野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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しぶちーがロックオンされるお話。



第玖話 ターゲット、ロックオン

別に喧嘩をしにきた訳では無い、と最初に断り、アリーシャは話を続ける。

 

「さっきは聞きそびれたけれど、君は千冬の何なのサ?」

 

おみくじに視線を落としている恭一を見やる眼光は、艶美たる姿からは想像も付かない程、鋭く切れていた。

その視線、その関心、その言葉を向けられた恭一も顔を上げ

 

「さっきは聞きそびれたけれど、アンタは一体誰なのサ?」

 

ヘラヘラとした表情を浮かべながら、真似してみる。

 

「質問を質問で返すとはマナーがなってないネ。疑問文には疑問文で答えろと学校で習っているのサ?」

「随分と調べたようだが、ツメが甘いみたいネ。学校に通ってまだ8ヶ月足らずな俺にそんな高等技術持ち合わせている訳が無いのサ」

 

 

「「............」」

 

 

(( コイツ嫌い ))

 

 

アリーシャが恭一を嫌う理由は置いておくとして、恭一が彼女を嫌うのは何故か?

 

(なんだろうな.......なんか分からんが、この女とは合わねぇ)

 

見た目か、声か、それとも自分に対する態度か。どれもしっくりくるようで、こない。理由は本人の理解が及ぶ処には無いが、妙に気に食わないらしい。所謂、ソリが合わないと云うヤツなのかもしれない。

 

「まぁいいサね。私の名はアリーシャ.......アリーシャ・ジョセスターフ。これでもイタリアの代表なのサ」

 

イタリアの代表IS操縦者、という肩書きだけでは無い。

彼女は自身を有名人だと宣ったが、それは紛れもない事実なのだ。

何故なら、アリーシャ・ジョセスターフは第二回『モンド・グロッソ』の優勝者であり、千冬が『羅刹姫』なら彼女は『風神姫』としてその名を世界中に轟かしているのだから。

 

(アリーシャ・ジョセスターフ.......確か千冬さんが言ってた)

 

織斑千冬をもってして、屈指の実力者と言わしめた強者である。

そしてそれは、対峙している恭一にも既に感覚で伝わってきているのだが

 

「知らねぇよ、誰だテメェ」

 

素直にそれを認めるのが癪な少年だった。そして、先程から歯に衣着せぬ恭一の物言いに、若干神経を逆撫でされていたアリーシャも大人しく泣き寝入るつもりなど無く

 

「おやおや.......千冬が随分とまぁ評価するモンだから期待していたけれども、相手の力量も測れない凡愚とはネ」

「小者をいちいち気にしてどうすンだよ」

 

 

「「...........」」

 

 

(( コイツやっぱり嫌い ))

 

 

2人共飽く迄、表情には出していないが既に臨戦態勢は出来上がっている。

何かあれば即座に動けるよう、会話をしつつも互いに氣を伺い、機を伺っている状態に入っていた。

 

「やけに千冬さんを気にしてるみたいじゃねぇか?」

 

研鑽を競い合った仲というだけでは、言葉の重みが其れとは異なる。

ライバルか、はたまた親交の長い友なのか?

その枠組みとも一線を画しているように、彼女の雰囲気から恭一は感じられた。

 

「ふふっ.......当然サ。なんてったって彼女は私の―――」

 

其処まで言ったアリーシャの言葉を遮ったのは

 

「恭一っ.......大丈夫か!?」

 

清水の舞台から飛び降りた恭一を心配して、いの一番に駆け付けてきた箒だった。

 

 

________________

 

 

 

「.......恭一?」

「ああ、俺はこの通り何とも無いさ。心配してくれてありがとよ」

 

(ふんふむ.......渋川恭一のガールフレンドって処サね。それよりも―――)

 

この状況で目は一切私から切らない、か。

 

「.......この人は?」

 

そう聞く箒の声は微少ながら、気疎さが混じっていた。

それもその筈、何も知らない彼女からすれば、今のこの状況は恭一と隻眼女性が見つめ合っているようにしか見えなかったりするのだから。

 

