野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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今度こそポロリもあるよ、というお話



第拾壱話 勘違いと裸の付き合い

「「...........」」

 

ごしごし

 

セシリアとシャルロットは何度も目を擦ってみるが、目の前の光景は変わらない。

ちなみに現在、少年少女達の舞台は既に『天城屋旅館』に移っている。

 

時刻は夜の7時14分22秒。

 

大宴会場にて、皆が豪勢な夕食を前に舌鼓を打っている処なのだが。

 

「.......ツーンってしてましたわよね?」

「うん.......プイッてしてたよ」

 

バス内での箒のツンツンっぷりを目の当たりにした2人、あれは幻覚だったのではないか、と疑ってしまう。

 

「はい、きょーいち♥ あ~~~~ん♥」

「い、いや......1人で食えるからよ」

「もうっ、私が食べさせたいんだから遠慮するな♪」

「遠慮とかそういう―――むごっ!? ふむーーーっ?!」

 

少し前まで「ぷいっ」とか言ってた箒が、今では恭一の隣りで甲斐甲斐しくアーンを敢行しているのだから。

 

(デレデレじゃないですか)

(デレデレだね。むしろ今までよりもパワーアップしてる気がするよ)

 

断ろうとする恭一の口に、強引にオカズを突っ込む強引さまで兼ね備えた箒。

一体、彼女と恭一の間に何があったのだろうか。

 

 

________________

 

 

 

それはIS学園一年生御一行が、旅館に戻ってきた処まで遡る。

バスから勢い良く飛び出した恭一は、自分が泊まる部屋に直行し、直ぐ様俗世に置ける絶対神クラリッサ大先生に回線を繋げた。

 

『そう.......私です。クラリッサ・ハルフォーフです.......どうかされましたか?』

 

「何だその第一声? まぁいいや、今時間良いか?」

 

『少々、お待ち下さい』

 

―――ストライクなる魔女の視聴一旦止めッ!!

 

「「「「 ヤヴォールッ!! 」」」」

 

『お待たせしました』

 

「あ、ああ.......実はな、彼女と少し揉めちまってよ」

 

『.......ふんふむ。古今東西から蓄えた古代種の知識の結晶の出番.......という訳ですね?』

 

「おっ、そうだな」

(何言ってだコイツ)

 

『まずは現在の状況をお願いします』

 

「分かった。実はな―――」

 

.

.

.

 

『成程、概ね把握しました』

 

「俺ァどうすりゃ良いと思う? 何とか機嫌治って貰いてェんだが.......」

 

『そんなの簡単ですよ』

 

「ほ、本当か!?」

 

さ、流石はクラリッサだぜ。ラウラが心を置くだけの事はある!

 

『ガーッといってガバーッとやってドーンッ!! です』

 

「........は?」

 

 

________________

 

 

 

一通り、クラリッサからの助言を得た恭一は部屋を出ると、箒に会いに彼女が泊まっている部屋へ歩き出した。

 

「アイツ、何処泊まってんだ」

 

まずは部屋割り表が貼ってあるロビーへ、足を進める恭一。

するとロビーへ行く途中、憩いの場に恭一の探し人の姿が。

 

「.......箒」

「きょうい―――はっ........ぷいっ」

 

恭一の顔を見て、一瞬笑顔になるものの、思い出したのか直ぐに顔を背ける箒だった。

しかし、此処でたじろいではいけない。

 

(思い出せ、クラリッサの言葉を)

 

良いですか、恭一お父様。

奥ゆかしい物言いや、遠回しな言い方は謙虚であり、日本では美徳とされている様ですが、それは万物に限った事では無いのです。

言わなくても分かってくれる、なんてモノは自分よがりの愚想です。

 

『言の葉に乗せなければ、態度で示さなければ、想いは相手に届かないのです』

 

―――恋愛とは、甘く淡く尊く不安が付き纏うモノ也ッ!

 

しかし、恭一お父様が周囲を気にするのも当然です。

ならば2人きりの空間を作ってしまえば良いじゃないですか。

 

『現在、旅館に泊まっているのでしょう? それはそれは、とても好都合です』

 

「何でだ?」

 

『恭一お父様が泊まる部屋に招き入れれば、2人きり! それが夜中であれば、誰にも邪魔される事無く、想いの丈を思う存分、放つ事が出来るのですッ!!』

 

「おぉ! それは盲点だった!........いや、待てよ? 確かこの旅行中も就寝時間を超えれば、部屋から出たらいけない規則があった筈だぜ?」

 

『規則とは破ってこその規則也! かの高名な戦士シュトルテハイム・ラインバッハ3世のお言葉です』

 

「いや、誰だよそれ」

 

良いですか、恭一お父様。

決戦は飽く迄月照らす今宵です。それまでの口上など一切が不要なのです!

