野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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過去過去、更に過去、もっともっと超絶過去
というお話



第漆話 鴨川に行くけど逝かない

「だいたいこんなモンか」

 

カメラ内のデータを一通り見流し、結構な数の写真を収められた事を確認する。

清水寺の拝観時間まではまだ大分空いているが

 

「.......おっ?」

 

携帯に箒からメールが入り

 

『今から此処へ来て欲しい。勿論、千冬さんも一緒にお前を待っているぞ』

 

箒からのメールには、地図画像も添付されていた。

 

「ふんふむ。此処へ行けば良いんだな」

 

地図の座標を空中ディスプレイに表示させ、早速そこへ向かう恭一。

 

(そういやあの隻腕女、千冬さんの名前出してたっけか)

 

特徴だらけの風体だったし、自称有名人とか言ってたし直ぐ分かんだろ。

適当な処で聞いてみるか。

 

.

.

.

 

「こっちだ、恭一」

「......来たか」

 

メールでの場所に着き、恭一の姿が見えると、箒と千冬からも顔に喜色が現れて、控えめにだが手を振ってきたので、恭一もそれに応える。

 

「我侭言ってほんと悪―――あででっ」

 

全部言い終わる前に、両頬を2人から抓られてしまった。

 

「我侭なんかじゃない、そうでしょう千冬さん?」

「当然だ。お前は自由行動の大半を皆の撮影のために奔走したんだ。それに見合う報酬が合っても良かろう」

 

恭一が『亡国機業』の拠点に攻める直前に、箒と千冬と交わした約束。

修学旅行に行ったら、3人で京都を回ろう。

箒はまだ良いが、千冬は担任で、恭一は撮影係という役割がある。

故に、決して多くの時間は望めないが、それでも少しでも3人で過ごせるのなら、と何とか時間を作る事に成功したのだ。

 

「ラウラは良かったんですか? アイツの事だし、千冬さんと一緒に居たんでしょう?」

 

旅館の部屋は箒達と同じ彼女だが、千冬のサポートという名目でラウラも恭一と同じく、どの班にも所属していない。

恭一の言うように、先程まで千冬の隣りにはラウラと真耶も居たのだ。

3人で色々と見て回っていたのだが、其処は恭一と千冬の間柄を知る2人である。

 

「気を利かせてくれたのさ」

 

少し照れながら、そう教えてくれた。

 

「ふふっ、3人でデートするのは初めてじゃないか?」

 

恭一の右には晴れやかに顔を綻ばせた箒が。

 

「まぁ滅多に出来る事では無いだろうしな」

 

左には澄まし顔を保とうとするも、既に喜悦が見え隠れしてしまっている千冬が。

並んで歩く少年の両手には花も花。まさに絢爛華麗花とはこのようなモノを著すのだろう。

 

「それで、今から何処へ行くんだ?」

 

箒と千冬が事前にデート先を決めたらしいが、恭一はまだ知らされていないので、何処へ向かっているのか分かっていない。

 

「ふっ......京都といえば、鴨川の三条河原だ!」

「カモ.......?」

 

胸を張る箒の言葉に少し引っかかる恭一。

 

(なんか聞き覚えがあるんだが......何処で聞いたんだっけか?)

 

「夜に訪れるのが一番良いんだが、贅沢は言ってられんからな」

 

あそこだ、と千冬が指さした先は河川敷だった。

特に何の変哲も無い河原のようにも見えるが、やたら男女二人組が多い。

何やら河川敷を眺めて座っているのだが、何か違和感がある。

 

「......距離間がやべぇ」

 

カップル群の多さはまだ分かる。おそらく此処はデートスポットなのだろう。

 

「ほう......そこに気付くとは、目ざといな」

「此処はな、恭一。カップル同士が等間隔で座るという文化があるんだ」

 

(なにその意味不明な文化)

 

「『鴨川等間隔の法則』という名で有名なんだぞ」

 

静寐から聞いた知識をペラペーラする箒。

 

(なにその意味不明な法則)

 

「まぁ私も箒から聞いた時は、今のお前みたいな顔になったが」

 

箒の言葉にポカンとしていたのがバレて、千冬は短く笑い

 

「だが、此処にはとある都市伝説があってな」

「都市伝説ですか?」

 

鴨川の三条河原でデートをした恋人達は、より深い絆で結ばれ、生涯を共に円満に過ごせるというジンクスが存在するらしい。

 

「そ、そういう事なら行きやしょう! うむ、行かねばなるまいて!」

 

(( かわいい ))

 

ズンズン進む恭一にほっこりする箒と千冬。

そんな中、恭一の頭上でプカプカ浮いている九鬼は

 

《.......これは》

 

河原に広がる光景を見ては、怪訝顔だった。

ある種、霊的存在の武神には一体何が見えているのか。

 

「おっ、あそこ空いてるから座り.......んん?」

 

丁度、3人で座れるスペースを発見したは良いが、何やら見覚えのある背中が2つ。

後ろから来ていた箒と千冬も気付き

 

(.......おい、あれは一夏と凰ではないのか?)