「少女の問いに応えてやらないのサ?」

「俺が教えるよりも、アンタが言った方が良いんじゃねぇか?」

 

恭一の言葉に対し、アリーシャは「それもそうだ」と微笑んでみせた結果、僅かに上がった口角の隙間から、彼女の咥えているキセルが地面へと落ちた。異常な音を立てて。

 

「なっ......何の音だ?」

 

箒は思わず、地面に転がったキセルを目で追いかける。

 

「ふふふ.......そのキセルは全部、特殊合金で仕上がっていてネ。見た目よりかなり重いのサ」

 

箒が自分の安否を気遣って駆け付けて来ても、キセルが落ちても、それが異常な音で地面を鳴らしても、恭一の目は其れらを追わず、アリーシャだけを見ていた。

 

「私は眼と腕にハンデを抱えているからネ。使える部分は全部鍛えているのサ」

 

アリーシャは恭一が自分から少しでも目線を切れば

 

「私は武も嗜んでいてネ。顎筋力の重要さは分かっているつもりサね」

 

攻撃を仕掛けるつもりでいたのだが。

 

(.......成程)

 

キセルを拾い上げたアリーシャと恭一は再び視線を交差し

 

「試合制の弊害は取り除けているみたいサね?」

「.......アンタもな」

 

2人は軽く笑い合った。

 

(ううっ.......私だけ蚊帳の外に居る気分だ)

 

2人の関係性をまだ把握出来ていない箒が、少し寂しそうにしていたのは内緒である。

 

.

.

.

 

「そんな有名な御方がどうして恭一と.......?」

 

箒も加えて改めて自己紹介を終えた恭一達だったが、早速箒が疑問を述べる。

 

「ああ、それは俺もまだ聞いてなかったな。どうしてアンタは俺に構う? それも千冬さんが関係してンのか?」

 

そういえば、話の途中だった。一体、彼女は千冬と如何なる関係なのか。

 

「ふふん。それはネ.......んん?」

 

またもや途切れるアリーシャの言の葉。そんな彼女の視線の先には

 

「何故貴様が此処に居る.......アーリィ」

 

眉間に皺を寄せ、軽く片手で頭を抑えた千冬の姿があった。

 

「わぉ! 千冬じゃないのサ!」

「ええい、鬱陶しい!」

「むぅ......相変わらずつれないネぇ千冬ってば。久しぶりに会ったっていうのにサ」

 

嬉々として千冬に飛び込んでいくが、ササッと避けられ頬を膨らます。

しかし、千冬も彼女の相手をしている時間など無い。もう他の生徒達は一足先にバスに乗り込んでいるのだから。

 

「暇なら相手をしてやるが、今は時間を急しているのでな」

 

そう言って千冬は切り上げようとするが

 

「待って待って! 私が此処に居るのが偶然な訳無いのサ」

「はぁ......用件があるなら手短に頼む」

 

千冬の反応からして、アリーシャという人間は、すんなり引くタイプでは無いのだろう。それを分かっているからこそ、千冬は目線で恭一と箒に「先に行ってろ」と促した。

それを受けた2人はアリーシャと千冬の横を通って、バスが停まっている駐車場へと足を急がせようと

 

「私とイタリアで一緒に過ごそう、千冬!」

 

ピタリと恭一の足が其処で止まった。

 

 

________________

 

 

 

「またその話か.......もう何度目だ」

 

呆れた口調で返す千冬だが、アリーシャはまるで堪えてない、寧ろ千冬が現れてからニッコニコである。

そう、アリーシャは千冬に対し、第一回『モンド・グロッソ』で試合った後から、何度も求婚し続けているのだ。

そして、その度に断っているのだが、彼女曰く

 

『自分よりも強い戦女神に出会えた』との事らしい。

 

「子作りの心配ならiPS細胞があるから問題ないのサ!」

「誰がそんな心配をした! 私はIS学園から離れるつもりは無いと何度も言っているだろうが!」

 

ちなみに初めて彼女から想いを告げられた時、千冬はこう返している。

 

『リベンジしたい少年が日本に居る。ソイツと肩を並べるまで私は前に進めん』

 

そう言った千冬の眼に、自分は映っていない事がひしひしと伝わってきた。

 

自分を倒した千冬よりも強い者が居る?

