野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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カツ丼よりも肉丼、というお話



第弐話 レインとダリルの道

「さて、そろそろ本題に入っても良いわよね?」

「.......ぼへぇみあぁん......」

 

箒が部屋から出て行き、はや数分。

今、此処に残っているのは千冬と楯無の2人。

『亡国機業』との結末を聞くためである。

 

「.......のほんはぁぁぁぁん......」

 

目の前の魂が抜けかけている少年から。

 

「かなり堪えてるみたいですね」

「コイツが自力でコーラを買えた処など、見た事無いからな」

 

季節は11月も終わりに向かっている頃。

入学してから半年が経っても、自力での入手は失敗の連続らしい。

 

「まぁこれを機にコイツの無茶が減ってくれれば、私としても安心だ」

「動機がバカ過ぎてアレですけどね」

 

.

.

.

 

「それで、スコールはどうなったの?」

 

腑抜けモードから何とか回復した恭一に、改めて楯無が問い掛ける。

特に隠す事は無い。

恭一は起こった事をありのまま2人に話したが

 

「いやなに普通にスカウトしちゃってるの!?」

「うへへ、面白いだろ?」

「面白くないわよ!」

 

テロリストをIS学園へご招待なんて、意味不明にも程がある。

かと言って、スコールも恭一の言葉を本気にしているとは思えない。

 

「スコール・ミューゼルという者はお前が其処まで買う人物なのか?」

「ええ。少なくとも束姉ちゃんと会ってなかったら、俺はあの人と一緒に居たかもしれないって思うくらいには」

「ほう......それ程か」

 

これには楯無も、聞いた千冬も少なからず驚きを見せた。

恭一が此処まではっきり言葉に表すのは珍しい。

唯、強いだけなら恭一は何も言わないだろう。

どうやらスコールの心意気に感じるものがあったらしい。

 

「亡国機業を取るか、俺との遊びを取るかはスコール次第。終わった事をゴチャゴチャ言ってても仕方無いっスよ?」

「何でけしかけた本人が偉そうなのよ」

 

幸いスコールの正体を知る者は少ない。

もし彼女が後者を選んだのなら、恭一はフォローする気でいる。

それこそ、生徒会長の権限と己の力をフルに活用して。

 

「......もしも前者だったら?」

「そん時は見逃した責任を持って全力で潰すさ」

 

どっちに転んでも恭一的には美味しいか?

いや『亡国機業』の者として、再び立ち塞がれば、その時は恭一だけで無く皆も参戦するだろうから、出来ればやはり後者を選んで欲しいのが本音である。

 

話は終わりだと言わんばかり、恭一はベッドで横になった。

 

「まぁ今はゆっくり休むと良い。更識もそろそろ食堂へ行ってこい」

「一応、恭一君から言質も取れましたし、そうします」

 

更識家として考えるのなら、どっちの方が良いのかしらねぇ。

確かにスコールがIS学園に来るのなら、直接監視も出来るし、情報も貰えるってメリットはあるか?

いやでも、こっち側の味方になるとは限らないし。

 

(うむむむぅ......分かんないッ!)

 

昨日の今日で展開が激変する事は流石に無いだろう。

流れに身を任せるのは好きではないが、今はスコールの出方次第と云う事にしておきましょうか。

 

更識家当主から一学生の頭へ切り替える。

 

「それじゃ私は食堂へ行きますけど、織斑先生は?」

「私は恭一に来たるべきオムツを「着けねぇっツってんだろがッ!!」ちっ......」

 

残念そうな千冬と共に、楯無も部屋から出て行く。

それを見送り終えた恭一はベッドの上で大の字となり、傷を癒す事に専念した。

 

 

________________

 

 

 

「ひまひまひーまーひーまー」

 

決して広くない部屋でゴロゴロしているのは、先日恭一に敗れたレイン・ミューゼル改めダリル・ケイシー。

恭一の計らいで拷問も尋問もされていない彼女だが、手持ち無沙汰なのは変わりない。

当然ISも携帯も今は取り上げられているので、ボンヤリした時の中で過ごすしかなかった。

唯一、話し相手が来るのは昼と夜の2回。

スパイに対して食事まで与えてくれる好待遇っぷりには、少なからずダリルも驚いたものである。

 

「.......おっ」

 

扉の開く音が聞こえた。

そろそろ昼食の時間という訳だ。

まぁ持ってくる者は決まっている。

前生徒会長の更識楯無だ。

ツってもアイツは一言二言話して直ぐに引き返すモンだから、あんまり楽しくは無いんだが、贅沢は言ってらんねぇか。

 

「ひまひまひーまーひーまー」

「.......あん?」

 

牢屋の前にはいつもの更識。

そして織斑千冬と、包帯男?