機会は2人きりの刻!

ガーッと言葉で伝えてガバーッと態度で示して最後はドーンッ!!ですからね!

 

『分かりましたか!? 分かりましたね!?』

 

「わ、分かったぜ! 取り敢えず、俺は就寝時間になったら、箒に部屋に来て貰えれば良いって事だな!」

 

『Exctlyッ!!』

 

「お、おう! ちゃんと意味は分かってんぜ!」

 

最後のワードだけ知ったかぶる恭一だった。

それと『ドーン』だけはイマイチ分かってなかったりするが、クラリッサ曰く、その時が訪れれば自然と分かる、との事らしい。

 

.

.

.

 

「.......箒」

「ふんだっ.......」

 

依然として顔をあらぬ方角へ背ける彼女の真正面に立った恭一は、両肩を掴んで無理矢理自分を視界に入れさせる。

 

「なっ―――」

 

箒が抗議するよりも前に

 

「俺が泊まってンのは『黄龍の間』っつー部屋だ」

「.......えっ?」

 

今回の修学旅行も、臨海学校と同じく恭一と一夏の部屋割りは他生徒には秘密とされている。

知っているのは本人と千冬と真耶のみだった。

そして、当然恭一達も千冬から口止めされているのだが、それを打ち明かしたという事は

 

「今夜、来ないか?」

「っ.......そ、それって」

 

(どっ、どどどどういう意味で言っているのだ!? も、もしや―――)

 

「最近ずっと闘い続きで一緒に居れなかったし、初めての旅行だしな。今夜はお前と過ごしてェ」

 

(は、初めて......今夜........こ、このワードが示すモノって.......は、はわわ)

 

「喧嘩してるよりもよ、思い出に残るような刻を過ごす方が―――」

 

(思い出ッ.......これはもう、確定じゃないか!?)

 

いや、落ち着け。落ち着くんだ私。最終確認だ、確認は必要なんだ。

 

「私が行くのはその......就寝時間後.......か?」

「おう! 誰にも邪魔されたくねぇかんな!」

 

(決まりだぁあああぁああああああッ!! 買ってて良かったサガミオリジナルッッ!!)

 

「......来てくれるか?」

「っ.......あ、ああ! 少し恥ずかしいが......遅かれ早かれ、迎える事だものな!」

「.......?」

 

(変なパジャマでも持って来てンのかな)

 

「そ、そうだ! そろそろ夕食だし一緒に行かないか!?」

「ああ、それは大賛成だがよ」

 

(あれ......何かもう、機嫌治ってないか?)

 

部屋に呼ぶ必要、もしかして無くなった?

 

「ほらっ、行くぞ恭一っ♪」

「わ、分かったからそう腕を引っ張るなっての!」

 

(まぁ夜は夜で良いか。久々にゆっくり話したかったし)

(ふ、風呂では念入りに身体を洗おう.......女としての嗜みだしな、うん!)

 

そして冒頭の光景に戻る。

 

 

________________

 

 

 

「あー、食った食った」

 

ご機嫌な箒からの攻撃(口撃)を何とか捌いた恭一は部屋へ戻り、熱い茶で一杯やっていると、外から扉へのノックが。

 

「んぁ? 開いてんぞー」

 

入ってきたのはテンション高めの一夏だった。

 

「老舗旅館って云えば、温泉だぜ温泉!」

 

彼の手には銭湯一式用具。どうやら千冬に言われて誘いに来たらしいが、一夏程では無いにしろ、恭一も広い風呂は嫌いでは無い。

窓際の座椅子からのっそり立ち上がり、早速準備に取り掛かる。

鼻歌混じりで用意している処を見ると、恭一も一夏に負けず劣らずなテンションらしい。

 

「あれっ......あれあれっ.......な、無い! 無いぞ!?」

「どうした、恭一?」

 

部屋中見渡しても、カバンの中をひっくり返してもアレが無い。

 

「.......アヒル隊長持ってくンの忘れた」

 

恭一、此処に来てお風呂の友を忘れる痛恨のミス。

 

「もうダメだぁおしまいだぁ......ふぉぉぉぉ」

 

あからさまにがっくり肩を落とす恭一。少年にとってアヒル隊長は旅の必需品であり、友なのだ。少なくとも此処に居ない事実に涙する程度には。

 

「フッ.......顔を上げるんだ恭一!」

「なんだよぉ......ッ!? そ、それは―――」

 

一夏の掌の上には輝く黄金のアヒル隊長の姿が、しかも2体も。

 

「こんな事もあろうかと、余分に持って来ておいて良かったぜ!」

「おぉ.......おおっ!!」

 

気が利くってレベルでは無い。その気遣いはまさに、おふくろ級。

尚、その心意気が発揮される対象は、今の処恭一メインな模様。

 

「ありがとうよ、織斑。俺が世界征服したら皇帝にしてやるからな」

「やったぜ」

 

下がっていたテンションを上げて貰えた恭一も嬉しそうに部屋を出て、一夏と共にいざ往かん、風呂場へ。

 

.

