が立ち上がる千冬に駆け寄り、恭一も言われるがまま耳を傾ける。

 

「生徒会の事でお話が」

「会員の話か?」

「はい」

 

今はもう12月に迫ろうとしている。来年には虚は卒業だし、楯無も今は副会長に収まっているが、それは飽く迄恭一が会長職に慣れるまでの期間限定である。

生徒会に残る事はあっても『名誉会長』的な存在を望んでいる楯無。

そうなれば、正規の生徒会員の人間として数える事は出来なくなる。

簪が危惧しているのはそれだ。

 

スーパーお姉ちゃんとハイパー虚さんが居なくなった生徒会。

ポンコツ会長とのほほん書記と私......どう足掻いても私に負担MAXじゃないか。

それは流石に嫌すぎる。今の内に手は打っておきたい。

 

そのための相談を千冬にしに来た訳である。

 

「......ふむ。確かにそれもそうだな」

 

簪の不安が現実味を帯びている事を理解した千冬は

 

「渋川、コイツ達になら明かしても良いんじゃないか?」

 

恭一に聞いても否定するだろうが、今の千冬にはハッキリ分かっている。彼が生徒会長になった本当の理由を。

 

(一人でスコール達と戦うためだったのだろう......本当に頑固な奴だ)

 

しかしその戦いも終わったんだ。理由は話さずとも、生徒会長に就任した事位は、言っても良いだろう。

 

「何なら勧誘してみるのはどうだ?」

「成程、それも良いっすね!」

 

確かに頼れる2人の姉御が居なくなった後の事を考えれば、恭一も反対などする気にはならない、寧ろ大賛成だ。

 

.

.

.

 

「「「「 えぇぇぇええええええッッ!! 」」」」

 

案の定、恭一の告白にびっくり仰天な面々。

 

「ほ、ホントかよ恭一!? お前、生徒会長だったのか!?」

「まぁ正式にはまだだけどな」

 

「楯無先輩が生徒会に誘った時は面倒だって断ってなかったか?」

「色々あったんだよ」

 

驚いた箒達が恭一に詰め寄るが、大体内容は同じだった。

 

信じらんねぇ。

本当に大丈夫か?

手伝える事があるなら、何でも言ってくれ。

悪の秘密結社の出来上がりだね!

 

最後の言葉を吐いたシャルロットは、恭一の頭グリグリ刑によりノックダウン。

 

「つー訳でよ、どうだ? 生徒会に興味ある奴はいねぇか?」

「勿論、私は参加するぞ!」

 

一番早く参戦に名乗りを上げたのは箒。彼女からすれば当然といえば当然か。

 

「おう、ありがとよ箒!」

「わ、私も淑女として―――」

 

「駄目だ」

 

セシリアも名乗りを上げるが、其処で千冬からのストップが掛かる。

 

「な、何故ですか!?」

「お前だから、では無い。既に部活を複数掛け持ちしてる者は許可出来ん。負担が大きすぎるのでな」

 

その理由により、セシリアとシャルロットと鈴は勧誘不可。

 

「私もパパを助けるぞ!」

「おうおう、我が娘のなんと優しい事か」

 

恭一に撫でられ、嬉しそうなラウラ。

 

そんな中、一夏もどうしようか悩んでいた。

ISの勉強に普通の勉強、たんれんぶでの鍛錬にタイヤ走の自主鍛錬。

そこへ更に生徒会の仕事も加わるのは、正直今の俺じゃキツい。

蘭の時みたいに「任せろ」って安請け合いして後悔するのは嫌だ。

 

(.......ふむ)

 

「おい、織斑」

「な、なんだ?」

「生徒会ってのはよ、学園の皆を外敵から守る存在でもあるんだとよ」

「........守る存在」

 

楯無はそう言っていた。そして生徒会長はその長であり、鉄壁の盾なんだ、と。

だが、恭一は更識楯無とは違う。

渋川恭一という存在は盾では無く矛。守るよりも攻める存在だ。

 

「皆を守りてぇんなら、さっさと強くなれ......学園の盾になってみろ」

 

俺が思う存分、前で暴れられる位に、な。

 

「学園の盾.......俺が」

 

闇雲に鍛えるよりも、向かう先のイメージがある方が、心身共に影響を及ぼす。

 

(明確な目標が出来た事で、一層強くなれるだろう......ん?)

(恭一ってホントにお節介だよね♪)

(う、うるへーうるへー!)

