臨海学校で書かれなかったサービスシーン
というお話
「ふぃ~、中々有意義な時間だったな」
雪子と玄と別れた恭一は、探検を一旦やめて一夏の部屋に顔を出した。
部屋に居るのは一夏だけで、千冬の姿は無い。おそらく今頃、真耶と大浴場を堪能しているのだろう。
「千冬姉ぇが帰ってくるまで、先に俺達だけで何かするかー?」
部屋の備品であるお遊戯品の箱を、一夏が抱えて持ってくる。中にはトランプやNNO、将棋盤にオセロ盤などがぎっしりだ。他にも花札や人生ゲームまで入っている。
「おぉ......選り取りみどりってヤツだな」
これだけあれば、二人でもかなり楽しめそうだが、多くて何から手を付けるか迷っちまうわ。
箱の中身を吟味していると、隣りに居た一夏は何かを思い付いたようで、ポンと手を叩き、テキパキと布団を敷きだした。その動き、まさにホームヘルパーの如き俊敏さである。
「よし、こんなモンかな。恭一!」
「......なんだ?」
既にスタンバイOKな一夏は、ポンポンと導くように布団を叩き
「気持ち良い事してやるよ!」
「その言葉がもう気持ち悪い」
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「む......鈴ではないか」
風呂から上がった箒達は千冬の部屋に行く途中、コーラを持った鈴と遭遇。
「鈴さんがコーラを買っているなんて、珍しいですわね」
「私が飲むんじゃなくて、恭一の分よコレ」
それは今朝、一行が旅館に着いた時の事。鴨川に一夏と行きたいが、中々上手く誘えなかった鈴の援護射撃をこなした恭一。
その時のお礼に、コーラを奢ってやる約束をしていたのだ。
勿論、それを恭一にあげた帰りに、ちゃっかり一夏の部屋に寄ろうと企んでいたりするのはお約束である。
「恭一殿は一人部屋だと聞いたが、おそらく教官の部屋よりも奥であろう」
千冬の部屋へ遊びに行く前に、まずは恭一の元へコーラの配達を。
その時に恭一も誘えば良い、と箒達も付いて行く事にした。
(恭一の部屋の場所を確認しておかないとな)
目的の場所まであと僅か。千冬の部屋の前を横切る少女達。
『オォン! アォン!........オォォォン!』
「「「「................」」」」
突如響き渡る野太い喘声に足が止まった。聞こえてきたのは千冬と一夏の泊まる部屋のドアの向こうからである。
(い、今のって......一夏の声じゃない?)
おそるおそるドアに耳を張り付ける鈴。
『ちったァ声抑えろよ! 周りに聞こえるだろが!』
「「 !? 」」
(い、今のは恭一の声じゃないのか!?)
(確かに恭一さんの声でしたわ!)
瞬時に箒とセシリアも鈴に倣って、耳をドアに貼り付ける。
(えっと......僕達はどうしよっか?)
(.......パパにナニかしてたら、織斑一夏........コロス)
少女5人がドアにへばり付く、シュールな構図の出来上がり。息を潜めて中を伺う乙女達。
『く、悔しいっ......でも、声がぁぁぁで、出ちまうううううッ!』
『ビクンビクンすんなって! やりにくいだろ!』
(ちょ、ちょっと......ナニやってんのよマジでぇ!!)
(い、一体ナニをしているのだ.......ごくり)
『こっちは初めてか?.......力抜けよ』
(きょ、恭一さんの低音ボイス......セクシー......え、エロいですわ)
ナニを想像しているのか、頬を赤らめるセシリア。そんな彼女の頬をツンツンするシャルロット。
(セシリアはエロいなぁ)
(え、エロくありません! こ、これは、その.......淑女として当然ですわ!)
(意味が分からんぞ、セシリア)
『はぁはぁ......っ......はぁぁぁ.......んヒィっ!?』
『痛いか?』
『そ、そこは初めてだから......オぉんっ、も、もっと優しくぅぅぅぅっ......!』
(((( 初めてってナニ!? そこってナニ!? ))))
『俺もだが、お前もだいぶ溜まってるみてェだから.......なッ!!』
『はぉぉぉんっ!』
(箒ィ!! あんたアイツの女でしょうが! 何で溜めさせてんのよッ!!)
激昂した鈴、結構凄い事を口走る。
(んなぁ!? わ、私のせいだと言うのか!?)
(鈴さんの仰る通りですわ! これを機に恭一さんが味をしめてしまったら、どうしますの!?)
(あ、味ってセシリア......生々しいってば)
もう完全にアレを想像してしまっている面々。
(ううむ......私もほとんど毎晩泊まりに行っているからな。もしかしたら、そのせいでパパもする時間が無いのかもしれん)
(す、する時間ってお前.......)
冷静に考察し始めるラウラの言葉に、箒の顔まで赤くなる。否、皆の顔が赤面に満ちる。
(ん? 知らないのか、オナ―――)
(わー! わーっ! それ以上言っちゃダメだよ!)
(お、女の子が口にして良い言葉ではありませんわ!)
「もがっ!?」
シャルロットとセシリアに口を押さえられてしまう。
「......何してるの、皆?」
怪訝な表情で立っている簪。それはそうだ、女子5人がドアにへばり付いて言い争っていれば、誰だってそんな顔になる。
「其処、織斑先生の部屋だよね? 用事あるからどいて欲しいんだけど」
「いやそれは......な、なぁ?」
「え、ええ。また後にした方が宜しいかと」
中の状況を説明する訳にもいかず、言葉を濁す箒とセシリアだったが
『ん゛ほぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛んッ!!』
「「「「................」」」」
時が止まった。
.
.
.