.

.

 

浴衣を脱ぎ終えた恭一と一夏は、真っ裸になるや豪快に扉を開き

 

「すっげぇなぁ! こんな広い風呂が俺達だけで貸切だぜ!?」

「臨海学校じゃ露天だったが、こんだけ広けりゃ内湯でも壮観だな」

 

ガラス越しから見える景観も、情緒があって素晴らしい。

何はともあれ、まずは身体を洗おうじゃないか。

あつ~い湯を全身で満喫するのはその後だ。

 

「なぁ恭一」

「あンだよ、背中の洗いっこか?」

 

臨海学校を思い出し、茶化すように恭一から言ってみる。

 

「そりゃあ、いいな! そうしようぜ!」

「お、おう......喰い付きハンパねぇなお前な」

 

泡ブクブクなタオルでワッシャワッシャと一夏の背中をゴシり始める恭一。

 

(ほう.......鍛錬の成果が出始めてきているな)

 

筋肉の張りっぷりが入学当時から比べて、明らかに変わってきている。

一夏が本格的な鍛錬を始めて4ヶ月と云った処だが、毎日怠っていない証拠だ。

 

「オイ、織斑」

「んあー?」

「旅行から帰ったら、タイヤ1つ増やせ」

 

この状態なら怪我の心配も無いだろう。

 

「ほ、ほんとか!?」

「ああ。この筋肉の付き加減なら2つが丁度良い。この数ヶ月の鍛錬はしっかりお前さんの血肉になってンぜ?」

 

自分では中々実感出来ないモノだろうがな、分かる奴には分かるってな。

着実に成果が出ている事を告げられた一夏も嬉しそうだ。

 

「.......うし! んじゃ交代だ」

 

一夏の背中に湯を流し、今度は恭一が背中を向けようと

 

「あっ、おい待てぃ」

「あ?」

 

「まだ肝心な所洗い忘れてるゾへぶぅっ!?」

 

結構マジのビンタだった。

 

「な、なにすんだよ!?」

「誰がテメェのポークビッツなんざ触るかボケぇ!!」

「ひ、ひでぇ!? 軽い冗談じゃないか!」

「テメェが言うとシャレに聞こえねぇんだよ死ねっ!」 

「なぜっ!?」

 

2往復半平手ブった処で、気を取り直して交代。

 

「いやでもさぁ......ポークビッツは酷くないか?」

「引き摺るトコはソコなのか.......」

 

背中を流し終え、湯船に浸かる2人。

少年達の前ではアヒル隊長もプカプカとご満悦の様子だ。

 

「そういや、この旅館って他にも露天風呂があるらしいぜ?」

「そうなんか? んで、何でそんな顔なんだよ」

 

ゆっくり風呂に浸かれる機会なんて、早々無い。

露天があるなら、そっちも入らねぇと損ってなモンだろう。

 

「そこな......混浴なんだってさ」

「あっ、そっかぁ」

 

其処は普段、水着着用の混浴露天風呂らしい。

 

「俺ァともかくお前さんが行っちまったら、女共に喰われちまうな」

「ううっ......千冬姉ぇにも同じ事言われて、禁止だってさ」

 

こればかりは仕方無い。いや就寝時間後に人目を盗めば行けない事も無いか?

 

(......明日も泊まるし、そん時にでもコイツ誘ってやっか)

 

今夜は箒との件があるので、その提案は避ける。

 

「風呂上がったらどうするー? 遊技場にでも行ってみるか?」

「遊技場か......その前に俺は旅館内の探検だな!」

「恭一って探検とか探索とか好きだよなぁ」

 

知らない場所をウロウロするのって、妙にワクワクしないか?

 

「それが終わったら俺の部屋に来てくれよ! 千冬姉ぇと一緒にボードゲームでもしようぜ!」

「おっ、そうだな」

 

身体も十分ポカポカ温まったし、そろそろ出るか。

たまには風呂上りの定番らしいコーヒー牛乳を買ってみよう。

 

「なぁ恭一......」

「あー?」

「俺のってポークビッツじゃないよな? なっ?」

「まだ引き摺ってたのかよ!?」

 

男には相手が誰であろうと、絶対に譲れない時がある。

今がその時なのかどうかは一夏にしか分からない。

 





一回書いたんだけどね、妙に描写が生々しすぎたんで書き直しました。

女風呂の様子は書いても需要無いでしょ(-。-)y-゜゜゜

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