 

「お前......渋川か?」

 

コイツまだ治ってないのか?

いや、オレと殺り合った時よりも傷が増えてる。

この短期間で、一体誰と?

 

「更識家当主にブリュンヒルデと生徒会長......学園トップ3が揃い踏みたァな。死刑宣告にでも来たのかい?」

「ある意味そうかもしれねぇっスよ」

「あ? どういうこったよ?」

 

牢屋の鍵を開け、中へ入る。

入ったのは恭一のみで、楯無と千冬は外から眺めているだけだ。

そんな少年の手には二人分の昼食が。

 

「ほい、こっちがダリル先輩の分ね」

「お、おう......?」

 

意図は分からないが、ダリルもお腹を空かせていたのは事実。

恭一も普通に食べ始めたので、彼女も其れに手を付けた。

 

「傷を増やしてオレの所に現れたってこたァ......そういう事なのか?」

 

理解が早くて助かる。

 

「ああ、スコールと闘ってきた。んで―――」

 

アンタは自由だ。

 

そう言って、恭一から携帯と彼女のIS『ヘル・ハウンド』が形態されたチョーカーを渡される。

 

「レイン・ミューゼルとしてスコールの元へ帰るのも良し、亡国機業の元へ帰るのも良し。今回だけは後ろの二人も見逃してくれるってよ」

「っ......スコール叔母さんは生きてンのか!?」

「殺すにゃ惜しいおばさんだからな」

 

叔母さんでは無く、ナチュラルにオバさん呼ばわりした恭一に対し、突っ込もうかどうか迷ったが、此処はスルーを選択。

 

「後で連絡してみな。俺から話を聞くより、スコールから聞いた方がアンタにとっちゃ良いだろう」

「そうさせて貰うぜ」

 

話を戻して。

 

「まだまだアンタには選択肢がある。ダリル・ケイシーとしてIS学園で新たな人生を歩むって道もな」

「.......おう」

 

それも分かっている。

この牢屋に入れられて、一週間。

考える時間はあった。

それでも中々答えは出てくれやしねぇ。

 

うむむ、と唸るダリルを前に

 

「眉間に皺を寄せてどうなる? アンタも強者を唱うなら本心で生きてみろよ」

 

小難しく考えるのは小者のする事。

己に自信を持っているのなら、アレコレ考えずとも唯、進めば良い。

その者が真に強者たられば、立ち塞がる壁をも壊せる筈なのだから。

 

「.......オメェほんとに年下かよ?」

 

何か前も同じような事をコイツに言った気がする。

何処までも単純な恭一の言葉に、ダリルからも笑みが零れた。

 

(まずはスコール叔母さんに連絡して......その後は.......そうだな、取り敢えずフォルテのアホをからかってやるか)

 

少しだけ吹っ切れたダリルは、恭一と共に肉丼をカッ喰い始めた。

 

.

.

.

 

「アンタも世界と喧嘩したい口なンか?」

「何だよ急に」

 

ご飯も食べ終え、今は温かいお茶で一服中だ。

本題も終わったと云う事で、千冬と楯無も共に中でお茶を頂いている。

 

「喧嘩っつーか......オレの場合はブッ壊したかったんだよ、この下らねぇ世界をな」

 

何もかんもが下らねぇ。

テメェじゃ何も出来ねぇ癖に、権力を笠に調子コいたクズ野郎共。

男だからって女を下に見るカス共。

ISが出ても結局は一緒だ。

カス男がカス女に入れ替わっただけ。

偉そうだった男共が女に媚び諂うようになった分、気持ち悪さは上がっちまった。

 

(へっ......我ながら、呆れた性根だ)

 

自分はスコール叔母さんとは違う。

闘いそのものに熱くなれるあの人とは違う。

オレだって闘い自体は嫌いじゃねぇが、どっちかっつーと気に入らねぇ奴を這い蹲らせる方が好きだ。

 

(そんなオレでも.......そんなオレだって.......何かに熱くなってみてぇなぁ)

 

「前から思ってたんだけどさ、亡国機業って裏でコソコソやって面白ェのか?」

「あァ?」

 

恭一も別に表立って暴れろなんて言っている訳では無い。

『亡国機業』を声高に叫んで、テロってる奴が居れば、彼の格好の餌食となろう。

主に玩具的な意味で。

 

「裏街道爆進してもそれなりに楽しめるかもしンねぇけどさ、アンタの相手は世界なんだろう?」

「お、おう......?」

 

何が言いたいんだコイツ?