(多分、鈴が誘ったんでしょう。邪魔するのもアレですし、気付かれる前に場所を変えましょう.......ほら、行くぞ恭一)

(あ、ああ分かった)

 

鴨川を眺めながら、話している2人に気付かれないように

 

「......ん? おっ、恭一じゃないか! それに箒と.......千冬姉ぇ?」

「げっ」

 

こんな所で奇遇だな、と手を上げる一夏と眉間に皺を寄せる鈴である。

 

「箒は恭一とデートかぁ......いや、それなら千冬姉ぇが居るのはおかしい......おかしくない?」

 

(ちっ......コイツめ、いつもの鈍感っぷりが鳴りを潜めているな)

 

微妙な鋭さを見せる弟に、内心舌打ちしつつ

 

「なに、先程近くでばったり出会ってな。一緒に回っているだけだ。そうだろう、篠ノ之?」

「そうですね」

「あっ...そっかぁ」

 

今はまだこの関係を明かす気は無いらしい。

その間、鈴は恭一に詰め寄り

 

(ちょ、ちょっと! 何でアンタ達まで此処に来てんのよ!?)

 

ああ、鴨川に聞き覚えがあると思ったのは、鈴が言ってたからか。

 

(いや俺も呼ばれたんだって。まぁ2、3話して直ぐ離れるから安心してくれ)

(.......悔しいけど、ダウト一億)

(何言ってだお前?)

 

2人がコソコソしゃべっている頃、鈴の不安は的中する。

 

「この5人が集まるのも珍しいな! 折角だし、皆で一緒に語ろうぜ!」

 

((( 知ってた )))

 

一夏と付き合いの長い女性陣は、こうなる事など予見済みだった。

 

「なっ、恭一」

「嫌どす」

「へ?」

 

まさか断られるとは思っていなかった一夏、目が点になる。

普段なら構わないが、今は恭一の中ではれっきとした数少ないデートなのだ。

本来なら「デート中だ!」と断るのだが、千冬から3人の関係は自分が打ち明かすまで話さないで欲しい、と言われているので

 

「いーやーだ! いーやーだ!」

「子供か!」

 

地団駄を踏んでみせる事くらいしか、抵抗の手段が思い浮かばなかった。

 

「ど、どうしたんだよ恭一!? もしかしてコーラ不足か!?」

「それもあるッ!」

 

((( あるんだ )))

 

箒は千冬と鈴にアイコンタクトし

 

(此処で無理に離れるのは不自然だし......泣き寝入りますか)

(い、いいの? アタシが言うのもアレだけど、アンタも千冬さんだって、楽しみにしてたんじゃ?)

(関係が関係だからな......こういう弊害は仕方無いさ)

 

そう言って千冬は恭一を呼び寄せ

 

「自由時間は明日もある。その時にまた3人で回ろう」

「ぐぬぬぬ.......」

 

いつもなら、千冬の言葉には素直に従う恭一だが、今回に限ってまだ膨れっ面を直さない。

頭では分かっていても、心がまだ納得出来ていないようだ。

 

「あれ、一夏?」

 

そうこうしていると、いつの間にか一夏の姿が見当たらない。

鈴と箒がキョロキョロ探していると

 

「おーい!」

 

何やら息を切らして向こうから走ってきた。

 

「アンタ急に居なくなって、何処行ってたのよ!?」

「まぁまぁ、それは良いから!」

 

プンスカ声を上げる鈴を押し退け、未だに唸っている恭一の背中を叩き

 

「コーラ買ってきたぞ!」

 

(((えぇ.......)))

 

彼の行動を何と表現すれば良いのか。

かゆいところに手が届かない、それでいて謎めいた気の利く男、織斑一夏。

それでも、恭一の事を心配して走ったのは紛れもない事実。

 

「.......織斑」

 

恭一にもそれは伝わったようで

 

ぷしゅっ

 

「ゴクゴクゴクゴクゴク...........ンまい」

 

恭一達は一夏と鈴の隣りに腰を下ろした。

 

 

________________

 

 

 

「それで、さっき鈴とは何話してたんだ?」

 

ぼんやりと煌く川の錦繍を楽しむのも良いが、語り合うのなら何かネタは無いのかと、適当に聞いてみる恭一。

すると一夏は思い出したように、手をポンと叩き

 

「ああ、そういやさっきまで鈴と焼き栗の話してたんだった」

「焼き栗? なんだ、栗ご飯的な話か?」

「いや、それがな」

「ちょっ......一夏、アンタそれは―――」

 

内容を知る鈴の表情が一気に青ざめる。

 

(千冬さん居るのよバカ一夏! な、何で蒸し返すのよ!?)

