野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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よーい、スタート(棒読み)




しぶちー後日譚
第壱話 罪と罰と運命


「千冬さんッ!」

「やはりお前達も此処へ来たか」

 

時刻は午前5時を少し回った処。

そんな時間にも拘らず『たんれんぶ』の皆が集まっていた。

場所は勿論、本人不在の部屋である。

 

「此処へ居ると云う事は、束から連絡を貰ったのだな?」

「は、はい。恭一が1人で『亡国機業』の拠点に乗り込んで、壊滅させたって連絡が来ました」

 

千冬と楯無以外の面子には簡潔に結果だけを。

スコールやレインの件を知る千冬と楯無には内容を。

其々、束が教えていた。

 

「そ、それで千冬姉ぇ! 恭一は大丈夫なのか!?」

 

既に此方へ向かっている事は知らされているが、詳細は教えられていない一夏が心配そうに声を上げた。

 

「取れていた包帯をまた全身に巻く事になったが、命に別状は無いらしい」

 

その言葉で一同はホッとするが

 

「ただ......ううむ」

「な、なんだよ千冬姉ぇ......何かあったら言ってくれよ!」

 

伝えるべきか、アイツが帰ってくるまで待つべきか。

私も何て言えば良いか、正直分からん。

 

『キョー君ったら自分の左眼パックンしてゴックンしちゃったんだよ~!!』

 

こんな事言われて、私はコイツ達に何と伝えれば良いのだ。

 

「ま、まぁ今はアイツの帰りを待とうではないか。幸いナノマシンでの治療も滞り無く進んでいるようだしな」

 

確かに本人が不在とあっては、深い詮索をしても無意味か。

興奮して立っていた皆は、落ち着くように椅子へと座る。

そんな中で箒の表情は曇ったままだった。

 

「箒さん......?」

 

恭一の安否が知れて一番嬉しいのは、他でもない箒の筈。

なのに、セシリアの隣りに座る彼女は未だ俯いている。

 

「......私は......私達はそんなに頼りないのか?」

「えっ?」

 

彼女の呟きの意味とは。

 

「アンタの言いたい事も分かるけどね」

 

元々『亡国機業』を攻めるのは此処に居る全員で行う筈だった。

そう聞かされていた『たんれんぶ』のメンバー達。

それに加えて、箒は昨晩に恭一と話したばかり。

 

無茶はしないでくれ、と。

 

恭一からは『今回の策は完璧』との返答だった。

 

「僕達じゃ足手まといだって、そう思ったから恭一は1人で行ったのかな......」

 

シャルロットの言葉に対し、誰も立ち上がれない。

彼女達は誰よりも恭一の強さをその身で知っているのだから。

この中でも気の強い鈴ですら、拳を握り締めるだけで何も言えなかった。

 

「もしかして、俺達を危険に曝さないために?」

 

 

―――皆を守るという想いに変わりは無いか?

 

 

この間、唐突に恭一から投げかけられたこの言葉。

どうしてそんな事を聞くのか、問い質しても恭一は答えてくれなかった。

 

「俺達を守るために、アイツは1人で攻め込んだのか......?」

 

一夏の呟きが、皆の胸に2つの相反する感情を渦巻かせる。

 

 

守護られてしまった事への感謝。

守護られてしまった事への焦燥。

 

 

仮に一夏の言葉通りならば、自分達は帰って来た恭一に何て言えば良いのだ。

 

 

ありがとう、と言えば良いのか。

馬鹿にするな、と怒れば良いのか。

 

 

矛盾した想いが交差する中で、千冬は箒達に対し軽く笑って

 

「なぁ、お前達......闘いは好きか?」

 

唯一、恭一が1人で行った理由を察した彼女からの言葉だった。

 

 

________________

 

 

 

一方その頃、恭一は

 

「はいドーンッ!!」

「うぶぁッ!?」

 

「もいっこドーンッ!!」

「ごふぅっ!?」

 

「もひとつオマケにドーンッ!!」

「ぶっはぁッ!!」

 

武神に挑み掛かるも、ボコられていた。

 

 

________________

 

 

 

「どう云う意味だよ、千冬姉ぇ?」

「ふむ.......少し急な質問だったか。それなら言い方を変えてみよう」

 

 

此処に敵対した者が現れたとしよう。

そこでお前達に与えられた手段は2つ。

話し合いor殴り合い。

相手はどっちを取っても、それに従うと言ってきている。

 

 

「さぁ、この場面でお前達ならどっちを取る?」

 

皆が選んだのは言わずもがな。

 

「話し合いで解決するなら、それに越した事は無いだろ」

「無闇な戦いは避けるべきでしょう」

「私もそれが合理的だと思われます」

 

理由は様々であるが、全員が話し合いを選択。

 

「私も同じく、まずは話し合いを選ぶだろうな」

 

千冬は一つ、頷きを入れてから

 

「渋川なら、この場合どうすると思う?」

 

恭一なら?