 

「今、世界で一番デカイ催し事って何ですか、千冬さん?」

「それはやはり『モンド・グロッソ』だろうな」

 

ISが力の頂点に在るのは間違い無い。

その認識は、ほぼ全人類の共通事項である。

故に、IS同士での対戦は人々の関心を得るのだ。

そして『モンド・グロッソ』には世界各国の代表者が出場する。

世界の頂点の座を賭けて。

 

「つまりアンタが潰してぇ世界を代表する奴らが全員、一同に会するって訳だ」

「.......オメェ」

 

『モンド・グロッソ』を襲撃しろ?

いや、コイツはンな事言ってるんじゃねぇ。

 

「オレに『モンド・グロッソ』へ出ろっツってんのかよ?」

「何言ってんだ? 唯、出るだけじゃ面白くねぇだろ! ついでに全員ボコッて優勝掻っ攫ちまえよッ! うわははは!」

 

(こ、コイツやっぱバカだ)

 

何が可笑しいのか、ケタケタ笑う恭一を呆れてながら

 

「あのな、渋川。簡単に言うけどよ、そもそも国の代表に選ばれる事すら難しいんだぜ?」

 

特にアメリカの代表者はあの『イーリス・コーリング』だ。

実力は間違いなくワールドクラス。

スコール叔母さんから聞いたが、今年の夏頃から更に強くなったらしい。

 

「おいおい......アンタは行動すンのに、いちいち簡単か困難かで決める気かよ?」

「........それは」

 

悔しいが、先程つい反論してしまった手前、言葉が続かない。

 

 

「どんな道でも進んでみねぇと、見える景色は何時までも変わらねぇモンだ」

「オレが見てる景色.......か」

 

 

今まで考えた事も無かった。

下らない世界もオレの歩む道が変われば、変わるモンなのかな。

 

(.......オレも、進んでみるか)

 

「ん? そういや織斑千冬はブリュンヒルデだったな、それに更識はロシアの代表者だ」

 

ダリルは2人を見る。

特に話に入る事無く、お茶を楽しんでいた彼女達は静かに頷いた。

 

「どうだい? アンタは最強の称号を得て、何か変わったかよ?」

「ふむ.......そうだな」

 

ダリルから問われ、手に持つカップを置いた千冬は

 

「あの頃の私にとって『モンド・グロッソ』は通過点だった。渋川恭一との差を埋めるためのな」

 

そう言って、軽く微笑んだ。

 

「当時はまだ私も子供だったけど、織斑先生の圧倒的な試合運びは今でも覚えてますよ」

「よせ。何やらむず痒くなる」

「そういやスコール叔母さんが何度も観てたっけなぁ」

 

当時、恭一は俗世と離れた生活をしていたため、当然詳しくは知らない。

 

織斑千冬の羅刹姫伝説は今でも語り草になっている。

当時から世界では『キャノンボール・ファスト』のような観衆を楽しませるエンターテイメント性の強いイベントは数多く存在していた。

そのような場合では千冬も観衆を沸かすために『零落白夜』を発動させた。

そんな彼女だが、公式戦において『零落白夜』を発動させたのは、一回のみ。

第一回『モンド・グロッソ』での決勝戦だけである。

 

「聞いてみたかったんですけど、どうして『零落白夜』の使用を拒まれてたんですか?」

「拒んでいた訳では無いのだがな」

 

自分は強くなったという自負心。

その心を粉砕した年下の少年を見返すために、より強くなりたかった。

ノーグラブでリベンジを果たしたかった千冬にとって『モンド・グロッソ』はあくまで剣捌きや足捌きの修行の場だった。

 

恭一との試合に使わない『零落白夜』を顕現させて戦っても理由が無い。

 

彼女が使用しなかったのは、この一言に尽きる。

 

「そういやお前さんは出ないのか?」

「.......俺?」

「専用機は無いとは云え、オメェ程の実力者だ。既に話位は来てんだろ?」

 

恭一の元には来ていない。

 

「千冬さん『モンド・グロッソ』って生身で「出られる訳無いだろ、超アホ」ひでぇ.....」

 

当たり前である。

飽く迄ISの大会なのだから。

そもそも、そんな発想に至る人間など、世界中でもこの少年位だ。

 

恭一も別に輝かしいクリーンな試合が嫌いな訳では無いのだが。

ダリルやスコールと闘った、喧嘩でないと燃えないのも事実。

 

『モンド・グロッソ』に出場すると云う事は、これ以上無い栄誉であり、これからの人生を司る大きなステータスにもなる。

それを目標に、努力を惜しまない候補生も代表者も大勢存在しているのだ。

 