 

それは2人が小学生高学年の時の事。

清掃ボランティア中の少年一夏は、校庭にて毬栗を発見し

 

『これ、焼いて食べようぜ!』

 

それに賛成したのは鈴のみだったのだが、結局2人で焚き火をする事となり

 

『なんか火力が足りないなぁ、落ち葉もっと入れようぜ!』

 

その結果、あれよあれよと火は燃え盛り、ぼや騒ぎにまで発展したのだった。

それを学校から知らされ、やって来た千冬の形相は鈴曰く、羅刹すら超越したナニカだったらしく、今でもその時の恐怖は忘れらないものになっているそうだ。

所謂、焼き栗騒動事件である。

 

「火力てお前.......陸遜にでも憧れてンのか?」

「はっはっはっ」

「笑って誤魔化すんじゃないわよ! ひ、ひぃっ!?」

 

一夏を視界に収めると、自然と千冬の顔も入る訳で。

 

「一夏、お前という奴は.......アレで懲りてなかったのか」

 

それを聞いていた箒も、何かを思い出したらしく、呆れた口調で呟いた。

 

それは2人が幼少期の事。

篠ノ之神社に居た一夏は境内の落ち葉を見渡し

 

『焼き芋作ろうぜ!』

 

其処に居たのは箒のみ。

千冬も束も箒の両親も居ない中で始まった焚き火だったのだが

 

『なんか火力が足りないなぁ、落ち葉もっと入れようぜ!』

 

その結果、やっぱり火はあっという間に燃え盛り、ぼや騒ぎにまで発展しだのだった。

一夏と一緒に滅茶苦茶怒られた箒だったが、その時の千冬の形相も羅刹を超越したナニカだったらしく、その時の恐怖は箒も忘れらないらしい。

所謂、焼き芋騒動事件である。

 

「火力てお前.......朱然にでも憧れてンのか?」

「はっはっはっ」

「笑って誤魔化すな! ひ、ひぃっ!?」

 

箒の視界にも千冬の表情が入ったらしい。

口をパクパクさせる少女2人に気付いたのは恭一だった。

 

「うわははは! 何だよお前らその顔―――あん?」

 

2人の視線を追い

 

「.............こいつァやべぇ」

 

狂者をもってして、この一言。

羅刹を超越した鬼神が立ち上がっていた。

どうやら軽い感じな弟の態度が、千冬の逆鱗に触れたらしい。

 

「反省の色が足らんと見える......なァ一夏」

「えっ? どうしたんだよ千う、うわぁ!?」

 

漸く此処に来て一夏も気付いたのだろう。姉に纏わる鬼神の怒色に。

 

「弟を教育する技を、最近やっと身に付けられてな......」

 

ユラリユラリと一夏に近寄る千冬の動き。それはまさに

 

((( 秘拳鞭打 )))

 

「えっ、ちょっ......う、嘘だろ千冬姉ぇ!? きょ、恭一助けてくれッ!」

「無理ダナ」

 

コーラを奢って貰っても、無理なモノは無理。

恭一に出来る事といえば、手を合わせる位である。

同じく鈴と箒も合掌する中、一夏の野太い悲鳴が辺りに木霊した。

 

一夏は再び教訓を得る。

軽はずみな行動はしてはいけない、と。

 

 

________________

 

 

 

「オレ タキビ シナイ。オレ ヒ コワイ」

 

(オレサマ オマエ マルカジリ?)

 

女神転生と化した一夏はひとまず置いておくとして

 

「千冬さんの話で1つ思い出したんですが」

 

恭一は皆にこの前、精神世界で九鬼と見た都市伝説の話をしてみる。

 

『雨の日の0時、1人で消えたテレビを見つめると、自分の運命の人が見える』という話を。

 

「へぇ、それはアタシも初めて聞いたわ」

「私も聞いた事無いな」

「あ、あれ? そうなのか?」

 

結構有名な都市伝説なんだと思っていた恭一は、少し拍子抜けだ。

 

「千冬姉ぇは知ってたか? 俺も初めて聞いたんだけど」

 

復活した一夏が千冬に訪ねてみるが

 

「似たような話は知っているぞ。私が学生の頃に流行ったモノだがな」

 