 

「「「「..........」」」」

 

皆が無言なのは、きっと想像したからなのだろう。

 

「渋川君が大人しく話し合いで満足するかなぁ」

「恭一君よ? 絶対しないわ、100億賭けても良いわよん♪」

 

更識姉妹の言葉である。

ちなみにこの2人が恭一を兄と呼ぶのは、他者が居ない時のみらしい。

 

「むしろ恭一なら相手が話し合いを提案しても『武で語るって事だな!』とか言いそうだよね」

 

あるある過ぎて皆、苦笑いだ。

 

(反論したいが言葉が出ない。むしろ恭一なら―――)

 

この中で一番恭一の隣りに居た箒は、更に深い部分まで見えてしまう。

 

(アイツの事だ。筆舌し難い挑発で、まずは相手から手を出させるだろうな)

 

それを鬼面毒笑で迎え撃つ恋人の姿が容易に想像出来てしまった。

 

「もう分かったと思うが、渋川恭一と云う男は闘いを好む」

 

此処に居る『たんれんぶ』の誰よりも。

街中の喧嘩上等を気取る不良よりも。

いや、世界中の誰よりも好きだと言っても過言では無いかもしれない。

 

「お前達をアイツが足手まといと思っているなら、むしろ連れて行っただろう」

 

自分に不利な闘い程、アイツは燃えるタイプだ。

それをしなかったと云う事は

 

「お前達を認めているからこそ、共に攻める事を嫌った。私はそう思う」

 

確かに千冬の言葉にも一理あった。

沈んでいた箒にも明るさが戻り

 

「確かに千冬さんの言う通りかもしれません.......が、私達を心配させたのは紛れもない事実ですよね」

 

うんうん。

これには皆も同意。

 

「説教した処で、アイツは右から左へ受け流しますよ」

 

うんうん。

これにも皆は同意。

 

「1人で無茶をした分の罰は必要だと思うのだが、皆はどうだろう?」

 

うんうん。

千冬も含め、此処に居る全員が大いに頷く。

 

結果、これより『たんれんぶ』緊急会議の議題が決まった。

 

 

________________

 

 

 

「......差が縮まってねぇ」

「クカカッ、残念無念じゃのぅ!」

 

大の字になって倒れている恭一を見下ろす九鬼は、何処までも楽しそうだ。

 

「九鬼、いや......前世の俺って此処まで強かったか?」

 

現世に於いて、自分もそれなりに強敵と試合ってきた筈。

未知なる闘いを糧に、以前よりかは強くなれたと思ったが、九鬼にはまるで歯が立たなかった。

 

「ワシはお前の何じゃ?」

「唐突に何だよ。アンタは俺の理性だろう」

 

死後の世界でのやり取りは、自分も覚えている。

 

「ああ、そうじゃな。少なくともこの世界へ生まれ落ちた頃のお前さんは、ワシがおらんと誰彼構わず直ぐに殺す獣じゃったからの」

 

故に神に頼んで、ワシを理性にして貰った訳じゃが

 

「この世界で様々な者達との出会いが、お前さんを変えたんじゃ」

 

暴れる事しか出来なかった獣から、人間へとな。

まぁ喧嘩っ早いのは愛嬌とでも言っておくかの。

 

「まぁ簡単に言えばアレじゃて、今のワシはお役御免された身分なんじゃ」

 

四六時中、恭一を内側から抑える必要性は既に無い。

そうなれば、ワシはワシで結構暇を持て余す事となった。

 

「束の嬢ちゃんが作った装置は真に素晴らしい」

「それがアンタの強さと関係あんのか?」

 

2人が今居るのはある意味で、別の世界。

恭一の恭一による恭一のための世界、と言っても良い。

それは九鬼にも当て嵌るようで

 

「「 この世界は手持ち無沙汰なワシの鍛練場となっとる訳じゃな 」」

 

ボンッと音を立てたと思えば、恭一の前に居た九鬼が

 

「のわっ!? 九鬼が2人!?」

 

「「 2人で良いのか? 」」

 

ボンボンボンボンボンボンッ!!