名誉も栄誉もうんこな恭一にとって、何としてでも出たい程の魅力は感じないらしい。

 

「そもそも候補生の話すら来てねぇし.......ん?」

 

何やら千冬と楯無に反応アリ。

 

「あー.......まぁ今だから言えるが、その話は来ていたんだ」

「へ? そなの?」

 

全く以て初耳である。

 

「恭一君が入学して直ぐにね、君を候補生にしようとする動きがあったのよ」

「早くないっスか? 流石にそんな最初じゃ、実力もクソも―――」

 

それは決して恭一の実力の高さを見込んでの指名では無かった。

日本はISが生まれた国。

当然、今も女尊男卑の風潮がある国の一つだ。

女にしか動かせない筈のISだが、ブリュンヒルデの弟ならまだ分かる。

しかし、もう1人は一般人も良い処。

そんな者が女が強いこの時代の脅威となって良い筈がない。

それ故に、日本のトップを多く占める女性陣は恭一の処遇を低くした。

 

未だに彼が寮へ住む事を許されないのもその一つだ。

そしてもう一つ、彼女達が密かに計画していたのは見せしめである。

日本は他の国に比べて代表候補生が多い。

そして、国家の代表を決めるには特設アリーナにて試合を行う訳だが、当然多くの一般客が見に来る。

更に、その模様は全国中継という形で配信されるのだ。

 

彼女達が描いた図はこうだ。

 

専用機も貰えず、訓練機で無様に負ける恭一の姿を全国に晒し上げる。

2人の男性起動者の出現により、調子に乗る男達に釘を刺すためだ。

ISを起動させても男は女よりも弱い、という事を。

 

しかしその目論見に亀裂が走った。

 

最初はタッグトーナメント戦での瞬殺劇。

この時は一年生同士と云う事もあり、マグレだと一笑に付したが、問題は『キャノンボール・ファスト』だった。

 

『サイレント・ゼフィルス』襲撃時、アリーナには学園生徒や一般客以外に、各国政府関係者も呼ばれていた。

勿論、日本政府の者もその場所に居た訳で。

箒との合わせ技だったが、恭一はアリーナの観客を助けている。

その中には、それまで彼を見下していた政府関係者も含まれていた。

 

その結果、小さな波紋が起こり始める。

実力を認め、彼を色眼鏡で見なくなる者、感謝する者。

実力を認め、渋川恭一という男を脅威と見倣す者も。

 

実力が発覚したからこそ、候補生の話を白紙に戻したのだ。

男である恭一の活躍がこれ以上、日の目に当たるのを恐れて。

 

「すんげーどーでもいい」

「ふっ......まぁお前ならそう言うと思ったさ」

「ですよね」

 

このような反応になると分かっていたから、2人は恭一には伝えてなかった。

恭一も恭一で、2人から明かされた秘話に興味も湧かないようで

 

 

「この話はもうやめましょうや。ハイサイ!! やめやめ」

 

 

話を切り上げ

 

「ならオレはスコール叔母さんに連絡入れてから、フォルテに会いに行ってくらぁ」

「私もそろそろ教室に戻らないとね」

「恭一、部屋まで送ろう」

 

三者三様が同時に立ち上がった。

 

(突っ込まれないのも、それはそれで寂しいモンがあるな)

 

『そうそうハイサイ!........ってお前沖縄人じゃないだろ!』

 

この場に一夏が居たら、前述のノリを披露してくれただろう。

千冬に肩を預けながらも、そんな事を思ったそうな。

 

.

.

.

 

「一つ聞いて良いですか?」

 

傷が開かぬよう、ゆっくりと恭一の部屋まで歩く2人。

恭一は先程の話でふと気になった事を聞いてみる。

 

「決勝戦で『零落白夜』を使った理由は?」

「......相変わらず抜け目のない奴だ」

 

決勝戦だから。

観衆の期待に応えて。

 

当時は色々詮索されたが、千冬はその事に関して黙秘を貫いた。

決勝でも使うつもりは一切無かったのだから。

 

「使ったのでは無い......顕現させられたのさ、負けを嗅ぎ取った本能にな」

「.......千冬さん程の手練が?」

 

千冬が此処まで評価する人物は珍しい。

恭一も興味を唆られる。

 

「何れお前の前にも現れるだろう。名前は知っておけ」

 

 

―――イタリア代表、アリーシャ・ジョセスターフ

 

 

第2回モンド・グロッソ大会優勝者だ。

 

 





次から修学旅行編かな(#゚Д゚)y-~~

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