千冬が言うには『午前零時の水鏡』という題目が付いているらしい。

その内容はこうである。

午前0時0分0秒にカミソリを口に咥え、水を一杯入れた洗面器を上から覗き込むと、その水面に未来の結婚相手の顔が映る。

と、云うものだった。

 

(((( なんか古い ))))

 

「今、古いと思った奴は殺す」

 

「「「「 ひぇっ 」」」」

 

全員の死刑が決まった処で

 

「くしゅんっ.......あぅ」

 

箒から可愛らしいクシャミが聞こえてきた。

 

「寒いのか?」

「いや......何だか一瞬、もの凄い寒気がしてな」

「むっ......私は殺気は送ってないぞ?」

 

千冬の弁舌は良いとして、確かにこの季節の河原は風が少し冷たかったりする。

本来であるなら、こういう時こそ恭一に寄り添いたいのだが、流石に今は無理である。

それは恭一も分かっているようで、脳内で考えを張り巡らせていた。

 

(こういう時は確か.......)

 

『ネアンデルタール人でも分かる恋愛指南書』を思い出す。

この教本も久々の登場だ。

 

(自分の上着を、背中から羽織らせるのが良いんだっけか)

 

そうと決まれば、早速上着のボタンを―――いや、待て待て。

鈴は織斑が居るから良いとして、この場合千冬さんはどうなる。

 

(箒に貸したら、次はカッターシャツ......ま、まぁ無いよりマシだろ、うん)

 

そうと決まれば、早速上着のボタンを―――いや、待て待て。

 

(俺、その下に何も着てねぇや.......2人に貸したら上半身裸になっちまう)

 

それは流石にどうだろうか。

 

(まぁいいか)

 

そうと決まれば、早速上着のボタンを―――

 

「「 それは良くない 」」

 

「へ?」

 

あっさり千冬と箒から止められた恭一。

 

「な、何で分かった?」

「お前の考えてる事など、顔を見れば分かるさ」

 

ウンウン唸ってたし。

 

「寒気がしたのはあの一瞬だけだから大丈夫。ありがとう、恭一」

「露出狂になられても困るしな」

 

その気持ちだけで、2人の胸はポカポカに包まれていたりするのだから。

しかし、上空で寝転がっている九鬼は、依然河原の中心を眺めながら

 

《篠ノ之のお嬢ちゃんが感じたのは、本当に寒気かのぉ》

 

意味深な武神の呟き。

 

(どういう意味だ?)

 

《そもそも此処は本当に有名なデートスポットなんか? 心霊スポットの間違いじゃろて》

 

(は? 何でいきなり心霊なんだよ、対極過ぎンだろ)

 

意味が分からん。

今は怪談を楽しむ時季じゃ無いっつーの。

耄碌ジジイの戯言なんざ、無視無視~っと。

 

《あっちこっちに生首が転がっとる》

 

「ファッ!?」

 

「うわぁっ!? い、いきなりどうした恭一!?」

 

急に声を上げ、立ち上がった恭一に一夏達が驚くが、それ以上に本人が驚いている訳で

 

《どうやら此処は処刑場じゃったらしいぞい》

 

なにそれ怖い。

 

(いや、らしいって誰から聞いたんだよ)

 

《石川五右衛門》

 

(は、はぁっ!? 石川五右衛門ってあの!?)

 

《ああ、本人がそう言うとるよ》

 

九鬼曰く

 

『俺様こそ、天下の大泥棒! あ、石川五右衛門様だ~ぜぇ~!』

 

歌舞伎役者が如き口上で、見事な大見得を切っているそうだ。

 

(.......本物だ)

 

《本物じゃ》

 

 

今でこそ、巷のカップルが賑わう彩ある場所だが、元々三条河原は全国でも有名な処刑場だった。

何人もの罪人がこの地で磔や斬首刑となり、その首や遺骸が晒され、石川五右衛門の釜茹での刑もこの場所で執行されたと伝記に残っている。

 

 

「むっ......そろそろ清水寺へ行く時間だな」

「っ.......行きましょう! すぐ行きましょうッ!!」

 

千冬の言葉に真っ先に便乗する恭一。

どうやら当時の生々しい話を九鬼伝いに聞かされたらしく、心無しか顔色が優れなかった。

 

「あんなに急いでどうしたんだ、恭一の奴?」

「さぁ? 久しぶりのコーラで、お腹でも壊したんじゃない?」

 

こればっかりは、恭一にしか分からない事だった。

 

 





10巻にあった一夏君の心象を悪くする謎のぼや騒動描写。

きっとこれは11巻の伏線なんだ!(*^◯^*)
焚き火がキーになるに違いないんだ!(*^◯^*)

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