 

自分も発破を掛けられた事のあるシャルロット。だからこそ、自然と恭一を見る目が優しくなり、そんな視線を受けた恭一は、妙に気恥ずかしく、居心地悪くするのだった。

 

 

________________

 

 

 

本格的に夜も更け、就寝時間が訪れた。

既に一夏の部屋から、其々が自分の班部屋に戻り終えている。

 

「明日は何処行こっかな」

「食べ歩き巡りというヤツをしてみたいぞ」

「そ、それは少々はしたなくありませんか?」

 

セシリア、シャルロット、ラウラの3人が敷かれた布団の上で寝転びつつ、瞼が重くなるまで談笑を楽しんでいる。

そんな中、会話に参加せず、何やら自分のカバンをガサゴソしている箒。

 

(......あった。これで私は今夜―――)

 

とある小さな箱を握り締めた箒は、小さく息を吐くと、意を決して立ち上がった。

 

「箒さん......? もう消灯時間ですわよ?」

 

布団をスルーし、扉の入口に向かう箒に後ろからセシリアが声を掛けるが

 

「す、少し出てくる」

「いやいや、消灯時間だって!」

 

シャルロットも止めに入るが、それより気になるのは箒の挙動である。

妙に落ち着かないというか、ウキウキしているというか。

 

「箒よ、何かソワソワしていないか?」

「......気のせいダス」

 

気のせいじゃなかった。

 

「貴女まさか......恭一さんの所へ行く気では?」

「そ、そんな訳無いダス!」

 

そんな訳があった。

 

「ほう、夜這いに行くのか」

 

本来なら自分も教官の元へ行きたいのだが、固く禁じられているので、箒の行動は素直に羨ましい。

 

「よ、よばっ......あら?」

 

箒さんの手にある、あの白い箱は何でしょう?

あれは無視してはならない。私の第六感がそう告げていますわ。

 

「......箒さん、肩に糸くずが付いてますわよ」

「むっ、何処だ?」

 

―――隙有りッ!!

 

「っ......し、しまっ!?」

 

瞬時加速(イメージ)して、箒の手から箱をゲット!

普段の彼女なら、こんな簡単には奪われたりはしないだろう。

いつもより反応が遅い箒、やはり何かを隠しているのは間違い無い。

 

「えーっと.......」

 

セシリアは箱に貼られているシールの文字を読んでいく。

 

「幸福の0.01ミリ......ゴムじゃないコンドー......ッッ!? ッッッ!! ッッ?!?!?!」

「ちょっ......そ、それって」

 

口をパクパクさせるセシリアと一気に顔を赤らめるシャルロット。

 

「ほほほほうほう箒さん!? どっどどどどどういう事ですの!?」

「さ、流石にそういうのは、まだ早いんじゃないかな!? 僕達まだ学生だし!」

「ふむ。確かに避妊は大事だな」

 

ラウラだけは感心していた。

 

(し、しまった。浮かれすぎてた.......流石の私も堂々と宣言するのは―――)

 

だが、此処で変に照れる必要があろうか、いや無い!

無い筈だ、うん!

別にやましい気持ちで臨む訳じゃ無いし?

男女の自然の営みだし?

そもそも、恭一が私を抱きたいって言ったんだし?(そんな事は言っていない)

 

 

「彼女である私が彼氏である恭一に、今宵を共に過ごそうと誘われた。お前達に邪魔をする権利があるのか.......?」

 

 

覚悟を決めた箒の風貌は圧巻たる漢女の如き。噛み砕いて言えば、とってもカッコ良かった。

 

「......悔しいですけれど、今の私には......ございませんわね」

 

夜這いでは無く、両人共が合意の上であるならば、恋人では無い私がしゃしゃり出て良い道理はございません。

 

「.......この2人のノリって」

「う、うむ......アレと同じだな」

 

昨夜、学園の食堂で行われた『新幹線の座席クジ引き』で見せた、独特の本気テンションである。

キャッキャ、ウフフな感じで入れる領域では無い事を感じたシャルロットとラウラは、2人から一歩下がった。というか布団に逃げた。

 

「......貴女はいつも私の先を行くのですね」

 

儚げな微笑みを浮かべて、箒を気丈に見送りだすセシリア。

 

(ふ、布団に避難して正解だったね!)

(うむ! 私達では付いて行けんノリだからな!)

 

扉を開いた箒は、ゆっくりと前に向かって歩みを進める。

 

「私はお前を待っている」

「えっ......?」

 

「セシリアが高みに来る事を.......!」

「っ......箒さん.......!」

 

(ど、どういう意味だと思う?)