「......汚いあえぎ声だなぁ」
皆が静止している中、ツカツカと扉の前まで歩み寄る。その振る舞い、まさに剛者の如し。ドアノブに手を掛け、躊躇無く禁断の扉を開いた。
(((( 神様、仏様、簪様 ))))
簪が見せた快動に対する最大級の賛辞である。
バンッと開かれた扉の向こう、其処に映し出されたのは
「ほわ~......筋肉も解れたし、今夜は熟睡できそうだ!」
「そいつは僥倖。アホみてぇな声以外はな」
「へへっ、悪い悪い」
マッサージを終えた恭一と一夏の姿だった。
「ん?」
「お?」
2人も入口に立つ箒達に気付いたようで
「......お前ら顔真っ赤じゃねぇか」
それ処か、何やらプルプルしてる。
これ、何か怒ってるぽくないか?
「大浴場ではしゃいで上せたんだろ。まだまだ鈴達もお子様だな、HAHAHA!」
アメリカンな笑いを木霊させる一夏の隣りで、何かを察知した恭一は、すぐさま後ろへ飛び下がった。
「HAHAHAHA!.......ん?」
「「「「...........」」」」
無なる表情で一夏に迫る勘違い5人衆。当然、そこに簪は含まれていない。
「な、何だよ? どうしたんぎゃあああああああああッ!!」
(やっぱり織斑に施術してやんの、ヤメた方が良いかな)
八つ当たりという名の折檻を喰らっている友の光景を眺めながら、恐くそういう事なんだろう、と朧げだが彼女達の心理を察した恭一だった。
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「まぁいいや。折角皆来たんだし、お茶でも用意するぜ」
「そ、それじゃあアタシも手伝ってあげるわ! ほら、恭一の分はこれね」
一夏に続く形で鈴も立ち上がり、恭一にコーラを渡してから準備に取り掛かった。
「おお! 鈴はホントに良い奴だな!」
「ふふん、約束は守るわよ♪」
一夏と鈴がお茶を用意している間に、恭一はお遊戯の箱をテーブルに置く。
「織斑とも何かで遊ぶかって話してたんだよ」
この人数で遊ぶなら人生ゲームあたりが妥当か。
「......織斑先生は?」
「そういえば、簪さんは織斑先生に用事があると仰ってましたわね」
「うん。兄者も居るなら都合が良い」
俺と千冬さんに話って事は、生徒会絡みかな?
「気になってたんだけどさ、簪はどうして恭一の事を兄者って呼ぶの?」
シャルロットの指摘に皆が頷きを見せる。確かに同い年に対する呼称では無いだろう。
「.......兄者」
どうしよう、と目線を送ってくるが、別に恭一としても隠す事では無い。
その意図を解した簪も
「.......桃園の誓い」
そう告げた。
意味が分からずポカンとしている少女達。
「っぽいヤツな」
恭一が付け加えるも、まるで伝わった様子は無かった。
「パパはマッサージが得意なのかー?」
「ん?」
旅行が始まってナチュラルにパパ呼びなラウラ。
注意しようかとも思ったが、まぁ気の知れるこの面子なら良いだろう。
「恭一のマッサージはスッゲーんだぜ! いやホントに!」
「アンタが言うとやたら説得力あるわ......」
お茶の用意が終わった一夏と鈴も戻ってくる。
「私も一度受けましたが、それはそれは極楽なるモノでしたわ」
この中ではセシリアも恭一の施術を軽めだが、一度体験している。
以前、テニス部に恭一がレンタルされた夜の事だ。
「......お前も変な声、出してないだろうな?」
箒の視線が険しくなる。
セシリア程の積極果敢な女が誘惑しなかったとは考えられない。ましてや一夏ですらあの声の出し様だったのだ、きっと妖艶なる声をあげたに違いない!
「そ、そんなハレンチな声を上げる訳無いでしょう!?」
「しかし男の織斑一夏であの、んほり様だったのだぞ」
「ん、んほり様って何だよ!」
ラウラの言葉に突っ込む一夏だったが、その抗議は誰にも認められず。
「ね、恭一さん! 私、そんなハレンチな真似はしてませんわよね!?」
「結構前の事だし、そんなホイホイ覚えてねぇよ」
あの夜は確か―――。
『....あはぁ~ん.....う、うふぅ~ん』
「..........」
「な、何ですか恭一さん? どうしてそのような目で私を?」
確かその後に続いた言葉は―――。
『き、気持ちいいですわ~.....あっはぁ~ん』
「.......セシリア」
「な、なんでしょう?」
「お前ってアホだよな」
「どういう意味ですかッ!!」
彼女の名誉を考え、内容は明かさない恭一だった。
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まったりお茶を飲みながら会話を楽しんでいると、部屋の入口から何やら音が聞こえてきた。
皆の視線が向く中、扉を開けて入ってきたのは千冬と真耶の2人。
入ってきたというのは間違いか。この部屋は一夏と千冬が泊まる部屋なのだから、帰ってきたと表すのがこの場合は正しい。
真耶はきっと千冬に誘われて来ているのだろう。
千冬も真耶と温泉に行っていたのか、その髪はしっとりと濡れている。
特に、真耶の前を歩く艶がかった黒髪を靡かせた千冬の姿は、恋人の恭一や嫁宣言しているラウラは勿論、同性の箒達ですら何とも表現し難い、アダルトな魅力を感じざるを得なかった。
そんなアダルティーさをプンプン漂わせる2人の浴衣姿に、健全な少年少女達が見惚れる中
「フゥー、アッツーゥ!!」
「ビール!ビール!」
「おい、冷えてるかー?」
「大丈夫ですよ、バッチェ冷えてますよ。フゥッー!!」
全てが台無しだった。
楽しそう(小並感)