そんな奴が存在する筈が無いのサ!

 

しかし千冬が嘘や誤魔化しをするような人間では無いと、試合の中で既に感じていたアリーシャは無理に追求する事をヤメて、己を高める事を決心した。

 

次回の『モンド・グロッソ』で千冬に勝利し、その時に改めて求婚しよう、と。

その頃には千冬もリベンジとやらを果たしているだろう。

だが、そんな彼女の思惑とは裏腹に、第二回『モンド・グロッソ』は千冬の棄権で戦えず仕舞いに終わる。

それからは自分も多忙な時期を迎えてしまい、千冬に会いに行く事すらままならない日々が続く中で、何気なくメールを送った事があった。

 

『弟くんがISを起動するとはネ。衆目に疲れたのなら、2人でイタリアに来ても良いのサ? 私は大いに歓迎するサ(*゚▽゚*)』

 

そのメールに対し、返ってきたのは

 

『覚えているか? 私が話した強き少年の話を』

 

嫌な予感がした。

 

『ソイツが二人目として、この学園にやって来る。私がIS学園に居る確固たる理由が生まれた』

 

この文面からでは、千冬の感情までは読み取れない。

だが、1つだけ予想は付く。おそらく未だ彼女はその少年に勝てていないのだろう。

そして何より、千冬の目はその少年に向いたままなのだろう。

 

(忌々しい.......千冬が私に目を向けてくれないのは、コイツの存在が大きいサね)

 

故にアリーシャは二人目の起動者、渋川恭一の事を調べ上げた。

そんな彼女が日本に来た理由は、1つ。勿論千冬に会う事もそうだが、恭一と接触する事だった。

直に対峙し、千冬が心胆を注ぐ程の男かどうか見極めるために、アリーシャはこの度、日本へやって来たのだ。

 

幸か不幸かアリーシャは、とある事をまだ知らない。

千冬自身もその事を話すかどうかで、迷っている処だ。

 

(.......さて、どうする。いっその事、私と恭一の関係を明かすか? いや、話しても信じはしまい)

 

しかし言葉を濁し、曖昧な理由で断っても、コイツは決して諦めるような奴では無い。

 

(.......ふむ、ならば―――)

 

「なぁ、アーリィ。私はお前が女だから断っている訳では無いんだ」

「む? そんな事は知っているサね。性別なんざに拘る小さい人間なら、私も本気になりはしないサ」

 

ふふん、と胸を張るアリーシャ。

 

「私はな、アーリィ。まだお前には言って無かったが、既に生涯を誓った者と共にあるんだ」

「........は?」

 

(あ、アカンこの流れは.......!)

 

棒立ちになっていた恭一、このまま此処に居たら絶対面倒な事に巻き込まれてしまう、と漸く我に返り、立ち去ろうとするが時既に遅し。

 

「私の身と心はコイツに捧げているッ!」

「ちょっ、ちふっ.......んんーーーーーっ!?」

「――――――」

 

腕を掴まれ、抗議する間も無く唇を奪われてしまった。

剥がそうとするもまるで剥がれない、抱きしめられた腕が全く解けない。

 

「ちゅ.......ん.......ぁ.......ちゅぷ......」

「――――――」

 

あまりの衝撃からか、叫ぶ事すらせずに、あんぐり口を開けたままのアリーシャの目の前で何をトチ狂ったのか、更に舌まで入れてくる始末。

 

(ほ、箒助け―――ひぃっ!?)

 

ニコニコと自分達の行為を見守っている箒だが恭一には分かる。その笑みが果てしなく虚無的に歪んでいる事を。

 

(......ジュエルミート、美味しかったなぁ)

 

千冬からの熱いベーゼに、箒からのデビルスマイルを浴び続けている少年は、過去の色鮮やかな思い出に逃げる事を余儀なくされた。

そして、ひたすら黙したままのアリーシャ・ジョセスターフはと云うと。

彼女は立ったまま、目を見開いたまま気を失っていた。

 





逆効果だと思った(小並感)


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