(......深く考えるな、それが真理だ)

 

乙女モードに突入している箒とセシリアの会話は、真面目に考察してはいけない。その事を知る2人は瞼を閉じ、考えるのをやめた。

 

 

________________

 

 

 

静寂なる旅館の中を歩く箒だが、その鼓動はとても大きく鳴り響いている。

 

(き、緊張する.......もう恭一の部屋の前に着いてしまった)

 

い、入れ込むな、入れ込むなよ私。深呼吸だ。心を落ち着かせるんだ篠ノ之箒ッ!!

 

「......いざ、参るッ!!」

 

滅茶苦茶入れ込んでいる箒。

果敢に、それでいて静かに扉を叩く。

 

「おっ、来てくれたか」

「う、うむ! 本日はお日柄も良く―――」

「何言ってだお前」

 

そんな彼女を笑顔で招き入れる恭一。

テンパりながらも、導かれるように中へと入って行った。

 

.

.

.

 

「今夜も冷えるし、温かいモンでも飲むか?」

「う、うむ! 本日はお日柄も良く―――」

「答えになってねぇ......」

 

取り敢えずホットミルクティーを淹れる恭一。

甘いモンでも飲んだら落ち着くだろ。

 

(は、はわわ......どうして恭一はこうも落ち着いてられるのだ!?)

 

「2人でこうしてるとよ、思い出さねぇか?」

「思い出す?」

 

会話が出来る程度にはなった箒。

 

「臨海学校の夜も、お前さんとこうして外の月を眺めたモンだ。あん時はまだ付き合ってなかったけどな」

「......懐かしいな。私にとって、掛け替えの無い大切な思い出の夜だ」

 

姉さんとの確執が消え、私が胸を張って笑えるようになった日。私が恭一と呼ぶようになった、恭一が私を箒と呼ぶようになった夜だ。

 

「夕方ン事は悪かったよ、お前にその......しなくてよ」

「.......む?」

 

いきなり何の話だ?

夕方......夕方.......あぁ!

 

「い、いや私も怒って悪かった。冷静に考えたら、外であんな事を求めるのは間違いだったな、うん」

 

どうにも自分は千冬さんに嫉妬してしまう処があるらしい。

頭では分かっているのに、心の奥では私の事をもっと......千冬さんよりも見てほしくなってしまう時がある。

今日のアレが良い例だ。

千冬さんとキスしたんだから、私にもしてほしい......他人の前で、無理に求めてしまった。

 

「箒」

「うん.......」

 

責められると思っているのか、自己嫌悪に陥っているのか。どっちにしろ、しょんぼりしてしまっている。

 

「俺はよ、他人が居る所じゃ.......どうしても恥ずかしくてな」

「.......うん」

 

でも、今は違う。

 

「不安にさせちまって悪ィ」

「あっ」

 

恭一は隣りに座る箒を優しく引き寄せ

 

 

『ガーッと言葉で伝えて!』

 

 

「お前が好きだ。この想いは何処だろうが、絶対に変わらねぇ」

「.......うん。私も恭一が好き」

 

 

『ガバーッと抱きしめて!』

 

 

「きょういちぃ......」

 

どっちかというと、俺の方が抱きしめられている様な気がしなくも無いんだが、多分まぁ許容範囲だろ、うん。

 

 

『最後はドーンッ!!』

 

 

(ドーンって何なんだ......結局これが分かんねぇと駄目なんじゃ......)

 

「きょういちぃ......♥ きょういちぃッ!!」

「ほ、箒さん!? ちょっ、のわぁっ......!?」

 

バランスを崩した恭一は、そのまま箒に押される形で、ドーンと布団の上に彼女と倒れ込んだ。

 

(あっ、これかぁ!...........え゛っ?)

 

困惑する恭一。

そんな彼の心情を余所に、頬を赤らめた箒がのしかかったまま、潤んだ瞳で見つめている。

 

「......恭一、好き」

「ああ、俺もだ」

 

どっちからともなく、唇を合わせる。本当に優しい、触れるだけのキス。

 

「私は.......お前が欲しい」

「っ.......それって」

 

流石にこの状況で分からない程、野暮な男では無い。

それに薄らだが、こうなるような予感はしていた。

 

「私はお前を抱きたいッ!」

「ああ、俺も.......んん?」

 

何か今、言葉のニュアンスおかしくなかった?

 

「怖がる事は無いからな? 優しく抱いてやる」

「え、えぇ......それ俺が言う台詞じゃ」

 

「大丈夫だから! 天井のシミ数えてる間に終わるから!」

「だからそれ、男が言うセリむーーーっ!?」

 

強引に上から被せるように、唇を奪う箒。

今宵の篠ノ之箒は、やはりひと味もふた味も違った。

 





またしぶちーが喰われるのか。

この続きはR-18の方で掲載予定です(#゚Д゚)y-~~

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