 

武神100人の出来上がりである。

 

「きもちわるッ! ジジイ100人とか誰得なんだよ!?」

「カハッ、確かにこれは気持ち悪いのぅ!」

 

1人に戻った九鬼は大いに笑い

 

「此処はワシとお前さんの精神世界なんじゃ。文字通りイメージは無限と言った処かの」

 

どうやら九鬼は、己との試合をこの世界で楽しんでいるらしい。

 

「成程、アンタ自身ならこれ以上修行相手に無ェはな」

 

自分だけでなく九鬼まで強くなっている理由を納得する恭一。

 

「じゃが、ワシにも分からんモノがあってな」

「あん?」

「こっちじゃ」

 

言われるがままに付いて行くと

 

「暇潰しにこの世界を探索しとったんじゃが」

 

とある部屋の扉を開き

 

「こんなモンを見つけてな。お前さんはコイツをどう思う?」

「すごく.....大きいです......」

 

2人の前には中々に大きなテレビが。

 

「何でテレビ?」

「知らん」

「点くのか?」

「一応な」

 

電源を入れると、確かに点いた。

画面は砂嵐のままだが。

 

「まぁ見ての通り、どのチャンネルを回しても一緒じゃ」

 

九鬼の言う通り、恭一が他のチャンネルにしてみても、画面は変わらず。

 

「意味無ェじゃんか........ん?」

 

ノイズに混ざって何かが聞こえてくる?

 

「......何か聞こえないか?」

「んん?」

 

 

――――――ってる?

 

――――――だってさ!

 

 

「ぬぉっ!? ワシにも聞こえるぞ、こんな事は初めてじゃッ!」

「.......ノイズが邪魔で聞き取れ無ェか?」

 

集中して耳を傾ける。

 

 

――――――だろ?

 

――――――なんだって! 

 

 

 

――――――雨の日の0時、1人で消えたテレビを見つめると『自分の運命の人』が見えるんだってさ!

 

 

 

「......聞こえたか?」

「ハッキリと、な」

「女の声だったが......聞き覚えは無ェ声だった」

 

九鬼に確認しても同じ。

そもそも、こんな事自体が初めてらしい。

 

「都市伝説みたいなモンか? 別に興味無いけどな」

「まぁお主ならそう言うかの」

「雨の日の午前0時ねぇ......運命の人ねぇ......」

 

(興味津々じゃコイツ)

 

思っても口には出さない九鬼。

 

「むっ......そろそろ学園へ着くらしいぞい」

「.......帰りたくないでゴザル」

 

大嘘付いて出てきてしまった手前、皆怒ってるに違いない。

そう思うと現世へ戻る足も重くなる訳で。

 

「ほれ、さっさと行かんか! ワシは今から100人組手するんじゃて、お前さんがおったら邪魔で仕方無いわい」

「わ、分かってるよ! そんなに押すなっての!」

 

.

.

.

 

「..........」

「..........」

 

目覚めたら学園では無く、自分の部屋だった件。

目覚めたら箒でも千冬でも無く、一夏が顔を覗き込んでいた件。

 

「いや、近いなお前ッ?!」

「うわっ!? 急に目開けるなよ、ビックリするじゃないか!」

 

何か気を失う度に、このやり取りしてる気がする。

そして、驚く一夏の背後から幽鬼の気配がダダ漏れだった。

 

「姉さんから聞いたぞ恭一......その眼はどう云う事だ?」

 

怒りと哀しみが混じり合った、表現し難い表情で迫ってくる箒。

彼女が言っているのは勿論、恭一の失った左眼の事である。

 

「あー......実は俺、夏侯―――」

「夏侯惇に憧れて、などと誤魔化したら泣くからな」

「........」

 

泣かれるのはマズい。

怒られるよりもキツい。

 

「て、テンシ―――」

「テンションが上がって、などとヌカしたら本気で泣くからな」

「........ごめんなさい」

 

恭一に残されたのは、もう之れしか無かった。

 

「うっ......ぐすっ......頼む......ううっ......頼むからぁ.....」

 

ゆっくりと恭一に抱きついた箒の目から、堪えきれず大粒の涙が零れ落ちる。

一夏やセシリア、鈴達も誰も何も言わない。

唯々、箒を見守っている。

 

「もっと自分を大事にしてくれ......ぐしゅ......えぐっ......うぅぅぅ」

「.......悪い」

 

「お前が1人で攻めた事に関しては、私達も問い詰めるつもりはもう無い」

 

千冬も前に出てきては、恭一に抱き付く箒の背中を後ろから優しく擦り

 

 

「が、1人で行くのなら責任を果たせッ! 傷を負って皆を心配させるなど、言語道断だ馬鹿者がッ!!」

「.......はい」

 

 

いつもなら何食わぬ顔でいい加減な弁を咬ます恭一だが、何も言わず頷くのを見た処、流石に2人の言葉が身に沁みたようだった。

 

「束」

「な、なにかな?」

 

既に頭には大きなタンコブを貰っている束も、歯切れが悪い。

どちらかと言えば彼女は恭一に巻き込まれた側なのだが、恭一を引き止めなかった事と直ぐに千冬への連絡をしなかった事で、千冬から拳骨を喰らった訳である。

 

「3日後には修学旅行だ。それまでに恭一の怪我は治るか?」

「全快は難しいけど、歩き回るのに支障が無くなる程度には治ると思うよ」

 

レインとの闘いが此処でも生きたらしい。

炎に対する抗体が出来たとまではいかないが、治りは早まるようだ。

 

「ふむ......なら渋川」

「はい」

「貴様は修学旅行までベッドから出るな。良いかこれは命令だ」

 

流石にこの状況で強く反論は出来ない。

 

「えっと......トイレとかは」

「オムツつけろ」

「ファッ!? な、何言ってだアンタ!?」

 

(((( これは同情してしまう ))))

 

「束」

 

驚く恭一など眼中に無いのか、千冬は隣りで控える束を見るや

 

「な、なにかな?」

「オムツ買ってこい」

「なっ、何で束さんが!?」

「いいから買ってこい。あとついでにガラガラとおしゃぶりもセットでな」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ千冬さん! オムツはまだ分か......いや分かんねぇけど! 全然分かんねぇけどッ!! その2つはもっと分かんねぇよ!」

 

これは自分の身体を大切にしないお前への罰だ。

 

「ふぐっ......い、いやでも流石にそれは......!」

 

16歳にもなって幼児プレイなど、本気で嫌すぎる。

 

「箒も何とか言ってくれよ!」

「えぐっ......知らんッ!!」

 

まだ泣き止んでくれない箒。

 

「お、織斑! お前なら分かるだろう!? 助けてくれ!」

「.......あ、俺お腹痛い」

「嘘つけ! 小学生かお前!?」

 

居た堪れなくなった一夏は、すまんと一言。

部屋から出て行く。

そしてそれにゾロゾロと続く面々。

 

「まぁアレね。彼女泣かせんじゃないわよって話よ」

「そ、それを言われちゃ何も言い返せねぇ」

 

「わ、私はオムツを装着した恭一さんでも愛せますからね!」

「いや助けてくれよ......」

 

「むぷぷっ.......僕も哺乳瓶買ってくるからね!」

「死ねうんこ」

「うるさいようんこ」

 

「クラリッサにオムツの上手な替え方を聞いておくぞ!」

「そんな事しなくていいから」

 

「赤ん坊超人は成長具合が凄いらしいよ」

「だからなんだよ.....」

 

其々が恭一にありがたい(?)言葉を掛けて出て行った。

残ったのは千冬、楯無、そして箒。

束は既に居ない。

 

「もう食堂も開いたろう。アイツらと共にお前も行ってこい」

「......分かりました」

 

漸く落ち着いた箒は涙を拭い、恭一から一旦離れ

 

「恭一」

「お、おう」

「反省......してるか?」

「ああ、勝手に行って悪かったよ」

 

2人は少し視線を交差させ

 

「今回だけは特別に許してやる」

 

ぷいっと顔を反らせながらも、許して貰えた恭一は胸を撫で下ろす。

 

「その状態で1人は疲れるだろうし、放課後また来ても良いか?」

「ああ、お前が居てくれるなら助かるよ」

「そ、そうか! なら私は先に学校へ行ってきます!」

 

千冬と楯無に軽く頭を下げた箒は、一夏達を追って出て行こうと

 

「ああ、そうだ。お前が皆を心配させた罰なのだが」

「へ?」

 

(まだ何かあんの?)

 

「今日から1ヶ月間、コーラは自力入手以外禁止だからな」

「.......え?」

 

それだけ告げると、今度こそ出て行く箒。

残された恭一は

 

 

「.......江っ」

 

 

目が点と化した。

 

 





番外編はのんびり更新です(#゚Д゚)y-~~

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